上杉幸太郎と六等分の思い出   作:Aikk

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武田君先行登場


第四十四話 不良少年と不思議な家族

明日からいよいよ期末試験のテスト週間に突入する

風太郎の表情は何処か固く

歩くたびに横ぎる生徒達が、尋常ではないものを感じている

勿論横にいる俺も弟程ではないが、緊張はしている

このまま無事に行けば、赤点回避は可能だろうと言うのが俺達の見解だ

 

「何事もなければ ギリギリいける」

「まぁ三玖と一花は成績の伸びは良いし 問題なのは約三名だな」

「四葉は最近やけに休みがちだ やる気はあるに何故こない」

「あいつの事だ また部活に手を貸してるんだろうな」

「テスト週間くらいはこっちを優先してくれ」

「だが 焦るなよ 前回見たいなのは」

「分かってる あんなヘマはもうごめんだ 幸太郎アシスト頼むぞ」

「了解だ」

 

中間試験の時にはテスト前に 兄弟二人して五月と喧嘩をする羽目になり

彼女の協力を得られないばかりか、あの人から

『赤点が出れば風太郎君はクビ』だと言われ俺がヘマしそれを二乃知られるという大失態も犯した

結果で言えば全員一科目づつは平均点を取れたしかし他は赤点をとってしまう事になる

俺が彼と取引をし俺だけクビにし風太郎は残すよう計らった

勿論彼はそれを承諾してくれた ただ ここまで敵対して来た二乃の起点により

全員が一科目でそれを合計して まるで 全員が一科目づつ平均点を取ったかのような話をすることで

彼に話を進めた 勿論 あの人の事だ 赤点をとっている事は気づいているだろう

俺が入院してた時聞く事もしなかったがあの様子からすれば直ぐに分かる

あの人の考えとか分かりたくもねぇけどな…………。

 

そんな悪戦苦闘し 結果敗北した中間試験

今回の期末試験で同じ過ち犯せない あの人からの連絡はないが

俺達のいや 風太郎が彼女達に教えた成果をきちんと出せねばならんのだ

焦る気持ちを抑えつつ 先ずは四葉と二乃の説得に向かう事にした

 

 

「すみません 今日は陸上部の皆さんのお手伝いがあるんです テスト週間になればお休みになると思いますので!」

「頑張ってこい 四葉 風太郎まだ一人目だ 次だ」

 

四葉脱落 ここに来て一番やる気のある四葉が再び部活の手伝いに勤しみだし最近はめっきり来なくなっていた 俺の予感的中していた

隣で株を溶かしたかのような顔になる弟を引きずる形で、次の人物 二乃の所へと向かう

申し訳なそうな四葉だが、あいつの性分だ ここで無理にやらせても良い成果は出ない

テスト週間になるまでは俺達も待つしかないだろう

 

 

「試験勉強は明日からでしょ? 今日くらい映画観に行かせなさいよ」

 

「五月もダメそうか?」

「本音を言えば映画には行きたくありません…………」

「そ そうかお前も無理のないようにな」

「幸太郎君助けてください!」

「良いから 五月行くわよ!」

 

二乃そして五月 脱落

彼女を説得するのは、骨がおれるなやはり俺達へのイメージは悪いままだ

今から出かける為 五月も同行された ここで五月も消えるのは少々痛いが

彼女も同じ無理矢理勉強させて見ろ 反感しか起きない 最悪喧嘩が起きるぞ………。

そうならないよう 俺は風太郎をサポートしないとダメだろう

まぁ 俺の方が嫌われてんだけどな

 

そして再び魂の抜けた弟を引きずり

一花と三玖の待つ 図書室へと向かう事になった

 

 

 

「と言う訳で 弟は心が深く傷ついた 優しくしてやってくれ」

「ま まぁ 明日から本番だからさまだノーカンまだ何事もないって」

「元気出して フータロー明日は大丈夫だから」

 

そう一花の言う通り明日からが本番だ

それに何事も今は起きてはいない 俺達がヘマをしなければ何も起こらない

ここは上手く彼女達の機嫌を損なわないようにし勉強へと足を進ませる方向で行けば

問題なくテスト勉強が出来るだろうしな

 

