今から一年前の事だ
俺…当時は僕だ 僕事上杉幸太郎は晴れて高校二年となった
家は貧乏だけど父さんも弟も妹もみんな元気に暮らしている
風太郎は小学生が終わる間際に染めていた金髪を止め黒髪に戻し
不良少年と言われていた弟の将来を心配していた僕だけど
何とか彼の未来は守られたようで安心だ
高校生2年が始まり最初の休日
今日くらいは自分の為に時間を使うのも悪く無い
来週にはクラスでの取り決めや役職などが決まる事だろうし
何人かの生徒は『上杉君が委員長をやれば良いよ』と声をくれた
正直迷っている所だけど 和之も『幸太郎がやるべきだろ』と本当に他人事だよ
誰かの為に動く事は嫌いではない 去年も最後までクラス委員をやり遂げ
最後まで彼等の為に全力を出す事で最高の一年になったし
どうせ選ばれるのなら 今年もみんなの為に僕は頑張ろうと思う…。
「何だかんだ言いつつ 僕もやる気なんだろうな 彼等を失望させたくない」
家を出て暫く経てば、幾つか店が立ち並ぶ 僕が向かうのは本屋であり
今日は医学に関する資料を幾つか買いに来ている
ある程度までなら家庭への影響は出ないだろうし 在庫処分といって店頭に安く並ぶ
「ん電話か……もしもし ごめん 今日は僕 用事があって うん 明日なら良いよ
分かった 今年も同じクラスだし 何かあれば言ってくれ じゃあね」
電話が終われば僕はそれを切り直ぐにしまう
ディスプレイには坂下と記載されている
あいつとも保育園からの付き合い
それも小学校からここまでずっと同じクラスとは裏も感じてしまうけど あいつを一人には出来ない
僕があいつの傍に居てやらないとな…
思い出に浸れば気分は少し落ち込んでしまう
これではいけない 折角の休日だ 欲しいものも買えたし 家に帰れば勉強だ
それに『楽しめる時には楽しむ』 母さんも良く言っていた僕が好きな言葉でもある
会計を済ませれば僕は店を出る
天気も良いし 余程の事でも無ければ問題何て起きないだろう
そう安心しきっていた僕に神様と言うのは試練をくれるんだと改めて実感した
少し先の道で声が聞こえた 一体何事かと
興味もあるし 聞いてしまったんだ無視も出来ない
そう この時の僕はまさに正義の人だ 困っているなら声をかける
助けを求めるなら手を伸ばす それが当たり前で 人が救われる事は当然だと思っている
でも その相手がもし かつての友人だったのなら どうする?
「あの 離してください…」
複数の男子生徒が一人の女子を囲んでいた
嫌がる少女の手を掴み 相手の理由なんてお甲斐もなしと言った
ナンパと言うには強引だ このまま彼女を連れ去っていくだろう
止めないと…
自然と足はそこに向かい 声も出る
「すみません 彼女は僕の連れなんです 外で待たせたままでした」
「え…あの……………」
すぐに男子生徒の手を離し 彼女の手を掴んだ
そのままの流れで彼女を連れだす
状況が飲み込めない少女に小声で説明する
(話を合わせてください 面倒な人達です)
一応は頷いてはくれるが、やはり傍から見ても不自然なやり取りだっただろう
振り払ったつもりの手は、彼女ではなく 急に現れた僕の方を掴んできた
「なんだ お前 いきなり現れて」
「何ですかはこっちですよ 困ってるって言ってるでしょ?」
「うるせーな」
「おい こいつ うちの学校の上杉って奴じゃねーか 学年最優秀って言われてる」
(上杉…………この人 まさか)
良く見れば相手側の生徒は同じ学園それも和之が入っている野球部の人達だ
つまり上級生である それが複数も集まり一人の女子を囲むなんてやり方が汚い
掴んでいた人物とは別の人はこちらの顔を見て名前を出す
僕が誰だか分かれば、掴んでいた手の力が少しばかり弱まり 何人かは後ずさる
それなりに有名だけどまさか怯ませる効果もあるとは、感謝しないとな
当時の僕は天狗だ 何でも上手く行くし 誰でも僕を信用した
何の疑いもなく『上杉なら任せられる』『君なら安心だな』と
そんな賛美にも似た何かをずっと浴びて来たんだ 調子にも乗るだろう
「知って貰えて光栄です もしかして同じ学校の方たちですか ならやめましょう無意味ですよ」
「学園でチヤホヤされてれば良いだけなのに 出しゃばりやがって!」
激痛だ 何処から来たと 考える暇はない
僕を掴む男子生徒が、片方の手で僕の顔面を殴りつけた来た
付けていた眼鏡はその場に落ちる……。
「ぐ…」
人に殴られるとは何時ぶりだろうか、父さんもあの性格だ
息子に手を上げる事はないし 母さんも軽く頭をチョップする事はあったけど
力を込めた拳で殴られた事は、記憶を巡らせてもそうそうある物ではない
殴り終わったと思えば、また拳を振るう
このまま殴られれば、僕も無事ではすまない実際は鼻血も出てるし 顔も多少は腫れている
(君は早く逃げて)
(え…でも)
(良いから 僕は大丈夫何とでもなるさ)
少女に逃げるよう促せば僕は打開策があると言い心配無用と声をかける
ただの虚勢に過ぎない
相手は5人程おり どれも運動部だ ある程度は鍛えてるとは言ってもそれはあくまでも素人レベルだ
