退院して二日目
今日は登校の日だ 意識のない四日間と土曜日曜とたっぷり休んだお陰か
体力も元に戻っていた 有り余ると言う程でもないがここまで長期に休みを取ったのは、去年ぶりだろう
ある意味じゃ その反動で今の俺がいるんだが、そう考えれば色々と複雑である
その学校までお供するのは風太郎であり こいつと二人というのも久々だ
朝から辞書片手にとは変わんねーなこいつも………
彼曰く
『お前を一人にしたら、らいはにどやされる』とのこと
もっと本音で兄を労われよ…………。
「赤点回避は、出来そうか風太郎?」
「厳しい、あいつ等の中でまだまともな三玖と一花でも得意な教科以外は壊滅してる」
「手厳しいな」
来月には期末試験もあり 今のうちにこいつと対策を練らなければ、中間試験の二の舞いだ
中野父に一生頭が上がらないだろうし
絵ずらすら想像したくねーよ…………。
不測の事態と言うものもある程度は考えておいた方が良いだろう
あの姉妹と俺達で問題が起きないと言う事は先ずない
自分で言っていた悲しくなるが、人間そう言うもんだ…良い事も悪い事も友人とは起こすもんだ
駄々洩れる不穏なオーラは周りの人からの視線を集めていたが、そんなもんは、些細な事だと二人でため息を交え足を進める
(まぁ最悪なんて起きない方が、一番良いんだがな)
学校へと入ればあいつ等に下手な負担をかけない為 極力は顔に出さないよう二人で心掛けた
何と言うか 俺達二人はそういった事がもろに顔に出るようだ
あまり意識はしなかったが、らいはにそれを指摘された
何とも情けない兄だよ俺達は…………。
ガラガラと扉を開ければ クラス中の視線が集まってきた
風太郎から聞いていたが本当にもの好きに暇人が多いなこの学校は
今一部では俺が『中野姉妹の誰かを倉庫に連れ込んだ』と話題になってるようだ
ここまで俺が想定してた事をこいつらがやってると思うとむしろ安心すら覚える
まぁ、そんな奴らの相手をしてるほど暇じゃない
風太郎と俺はそれぞれの席に向かう
目をやれば既に五月は来ていた こちらに笑顔を送る 本当にぶれないなお前は
「おはようございます、幸太郎君、土曜日はお手伝い出来ず、すみません」
「気にすんな 家庭教師の日だろう 勉強してくれるだけで俺はありがてぇよ」
「でも 流石に一人で帰らせたのは反省してます」
「別に一人じゃねーよ? 真弓ちゃんが来たし」
「幸太郎君! どういう事ですか 説明してください 何故須藤さんがいるんですか」
「何だ?!急に」
朝の軽い挨拶と共に五月は俺の退院の日に来れなかった事を謝罪するが
せっかくの家庭教師の日を潰す必要はなく
勉強してくれた事が俺や風太郎的も有難いと伝える
ただそれでも自分が許せないと言い張る彼女
本当に何故そこまでこいつは俺に世話を焼くんだろうな?
特に荷物は多くもなく お見舞いに来た真弓ちゃんが俺の手伝いをしたと伝えれば
顔色が一気に変わり 朝だと言うのに物凄い気迫だ
近くの生徒も軽くひいてるぞ…………。
「ですから 何故幸太郎君の病室に 須藤さんがいたのかと」
「お前らと同じだ 普通にお見舞いに来て んで土曜も来た 本人が手伝うって言うからな」
「幸太郎君は私を頼らないのに須藤さんは頼るんですね」
「めんどくせぇ………… 別にお前を頼らないって訳じゃない ただ毎度の俺の問題事が他人には頼める事じゃない 事が多いだけだ だから機嫌治せ 」
何だろうな このやり取りは…………
周りの視線も普段より多く感じるし『喧嘩か』『別れ話だ』と適当言いやがる
何が別れるだ 俺達は付き合ってもねぇよ
『見んじゃねー』とガンを飛ばし 周りを退散させ 五月に落ち着くよう言う
「それに 頼りにならねぇ人間なら 俺の過去なんて言わねーだろ」
「…………そうですよね 何だか恥ずかしくなってきました」
「その笑顔でいてくれ その方が俺もほっとするしな」
「わ 分かりました 幸太郎君がそう言うなら精進します」
勉強と風太郎との仲も精進してくれと言いたいが
弟との話を聞く限り 林間学校をへて五月と風太郎の関係はいい方向へと進んでいるようだ
あいつが自分の過去を話す何て中々無いからな
五月には心を許してんだろうな
俺とは違う………… 俺はまだ話してない事が多すぎる
中野先生の『君は嘘ばかり』と言う言葉が今でも刺さっている
(嘘つき嘘太郎だな………)
今は学校だ あの人の事は頭の隅にでも追いやっておこう
考え込んでいたのか覗き込むようにして五月がこちらを見ていた
「どうした?」
「あの 後程お話があるのですが 幸太郎君は時間はありますか?」
「俺は勉強を教える以外は基本一人だ 時間は腐る程あるぞ」
「悲しい事言わないでください でも私がいます」
「お前は 恥ずかしげもなく 良く言えよな そんな台詞………」
「あ…………すみません やはり少し恥ずかしいです でも幸太郎君は一人ではありませんよ」
「そうかい…………んでどうすんだ」
「はい お昼頃でも良いですか 幸太郎君?」
「了解しました 五月さん」
「真面目に聞いてください」
毎度思うが、お前は俺の母親かよ
