仕方ないとは言え五月回が多いな
携帯、スマートフォン
それは俺達の生活に欠かせない存在と言われ
連絡のみならずゲームは勿論の事動画の視聴や編集など
小型の機械だけで出来る事は想像以上に多いと言われている
その文明の利器を俺はある理由で破棄し
それ以降持とうとする気も持つ気もないまま生活を続け
その生活に何も疑問を抱く事はなかった
破棄した事に後悔も何もなくむしろ何かに開放された気分さえ感じていた
勇也さんは何も言わないが 弟や妹は再び持つよう俺に何度も言ってきた
俺は必要ないの一言で、二人を躱してきた
変わらぬ生活を続けていれば、その考えは変わる事はなっただろうが
最近俺と弟の周りの風景は以前と違うものに変わって来ていた
ある姉妹の登場で、俺の文明の利器必要ない宣言は終焉の道を一歩また一歩と進み
遂に俺は、再びあの機械を手に入れるかもしれない状況へとむかっていたのだ
(かったりーな、)
壮大に語っているが…………
そこまでの大事でもないんだけどな。ようは、俺が携帯を持つか持たないかの話だ
切っ掛けは一花が隠し撮りした俺が膝枕され眠っている写真だ
彼女は『弟くんと共に 姉妹全員の番号とアドレスを入手せよ でなければこれをばらまく』と言って来た
人に見られた所で気にする性格でもないんだが、如何せん
家庭教師の補佐を続けると言っているんだ 彼女達と連絡が取れないと厄介な事になる事を俺は花火の日に思い知っている
ああ云った行事をあの面子でまた行う事は稀だが、あのお節介も『持ってないと困ります』とぷんすかと言う擬音が似合うポーズで俺に言ってきていたし
これは検討するくらいはしなければと俺なりに危機感は覚えていた
手元にある数人の連絡先
一花 二乃 三玖 四葉 これだけあれば上出来だろう自分の頑張りが少し誇らしく思える
結局は持っているだけで、連絡する手段なぞ持ち合わせない為ただの紙切れにしか過ぎんのだが
教えてくれたあいつ等の為にも真面目に考えるべきだろう
一人足りない気もするが、本人に聞こうにも何故かはぐらかされるし
何処かよそよそしい態度だったり
実は嫌われているのでは?
普段見せているあの様子も見せかけなのではと少々考えてしまうが、あいつに限って
人を騙す 人を欺くと言った事はしないだろうと信頼はある
あいつからの信頼は果たして戻っているかと頭を傾げるが………。
「うーーん 使えればどれでも良いんだがな………」
日曜日 来週には中間試験が行われ
それに向けて各々が各自出来うることをしている中で俺は携帯ショップの前に飾られる
幾つかの機種を食い入るように見つめていた
今日だけは家庭教師と補佐と言う役職からは解放され俺も俺で自分の事に集中できる
普段なら勉強をしたりらいはの宿題を見てあげたりと兄として出来る役目をやっているが来週にはそんな暇もなさそうだと思い 考える前に家を出た
勿論黙って出た訳じゃない みんなにも『少し用事 』と伝えてはある
何故だからいはは目を輝かせていたが、俺が自発的に出かけるのがそんなに珍しいことなのだろうか…?
