「『輝けるマドモアゼルのための奇跡』!」
シャルルは弓『マ・メール・ロワ』で遠くからヴィランを一掃していく。
「おい弟!」
「シャルルさん。どうやら兄さん達の方──東からも来てるようです」
「なんだと!? おい、すぐ行くぞ!」
僕達は東へと向かう。
別に兄さん達の力を侮っているわけではない。
兄さんやルーイも十分に強い。けれど、東は西以上の激戦になっているだろう。
例え兄さん達でも、苦戦することは免れないだろう。
走ること数分。
僕はヴィランに囲まれながらも奮戦している兄さんとルーイを見つけた。
「凍てつけ『優雅なるメルヒェンの王女たち』!」
僕の『メルヒェン・テラー』の刀身が水色の光を帯び、地面に叩きつけると直線上に歩くのには向かない氷の茨道が完成した。
「! ヴィルヘルム!」
「兄さん! ルーイ! 増援にきたよ!」
「すまない! 助かる!」
兄さんは新たに出てきたヴィランを殲滅していく。
「キリがないな………」
「こんな大暴動………カオステラーが出てもこうにはならないんじゃない?」
「ああ………」
カオステラーは運命に抗う登場人物達の『新たな可能性』。
そして同時に、僕達の語った童話の教訓を踏みにじる『
物語の形は時代によって変わっていく。
もしかしたらカオステラーもまた、そういった存在なのかもしれない。
「どうするのだ! これほどまでの大群………我達だけでも手に余るぞ!」
シャルルの言う通りだ。
僕達で街に向かうヴィラン達は倒しているけど………僕達にも体力の限界もある。
じり貧で絶体絶命………最悪、命に変えてでもここを守る。
そう決意したその時──
「あらあら? こんな夜中に騒がしいわね」
──そんな台詞と共に、緑色の魔法陣が表れた。
「『お客様のお出迎え』!」
活力が戻ってくる。
彼女の力によって、僕達は再び戦う力を取り戻した。
そしてヴィランの数も、目に見えて減っている。
「『ちょっと強めのお仕置き』が必要かしら………」
そういってドロテアは四人のイマジンを引き出す。
一時的とはいえ四人もイマジンを操り、その状態で戦えるのは、彼女が創造主の頂点。『語り部の中の語り部』と呼ばれる証にして所以。
僕達も複数体のイマジンを同時に出すことはできる。
けれどそれを戦闘中に少しでも出来るかと問われれば、否と答えるだろう。
それほどまでに繊細で高度な技術を、ドロテアは簡単そうにやってのける。
故に『語り部の中の語り部』。グリムノーツ最強にして頂点なのだ。
「さ、少し遅めのご飯にしましょうか♪」
いともたやすくヴィランを一掃したドロテアは、そんなことを言う。
けれど──
「ドロテア! 後ろ!」
僕は咄嗟に『不屈なるメルヒェンの王子たち』を使う。
『GAAAAAAA!』
「ドラゴンだと!」
ドシ、ドシと大きな足音をたてて歩いてきたのは、巨大な赤いドラゴン。
「ここは私達がやらせていただく──」
兄さんは籠手『メルヒェン・コレクター』で地面を殴る。
「──『華麗なるメルヒェンの住人たち』!」
ドラゴンの足元から生えてきた塔は、周囲のヴィランも巻き込んでいく。
けどまだ………。
「オレもやるよ………『勇気ある猫と妖精のメルヒェン』!」
七人の小人………ツヴェルクが一匹、また一匹と、現れては攻撃して消えてを幾度か繰り返す。
「完成だ!」
ルーイは振り上げていた羽ペンの先をモチーフにしている剣『メルヒェン・メイカー』を垂直に振るう。
広範囲を眩い光が染め上げていく。
「やったか?」
「兄さん。それはフラグ」
『GAAAAAAA!』
ルーイの言葉通り、ドラゴンの鳴き声は砂煙の中でも聞こえた。
「ゴメン。仕留められなかった」
「大丈夫だよ。それに──」
ドーン! と、大砲が鳴る。
「面白いことをしてるではないか」
「ジョージ!」
「遅いじゃないかジョージ!」
ルイスの文句を言うような物言いに、ジョージ──ウィリアム・シェイクスピアは笑う。