何と言えば良いのか、林間学校を終えて風太郎との関係は良好な方へと進んでいるが
俺への扱いは以前より悪化してないか? 三玖もだが昨日なんて一時間おきにメールが来ていた
こいつらには俺との昔を話して聞かせたが、昔はここまでする奴じゃなかったのにな
『?』と浮かべる五月さん本人には全く自覚はないようだ
質が悪いな このままだと五月は駄目になるぞ…………。
少しは自分の為に時間を使って欲しい 俺に構ってる時を勉強やらに回せと言いたい
言ったら何て返されるか分かったもんじゃないし 喧嘩はしたくないから喉元で抑え込む
「はぁ…………」
「ため息してると幸せ逃げますよ」
「もう底辺だよ」
「うぅ………またそう言う事を幸太郎君は言うんですから」
数年後の再会した 妹同然に可愛がっていた姉妹の一人がダメ人間の世話をやいてる事実に
俺はため息を出してんだけどな…………。
自覚のない本人相手に俺は適当に流せば、そのままホームルームから一時限目までずっと謎の疲労感と戦っていた 一週間近く休めた筈なんだがな 五月恐ろしい奴だ
一時限目の授業が終わると俺は時間を有意義に使おうと図書室へと向かう
これから先 勉強で必要になるだろう資料や期末試験に向けての準備を少しずつでも良いから進めないとな 時間は腐る程余ってるんだし
「ん? 四葉おっす」
「お お兄さん おはようございましたーーーー」
「えぇーー 何だあいつ」
図書室へと向かう中 二日ぶりに顔を合わせた四女に声をかければ
幽霊を見たような顔で固まり 俺に挨拶を返せば何処かへと走っておく
元気なのは良いけど転ぶなよ…………。
「あいつ どうしたんだ? 土曜は普通にメールも返してたくせによ 何かあったのか」
朝の勉強会もあるだろうし そのまま図書室から去られると困るんだけど
行ってしまったなら仕方ないだろう あいつにはどうしても無理強いを出来ないんだよな
不思議だよ 四葉と言う人間も…………。
!
俺に電流が走る…………。
まさか風太郎との間に進展でもあったのか?
それは喜ばしい事だが、それなら俺を見て逃げる理由にならんし
まぁ 気恥ずかしいって事もあるのかもな
昔を聞いて あいつも驚いていたし
「おっ 三玖に一花 おはよー 」
「コータローくん お おはよー」
「コータローおはよう…………」
図書室で二人と会えば 先ほどの再来だ
何処かよそよそしいと言えばいいのか一花の様子は明らかにおかしい
俺と決して目を合わせようとはしない 一花まで何かあったのか?
四葉も逃げたし なんだろうな今日の姉妹は新手の嫌がらせか
「四葉 逃げたの……うぅ」
「一花落ち着いて 大丈夫だよ」
「何が大丈夫なんだよ お前らみんなして 何だサプライズでもあんのか?」
残念ながら俺の誕生日はこいつらと同じ五月五日だ
とっくに過ぎ去っているし 今年も家族とだけ祝って終わったぞ
顔をふせて唸る一花を心配する三玖
何時も以上に世話を焼く五月や逃げる四葉 一人悶える一花と俺のいない間に何が起きたんだ?
「はぁ…………何か 一花も辛そうだし 俺は教室戻るわ 保健室でもいけよー」
「あっ コータローくん 私は! あぁー言えなかった」
「次こそ 言おうコータローに」
「うん これはちゃんと伝えるべきことだからね」
あの調子で勉強を続けても頭に入らないだろうし
教えても耳から出ていくだろう 今はそっとしておくか
目を合わせないんじゃ 話も出来ないし
それに三玖もいるし任せるべきだろうな
「ん………二乃か おはよう 珍しいなお前が図書室に来るなんて」
図書室から出てすぐの階段で二乃と出くわした
ここは俺達の教室から離れているし わざわざ此処に来たという事はこいつも勉強会に混ざりに来たんだろうと挨拶がてらに言うが…………
こいつも様子がおかしい いや普段から俺に対しての扱いは風太郎よりひどいが
今日はそういう感じではなさそうだ
俺を前にもじもじと手を動かしている…………。
「あ あのあんたに…………」
「何だ 頼み事か? すまんがキンタローの番号は知らんぞ」
「な なんでここで彼が出てくのよ」
「風太郎が教えないなら俺に来るだろうと思ってな 力になれなくて悪いな」
「違う 私が言いたいのは…………」
こいつが勉強会以外で話すとしたら 風太郎が考えた
金太郎の事だろうし 正直に言えば色々と厄介事もあるし
今は弟の嘘に付き合ってやろう
本人は違うと言い なら何のようだと聞けば二乃は意を決したように俺に何かを聞こうとした
しかし
「二乃 うわ この人やばいって噂の人じゃん」
「え こいつはそんな奴じゃ」
「はぁ…………さいなら」
二乃の友人が間に入る
どうやら他のクラスでも俺の悪評は健在らしい
言い訳をする気もないし それに的外れでもないしな
言いかけた二乃には悪いと思うが切り上げるか
俺はその場を去る形で教室へと足を動かす 人前はやっぱり目立つ彼女達と話すのは控えるべきか?
言いたい事がありそうだし 聞くなら家庭教師の日でも良いだろうな
割と簡単に考えている俺を余所に 様子がおかしい中野姉妹達
五月は一体何を話したいんだろうな?
俺は次の休みが少々怖くなっていた…。