あの後だ 僕は三玖に肩を借り
痛む顔を押さえ薬局屋へと向かった
流石に今の手持ちでは病院に行っても払いきれるか不安だ 三玖は自分が出すと言うが
そこまでお世話になる訳にもいかない 自分で行動してその過程で出来た傷だ自己責任
(あれ無い…………)
買い物の最中だ 財布を取り出す際に 僕は違和感に気づいた
持っていた筈の生徒手帳が無いのだ 朝には持っていたし
買い物した時にも所持していた筈だが、何処かで落としたのだろうか?
再発行してもう必要もあるけど。
身分が分かる品だ拾ってくれた人が届けてくれる事を信じて待とう
この時の 僕はそう思っていた
あの時彼女が拾っていた事にも気づかず
一年後に 三玖の部屋でそれを見つける事になり
そしてその手帳にある写真が入っていた事も僕はすっかり忘れていたのだ。
だけど それは今の僕が知る事はない これは過去の出来事である
脱脂綿や消毒液に包帯や抑えるテープなど必要最低限で尚且つ
お財布に優しい品を選び 近くのベンチで傷の手当をする事になった
ただお礼がしたいと言い三玖 いや 中野さんが消毒などすると
自分から行動している 何と言うか物凄く不安である
「染みる?」
「一応は怪我してるから いーーーうぅ」
「ごめん 少しつけ過ぎた」
「あっははは 大丈夫 大丈夫 これくらい」
殴られた時よりも 傷口を消毒するアルコールの方が遙かに刺激的である
打撲よりもやはり切り傷の方が痛みを感じる
どちらも痕が残る分厄介なのは変わらないと思うんだけど血が出るから余計に質が悪い
体中の血液が内部でも傷口の処理をしている証でもあるが痛いものは痛い
痛みを堪えながらも何とか食いしばる事で丈夫さをアピールする
三玖は困惑しているが、平気だよと声をかける
男たるもの女の前では強くあれとこれまた父さんの言葉だ
あの人のように僕も女性の前では少しは男らしく見せるべきだろう
まぁ……ぼこぼこにされてしまって情けないもないけど
包帯やらカーゼやらをテープでぐるぐる巻きにされ
やや息苦しさも感じるし 周りの人からも好奇の目で見られ始める
一旦三玖に『少し待ってて』と告げると持っていた巻かれた包帯を解き
カーゼも張り直し 正しい巻き方とでもいれば良いのか
傷口を傷めず更に取れにくいようしっかり押さえる 医学の心得はあるつもりだ
何処を怪我した場合にどうやって処理するかも僕はある程度はわかる
幸い鼻血の方も止まり 相手側の拳も上手く逸れたのだろう折れてはいない
「こんなものかな ありがとう 中野さん 楽になったよ」
「私は何も出来てない こう……幸太郎さんが」
「幸太郎でも良いですよ 友人からはこうやこー時には太郎何ても呼ばれてますから」
「なら そのコータローで良い」
「はい 勿論中野さんが呼びたいように呼んでください」
幸太郎さん と言われ少し寂しさを覚えたのか
自分が普段周りからどう呼ばれているのかを彼女に教える辺り
僕もあのナンパ集団をとやかく言えないだろうな
どしても彼女に自分はあの時の少年だと思いだして欲しいとは女々しい事この上ない
少し戸惑いはするも彼女は僕を『コータロー』と語尾を伸ばす呼び方で決めたようだ
昔のように『こうくん』とはいかないだろう 例え覚えていても
高校生にもなって小学生の時の呼び方は僕も恥ずかしいと思ってしまう
あいつだって僕を『幸太郎』と呼び捨てしているし女子とは男子以上にフランクなんだろうか?