心配になるだろうと行先自体は言ってあるし何も問題はないと思うんだけどな
因みに触れはしなかった弟の勉強相手だが、俺は必要ない
上杉風太郎は、学園では一番頭がいいんだ 努力の差が違う
ただ前回と同じく勉強しながらも問題集を考えて居たりと家庭教師の事が無ければ、自分の勉強に集中出来ていただろうがな…
俺がもう少しちゃんとしていれば弟にも苦労を掛ける事は無いんだけど
ショーケースに映る自分の顔を見て何でこんな悩んだ顔してんだと自分でその顔が嫌になる
外で考えていても埒が明かないし中に入って適当な物を選んで戻ってくればいいと
一歩足を動かした所で、俺を呼び止めるような聞き覚えのある声を耳にし
ふと振り返ればあいつがいた…
「幸太郎君!」
一人だけ教えてこない 中野姉妹の末っ子
中野五月がそこにいた 10月の頭で冷え始める中ぱっと見た感じ薄着に見えなくもないが、きちんと寒さ対策はしているようだ、白のニットと茶色がかったオレンジ色(テラコッタ)のロングスカート 肩には鞄がかかっており 完全に私服だ 普段見慣れた制服姿と違って私服姿もとても良いと思うあまり流行には詳しくないが、俺が見る限りとても可愛らしい
素体が良いんだ、周りの人間も五月の方を見てはそのまま歩いている人も多く見受けられる
やはり姉妹だな。
「似合ってるな その服 温かそうだし」
「ありがとうございます。 幸太郎君も温かそうでいいですね 冷える時期なので」
「普段と変わんねーけどな んじゃ」
「はいではまた…………って違います!」
「おい 何だよ 相談か?勉強でも見てくれってか、やる気があるなら俺は手伝うが」
「いやそう言う事ではなくて 見てもらわなくても大丈夫です」
「はぁ んで 五月一人なのか?」
「今日は用事があったので私だけです 幸太郎君の方こそ珍しいですね」
「気分転換だよ 俺だって偶には一人でいる事もある」
引き留められ軽く会話をし
他の姉妹はそれぞれ所要があったり 四葉などは助っ人で他の部活に顔を出してると教えてくれた
一花辺りは仕事なのだろうと予想は出来る
他の二名もそれぞれ自分の用事でもあるんだろう
そして俺と遭遇した五月だが、見た感じ買い物などをしに来たのか それとも他に待ち合わせしている人でもいるのか?
下手に詮索する事はやめようと思う
『きーつけろよ』とだけ言い俺は再び店の中に入ろうとするが、腕を掴まれ阻まれてしまう
ふり返る事無く誰かは分かる
「何だよ 五月…」
「あの もし良ければ私も同行しましょうか?」
「大丈夫です………ついてくんな」
「何でそう 避けようとするんですか?」
昨日の今日で五月に迷惑をかけるわけには行かない
最近バイトの接客以外で人との接触を多くし過ぎた
俺が土曜を避けて今日にしたのは何も家庭教師を休むのがいやとかではなく
純粋に一人で行動したかったわけで、こうやって誰かと出かけるつもりは無かった
考え自体浅はかだったのだ 中野姉妹は女性だ 家庭教師の無い日は出かけているに決まっているだろう
二乃や五月は特にだ 出くわす可能性が高い何を当たり前の事を忘れているのか
「出直すか…………」
「何でですか 私とは嫌なんですか」
「そうじゃねぇよ」
「でも実際避けてるじゃないですか」
「はぁ…………」
ダメだ逃げる事すら不可能となっている
少しでも帰ろうとすれば何処にそんな力があるのか、ぐぐぐと一歩もその場から動けない
体力なら勝てる自信があるんだがな
どうにも気が乗らないのか やはり世話になってる五月の事を無下に扱う事を嫌っているのか
それとも妹分のお言葉だ お兄さんとして言う事を聞こうという心境なのだろうか?
周りに目をやれば人の視線はこっちに向いている
どうやらカップルが喧嘩していると思われている
ひそひそと声が聞こえてくる 普段から慣れてはいるけど五月が居るんだこいつに変な注目をさせるのはここまでだ 素直にこいつも同行させるか………。
何も言わず五月の手を引きそのまま店内に入れば、自然と周りからの視線も消えている
「幸太郎君 あの」
「まぁ あれだ五月には普段世話になってるし ついてくるだけなら良いかなと」
「ああの よろしくお願いします!」
「動揺するくらいなら帰ってていいんだぞ」
「いえいえ これくらい平気です それにせっかくここで会うのも何かの縁ですので手伝いをさせてください!」
何処かよそよそしいんだよな今日のこいつは
いやまぁ普段からこいつはこんな奴だし今更気にする事でもないが
なーにか隠してそうだな?
じろりと視線を送れば『何でしょうか』と丁寧な返答だ
というかこいつの用事は、終わったのだろうか?
俺はさっさと家を出て要件を済ませれば家に帰って昼飯を食べて勉強と変わらぬ日々だ
余計な詮索は避けるつもりだが、俺につき合ってその用事とやらに間に合うのか?
