退院が決まった翌日
だがその前日に一度時間を戻そう
友人や家族が見舞いに訪れた中
その日は早めに就寝しようとベットで寝ようとした俺の前に
この病院の経営者である 中野丸男 その人が現れた
俺は面倒事だと目を逸らし見なかった事にすれば
何もないと関係ないとばかりにこちらまで歩いてくる
「目が覚めたようだね 上杉幸太郎君 体調に変化は?」
「あぁ 今は医者としてのあんたか 別に異常はない」
「それなら宜しい ただ君は僕に嘘をついたね?」
「何がですか?」
「君は林間学校以前に倒れたそうだね」
診察へと訪れ
説明書にでも書かれているのか模範的な言葉のみ来るため
俺は適当にあしらうが、あの日花火の日に起きた事を
彼は知っており 顔が強張ってしまった…………。
視線を逸らせば呆れたようにため息をつく
「やはり 五月くんの勘は当たっていたようだ」
「はぁ まさか適当な事いったのか!」
「君の様子が、おかしい場合は連絡を寄越してほしいと頼んであってね」
まさかこの男がかまをかけると想定もしてなかった
本当に苦手だよやりずらいにも程がある
同じ空間ってだけでも息がし辛い
「別に何ともないっすよ~」
「あの事故だ。生きている事自体不思議だ 君に退院前に言ったはずだ。無理はするなと……助けた命を無駄にしないで欲しい」
「誰が好き好んでアンタに…………っ わかったよ無理はしねー
あと五月に変な命令をさせんな あいつが傷つくだろう」
「君がいるだけで五月君も三玖君も傷つくのだがね」
「嫌味な人だよ」
「お互い様だ」
これが病人とその医者のやり取りだ
顔見知りだから済ませられるが、本当に恩知らずだよ俺は
だけどこの人を前にすると何時もこうだ
今だって一年ぶりに顔を合わせるのに悪態しか出てこない
『子供だな 相変わらず』と言われ左手を押さえ何とか踏みとどまれば
彼は俺の手に一度視線を送ればすぐに戻す
「何だよ?」
「変わりはないかね」
「あれば 何かあるのか」
「君からしか聞けない事もある 医者として聞く義務がある」
「…………この手はあの日からそのままだ」
「そうか 何かあれば連絡をしてくれ」
「はいはい 分かりました あと今回は風太郎も世話になった。ありがとうございます」
「君達は 娘達の家庭教師だ あのままでは困る それに患者を診るのが私の仕事だ」
「入院費は何時か返す 期限があれば言ってくれ」
「その必要はない」
「俺がいやなんだよ アンタに借りを作んのが!」
だめだ歯止めが効かない
多少はその厚意に甘えれば良いのだろうし
それが大人である彼の役割だ 娘達が世話になっているならある程度はサポートするだろう
今回は多少なりと家庭教師とは別だが、それでもだ彼にこんな態度は失礼だろう
『不毛だよ このやり取りは』と口からもらしている本当にその通りですよ
「ここからは 彼女達の父親として話そう 君はあの事を娘達に話したかね?」
「適当な事で誤魔化したよ 別に話す必要ねーからな」
「そうか………変わらないな君も」
「何勝手に 納得してんだ!」
「本当に君は似ているよ 若い頃の彼に」
「なんで 勇也さんが出てくんだ」
「勇也さんか……本当に強情だな君も」
「関係ないだろう あんたには…」
あの件とは俺の事故に関しての事だ
一応は伝えたが、どんな事かは詳しく話す気はないただ巻きこまれた俺が進級出来なかっただけだしな
今思えば 五月にはスマホの件で誕生日を知られ年齢も知られている
あまり気にはしなかったが、あいつはとっくに俺がどういう理由で学園にいるのか知ってたんだろうな
それを言わないのはあいつなりの気遣いだろう あいつに限って何か裏があるとは到底思えない
そしてこの人に父親との関係をとやかく言われる筋合いもない
俺が嫌いなのか世話を焼くのかはっきりしろ
悪態をつきながらも彼の診察を受ける中 彼は幾つか薬を出すと話す
「君は最近ストレスが多いようだ 心臓に負担をかけないようしてくれ」
「別にストレスなんて ねぇよ 俺があいつらに勉強を教えるのは頑張って欲しいからだ」
「君がいなくとも 弟がいるだろう 君が無理をする必要はない」
「俺は約束したから」