一応和之も僕を下の名前で呼んでいるが彼は男だし違和感は覚えた事無いな
彼女に訂正されてはいるが 僕は彼女をけして名前で呼ぶ事はない
『中野さん』とは他人行儀にも程がるだろう あの人への八つ当たりを娘である彼女に向けるとは
本当に自分が嫌になる
表向きは笑顔で対応するけど内心は荒れている僕に出来ない事を彼はやってのけた
今のままで僕は彼女と話す それが辛くもある………。
傷の手当終わると僕は彼女にお礼の言葉を述べてそのまま去ろうと思った
長居は出来ない 和之や坂下とでも出くわしたら何て説明すればいいか………。
「あの コータロー……」
「どうしたの中野さん」
「もう少しだけ ここにいて欲しい コータローにはお礼をしたいから」
「傷の手当もして貰ったし 僕はそれで十分ですよ」
「…………」
その目は反則だ 無意識にやっているなら質が悪い
上目遣いと言うのはどんな男性も耐性が低いものだ それは僕も例外ではなく
零奈さんとの約束もあるし これ以上三玖を困らせるのは本位ではない
『なら も少しだけよろしくお願いします』と声をかければ
彼女は嬉しそうに頷いてくれた 本当に変わらないな
あの頃と髪も変わり雰囲気も何処か大人しく感じるし
ヘッドホンを下げてたり知らない人だと思っていた
助けに入った際ににも気づかなかった
でも良くその顔を見ればまだあの頃の面影をきちんと残している目元とかは昔のままだ…………。
無意識とは言え僕は凝視していたらしく
流石に恥ずかしかったのか視線を僕から逸らす
「あっ ごめん 知り合いとよく似てるからつい 悪気はありません」
「……気にしてないから良いよ」
「ありがとうございます」
機嫌を損ねたならどうするべきかと考えたが、本人は背けただけで気にはしないと述べる
髪で目が隠れるから言葉と仕草でしか怒っているかも判別出来ない
以前は前髪で隠すような感じではなかったけどイメチェンと言う奴だろう
風太郎もある意味ではイメチェン…………違うなあれは元に戻った
本人は一切理由を話さないけど修学旅行辺りからだな 変化があったのは………。
(そのうち僕も髪を染めたりするのかな?)
視線は一向に戻らず僕とは目を合わせない
放って訳にもいかないし本人の頼みでもある気が済むまで同行かな
「…………」
気まずい 気まずい
ただ黙って座っているのは男としてどうだろうか…………
気の利かない男子にはなりたくない 何か飲み物でも買って会話のきっかけにしてみよう
『幸太郎はもっと女の子気持ちを知るべきだよ 私が黙ったら飲み物を買うべきさ』
まさか ここであいつとのやり取りで救われるとは、少々複雑だ
「少し待ってて貰えるかな?」
「うん どうかしたの」
「すぐ戻るよ」
自販機はすぐそばだ 今日は休日と言うだけあり
人通りも多い僕と三玖はベンチで座っているが少しでも歩こうとすれば人混みに飲まれそうだ
わざわざそんな道をいく必要はない
右側に置いてあるそれを操作すれば良いだけである
「えっと 何か飲み物は 売り切ればっかりだな…………抹茶ソーダ」
何だろう これは抹茶ソーダと書かれた飲み物が自販機に存在した
ここに住んで10年以上だが、こんな摩訶不思議な飲み物は見たことは無い
他の選択肢を考えるが、どれも売り切れで栄養ドリンクなどは残っているのだが
女子生徒に渡す飲み物として 果たして栄養ドリンクは正しい選択と言えるのか…………
「110円…………ダメで元々だ!」
決意を固めた 僕はその抹茶ソーダと呼ばれる謎の飲み物を選択した
果たしてこれが吉と出るか凶とでるか、本音を言えば少し気になったと言うのもある
パッと見ても味は想像も出来ない
110円と生活する中で手痛い出費だが、まぁこれくらいなら大丈夫とやや楽観的に捉えた
これよりも薬局屋で薬を買い込んだ時の方がお金はかかっているし
ただ 病院で治療してもらうよりも安上がりで済んでいるならそれが最適だ
貧乏性と言うか最早ただのけちとしか見られないだろう
(明日の食堂は抜きにするか)
「コータローお帰り 何か買って来たの?」
「うん あの少し不思議な物があって もし良ければ友好の印として受け取って貰えるかな」
友好の印とはよく言ったものだ ただ気になって自分の意思で選んだくせに
良い風に捉えてもらえるよう必死過ぎるなこの高2は……
座っている三玖にそれを手渡し 反応を確かめる
あいつなら
嫌味混じりな言い回しで僕をなじるだろうけど
相手は三玖だ 困惑はしそうだけど僕に嫌味は飛ばさない…………筈
後は流れに身を任せるだけだ
ごくり
「抹茶ソーダだ…………」
「あっ うん 抹茶なのにソーダとは不思議だよね 嫌なら無理して飲まなくても」
「私 これ好きなんだよ」
「まさか 愛好家が居たとは、すごくびっくりです」
驚いた再会した幼馴染は抹茶ソーダの愛好家だった
ためらう事もせず僕が手渡したそれに口をつける一応はさっき知り合った人間なんだから
もう少し警戒したも良いとは思うけどな…………
三玖は僕を信頼してくれているのかそんな素振りは一切見せない
ゴクゴクとあの緑の飲み物を飲み進める
彼女が安心出来ていると分かれば僕が同行した意味もあっただろう
しかし疑問は尽きない 何故 三玖は一人なのか
あの仲の良い 五つ子が何故バラバラに行動しているんだ?