「だといいがな……仕方ない 今日は各自自習で…………」

「そっか…………」

 

二人は基礎は他の三名よりも出来ている

ある程度は自分で行っても期末までにはいい結果を出せる筈だ

俺が行った緊急テストでも一花は29点 これは解いた数だけだ残りは空白

つまり挑んでいれば話は別だ 幾ら偏ったテスト内容だろうが一花の成績は伸びている

三玖にいたっては 日本史以外も確実に伸びている事が伺える

この調子なら二人が赤点をとる事は無い

息抜きも兼ねての自習と捉えれば良いだろう

 

「じゃ 俺はバイト探しだな」

「はぁ お前また増やすのか?」

「以前働いていた 店が移動してな 一つ空いたんだそこに入れようかな」

「そのうちまた 倒れるぞ?」

「そんな事はねーよ んじゃ お先に って 何だよ一花!」

 

自習となれば俺も一度 帰宅しバイト探しにでも行こうと考えた

あの額を返済仕切るのは、多少は無理をしても足りないだろうし日銭が無ければこの先の生活も厳しいだろう 最悪俺の貯金を切り崩す方針も考えている 今日はこのまま勉強会と思っていたが

そうもいかなくなった それが幸いし時間にゆとりが生まれた訳で俺は荷物を纏め始め

帰宅の準備に入るが、一花に腕を掴まれた

 

「わぁー こんな所に映画のチケットがぁーー 二人で観に行きなよ」

「何だお前…」

俺に映画のチケットを手渡し 三玖も渡せば荷物を纏め今すぐ行くべきだと言い張る

突然の事で俺は頭を傾げるが、三玖がそれを押し切り一花の手を引き 奥に行ってしまう

一花に渡されたチケットを良く見れば、昨日見に行ったばかりの一花が出ている映画のだ

何でわざわざこれを出すのか…………

 

「無理して気を遣わないで 言った通り 私の好きにするから」

「そ そう言うわけじゃないよー」

「一花は…………私とコータローが付き合ってもいいの?」

「…………も もちろんお祝いするよ」

「後悔しないでね 私は…………」

 

 

「おーい 一花 お前この映画観たばかりだろう?」

「あれぇ そうだっけ?」

「三玖がパンフレットも買ってサインもしただろうが、物忘れには早すぎだぞ」

 

目を逸らし 何故か焦り出す一花

一体何があれば、三人で観に行った映画のチケットを渡す事があるんだか?

それも三玖と俺にだぞ 確かにファン一号と二号とは名乗ったが、観に行くなら一花も連れていくし

今度はみんなで観に行きたいんだけどな

 

「あっはは そーだったね じゃ私はこれで」

「待て一花 本当に自習するのか怪しい 幸太郎 俺は一花の家に行くから」

「そうか 一花なら大丈夫だとは思うけど あんまり無理はさせるなよ?」

「あ ありがたいんだけど今日は用事があって…………」

「嘘をつくんじゃない」

「事務所の社長の娘さんの面倒を見る約束なんだ」

「社長 あぁ幸太郎から聞いたな でもそんな適当な理由では誤魔化されないぞ

  本当にいるなら俺の前に連れて来てみやがれ」

 

去ろうとする一花を風太郎が止める

どうやら弟は彼女が本当に自習をするのか不安らしく今から中野宅に向かうと言うのだ

だが一花も本当に用事があると言い あのおっさん「社長」には娘がおり

今からその子の面倒を見る為 自習は出来そうにないと告げる

確かに先ほどまで様子はおかしかったが、嘘は言ってないような気もするし

風太郎が自信満々に言い切る場合は大抵こっちが押し負ける時だったりするんだよな

 

「んじゃ 俺は帰るから 三玖はどうする近くまで送るぞ?」

「分かった よろしく」

「一花も風太郎も帰るならさっさと支度しろー 置いて行くぞ」

 

少々気になりはするが、ここは弟に一任しておこう

これで本当だったら風太郎はどんな感じで納めるのかも気になるところだな

 

 

 