「どれが良いのかねぇ……つうか値段たけぇな 財布が息をしてねぇぞ」
並べられた品を手に取り見るが、月々の支払いで飛んでいくお金
それを返済に持っていけばどれだけ家系が楽になるのか
そう言った方にばっかり頭が行ってしまう
五月も色々機種を紹介してくれるが、どうにも厳しい物を感じる
中野姉妹視点で渡されても俺にはそれを強気で持っていく事は出来ねぇ
店員さんにも幾つか勧められ
パンフレットも手渡された
中を開き何か手ごろでピンとくるものは無いかと考える
少し視線を五月の方に送れば誰かと電話で話している
『はい無事に』と聞こえて来たが一体何の事だ…?
ペラペラと捲って行く中で会話を終えたのか五月がこっちに寄ってくる
そっと右に避ける
「何で逃げるんですか!」
「すまん 癖だ」
「そう言う事あまりしては行けませんよ 嫌われてしまいますから」
「慣れてる」
「でもダメですよ 幸太郎君は一人になります」
「今は一人じゃねーけどな」
「!!…ふいうちです」
「何がだ? 現にお前と二人だろ」
「確かにそうですが、面と向かって言われると意識してしまって」
「はいはい さーせん」
「そう言う態度も少しは改善すべきです」
「お前は俺の携帯選びに来たのか俺を説教に来たのかはっきりしてくれ」
「すみません 学園での癖が抜けなくてつい」
「いやな 癖だなそれは」
休みの日くらい俺といないで他の姉妹や友人と出かければ良いだろうに
五月なら友人多いだろうし言えば来るだろうさ
俺が休みを取ってなかったら五月は一人でここら辺を歩いていたのか?
先程五月をおいて行動しようとした男の発言ではねぇけど
パンフレットもそろそろページが終わりに向かう
奥に行いけばいく程機種は古くなるしな
残り数ページの中 俺の手はふと止まる
値段は最初見たのと大して変わらないが、その携帯に目が行ってしまう
「…………」
「どれか気に入ったものでもありましたか?」
「いやなんでもない…………。」
そのページに載せられている品は俺が昔使っていたものと同じ系列のもだ
同じなだけで別物なのだが、見てるとあの頃がちらついて少々頭痛を覚える
そこまでする必要はないと思うがあまり思い出と言うには俺には辛いもんだ
見なかった事にしてページをめくる
次で最後のページか結局これと言ったものは見当たらなかったな
しっくりこないと言うべきか…………ん?
「幸太郎君 あのこれ何てどうでんしょうか?」
「ん? あぁ 風太郎と同じタイプか、これならいいかも知れないな」
五月は俺が持っていたパンフレットのページを幾つか前に戻すと
気になっていた物があったようでそれを指さし俺に進めて来た
機種自体は、風太郎の持つものとは似たタイプだが、これは携帯ではなくスマホだった
あの系統のスマホタイプだ
そこまで機能を使う事はないだろう俺にスマホとは不釣り合いだ
ただ他のページを見ても特にこれと言ったものは無いのも
現状で時間を無駄にするのは一人なら良いのだが今は二人で行動してる あまりかけたくねぇ
「スマホか…」
「何かと便利ですよ? 慣れれば苦になりませんし」
「慣れる程使う気はねぇけどな 連絡を取れればそれでいい」
「もしもと言う事もありますから考えるのもありですよ」
「色は…………」
言われるがままという訳ではないが一応色だけでも見て見た
合計で5色あるようだ
黄 紫 青 緑 赤
「五つの中からかぁ 多いな」
「五つ…………幸太郎君はどれがいいんですか? どれが好きですか」
「んなもん適当で良いだろうさ?」
「これから使うものです どれを選んでも悔いがない方が良いと思います」
いやに真剣だな
ただ五色の中から選ぶだけだろうし そこまで考える必要あるのか?