4年前は全員何時も一緒だった筈と僕は記憶している 姉妹がいればあんな事にならない筈だ
「コータローは飲まないの?」
「僕? 中野さんのだけだよ 特に喉も乾いてもないからさ」
「それだと悪いよ コータローには助けて貰って飲み物まで 何も出来てない」
「良いよ そこまで考えなくても僕はただ自分でやりたいように行動しただけだよ
お礼なんて貰う気もないよ」
「あの…………これ 少し残ってるから」
「流石に女性徒が飲んだ飲み物を飲む勇気は僕にはありません」
「少し残念……せめてものお礼を」
「僕はドキドキしたけどね」
大胆過ぎないか 自分が口をつけて物を無意識とは思えないし
いたずらにしても度が過ぎる 実は既に他の姉妹が隠れているんじゃないのかな?
一応辺りを見るが、それらしい姿は確認できないし 三玖のイメチェンといい
他の姉妹も変わっているかもしれない………。
「周りが気になるの?」
「特に意味はないよ………あのさ 中野さんはどうしてあそこ所にいたのかなと」
「そ……それは…………」
「ごめん 言い出しづらい事なら別に良いんだよ」
それが議題だ 中野さんは三玖は一人でいた為 あの連中に目をつけられた
誰かがいれば何かは変わっていたのかもしれない
本人に何故かと聞いても 俯いて黙ってしまうだけだ…………。
「喧嘩した」
「け 喧嘩 誰と?」
「私に姉妹がいるの その子と喧嘩して いつの間にか迷子に」
「それはまた災難だったね」
「でも 悪い事ばかりじゃなかった…………(コータローを見つけたから」
姉妹と喧嘩か…
どんな内容かは詮索はしないけど 姉妹との血の繋がった相手との諍い程悲しいものは無い
あの4人の誰かと喧嘩とは、少し驚いた
僕が知る限り彼女達が喧嘩をした場面は見かける事はほぼ無いと言える
とても仲のいい五つ子として有名だったからね
「大変だったね 姉妹の方と喧嘩して それにあんな目に遭うなんて」
どう声をかけるべきだろうか考え出た言葉がこれだ
当たり障りもない回答だ 自分の事は忘れている下手に会話もできない
あの時に逃げ出した僕に今更名乗る資格もないだろう
五月と三玖は泣いていた 一花もずっとこっち見ていた
僕がかけられる言葉なんて何も無かったんだ
何も出来なかった僕が今出来る事それは三玖の話し相手になることだろうな
気づかれてはいないがどういう訳か彼女にはなつかれるとい言う表現が正しいのかは不安だが
自分の現状を話すくらいには打ち解けていた
どんな学園生活を送りたいのか、これからどうやって行けばいいのか
高校生として始まる新しい生活に彼女は不安を覚えていると話す
その気持ち僕も分かる 中学生時代のノリで行けば良いのか
新しい自分で行けば良いのか 僕が選んだのは前者だった
中学生時代と同じく 真面目であろう 周りの人間を失望させないよう
彼等のお手本となろうと決めていた
実際その通りに慣れたかは自分では判断はつかない 僕にできる精一杯でクラスの人間と向き合う
それが今の僕の学園での生き方だ
正直に言えば、あまり役に立つような話ではないだろうが参考までにと言った具合だ
三玖は物静かな印象を受けるが、きちんと話せる人物だ
それを周りの人達がくみ取ってくれればきっといい方向へと向かうだろう
「僕の経験談から言うと あまり気負う必要はないと思います
きっと中野さんが心のそこで話せる友人が出来ますよ 今だって僕と話せているんですから」
「心のそこから…………」
「すみません 参考にはならない話でしたね」
「ううん コータローの言葉で勇気を貰った きっと私も大丈夫」
「それなら僕もお節介を焼いた甲斐があります」
「コータローは優しいね 私の話もちゃんと聞いてくれる」
「当たり前ですよ………困っているなら僕は、その人を助けます
相談を求めるなら僕は、助言を出します って言う割にあまり良いかっこも出来ませんけど」
優しい人 果たして僕は、彼女が言うような人物なのだろうか?