「よいではないか。主役は遅れてやってくるものなのだから」
そういって、ジョージは大砲を構え直す。
「往くぞ………『影たる我らの夢舞台』──!」
■■■■
「ったく………さんざんな目にあった」
そう言いながら、シャルルはチキンを頬張る。
「中々に強大な敵だ………ますます、ヴィランに興味がわいてきた」
「もしかしたら、何か関係があるかもね」
ドラゴンを討伐した僕達は、屋敷にもどって遅めの夕飯を食べていた。
もちろんドロテアが作ったものだ。
「『想区』、『カオステラー』、『ヴィラン』………」
「オイ、こんな時まで考察か」
「シャルルも知ってるでしょ。兄さんが一度集中しだすと周りの音が聞こえなくなるの」
微妙な表情を浮かべながら引き下がるシャルル。
入れ替わるように「けど──」と呟いたのは、以外にもルーイだった。
「今日くらいは、そういうの抜きで楽にしない? シャルルさんの言うように、堅苦しいのは抜きにさ」
「──」
兄さんは目を見開く。
そして数拍おいて、笑った。
「そうだな。今夜くらいは………いいかもな」
■■■■
「………ドロテア」
「ヴィルヘルム」
僕は彼女の隣に立ち、食器洗いを始める。
昔は「駄目よ。これは私の仕事なんだから」と言って頑なに手伝いの一つもさせなかった彼女だけど、今ではそんなお咎めもなくなった。
「皿洗いくらいなら僕がするよ。ドロテアは休んでいて?」
「駄目よ。ヴィルヘルムだけにやらせるのは」
彼女と肩を並べ、手を動かしながら口も動く。
昔は片方しか出来なかったけど………慣れってすごいや。
大方が終わり、残り少ないお皿も綺麗に片付けた。
その頃には皆就寝しており、起きているのは僕とドロテアのみ。
「ヴィルヘルム。ホットミルクは飲むかしら?」
「うん。お願い」
暖炉の温かい光だけが部屋を包む。
ふと窓から空を見ると、先ほどまであれほど晴れ晴れとしていた聖夜の空には、雲がかかっていた。
「明日は雪かな」
「そうね………ふふ、また雪かきかしら」
今年は結構豪雪だ。もしかしたら、明日もそうなるかもしれない。
「──少し遅くなったけどドロテア。メリークリスマス。これはあなたへのクリスマスプレゼントです」
僕は隠し持っていた小さな箱を彼女に渡す。
「ここで見てもいいのかしら?」
「もちろん。あなたの為のプレゼントなんだから」
このプレゼントをするのは、少し恥ずかしい。けれど、彼女の──ドロテアの笑顔が見れるなら、と。僕はそれを選んだ。
少し高かったし、色々と恥ずかしい思いもしたけど………ね。
小さな箱を開けたドロテアは嬉しそうに箱の中身──指輪を眺める。
「綺麗な宝石………アメジスト?」
「うん。石言葉は『誠実』………ドロテアらしいなって思ったんだ」
指輪とのバランスのいい大きさのアメジスト………もう一つの意味は、まだ伝える気はない。
彼女はドロテアであって、ヘンリエッタではない。
けれどたまに、僕はドロテアに、ヘンリエッタの影を重ねてしまうことがある。
「ありがとうヴィルヘルム………つけてもらっても、いい?」
そういって彼女は、指輪と──左手を僕に差し出す。
「──はい」
僕は彼女の指に指輪をはめた。
■■■■
「──どうだったかなお姫様………え? 指輪はどこにはめたのか? それはご想像にお任せするよ」
レイナは教えてほしいとぐずったけど、こればかりは僕も言えない………恥ずかしくて。
「今日はもうお休みお姫様。いい夢を」
──レイナを寝かせてから、僕は先ほどの話を振り替える。
誰からも語られることのない、誰もしらない創造主達の物語………だからこそ、僕は忘れないし、語り継ごう。
更新です。
終わったぁぁぁぁぁぁ!グリムノーツが終わったよぉぉぉ!
何か終わってからの方が『やりたい!』ってことが増えていくんですよね………私がひねくれてるからですかね?
お読みいただき、本当にありがとうございました!