「俺はここで……… 自習するのは良いけど適度な休憩を忘れんなよ」

「幸太郎も無理はすんなよ 行くぞ一花 はっははは 本当にいるか楽しみだな」

「コータロー君の薄情ものーーー」

「コータロー 無理は絶対にしないでね 約束だから」

「心配してくれてあんがとな」

「だから 本当なんだって コータロー君もお願い助けて!」

 

 

三人とは近くの道で別れ 俺は一旦家を目指す

後方で助けを求める声がする 普段ならすぐに助けに行くだろうけど相手は風太郎だ

なら安心して任せられる 知らん人間なら即座に向かっているだろうけど……

家に行く前に幾つか求人雑誌を取り出し 時間や家の都合そして家庭教師の補佐をやる傍らで

どれが支障なく続けられるかを探していた

 

「あれ 上杉君じゃないか」

「っ…………」

ページをめくる中で 俺は突然後ろから声をかけられた

振り向く必要はないだろ 相手をするのもばかばかしい

 

「無視しないで欲しいな 僕の事を忘れましたか?」

「知らんな」

「あなたと弟くん もう一人の上杉君の事はずっと前から知ってますよ 先輩」

「何のようだ 武田」

 

俺に声をかける男子生徒 名前は武田 祐輔 学園の理事長の息子と言うボンボンだ

クラス自体は別であり ほとんど話したことは無い そう皆無ではなく

話した事自体はあるんだ キラキラとした笑顔を振りまく彼を俺は苦手としている

 

「んで 何のようだてめぇ」

「敬愛する先輩に一声かけようかと」

「はぁ? 敬愛だ ふざけた事言ってんな 俺は帰るぞ」

「先輩は 最近成績が落ちてきましたね 上杉君は中間試験では変わらずですが

 あなたは今年になって更らに落ち込んで来てますよ 無理は良くないかと」

「うるせー 指図すんな 俺はあれで満足してんだよ」

 

何で他のクラスの人間にまで人の点数をとやかく言われればならんのだ

気分が悪くなる…………。

 

「当時の先輩は立派でしたが… 今ではこの状態だ もし彼女が見れば…」

「黙れ 武田 お前があいつの名前を 呼ぶな 俺が下がればなんだって言うんだ」

「っ……いえ 僕は心配なだけです  あなたはこんな所でくすぶってる人間じゃない筈だ」

「ふん………つまらん話だ あばよ あと武田 お前が何を言いたいかは知らんが

  俺に勝てても 風太郎には勝てんぞ 絶対にな」

「僕は彼を超えて見せますよ 先輩も精々期末試験いい結果を出してください

 って 先輩 そっちは逆ですけど?」

「うるせー 近道だ」

 

イライラを募らせ俺は来た道を逆走し 元居た方へと戻って行く

ポカーンとする武田だけが残された

 

彼は…………武田は俺の事情を知っている

俺が高校生になってから何処かで噂を知ったのか勝手に俺に理想を抱いていた

そして勝手に失望している かつての俺とはただの勉強馬鹿で正義感を振りかざすアホだ

そんな人間 痛いだけだ 見ていて腹が立つ部類だ 本当に嫌になるよ

 

 

「…………あっ」

 

逆走し そのまま適当に歩いていれば俺は中野姉妹のマンション前まで来ていた

武田とのやり取りでバイトを探す気力もそがれてしまい

この気持ちをどうにかするには弟や彼女達と話して落ち着かせるべきだろうと考えた

それにせっかくここに来たんだとついでとばかりに一花達の勉強を見よと思い立ったのだ

マンションへと入って行く

30階の中野邸の番号を入れればすぐに誰かの声が聞こえる

 

「すまん 俺だ 」

「コータロー? 帰った筈じゃ」

「色々あってな もし良かったら って 開いてるよ」

「はいって 今のコータロー 辛そうだから」

「助かる」

 

俺が言う前に既に開かれており 表情に出ていたのか

対応してくれた三玖は入り口を開けてくれた

あいつには気を遣わせてしまったな それに戻ってくるとは我ながら女々しい奴だよ

 