学園生活でクラスの知り合いと 教師の頼みを聞くのは
ただ僕が誰かに必要とされる事望んでいるだけだろう
僕は出来る あの頃とは違うんだ 子供ながらのかっこつけだ 誰に認められたいのか
誰の為なのかも きっと分かっていなのだ 偉そうな事ばかり言い
相手の心に入り込み 顔色を窺うような そんな卑しい人間だ…………。
少し空を眺め 気持ちを整理する
三玖と話すこの時間はとても良いものだ 彼女は僕を知らない
だからクラスの人間達のように話してくるわけでもない あいつや和之と同じ
対等な人物として見てくれている 久々に言葉に気持ちが籠っていた
「空き缶捨ててくるね」
「はい…大丈夫です。ここにいますから」
彼女が一度持っていた空き缶を捨てる言うので僕は、そこで待っていれば
胸ポケットに入れてある携帯が振動しだした
取り出し 画面を確認すれば 須藤和之と表示されている
一体なんのようだろう? 勉強なら明日でも見てやれるし急ぎの用事だろうか?
「もしもし 和之どうしたんだ 勉強なら明日」
『幸太郎ーーー 無事か!』
「うぅ…………」
大声が聞こえ 僕は一瞬聴覚を失った
持っている携帯も危うく落とすところで済んでの所でキャッチする
もう一度大声が来ないとは限らない 恐る恐る耳元に近づけた
『おい 大丈夫か』
「お前の声がうるさくてびっくりしたよ どうしたんだいきなり」
『本当に何も無いんだな!』
「和之 お前はいい奴だけど先ず要件を話して欲しいだけど」
『すまんすまん 今日は朝から学園で2年生で走り込みしてたんだ』
「せいが出るな まだ二年が始まって間もないのに お前は凄いよ」
『今年こそ 優勝だ! それに俺はどんな試合も勝つぞ 幸太郎』
「頑張ってくれ お前の夢を僕は応援している」
『それは俺もだ 幸太郎も夢に近づいているんだろなら 頑張れよわが校最優秀生徒』
「茶化さないでくれ でもうん そうだね 僕は自分の夢を諦めないよ 高校も卒業して
父さんを楽させたいんだ 目指すは有名大学さ」
「あいつもきっとお前の夢が叶うと信じてる筈だぞ」
「筈か………」
「どうした 幸太郎まさか 何か!」
「なんでもないよ それで本題だいい加減 脱線し過ぎた」
すまんすまんと声を上げる いい加減その声の調整を覚えて欲しい
毎日聞かされる 僕の身にもなって欲しいよ
真弓ちゃんは同じ兄妹だ 僕以上にあの大声を聞かされているんだろうな
頑張って真弓ちゃん 僕は君の味方だよ。
電話の向こう側ではいまだに大きな声が聞こえる
何やら慌てているようで 俺に何かがあったのかばかり要領を得ない
一旦落ち着けと冷静になるよう言いかければ彼は何とか落ち着きを取り戻す
『実はな 先程先輩達が学校に来たんだが……… 何故かお前の名前ばかり怒鳴りながら言ってるんだ』
「…………それで 」
『あの人達は、気性は荒いけど 本当は真面目な人達だ』
「分かってる お前のいる部活だ 真面目なんだろうな 色々と」
『やはり 何かあったのか』
「何もない もし何かあっても お前は何もしないでくれ」
『どういう意味だ 幸太郎!』
「お前はずっと真面目に練習してここまで来たんだろ 何も僕の名前を言うだけの三年生の相手なんてする必要はない 今年で最後なんだ やりたいようにやらせれば良いさ」
『幸太郎 何が言いたいんだ まさか脅されたとかか』
「本当に何もないさ 和之 君は僕の親友だ だからこそ約束して欲しいんだ