「君はどうなんだね 彼女との約束だから傍にいるのかい?」
「それは……」
「答えは見つからずだ 上杉幸太郎君 では私は戻ろう
最後に一つ 娘はお前だけには絶対にやらない」
「大人げねぇな 分かってるよ 俺もそんな気はさらさらねーよ 安心してくれ!」
最後の最後まであの人とはこの調子で終わってしまった
病室を出る際に見た彼の表情はとても医者とは思えない冷たい顔だ
それは何時もだが、何処か険しい表情だった…。
彼が置いて行った紙が残され幾つか書かれていた
『今回はストレスと過度な負担から来ているものであり 傷口や体には異常はなし
ただし無理をすれば何時異常が出てもおかしくない』
口で言えとは思ったが、あの人も大概不器用だからな 面と向かって言えんのだろうさ
そして彼が去ったあと 俺はそのまま意識を夢の世界に落とせば
退院となる明日に向けたのだった…。
翌日だ
みずき姐がやってきた軽く検査をすれば異常はなく
予定通り退院しても良いと話
俺は幾つかの荷物を纏め始めた 風太郎は家庭教師でいない
ただ今回は一人ではなく 助っ人がいる それは須藤真弓である
この四日間の間に彼女もお見舞いに来てたらしく
退院する日とは知らず 今日も訪れたと話す 少ない荷物だが手伝うと話してくれた
「上杉先輩 何だか少し痩せました?」
「四日間も寝てたしな 昨日も目が覚めた後に 何も食わずに寝た」
「先輩 あのいい加減学びましょう そういう事が原因だと思うんですよ」
「真弓ちゃんまで 五月見たいな事言ってくんだな」
「いや 普通ですから」
この後輩は俺の事を先輩と呼ぶ
それは以前 俺が彼女の働くバイト先で最初働いていたらと言う理由だったが
実際は別だ 彼女は俺が年上だと知る 小学校時代からの後輩だ
俺が二年になった際に『もう 先輩呼びはやめてくれ 先輩じゃねぇから』と言ってはいたんだがな
あの場は適当な理由で流したが、小学校からの癖が今でも抜けてないと見える
テキパキと荷物を纏め せっせと動く小さい後輩を見れば
彼女と須藤が本当に兄妹か毎度ながら疑問である
「どうかしましたか先輩」
「何でもねぇよ つうか須藤は何も言わねーのか 俺の所来てて」
「兄は『今日はどうだった アイツは なんでもねぇ』って相変わらずです」
「変わんねぇな あいつも」
「本当に 兄は心配してました 先輩がまた病院に運ばれたと聞いて勿論私もです」
「悪いな 心配かけて 今回は割と反省してる」
「そうです 先輩は無茶しすぎです もう少し周りを信用すべきです」
「へいへい」
「その軽い返事もやめましょう」
「まじで 五月が二人に増えたよ」
何と言うかこの子は 俺が二年になってからも何度か声をかけようとしていた
ただ変な噂のある人間の傍に 長年いる後輩を近づけさせるのは流石にまずいし
須藤にも申し訳が立たない 基本的にはバイト以外では話さないようにしていた
先月のバイトでの事件以降に再び この子とも話す機会も増えた
クラスが三玖と同じな事もあり 時折だが普段クラスで三玖がどうしているのかも聞いている
三玖とも連絡先の交換はしていたと言うし 知り合いどうしこうして輪が広まるのはいい傾向だろう
ふと後輩の事を考えていれば俺は昨日の事を思いだし 彼女にそれを教えた
「真弓ちゃん 中野姉妹だけどさ 俺さ自分の事話した………」
「良かったですね これで三玖さんの前でも気兼ねなく先輩って呼べます
それに先輩の事を悪く言う人が少しでも減りますし 兄も喜びますよ」
「学園での噂は今更どうでも良いけど 言った事で少しつっかえが取れた気もするのは事実かな」
「先輩 その調子で噂なんて消しましょう!」
「そう簡単にいかねーよ さて荷物も纏めたし 帰ろうか」
「はい お供します先輩」
「いや 近くまで送るって俺はそのまま帰るさ」
「流石に 病人を一人には出来ませんよ ただ不思議です 先程三玖さんに連絡しても返事がなくて」
「まぁ 忙しいんだろうし 今日は家庭教師もあるしな しゃーなしだ 帰るぞ」
昨日の今日だ 俺の事情を元から知ってるとは言え色々と思う所はあるだろうな