ため息は出るがこれ以上顔には出さないよう 表情を整える

エレベーターに乗り込んで暫く待てば扉が開き中野姉妹の部屋まで到着した

鍵は開いている為俺は『はいるぞ』と声をかければそのまま中に入り

自習が行われているだろうリビングへと足を運ぶ

 

リビングへと到着してすぐだ 俺はその光景に目を疑った

 

「事務員 もっとパパを好きだって気持ちを出せ」

「わぁー 社長さん素敵だな」

「し 社長 何処かに連れて行ってー」

「ふはは 仕方ない奴らだな」

 

預かっていた子供とは本当の事だった

見知らぬ少女が、何か指示を出せば、一花と三玖は風太郎の所に駆け寄り

物凄い棒読みで強請りだし 風太郎は何故か気合が入っているようで結構ノリノリでやっている

 

「すごく 高度なプレイだ 三人共に楽しそうだな 悪い邪魔したな 俺は帰る」

 

「って コータロー君 何で帰ろうとするのさ!」

「コータローだけ逃げようとするのはずるいよ」

 

「え、だって 別にそんな事はないぞ ただ 邪魔になりそうだしな」

 

風太郎達のやり取りを見ていたら

武田との会話でイラついていた自分が馬鹿らしく思えて来た

あいつがどう思おうが、知った事じゃないし 俺は俺でやるべきことがある

だから 今は三人をそっとしておこうと 決意を固め 帰宅しようと思い立ったわけである

 

まぁ 流石に一花達には止められはしたがな 急に来たのは俺だけど勘弁してくれよ

 

 

預けている子が 謎の来訪者である俺が誰なのかを聞いていた

それは俺の台詞だけど 小さな子供相手に言う事じゃない

彼女 あのおっさんの娘である 菊に自己紹介をすれば

何と俺まで 三人の高度な遊びに混ざれと言いだしてきた

お断りしようとするが、おっさんの家庭事情を聞き 俺は踏みとどまっていた

 

「あの おっさんも苦労してんだな うぅ」

「コータロー君 泣いてるの?」

「こいつは 父親関連だと少々感情移入しやすいんだよ」

「分かった 俺も参加しよう んで配役は何だ」

「うーん パパの弟だ」

「風太郎お兄ちゃんよ ろ し く な」

「おう やめろ 鳥肌が立つだろう」

 

ひどい言われようだな

お前も偶には言ってみても良いんだぞ 兄は寛容だ弟の言葉くらい受け止めるさ

 

改めて状況把握だ 風太郎は社長で 菊は娘 一花と三玖はその社長に好意を持つ事務員

俺はそんな社長の弟でしがないフリーターと来た

配役に関して俺は異論はない 元から用意されてもない人物だ

入れてもらえただけマシと言えるだろう 参加してるんだ俺もきちんと自分の役に入らないとな

 

 

「兄さん 繁盛してるね 僕さお金が無いんだ貸して貰えるかな?」

「うわ すごく意地汚い弟出て来たよ お前もノリノリだな」

「ダメかな?」

「お前は働いて稼げ」

「社長 コータローはきちんと働いています」

「それは現実でだろう ままごとの設定でこいつは無職だ」

「兄さんがダメなら そこの君でもいい どうかな?」

「わ 私… コータローがそう言うなら良いよ」

 

ノリノリで金をせびりに来る典型的なダメ弟を演じて見た

風太郎が真面目な弟だからそれを演じても面白みに欠けるという単調な理由だ

ままごとの世界でも俺は日銭を稼ぐ日々とは何とも世知辛いな

キャラは濃くしたが、実際は眺めているという虚しさまでセットである

 

とそんなダメな弟は社長に好意を抱く女性にターゲットを変えるという

何とも卑劣な手口に走る

そこは断って欲しいのだが、三玖も話に乗ってきた

 

 

「うーん ダメ パパが好きならパパの相手をしないと」

「僕も早く 兄さんが結婚する姿が見たいなー で誰が 僕の義姉さんになるんだい」

「急なキャラ変更やめろよ」

 

菊の要望には応えてあげるべきだろう 折角の遊び相手が4人もいて

それが自分の思い描いていた物とは違うのは、悲しくもあるしな

意地汚い弟から兄の結婚を願う純粋な弟にシフトチェンジをする

武田の事など今は忘れて こいつらと時間を過ごし事を優先しないとな…。

 