「幸太郎君は自分の物にはとことん無頓着なので、少しは真面目に考えるべきです」
「無頓着ねぇ ばっさり言うんだな お前も」
「えっ あぁ すみません」
「いいさ 別に指摘されるのは初めてじゃねぇし 俺も自覚はあるよ」
どうしても自分の事になると何をするにも適当になる
バイトは借金返済と考え 家庭教師は姉妹の為と思えば体が自然と動き頭も声も考えも纏まる
ただこうして自分の事で選ぶとなるとどうしてもなぁ
「五つか…どれも個性的な色だ スタンダードな色でも良い けど奇抜な色は俺には似合わない」
「以前はどんな色を使っていたんですか?」
「覚えてないなー 忘れた」
「…………そうですか なら良いです」
「なんだ 急にしおらしくなって?」
しゅんとなりアホ毛もしおれている
俺は別に怒ってないけどな
それに以前の色何て今はどうでもいいと思ってる
「過去も大切だ けど今も大事だろ」
「それは違います! 過去は大切です!」
「おい 次は何だ 落ち着け」
「すみません 怒鳴るような事を言って 意味は無いんですただ…………」
「いいさ 気にすんな 別に否定したつもりは無ねぇよ」
何か俺は地雷でも踏んだのだろう
珍しく 本気で五月に怒られたと言うより怒鳴られたと言うべきか
声のトーンが何時もと違っていた
確かにこいつらの前で 過去を否定するのはいい発言ではない
母との思い出もある
それは俺も同じだ 母さんとの思い出や零奈さんとの約束も無かった事になるしな
それにあの子との出会いも否定する事になる
でも人間には忘れたくても何時までも頭に残る嫌な記憶というものがある…何時も後ろについてくる嫌なもんだよ…。
「あの幸太郎君 顔色が優れないようですが 気分でも?」
「何でもねぇよ………それより選ぶぞ」
「それで どれにするんですか この “五つ” の中から」
「五つのを強調するな!!」
何でか こいつは五つと強調しがちだ
それを選んでも機能には変わりないだろうし
…………ん?
俺はふと前を見た それは俺が見てるものと同じ品だ
それが店頭に並べられている 先程は気にも留めなかったが並べてあるとは
だが よくよく目を凝らせば値札の所に『現在在庫無し』と札が張られている
「ねぇーのかよ! なら片付けろ」
「…………何故か安心しました」
「まじで お前どうした?」
隣を見れば、胸をなでおろし安心しきったように
呼吸を整えている五月もいる…。
あれだけ 五つから選べと言いつつ何でか緊張していたようだ
まぁ…でも何か救われた気もする
何か重大な選択でも迫られたような気もしていた
どれでも良いと言いつつ俺も何熱くなってるんだか…………。
「お客様 そちらの品なんですが、一応在庫はあります」
「まじすか? でも品切れって」
「実は色はもう一色ありまして パンフレットにまだ記載されておらず」
「6つ目の選択ですか…………。」
「んじゃ それいいですか?」
最新機種という訳ではないが、数日前に色が追加されたようで
店頭の札も貼ったままでパンフレットにもまだ記載はしてなかったと店員は頭を下げる
ここに来て6つ目の選択が出て来た 迷ってる暇もないし
疲れて来たからその色でも良いと店員に話し席まで案内された
俺は五月に適当な席で待ってて欲しいと言いそのまま契約内容を確認しに行く
これがまた面倒なんだよな…………。
「で 何故お前が俺の隣に座る?」
「ここまで来たら私も最後までお付き合いします」
「個人情報ってあんだよ 俺の家の番号とかその他諸々がよ」
何でかこいつまで座ってきやがる
遠くで待っていればいいのによ
ほんとこういう時は、梃子でも動かないんだな
呆れつつも害はないと店員に説明『ひどいですよ!』と聞こえるが
座っているお前に言える台詞じゃねぇーよ
渡された書類に幾つかサインをし
内容を確認 店員からの話も特に変わったことは無い
ただ最近の携帯と言うよりスマホだ
何でここまで色々な機能がついているのだろうか?
五月も慣れれば便利と言うが本当にそうなのか…………?
「幸太郎君 誕生日が5月5日なんですね」
「何か文句あるか?」
(そう言えば、こいつらと俺 誕生日同じだったな)
不思議な縁もあるもんだと自分の誕生日を眺める
幾つかの書類にサインをする際も店員は気にしていたが
相手は五月だ 俺の個人情報知った所で悪用もくそもないし
ある程度情報が知られてるんだ
隠してても意味はないだろうな
流石に幾つかのロック番号を決めるときは耳をふさがせ目を閉じさせたが
家庭教師先の末っ子に個人情報駄々洩れな件
スマホの色も無事に決まったと言うか
第六の色しか俺に選択するもんはなく 在庫もこれだけとか
最後の一個 選択は重要だからな
色自体は白である 何とまぁ似合わなぇ色だな
髪といいスマホといい白で統一かぁ
そして話は支払い方法になる
生々しい話までこいつに聞かれるのか?