何と言うか俺の知らない所で問題だけは起きないで欲しいな
中間試験の二の舞いは勘弁願いたいね
後輩の心配を聞き流し
彼女と共に家へと向かう この四日間 寝れるだけ寝たんだし
当分は大丈夫だろうな それにこれ以上あの人の世話になる訳にはいかない
「そう言えばですが 先輩は昔のような口調には戻さないんですか?」
「もうーなれた このまま俺は人生を過ごす」
「以前は僕って一人称でとても社交的だったのに」
「怖くて悪いな」
「いえいえ 兄で慣れてますから」
「怖いは否定しねーのかよ」
全くこの子も変わらんな
久しぶりに後輩と帰る中 少しばかり昔を思い出し
懐かしい気持ちを覚えていた
果たしてこれからどうなるのか色々と不安だが、先ずはやる事だ
『退院した 来週からよろしくな』
と中野姉妹にメールを送る
風太郎からは今日は休むよう言われたし 顔を合わせる機会はないため
知らせるくらいしないと心配させるだろうしな
『幸太郎君 退院おめでとうございます 今日は行けなくてすみません
無理はしないようにしてください』
『コータロー 退院したんだね これからはちゃんと休んでね何かあれば行くから』
『コータローくん お勤めご苦労様 今日は会えなくて寂しいねー』
『お兄さん おめでとうございます 明後日会いましょう!』
『元気になったら顔くらい見せないよね』
なんともあいつ等らしい内容だな
三玖だけは林間学校が終わって以降少しだが色々と変わった気がするが、気のせいだろうか?
隣にいる真弓ちゃんも三玖から返信が来たようで、何やらニヤリとしているし
嬉しい知らせでも来たんだろうか、まぁ乙女の会話だ聞かんでおこう
「ん… あっ」
「お兄ちゃん!」
「真弓と 上杉か 何で一緒なんだ」
「言ったじゃん 今日もお見舞いに行くって そしたら退院が今日だって言うからそのまま帰って来たんだよ お兄ちゃんこそここで何してるの? 買い物」
帰り道の最中だ 見慣れた坊主頭の三年生の生徒が私服で道を歩いていた
すごく気まずいし 一番に見られたくねぇ相手なんだがな
「はぁ…………真弓ちゃん ここまでで良いよな 須藤先輩もいるし 先輩任せましたよ」
「あー 先輩 無理はしないでくださいよー」
「おい 上杉てめー」
「何だよ 一応病人なんですが?」
「っ… 妹を送ってくれて ありがとう それだけだ」
「そうですか じゃ 俺はここで 真弓ちゃん それに あばよ須藤」
「はーい 先輩また明後日会いましょう」
呼び止められた時はどうなるかと焦ったがあいつも卒業を控える中 問題は起こしはしないだろう
そんな事すればせっかくのチャンスも不意になるしな
そこまで単細胞な人間じゃねぇだろうさ
きーつけて帰れよ 二人とも……。
「お兄ちゃん おかえりーー 退院おめでとうーーー」
「おう らいはもお見舞いありがとうな」
「今日は 幸太郎お兄ちゃんと二人っきりか お兄ちゃんバイトは暫くお休みなんでしょ」
「来週の土曜からは復帰したいな でもまぁ 今日はやめておくさ」
「よーし じゃ今日は お兄ちゃんの退院祝いで 豪勢につくるよーー」
「了解だ でも無理はするなよ」
「お兄ちゃんにだけは 絶対言われたくないよ」
「手厳しいな」
妹とも顔を合わせるのは一週間ぶりか らいはからしたら一応はお見舞いで見てるが
俺の意識はなかったしな
退院祝いと張り切る妹に家庭教師で奮起する弟 せっさと働く父
俺だけは今日は休業と何ともやるせないが、仕方ねぇだろうな
たまにはこういう日も悪く無いかもな……。
キャラ設定更新
須藤真弓
上杉幸太郎を先輩と呼ぶ 同学年
実は彼が事故を気に進級出来なかった事 そして彼が不良少年ではないと知る一人
兄である和之と同じく 小学校からの付き合いで
事件以降もきを見ては彼に話しかけようとしていたらしい
バイト先で自分を庇い 怪我をし翌日には彼が問題を起こしたと噂され
放課後に彼に謝罪し そこで 二乃 三玖 五月の三名と出くわす
これ以降 三名と親睦を深めたのか
二乃と遊びに行ったり 三玖とクラスが同じなため良く話すと語る
幸太郎に好意があるが 彼は真弓を『妹同然』としか見てないようで
彼女も複雑な心境である