 

「コータロー君が弟 年下…。」

「ありかもしれない…。」

「えっ 怖いんだけど」

 

真剣な面持ちの二人だけど これはままごとでの発言だと言う事を忘れないでいただきたい

 

「アタシはママなんていらない」

「どしてだ…?」

「だって寂しくないから ママのせいでパパはとっても大変だった パパがいれば寂しくない」

 

風太郎に結婚の話を持ち掛けたが 菊は母親はいらないと言いだした

ここに来て直ぐに おっさんと彼女の事情を聞かされた

母親は浮気相手と共に何処かへ消え おっさんは一人で娘を育てて来たと

そりゃトラウマにもなるだろうし ましてや新しい母親何て必要とはしないだろう

まっぴらごめんだ と言ってやりたいだろう

 

きっとあの時も……

一花を必死に探して回るっていた時も 家で菊が一人 父親の帰りを待ち続けていた

 

戻ってこない母親なんて必要ない ここにいる父親だけで十分だ

 

でも本当にそれが本心だろうか?

彼女は配役として 一花と三玖に父親役の風太郎に好意を持つ役割を与えた

それは何処かで彼女は、母親を求めているという表れなのではないか…

 

状況は違うが 俺も風太郎も母親はいない 俺達が小学生の時に事故で亡くなった

絶対に戻って来ない 母親と 彼女が残したものを守る為働く 父

俺達はずっとそれを見て来た

 

寂しいくないそんな事はあり得ない

 

「菊 無理はすんな」

「あぁ ガキらしくわがまま言ってろ」

「そんな訳はないって言える程大層な人間じゃないけどさ

  菊 少しは自分の心に正直になっても罰はあたらないさ 寂しくないなんて事はないんだ」

 

 

わがままが言える相手がいない その寂しさを風太郎は知っている

何しろ俺は……あいつに兄として何もしてやれなかった

 

俺は兄と言う職務を一度投げ出しているのだから……

 

そんな奴が家にいれば、風太郎も怒り喧嘩になるだろうだけど

俺はそれをまるで大人ぶって相手にもしなかった『俺は父さんの代わりだ』と何を言ってんだ

お前なんかが勇也さんの代わり何て出来る筈もないだろう…………。

 

 

「うっうるさい そんな事言うなら お前も結婚してみろ」

「お 俺? それは無理だな 僕は人でなしな弟だからね」

 

誰かの事を言う前に自分からそれを実践してみろと言いだしてくる

少し驚かされたが、まさかこんな小さな子供にそんな当たり前の事を言われるとはな

 

役職は社長の弟だ それにこのキャラは自分ではそんな事は望まない

兄である社長の結婚を望んでるんだ 菊の要望には応えられない

 

俺の言葉を聞けば菊は不満気だ あれだけ言った奴がいざ自分の立場になれば何もしないとなれば

菊も良い気分とはならんだろうが、そう言った役だ諦めて欲しい

 

 

「先ずは相手が…………」

「ねぇ…………コータロー 私と付き合おうよ」

「付き合う?」

「あっ…………えっと」

 

悩んでる間に三玖はこちらに歩み寄り 唐突にその言葉を俺に言いだした

表情は真剣そのものだ ままごととは思えない程に言葉に力が入っている

 

その言葉を何故俺に 君は言うのだろうか?

今のこの流れは、父親である風太郎にかける言葉であって俺ではない

 

「違うだろう 三玖 それは俺に言う言葉じゃない」

「えっ…………」

「社長にだろう」

「コータロー君……」

 

だけど……この返しは違うだろうな

 

「でも まぁ 兄より先に結婚するのもありかも知れないな」

「け 結婚! えええっ 」

「あぁ 結婚だ 金は無いし甲斐性もないおまけに仕事も明日も見えない

 だけど幸せにする自信はあるぞ

 どうだ 菊 俺は俺で幸せになったぞ これでお前も認めるか?」

 

「アタシの負けだ 結婚おめでとう 叔父さん」

 

 