(一括か 分割か 今は手持ちすくねぇからな、分割で済ますか)
「カードで一括でお願いします」
「おいいいい お前なに言ってんだ 俺にそんな事出来るか!」
「私がお支払いします 幸太郎君は座っていてください」
「そう言う 問題じゃねぇーよ」
流石に俺でも言う時は言うぞ流石にこれはやり過ぎだろう?
何で赤の他人と言うか 家庭教師の携帯の支払いまでこいつは面倒を見てくるんだ
お前に何のメリットがあるんだ?
中野五月は俺が思っているより相当な人間だったと思うべきだ
店員に分割と言う前に 五月は俺を制止し
真面目な表情で話を続ける
「これは、父から言われてる事です」
「あの人から…………何で 面倒見てくんだよ」
「やはり 幸太郎君は父をご存知なんですね?」
「まぁ…色々存じてますよ ったく、これで借りを返したって事か」
「借りを返す?」
「気にすんな、こっちの話だ」
まさかここに来てあの人自ら俺の事に干渉してくるとは思いもしなかった
最後に会ったのはあの時か去年の6月頃だったな
意識は朦朧としてたが、あの冷えた目 冷めたような話し方 あの顔だけは忘れない
あの人に会う時は何時も最悪な時ばかりだ…………。
(ったく 俺なんて構わず 娘達に構えよ アンタの仕事だろうが)
「幸太郎君? 幸太郎君ー大丈夫ですから当然黙り込んでしまって、お節介でしたよね」
「あぁー お節介だ 何処の世界に他人の携帯代まで払う奴がいんだ」
気づけば俺は新品のスマホが入った袋を片手に店の外
あの後は適当にやり過ごし話もまともに聞かず仕舞いで商品を受け取ればそのまま出て行った
隣にいる五月も父の命令とは言え流石にやり過ぎたと思ったのか
俺が言う前から顔を伏せたままだ。
何でお前が気にすんだ こいつはあの人に言われてやっただけだ
こいつに非はない
「でも まぁ ありがとよ 一緒に選んでくれて」
「もう 怒らないんですか? 私は父から言われて幸太郎君に近づいて」
「全部が全部さ、あの人から言われてやったことか?」
「それはあり得ません! 私があなたに接してる理由は」
「なら それで良いよ あの人が関係してねぇならよ」
「許してくれるんですか…………」
「許すも何も お前は俺に被害出してねぇだろが? お前は俺に世話焼いてただけだろう 無視してる訳でもねぇしな 時々面倒な奴とは思うけどよ」
今まで全てが中野父からの命令じゃないならそれでいい
こいつ自身の意志で行っていると言うなら俺も怒る気はしない
ただもう少しセーブして欲しいとは思うけどな
五月がしょんぼりとしていたのは俺からもっと叱られ怒られると思っていたからだ
でも事実が分かればそれでいい
携帯代も浮いた訳だし 感謝するべきだろうな。
「それと この借りは何時か返す あの人には俺から言っておく 話す機会があればな」
「幸太郎君がそう言うなら私は何も言いません 父も気づく筈です」
俺が言えた事じゃないが五月も五月で父親との距離を感じているのだろうな
いつ来るか分からないがあの人とは何処かで会う事になるし
言いたい事はその時に言えばいい もう俺もガキじゃねぇからな
今回の目的を終え、何をするかというと 予定なんてこの先はない訳だが
このまま解散と言うにも味気ないと思う俺がおり
五月と二人と言う状況は何かと珍しい
学園以外では会うことは無いし 普段の恩もある少しは彼女のわがままにでもつき合うか
「なぁ 五月 何かしたい事あるか? 借りがあるしな」
「え」
「何だ その顔 変な事でも言ったか?」
「あの 幸太郎君の事ですからこのまま帰るのかと思って」
「帰るなら送って行くが?」
「いえいえ あのどれくらいならいいんですか…………?」
「人間には良心と言うもんがあってなー」
「うーん 少し待っててください 考えます」
「時間はあるし 気長に待つさ」
俺から何かしたい事があるかと聞かれるとは思ってなかったのか
最初は間の抜けた声を出したが、一応は真意を読み取ってくれたらしく
暫く時間が欲しいと言う
ただここは店の前だ 人が勝手に占領していい場所でもない
近場に何処か休める場所はないか探し
五月とはぐれないように隣を立ち移動を始めた
未だに隣では『こんな機会はないです 何かないんですか あぁー』と騒いでいる
なんでこんなに楽しそうにすんのか?
