エ・ランテルの冒険者組合からの急な呼び出しをうけたアダマンタイト級冒険者“漆黒”のモモンと“美姫”ナーベは奥まった部屋に通された。そこには既に組合長のアインザックが待っていた。
「さっそくだが依頼の内容を聞こう」
席につくとすぐさまモモンが口を開いた。対してアインザックは額に汗を浮かべてずいぶん緊張している様子だった。
「……うむ。実はだな……モモン君が以前話してくれた吸血鬼の片割れ……それらしき化け物が目撃されたのだが……」
「……吸血鬼?」
モモンはとっさに記憶を辿る。そして思い出す。シャルティアが何者かに洗脳された際にした言い訳だった。たしか──
「──ホニョペニョット……か」
「そうだ。そのホニョなんとかとか言った化け物だ。目撃情報をまとめると姿形といい、恐ろしいまでの強さといい、まさに以前に君が倒した吸血鬼とそっくりとしか言いようがないのだ。どうだろう? 確かモモン君はその化け物を追っていたのだろう? 是非とも討伐して欲しいのだが……無論、充分な報酬を約束しよう」
アインザックは一枚の羊皮紙を広げる。
「……これが目撃情報を元にした吸血鬼の姿だ。どうかね? モモン君が探していた吸血鬼と似ているかね?」
その絵を見たモモンはドキリとする。
──シャルティア? いや、まさか……シャルティアはあれからナザリックから外に出ていない筈だ。似ているが別人か? しかしゴスロリ調の帽子に銀髪……身体は……うーん……肌色なのだろうか……まさか裸ではあるまいな……
ふとモモンは考え込む自分の様子を見詰めるアインザックの視線に気づく。
「……似ているようです。とにかくまずは実際にこの目で見てみない事には……」
アインザックは満足そうに頷いた。それから具体的な打ち合わせが始まった。
アインザックからの加勢にミスリル級冒険者チームを加えるという案は丁寧に断った。足手まといになるから、というのが表向きの理由だったが、モモン──アインズにはこの吸血鬼がプレイヤーもしくはそれに準じた存在だという確信があった。場合によっては階層守護者を何人か連れていく必要が出来た場合、他の冒険者は邪魔にしかならないからであった。
◆
それから三日後、アインズの姿はアゼルリシア山脈の裾野の寂れた開拓村にあった。“漆黒”のモモンではなくナザリック地下大墳墓の主としての姿である。
〈……アインズ様──〉
アインズの元にメッセージが届く。
〈対象を確認しました〉
先行するハンゾウからの短い報告だ。アインズは後ろに続くシャルティアに首肯く。
やがて姿を現した『それ』は──
「…………おい、おつまみちょうだい」
ナザリック地下大墳墓と虹裏連合との激しい戦いが、始まった。