風太郎も俺の発言に度肝を抜かれたと言った顔だ

菊も自分の負けだと言い祝福の拍手をくれた

三玖は一体どういう事だと言った表情で『あわわ』と普段は見れない慌てようだ

自分からやってきてその態度は少々傷つくぞ

 

相手にやってみろと言うのなら 先に自分の覚悟を見せるべきだろう

どう言う理由かは知らないがせっかく三玖がくれたチャンスだ

ダメな弟なりにそう言った事を言ってみるのも良いだろうと俺は演じている

確かに このキャラは自分から望まないと俺は言った けどそれはそれだろう

例え 馬鹿な弟だろうが、結婚願望くらいはあっても良いと思えた

 

俺本人でもなく三玖本人でもない

兄の会社で働く事務員さんと結婚とは中々面白いもんだ

 

「それで 兄さんはどうするの? 婚活でもするかい」

「俺は地道に幸せを掴んでみるか 菊もう少しだけ待っていてくれ」

 

風太郎はすっかり 菊のお父さんに成り切っている

元からやる気もあったし やはり子供と触れ合うのが好きなのだろうか?

 

「ただいまーってあれ可愛い女の子だー!」

「あんたらまで なんでうちにいるのよ」

「幸太郎君まで何してるんですか?」

 

ガチャリと玄関先で音が聞こえ

四葉が助っ人も終わり無事に帰宅 二乃と五月も映画が終わって帰って来たようだ

五月の顔を見れば頑張って映画を観たんだろうと赤くなる目元で確認できた

テスト週間は明日からの筈が家に帰れば俺達が、小さい女の子と戯れてんだびっくりするだろう

 

「ままごとだ 俺は今から婚活にいく」

「本当に何してたんですか…………」

「俺は金をせびる弟役だが、先ほど三玖と結婚したぞ」

「え………あぁ こ幸太郎君と 三玖がですか」

「ままごとだからな?」

「わかってますよ それくらい」

「いいなー 私もまぜてください! 誰の役余ってますか?」

「うちの犬!」

「ワンちゃん わんわん!」

「そこの二人はおばあちゃん」

「あらー私たちも入れてくれるの? で?なんの役だって?」

 

四葉や二乃達も急遽参戦

犬やらおばあちゃんやら俺はまだましに見えて来た

 

「不発……でもドキドキした」

「焦った~……コータロー君真顔なんだもん」

「今回は不発に終わったけど…私は本気だから」

「…みたいだね」

 

 

「五月お母さんーってな」

「幸太郎君が息子…いいでしょう 私に任せてください」

「うわ まじでごめん 変なスイッチ押しちまった」

 

おばあちゃん役が二人だとどっちが母親か分からんぞ

風太郎は『おふくろ』って二乃の方に言っているが、俺はとりあえず五月に声をかけてみた

何だか凄くやる気になっており 普段のこいつを見るに今の発言は慎重に考えるべきだったな

 

「…なんでだろう?コータローを独り占めしたい 守ってあげたいはずなのに…こんな風に7人で一緒にいるのも…嫌いじゃないんだ」

 

「三玖」

 

「変かな…?」

 

「うん 私もそう思う このままみんなで楽しくいられたらいいね」

 

 

 

「おい 一花と三玖 こっち来いよ」

「はーい 行くよ三玖」

「うん」

 

 

 

 

 

「なぁ 三玖さっきの事なんだけど」

「あれは…コータロー 家に来るとき様子変だったからで」

「悪いな 気―遣わせたな」

「何かあれば私に言ってね 私はコータローの味方だから」

「味方か……あぁ信じてるよ 三玖」

 

菊のままごとに俺達七人は全力で挑んだ

もはや何の集まりかも分からないけど、楽しければそれで良いと思えた

 

武田が本当は何が言いたいのか 俺は分かっていたでも怖かったのだろう

今を壊したくないのだ… もう二度と誰にも信用されず誰かが去って行く事が俺には耐えれないんだ

けど今は大丈夫だ  きっと俺達なら期末試験も乗り越えられる

 

 

そう この時はそう思っていた 何時もの楽観的な考えだ

けどそれは、あっという間に崩れていく事になった…

 

 

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