生まれた生命は、少女の形をしていました。
少女が初めて見た世界は、暗くて冷たい場所でした。
少女は生まれ落ちた暗闇の中で、なんとなく歩き始めました。
ゆっくり歩いてみたり。
ちょっとだけ走ってみたり。
けれど。
何処まで行っても、ずっと暗くて寒いまま。
少女は次第に寂しくなって、立ち止まって泣き始めてしまいました。
はらはらと零す涙が世界を満たしていき、暗くて冷たい水の世界になりました。
涙が収まって、目を開くと遠くに光が見えました。
それがとても気になって、今度は両手を使って泳ぎ始めました。
手を伸ばして、横に広げたり。
足をぱたぱたと振ってみたり。
そして。
少女は水の一番上までやってきました。
水面から顔を出すと、明るくて暖かい場所に辿り着きました。
きょろきょろと見回していると、よく似た形の誰かと目が合いました。
少女は初めて同じモノを見つけて驚いて、それ以上に嬉しくなって手を伸ばしました。
よく似た誰かも、恐る恐る手を伸ばしてきて。
取った手はポカポカと温かくて、安心しました。
けれど、それも長くは続かず。
パッと離された手に涙を浮かべながら、それを見つめていると。
突然、抱えた石を半分に割って落としてしまいました。
少女は、咄嗟に石を追い掛けました。
ここは、とても深くて失くしてしまったら大変だと思ったから。
もしも拾ってあげたら、また、触れ合えるかもと思ったから。
だから、必死に追い掛けました。
見失いはしなかったものの、底まで落ちた石を拾い上げて水を昇っていきます。
真っ暗な水の世界をやって来た方向へと掻き分けていきます。
だから、なんとなく分かっていました。
水面に顔を出しても、暗いまま。
もうそこには誰も、何もいませんでした。
しかし。
ずっとずぅっと遠くに光が見えました。
きっとあの子は、あそこにいる。
光を追い掛ければ、あの子に会えるかもしれない。
抱き締めた石がほんのり暖かくて、出会いを確かなものにしてくれました。
あの子に石を届けてあげないといけない。
あの子とまた、触れ合いたい。
ただ一つの光を目指して、少女は泳ぎ始めました。
そして。
少女はついに辿り着きました。
しかし、キョロキョロとどれだけ見渡しても、あの子はいません。
光の中心にあったのは、少し膨らんだ地面だけでした。
その光を、あの子と勘違いしていただけだったのです。
それに気付いた少女は、我慢しきれずにわんわんと泣き出してしまいました。
あの子との出会いは、少女の寂しさをより強いものにしてしまったのです。
少女の涙は雨のように、光り輝く地面に降り注ぎました。
すると。
『どうしたの?』
と少女に語り掛けるモノがいました。
少女は驚いて、けれどもしかしたらと思って、涙をそのままに辺りを見渡します。
でもやっぱり、誰もいません。
『こっちだよ、したした。』
足元を見てみれば、膨らみから小さな芽が出ていました。
『そんなに泣いては、溺れてしまうよ』
少女よりもずっと小さな、けれど自分やあの子のように“自分”を持っている芽を見て、驚いたのか、それとも安心したのか。
すっかり涙は止まっていました。
『どうして泣いていたのか話してごらん』
優しい芽に、あの子に会いたいと伝えると。
『じゃあここで一緒に待っているかい?』
『その子はまた、実を食べに来るから』
それに顔を輝かせると同時に、少女のお腹がグゥと鳴きました。
『ふふ…お揃いだ』
『ちょっと、待ってね』
そう伝えると同時に、芽は木となり、瞬く間に実が成りました。
『彼は美味しいと言っていた、お食べよ』
成った枝が少女に差し出されるように、垂れました。
『待っている間、寂しくないように』
『おしゃべりでもするかい?』
実を受け取った少女は、笑顔で頷くのでした。
月は太陽を待つ。