何が合っても問題だけは起こさないで欲しい 僕の為だと思ってくれ」
『…………俺は喧嘩は嫌いだ 人を殴るとかは絶対にしない でも親友が何かあれば
黙っていられる男じゃない』
「僕に任せてくれ 僕が一度だって お前の事を失望させた事はあるかい?」
『ないさ 幸太郎は何時も正しい それは誰もが思ってる事だ』
「そう…………僕は大丈夫 みんながいるんだ 何かあれば相談もするし 助けも求める。
だから和之 お前は自分の事だけに集中してくれ 大丈夫万事上手く行くよ」
『よーし 分かった 俺は俺で自分の為に動く だから幸太郎 何が合っても俺達を信用してくれよ』
「……お前がいるだけで僕は心強いよ じゃまた 学校で会おう」
わかったと大きな声を出せば電話を切る
最後の最後まで大きな声だった 物理的に耳が痛くなる
彼からの電話の内容は三玖に絡んでいたあの先輩達の事だった
彼等はあの後学園に言ったらしく 僕を殴ってそれで終わりの筈が
何やら部室で大暴れと怒号と 部活の内容なら良いけど
全くの別件に力を注いでいるという本当に馬鹿の集まりだ
でも来年には消える
このまま行けば 和之がキャプテンだろう
それまで僕が彼等の相手をすればいいだけだ……
多勢無勢だけど 僕は一人じゃない クラスのみんなだっているし
彼等が三玖を連れ去ろうとした場面や僕を殴った姿も写真を撮られている
僕が恐れる事なんて何もない 何かを起こすなら痛い目を見るのは向こうだ
彼との電話で僕が気になった事は先輩達の事ではない
あいつ 坂下の事だ 和之は『応援してる筈さ』と言っていた
うんそうだね 彼女の事だ 僕の夢を応援するだろう
『へぇー 幸太郎の夢なんだ 勿論私も知ってる だから 私の夢もそれにするよ』
以前あいつはそう言った 僕がどんな難関校に行くのか彼女は知っている筈だ
だけど あいつは 私もそれにすると 言って来た
僕は天才だろう 周りはそう呼ぶ けど真の天才とは 僕の隣で何でもこなす
あの少女 坂下の事である…………。
「僕の夢か…………」
「コータロー何かあった?」
「うわ 中野さんいつの間に!」
「さっき戻ってきたんだけど コータローが誰かと電話してたから待ってた」
「ごめん 少し考え事をしててね 」
「考え事か」
「うん 大した事でもないし 中野さんが気にする事でもないよ」
「…………」
僕を待っていたと話す 三玖
電話に夢中で彼女が戻ってきたことも分かっていなかったようだ
余程辛気臭い顔をしていたのだろう 僕が殴られた時と同じだ彼女はとても心配そうだ
こんな事じゃだめだ 今は三玖といるんだ 色々とあるだろうが
考えるのは後でいい
「よし」と声を出すと僕は頬をパンパンと叩き気合を入れ直す
でも…………
「いっーーーーー…………」
「今のは痛いよ」
「怪我してたの忘れてた」
頬を叩くのは良いけど 自分がどんな状態かぐらいは忘れないようにしないと
せっかく抑えていたガーゼもズレてしまうし 何より痛い
別の意味で心配された
あっははーと笑って誤魔化すが痛がってるのを見られたんだ効果薄い
「やっぱり 怪我は酷いんじゃ」
「そ そんな事ある訳ないよ!」
何とか話を誤魔化さないと
目をきょろきょろさせ自分は平気だと言い張り何とかやり過ごそうとする僕は
三玖のヘッドホンに目が行く
そう言えば不思議に思っていたんだ、あの頃は特にこう言ったものを彼女は付けていなかった
これもイメチェンの一環なのかな?
