上杉幸太郎と六等分の思い出   作:Aikk

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おまじないの内容を三玖の話に替えたオリジナル回です
短めです


第二十八話 不良少年と三女の買い物

目の前には何かがある

黒い塊だ 製作主はエプロン姿で箸を持つ三玖である

『何これ』と聞けば『コロッケ』と三玖は述べる

正直言えば俺には何なのかすら想像できなかった

「味には自信がある」

彼女はそう述べるが四葉は手を動かす事を躊躇いその場で動きを止めている

こいつでも動けない時があるのだと新たな発見だろう

 

固まる四葉の後ろから俺と風太郎が顔を出し

ぞれぞれ手を伸ばし口にする

 

「おはぎ作ったのか」

「流石に油で揚げるおはぎはねぇーよ まぁ もらうか もぐ」

 

味に関して言えば多分不味いと言われる部類だろう

四葉は美味しくないというし

風太郎は普通にうまいと話す

作った本人も意見が二つに分かれ困惑しているんだろ

残された俺をじっと見る 正直な感想言えばいいのだろう

味が分からない俺にはどう判断できるかも左右されないが一つ分かるのは

これを三玖が頑張って作っていた事だ

 

「うん うまいぞ」

「コータローは優しいから気を遣わなくて良いよ?」

「やっぱり 上杉さんとお兄さん おかしいよ!」

「おかしくねぇーよ 愛情に勝る味は存在しない」

「そう言う 問題じゃないですよ!」

 

「… 完璧においしくなるまで作るから 食べて」

 

これが風太郎と俺の苦難の始まりだった

四葉 俺とこいつは素直な感想を言ったんだぞ

 

 

 

それから数分間はただひたすらに三玖が作るコロッケ擬き

四葉曰く 石 をひたすらに俺と風太郎は食い続けた

食ってる俺達が言えた事じゃねーけど 三玖も良くここまでぽんぽん作れるもんだよ

あとは作り方さえ学べば完璧なんじゃねーか?

 

そして遂に 風太郎は倒れた

四葉は叫んだ「上杉さーーーーーーーーん」

必死に介抱する四葉だが、効果の程は期待出来ず

胃薬を探すが見つからず、俺は買いに行くと三人に言いそのまま向かうが

三玖に『フウタロウが倒れたのは私のせいだからついて行くよ』と言われ

無下にあしらうのも気が引けたので、そのまま二人で向かった

 

 

「見ての通り 上杉さんは重い難病なんだよ見てあげて!」

「ぐは 動いてたら死にかけた」

「まさか あなたも いえあなたがそんな病を患っているとは」

 

俺の居ない間に何かしらコントのような事が起きているとは想像もできない

現場にいない事を少しは後悔している…。

 

 

 

 

 

 

 

「食べ過ぎに聞く薬か、これ何てどうだ」

「コータローの方は平気?」

「あぁ 別に胃は弱くねぇし」

「でも私も少し熱くなり過ぎたね あの数は多い」

「そこまで本気で作ったんだ気にすんな」

 

近場のドラックストアまで俺と三玖は向かい

棚に並べられた胃や腸 食べ過ぎに関連した薬を何個か手に取り

どれが一番効果が良いか見比べている

あまり効果が強すぎても胃事態を痛める可能性もあるし

ここは適度に聞く薬でも良いと判断した

 

三玖は作り過ぎた事を気に病んでるが、そこはあまり気するんもんじゃないと俺は言い聞かせた

あれは練習だ 普通に作ってる訳じゃない数が多くなるのは、当たり前、味見役として駆り出されれば、喜んで手伝おう

まぁ限度をわかってないと風太郎みたいにぶっ倒れる

それに四葉の意見も、間違ってはねぇけど、正直に思う気持ちが何よりも大事だと俺は思っている…。

 

「本気で不味いって思うならまず食わねぇよ 俺はうまいと思ったぞ、家族以外のの手料理は中々食える機会はねぇしな」

「コータローは、愛情でおいしさを判断する」

「そうだな 俺は味が分かんねぇから 人が作る際はそこを見てる あまり外食もしねぇし」

 

外食なんて贅沢が先ず俺達家族に許されてすらいないがな

似たようなもんと言えば普段学食で食べるパンを数切れだ

腹に入ればどれも同じだし そこまで気にもしない

 

「それに俺はお前が作ってる姿が好きだからな 一生懸命に頑張ってる姿は見てて良いもんだよ」

「…………!!」

「おい 三玖 急にどうした」

「何でそう言う事を普通に言うの………」

「可笑しい事いったか?」

「薬買ったら帰ろう」

「おっ おう…………」

何だろうな 前にも話したが、俺は頑張ってる人間が好きだ

努力は何時か報われるもんだし

三玖も努力をして 前回のテストでは68点だいをとった訳だし

今回も料理してんのは純粋に興味を持って それがしたいと考えたからだろう

自分から向かって行く 三玖の姿勢はとても良いものだと思う

 

会計を終えても三玖はずっとだんまりだ

何処か不自然に視線を合わせないようにするし

なんだろうな全く?