男と二人で出かける事に今更ながら抵抗と言う物がないのか?
「あれー もしかして こうくんかい!」
「はっ…………」
「幸太郎君どうかしたんですか?」
俺の耳は聞きたくもない声を耳にした
何処となく天然さを感じさせるその声を俺は嫌という程聞いた事がある
後方から聞こえるそれを俺は無視するべきだろう
会いたくない人間の一人だ
どうして先日といい… こんな事が続くんだ 同窓会でもしようってのか?
「やっぱりこうくんじゃないかー お姉ちゃんを無視するとかひどいねー」
「すんません 自分を姉と自称する人間を俺は存じ上げません」
一花や三玖の前で家族宣言した俺には特大のブーメランが突き刺さり
効果は絶大だが、今はこの場から去りたい
五月の手を引き去ろうとしたが、再び先日のデジャヴだ
道をふさがれた…………でも俺は学んでいる
横をすり抜け
「つーかまーえた」
「はなせーーーー はなせーーー」
「ひどいねー 君は」
「あ あの幸太郎君 この女性は誰なんですか?」
逃走は再び阻止された五月の手を掴む方とは別の手を掴まれ
その場でだらーんと手を広げた状態となり掴んでいる
ショートヘア―の女性は笑うだけ
五月はいっそうこの状況に困惑している
「五月関わるな、面倒な人間だ!」
「うーん こうくん 彼女出来たの- お姉さんは嬉しいね 君が青春できて」
「うっせー 良いから離せ!」
「い、いえ 私と幸太郎君は、そのような関係ではなく、ただの友人で」
「えー 残念 でも二人はデートしてるんでしょ? 若いねー」
「デート あわわ あのこれはデートになるんでしょうか」
「うんうん お姉さんから見たら立派なデートだよ 君みたいな 可愛い女の子がねー
泣かせるなよー こうくん」
「勝手に盛り上がるな 良いから手 を は な せ」
「ごめんねー じゃ 若い二人の邪魔しちゃ悪いしお姉さんは帰るねー またね……中野五月ちゃん」
「あっ はい、…………えっ何であの方 私の名前を知っているんですか」
ようやく女性は手を離すと言いたい事言って満足したのかそのまま何処かへと消えていく
相変わらずマイペースと言うか、いるだけで疲れる人だ
五月は自分の名前を知っている彼女が一体何者か頭を悩ませるが、そこまで深く考える必要はない
先程の女性の仕事医者でその上司があの男だと言う それだけで十分過ぎる
もう会う事は無さそうだし…。
「かわんねーな みずき姐は……」
「何か知っているなら 教えてください!」
「秘密だ ほらさっさと行くぞ」
困惑したままの五月が、面白いと言うのが本音だが言ったら怒るだろうし
黙っておこう
その後数分の間 五月に聞かれ続けたがそれをスルーし
彼女にやりたい事はないか聞いていた
「んで ここが五月の来たい所か?」
「はい ここです!」
「お前は真面目な女の子だと思っていたんだがな…………」
適当に時間を過ごし何か思いついた五月に今度は手を引かれる形で目的地へとついた
正直言えば、財布の危機を感じるような場所だと思っていた俺は拍子抜けと言うか
多分間抜けな顔をしていると思う…。
「ゲーセンな 意外過ぎる 何処かで食事かと思ってたんだがな」
「私はそこまで食い意地はってませんよ!」
「ここに来るまで何個肉まん食べた」
「うぅ…………」
近くのコンビニにより お腹が空いたと言う彼女にお礼として、奢る事にした別に奢るくらい俺は構わん 財布の危機は変わらんが
今回は予定していた出費を抑える事が出来たのだし
肉まんの事を言われ顔を赤くし伏せてしまう
「別に気にすんな いっぱい食べる事は良い事だ。五月の元気はそこから来てるんだしよ」
「…………何か幸太郎君はずるいです」
「知らねぇよ さっさと入るぞ」
「はい 目的自体は決まってますから!」
「おっ おい引っ張るな」
中に入れば五月は他の物には目もくれず何処かへと向かっている
何が目的なんだろうな?