「中野さんって ヘッドホンしてるけど 普段から何か聞いてるのかな?」
「え…………一応は 余り大きな音とか苦手だから集中したい時に」
「そうなんだね うん あまりうるさいと勉強にも身が入らないからね」
「勉強…………」
「中野さんって 勉強が嫌いなの?」
零奈さんはかつて様々な人物に教えて来たベテランであり
その娘である彼女達も幼いながらも良い成果を取っていた
遊びに行けばよく一花が僕に自慢してきた
あの笑顔で見せられるんだ、僕も自分の事よのように嬉しかったさ
そして三玖も同じな筈だ…………。
けど勉強という言葉で彼女は固まってしまった
「うん少しだけ…」
「高校にもなると中学とは別と言えるくらい難易度は上がるからね
でも始まってまだ少しだよ 自信をもって良いと思う
先ずは得意な科目からでも良いから頑張ってみようよ」
「コータローは勉強は好きなの?」
「好きと言うより しないとダメだと思ってるかな 何事もこう言った事は大切だよ
まぁやり過ぎると頭も追いつかないって言うのはあるけどね」
「私はどうなのかな……」
これは深刻な事かも知れないな 僕が思っているよりも三玖は真剣だ
何が適切で何が彼女に必要な言葉だろう
僕が語った事は彼女が求めた答えになりはしなかった
三玖は何処か憂鬱な表情で虚空を眺める…………。
「うーん 僕は中野さんじゃないからあまり多くは言えないけど
中野さんは中野さんらしくしていけば良いと思う 君にも好きな物はあるでしょう?」
「私の好きな………… それはコータローにも秘密」
「あっはは 残念 」
正直今の彼女が好きな物とは何かに興味があるが
あまりそう言った事を無理に聞くのは良くないだろう 我慢だ
「コータローはあるの 熱中出来るものが?」
「熱中出来るものか…………うーん そうだね 僕は医学を学ぶのが好きだよ」
「医学?医者とか」
「ありていに言えばそうかな 僕には夢があるんだ うん その為の勉強かな」
「コータローは夢の為に勉強してるんだね 私とは違う」
僕がなりたいそれはきっと僕が想像しているよりも険しい道のりだ
今だってそれを目指す為に日々勉強をし 学業に勤しんでいる
手を抜く訳にも行かない あの日の後悔を二度と僕はしたくない…………。
「今はそうでもいいかも知れないです」
「今のままでも良いの?」
「無理にやる事はないんだよ でもきっと
中野さんも何かのきっかけでやりたいと思える日が来ると思うんだ」
「きっかけがあればかわれる…………」
「勉強だけじゃないですよ 生きて行く中でほんの些細な事で人は変われるんです
もし変われる事が出来たなら 僕に教えてください。」
「うん……頑張ってみる 変われるきっかけを私も探してみる」
浮かない顔から一転して希望溢れる表情へと変わる
その顔だ 僕が見たかったものは
彼女には…………彼女達には沈んだ顔なんて似合わないもっと笑っていて欲しいんだ
『ありがとう』と小さく呟く声がした
横を見ても顔はこっちに向いてない そう言う所も変わってないな
それから暫くは三玖と話して時間を過ごした
話を聞けば、どんな日常を過ごしているのかも分かってくる どれだけ
あの人が彼女達を大切にしてるかも理解できた あの人は立派に父親をしている
「そろそろ 帰りますか?」
「うん 五月にも謝らないと勝手に逃げて来たのは私だから」
「妹さんも許してくれますよ」
「ん? コータローに言ったっけ?」
「ん………はい 言いましたよ だから行きましょうか」
危ない危ない ぼろが出る処だった
ここまで来たら隠し通していかないと あの時の彼とは名乗るのは少し遅すぎたからね
「あれ ヘッドホンを付けるんですか? 危なくないですか」
「周りが煩くなって来たから少しの間だけ」
「まぁ 僕が前を歩くんで誰かとぶつかる事は無いかも知れませんけど」
時間帯は昼だ
人が溢れる時間帯だ 何処もかしくも昼時とあり賑わい出す
ヘッドホンを持つ理由は周りの音を遮断して集中する為と彼女は話していた
まぁ 正しいと言えば正しいけど 街中ではあまりお勧めは出来ないかな
苦笑はするが、止める事はせず 僕は彼女の前を歩く事になる
少し歩いた先に横断歩道が見え始めた
(今年はまだ行けてないな 零奈さんの月命日にはちゃんと挨拶しに行かないとな…)
そのタイミングで 僕の携帯が鳴り出した