 

「具合でも悪いのか?」

「平気だから」

「そうか、無理なら言ってくれよ」

「コータローには言われたくない」

「あの事は、忘れてくれねぇか」

「…………」

「まぁ、あれだ 心配すんな あんな事はもう無いからよ」

 

 

 

痛い所を突かれたなそう言われると良い切り返しを俺は返せん

『心配するな』の一言をかける事しか出来ない

三玖は物静かな奴だが、感情をあまり表に出さないだけで決して無関心という訳でもない

でなければ倒れた俺が動こうとした際に、怒ったり泣いたり謝ったりする筈もないさ

ただ あの一件以降だろう 五月程ではないにしろ 彼女から声をかけてくる事が多く感じる

自意識過剰なのかどうかは、実際どうだろうな

 

 

このまま無言で帰るのも味気ないし、だからと言って俺に切れるカードは……

いや一つだけあるかもしれない

会話の切っ掛けが……

一歩先に進む彼女に俺は声をかける すると先ほどまでムスッしていた表情も少しだけ和らぐ

 

 

「この前さ 三玖に言ったよな 何処かに出かけようって」

「……うん コータローが聞きたい事があるって もしかして今?」

 

テスト前の最後の期間 五月に会いに行く際に三玖とエントランスで出くわし

俺は咄嗟にこう言った『聞きたい事があるんだ 今度何処かに出かけないか』と

三玖は一瞬考えるがすぐにОKの返事をくれた その後俺はそのまま中野宅へと向かい

テストも無事と言うには、受けたダメージは多かったけど 彼女達との強い絆を少しでも感じる事が出来たし 二乃の言葉は俺と風太郎にも効いた まぁ風太郎本人は食べ過ぎで倒れてんだがな

 

 

そして今 この状況だ まさに二人と言う中で あの約束と同じだ

三玖も覚えていてくれたし 今なのかと聞き返す

でも 聞きたいのは今ではない

 

 

「出かけようって言っただろう? でも今はただの買い物だ 出かけるって言うには味気がなさすぎるし 俺と三玖の用事じゃないさ」

「でも 私のせいではあるから」

「気にするな あれはただの食べ過ぎなんだからな 少しは自分の限界も知るべきだよ

  普段から小食だから出されれば食べるのが俺達だけど それでもだ まぁ馬鹿でも弟さ」

「コータローはフータローの事ちゃんと考えてるんだね」

「胃薬を買いに行くくらいは アイツの事は考えてやってるさ」

 

手に持った袋を彼女に見せれば『コータローらしい』と一言言い 少し口元が緩む

そう 笑っていて欲しいムスッとしたり怒ったりそんな表情は彼女には似合わない

例え表情には出さなくても笑みを出してくれだけで俺は満足だ

 

「それで 話は戻すけどさ 暫くすれば林間学校やら行事も多くなる…お前らも準備とかで忙しいだろ?」

「三日間だからね 服とか買いに行くかも知れない」

「あぁ だからさそれが終わったら出かけよう」

「コータロー それは忘れるフラグ」

「それはない 三玖と出かけるんだ 俺は忘れるなんてことは無い」

「……何でそうはっきりと言うの」

「楽しみだからさ 聞きたい事もあるけどさ 三玖と出かけるって中々ないだろう…って言っても 中野姉妹と出かける事自体 あんまりなさそうだけどな?」

「私とコータローで……うん 分かったコータローがそう言うなら待ってる」

「よし 確認は取れた ただ会話だけってのも寂しいからな そん時は何か見て回るか」

(デート……なのかな)

 

俺が彼女に聞きたい事は例の手帳の件と中野六花についてだ

何故去年なくした筈の手帳を彼女が所持しているのか

そして俺にそれを知らせないのだろうという事なのだが……

偶然とは言え彼女の部屋でそれを見てしまい 

俺は『あの部屋では寝てない』と堂々と嘘まで言う始末だ

それにあの手帳自体結構厄介な代物で、彼女自身言いだせない可能性もあるし

何だかんだと言いつつ 彼女が何時 あれを手に入れたのかも目星は付けたつもりだ

ただまぁ 焦る必要はない 三玖が話したくなった時でも個人的には構わないと思っているし

持っているからと俺は、怒ってる訳でもない

中野六花については、ある意味で俺には重要な事だ 五月が知らないのなら一人づつ聞きだすのが一番だろうというのが、手っ取り早い

 

建前で固めているが、俺は三玖と出かけてみたいと言うのが本音なのだろうな

五月と同じく この子には恩がある ここまで弱音も言わず勉強会に参加してくれたんだ

少しくらい礼はさせて欲しい 彼女は知らないだろうが

三玖には返せない程の恩があるんだ……。

 

(五月といい 三玖といい何かしら俺に関して隠してる事をかかえている……前者にいたってはあの性格だ 墓までもっていきそうだな)

 

 

改めて思うが、考えている以上に中野姉妹は謎が多いのかもしれないな

 

 

 

「そろそろ着くな」

「うん フータローに飲ませないと」

「あいつも気に入られてるな」

「む…………

コウタロウの馬鹿 切腹」

「えぇ……」

 

そこまで言わんでもいいだろう?

今は江戸時代か、そんな物騒な真似できるかよ

 

「冗談だよ」

「笑えねーよ」

 

三玖はムスッした顔を止めほくそ笑む

笑っていた方がとても良いとこいつの顔を見れば納得だ

 

「風太郎が回復したら 勉強すっぞ さっきの詫びだ 日本史でいく」

「! 早くフータローに薬を届けよう」

「焦るな 焦るな 全く 見てて飽きねぇよな お前も」

 

日本史という単語一つでここまで変わるとはな

好きな物の効果大きいな

 

何だかんだと買い物してれば時間もあっという間だった

俺と三玖がついた頃には何故か風太郎が『人は信用しない』と真剣な顔で俺に言って来た

居ない間相当な事があったんだろうな 災難続きだなお前………。

 

 

「三玖 買い物付き合ってくれてありがとな」

「コータローもありがとね 食べてくれて」

「あぁ 何時でも作ってくれ俺は大歓迎だ」

 

こうやってたまには買い物も悪く無いと思える静かな一日だ

どうかこの何事もない平和が長続きしますようにと祈り

残った四人で勉強会を再開する…………。

 


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