「ここです」
「おい 何だ これは」
「プリクラです」
「これに入れと言うのか」
「…………やっぱり ダメですよね」
「行くぞ」
お前のしたい事を言えと俺は言ったんだ
それがこれくらいなら別に俺は、構わねぇ
まぁ…学校の奴には見られたくないが
上杉がプリクラとかまじで噂されるんだろうしな
「これと これでと」
「手慣れてますね」
「そうか? お前も何の躊躇いもなく連れて来ただろうが」
「以前らいはちゃんや上杉君と来た事がありまして」
「あぁー 花火の時にか 俺はバイトだったしなぁ」
「ですから…………その時 幸太郎君とは撮れなかったので」
「いいさ んな事は 今は俺は居るんだし ほら笑え」
「はい!」
『素敵な笑顔でキメチャお☆』
『カメラを向いて 3 2 1』パシャリ
ゲーセンの外に出る未だに五月は撮ったプリクラを大事そうに持っている
そんな仏頂面な人間と撮ったやつ何が良いのか?
つき合ってくれと言うんだ、俺もそれには従うがもう少し欲を出しても五月は罰は当たらないと思うんだがな…………?
俺も俺で取り分として渡され
映る物じーっと見る まさか俺が、またこれを撮りに来ることがあるとは、死ぬまで来ないと思ってた
死んでからも来ないなきっと……。
渡されたそれを五月は鞄にしまうと俺の方を向きお辞儀をした
そこまで律儀な事をしなくてもいいぞ
「本当に今日はありがとうございました 幸太郎君 良い思い出が出来ました」
「まぁ 俺も気分転換になったし スマホも無事買えたしな そうだ五月 お前の番号まだ聞いてねーんだ もし可能なら教えてくれねぇか?」
「え 良いんですか?」
「良いも何も買った理由はそれだしな 他の奴の番号は知っててもお前のは聞きそびれたし 風太郎から聞く訳にもいかねぇしな」
「はい あのこれをどうぞ 書いてあるので」
「準備が良いこった んじゃ帰ったら入れておくか」
「私も教えようと思っていたんですが、タイミングが無くて」
「そうなのか 悪かったな最近は忙しくてな」
五月は鞄から一枚の紙を取り出し
そこには彼女の番号とアドレスが記載されており
先日から準備をしていたと話す
何処か気恥ずかしいのか少しうつむいている
俺も聞くタイミングを逃してたし お相子だろうな
五月の願いも聞いたし このまま帰宅しようと彼女に提案する
「あぁ 五月の用事はいいのか?」
「私のは はい きちんと完了しましたので」
「なら帰るか」
「送ってくれるんですか?」
「一人で帰らせる馬鹿じゃねぇーよ 行くぞ」
先に歩きだせば五月は慌てたように追いかけてくる
「改めて今日はありがとな」
「こちらもお役に立てたようで良かったです では幸太郎君また明日」
「おう また明日な 勉強できそうならやっておいてくれ中間試験も近いからな」
「心配しないでも大丈夫です 私なりに続けますから」
「そうか 本当に厳しい時は俺は力になるからな」
「その時が来たら 声をかけます」
「あっ そうだ 五月」
「はっはい 何ですか」
「聞きたい事があるんだ…………」
「幸太郎君が私に……何ですか?」
俺はふと花火の日に聞こうとしたが、聞きそびれた事を思いだし
彼女に尋ねて見る事にした
『何でしょうか?』と今日何度見たか分からないその表情で俺を見ている
アドレスもだがこの事が重要だった すっかり忘れていたのだ
「五月 中野六花って人間 知ってるか?」
何も救いがないあの時の俺を救ったあの少女の手がかりはない
知っているのは彼女が誰か探していた事そして ヘッドホンを首にかけていた事だけだ
五月は知っているんじゃないのか、俺は彼女にもう一度あって
お礼を言いたいのだ………。
(あれは コータローと五月?何で入り口で話してるんだろう)
少し後方で買い物帰りの三玖がいた事を俺も五月も気づく事はなかった。
オリキャラ設定
坂下水木
幸太郎の事を弟と言い 自分は姉と自称する
謎の女性で幸太郎のみならず 中野姉妹の名前も知っている
マイペースな女性で髪型は何処となく一花と似ている
一応は既婚者である