ガタイの良い人間を複数相手となればプロの格闘家でも勝つのは難しいと聞く
だけど 引く訳には行かないだろう 彼女を追いかけようとした他の男子の足を引っかけ
行動を阻害し 無事に逃げ切れた事を確認し 再度彼等の相手をする
『男は女の前ではかっこよく』父さんからの教えだ
女の子を助けて殴られるならお釣りも来るだろう
「本当に2年あがりは調子乗ってるよな あの須藤とか言う馬鹿と良い 上杉だっけ お前もさ」
やはり須藤を知っている同じ部活に居ながら何故ここまで差がでるのか
こんな人達より和之の方がきっちりと野球部をまとめ上げられるだろう
去年の最後に行われた試合もそうだ 何人かの生徒が和之の足を引っ張り
最終的に逆転負けしたんだ
あいつは真面目だ 『俺が相手のサインにさへ気づけば』あいつはずっと悔いていた
真弓ちゃんもずっとあいつを心配していた…
女子生徒相手に数人でナンパしてる人達が和之を馬鹿にする発言を僕は聞き逃す事は出来なかった
「どっちがですか? 和之がいなければ決勝にも行けないくせに先輩方は良くそんな事言えますね
足手まといはあなた達でしょ 凡人のくせに… 」
「ぐ お前ふざけんなーー!」
反省すべきとは微塵も思わない 親友を馬鹿にされたんだ
僕だってキレる 自分の事を棚に上げ 他人を見下す彼等が、不愉快でしかたがなかった
咄嗟に足が出ていた 掴んでいる男子に思いっきり蹴りを入れていたようだ。
当時からだ僕は足癖が悪い
「てめーーー いい加減にくたばれ!」
(あっ これは不味い 流石に鉄パイプはいけないな)
先程足を引っかけられ転ばされた事が頭に来たのか、横の建物付近に落ちていて
鉄パイプを拾い上げると僕にめがけてそれを振り下ろそうとする………。
回避技術なんて僕にはない運動は得意だけど格闘技は嗜んでないからね
もし無事に生き残れれば、風太郎と一緒に護身術でも学んでみようかな…
幾らキレても自分が死ぬかも知れない時は冷静になるものなのだろう人間とは
目の前がスローモーションになる このまま終わるならせめて 坂下に最後に会っておくべきだった
それに あの子達とも最後に会いたかったな
死を覚悟した だが それは僕には届く事はなかった
「あの人達です!」
声が聞こえた 何処かで聞いた事のある声だ
その人物が、僕の窮地を救ったようである
僕を掴んでいた男子は手を離す 後ろを見れば結構な人が後ろにいた
野次馬だろうし きっと誰かが呼んだのだろう
パシャリと撮影する音が聞こえると 男子生徒は後ずさる
「やばいよ 流石にこれは」
「っ…………上杉てめ 覚えてろよ」
「僕はさっさと忘れたいですよ 先輩方も寄り道せずに帰ってくださいね っう」
鉄パイプを持っていた男子もそれを捨てるとこの人だかりだ問題が起きたとなればただではすまない
卒業できるかどうかにも影響してくれるだろう
運が良い事に僕は、殴られていただけで、手は出していない 足は出たけど
正当防衛として整理するだろうから大丈夫な筈だ。
「はぁ……いつっ」
「あの 大丈夫ですか」
その場でへたりこむ僕の傍に先ほど助けたであろう少女が心配そうに駆け寄ってきた
傷だらけの顔で、言うのもなんだけど『大丈夫だよ』と返事を返した
彼女とはそのまま会話を終わらせれば、きっと今日は何事もなく終わり
きっと僕は事故に何て遭う事はなかっただろう……
僕は痛む顔を押さえ落ちた眼鏡を何とか見つける
如何やら無事だ壊れてはいない 眼鏡代でどれだけするか父さんにまた負担をかけてしまう所だった
「見えるな よし…………… えっ」
眼鏡をつけて最初に僕が見たのは
右目が隠れる斜め分けの少女が目に涙を浮かべている姿だ
そして その顔に僕は心当たりがあった……。
僕は彼女を知っている きっと忘れる事はないだろう
あの子達 五つ子の一人が僕を見ていた……。
「怪我がひどい 私のせいでごめんなさい」
「これくらい平気だよ 君こそ怪我はない?」
「私は大丈夫」
「うん それなら良いよ怪我が無い事が一番だし……じゃ僕はこの辺で………」
「ダメだよ 傷を消毒しないと」
「確かにこのままだと不格好だし 薬局にでも行ってから帰るよ」
「私もついていく 助けてもらったから」
「そう? なら少しだけお願いしようかな あぁ 僕の名前は上杉幸太郎 旭高校2年です」
「私は……中野三玖 黒薔薇女子一年です……」
改めての自己紹介
ここまで会話をして分かった事は、彼女は僕の事を忘れていたという悲しい事実と
彼女には何も怪我はないという嬉しい話の二つだ
黒薔薇女子とはお嬢様学校だ それに中野という苗字
そうか……あの人が僕に言った通り僕は姉妹達を救ったんだ
4年と少しだろうか 気づかれない事が幸いしたのか腫れた顔と言う情けない状態だけど
あの頃の少女と僕は再び再会できた
彼女との約束を僕は果たす事が出来る……。
『幸太郎君 もし私に何かあった時は娘たちを気にかけてあげて そして出来るなら守ってあげてください………。』とあの人は僕に頼んだ……
逃げ出した僕にまだその機会があるのなら……三玖の願いには応えてあげよう