何処からの電話だろうか…………
ここで一旦足を止め そのまま三玖といれば良かったんだ
だけど僕はそれを確認すれば 電話をしたまま歩みを始めた
ながら歩きというあまり褒められた行為ではない…………。
「もしもし 坂下か どうしたの? 僕は今日用事だって」
『うん知ってるよ でも幸太郎がいないと家にいてもつまらないからおじ様から聞いた街の方だって』
父さん何で簡単に僕の居場所を教えてしまうんだろうか…………。
もう少し粘って欲しかったな
『幸太郎は欲しいもの買えた? 私が持っていれば幸太郎には無償であげるから』
「いらないよ 坂下の物だろう 僕は自分の物は自分で揃えたいんです」
『幸太郎は強情だね それにさ いい加減苗字で呼ぶのやめて欲しいな』
「坂下は坂下だろう 別に困る事はないだろうし」
『家だと困るけどね 間違われるから でもまぁ 幸太郎が坂下って呼ぶの私だけだし
それもいいかな 特別な感じがしてさ』
「変な意味はないよ 僕がそう呼びたいだけだから それに下の名前を呼ぶのは気恥ずかしい」
『今更? 須藤君の事はしたで呼んでるのに 私は駄目なんだね 昔みたいに呼んで欲しいな』
「それはないよ それに和之は親友だもん 気兼ねなく話せるからさ」
『私は 幸太郎の何なんだろうね ? 教えてよ 上杉幸太郎 あっ見えた』
「そう言う問題は今はやめておこう 僕も忙しいから 何が見えたんだよ?」
その電話は彼女 友人である 坂下からのものだった
相変わらずマイペースな人物だ 聞いていて飽きないが実際一緒にいれば疲れる
でもまぁ嫌いじゃない 嫌いならあいつと同じ学校にも通う事なんてしないだろうし
電話をしながら少しずつ前を進む 一歩また一歩と僕は進む
この時僕は気づいていなかった 歩幅が彼女より大きい事にそれゆえ
三玖との距離は少しづつ開いていく 電話の向こうで坂下は何かを見つけたようで声を出している
一体何を見つけたんだろうか? 電話越しには何も分からない
そう 何も分からないんだ
咄嗟の事だ 僕は上を見た 横断歩道は確かに青で今は僕と三玖が渡っていた
安心しきっていたんだろう だけど…………。
反対側の耳は、横から迫る音を確かに捉えていた
ふいに後ろを見れば、三玖とは少しばかり距離が開いている
この時僕がもう少し早く三玖との距離に気づき 坂下との電話を後にしていたなら
もっと早く反応出来ていた そうすれば 僕もきっと無事だっただろう
クラクションの音が鳴る
そんな馬鹿な 今は青信号 車は赤信号だ こんなのただの信号無視だろ
後方で歩く三玖はここを渡る前と同じくヘッドホンを付けたままだ
横から迫る車の存在には気づいてもいない
(コータローのお陰で 五月と話す事が出来そう ありがとうコータロー えっ)
「三玖ーーー! !が」
ドスンという音がした
何かが捻じれる音がする何かが潰れた音がする ぐしゃりと言う鈍い音と共に
それは地面に落ちていく
辛うじて持っていた電話からは坂下の声がひどく大きな声で聞こえて来た
「あっ…………ぐ あが ぐは」
何が起こったんだろう? 僕に一体何が起きたんだ?
車が来た 僕は三玖を見たそして 彼女がひかれないように
何をしたんだっけ……………………あれ 何かがおかしい
みく…………ダレダ…………
僕の手が 動かない? 感触がない 視界もぼやけているし
何故だろう坂下の声がさっきよりも 近くで聞こえるのは気のせいだろうか…………
僕は一体………… この痛みはなんだろう………… だめだ もう意…………識が
車に跳ねられ そのまま突き飛ばされガードレールに体を強打し
辺り一帯は血だまりとなっている 持っていた携帯もすぐ傍に落ちていた
そんな彼の元に駆けつける女性と
飛んでいく彼を見て 呆然と立ち尽くす少女
その光景に恐怖し その場から去って行く少女
「こーた…………! お……い」 最後に誰か僕を呼んだ気がした
私をおいて行くな
聞こえたその言葉を最後に上杉幸太郎は完全に意識を失った
それから暫く
ある病院の個室で彼は目を覚ました
「久しぶりだね 上杉幸太郎君 君はここに運ばれるまでの事を覚えているかな」
目の前の男性を知っている あの日見た…あの日?
僕は何処でこの人を見たんだ 分からない
「ここ…………先生がいるなら 病院ですよね でも何で僕が それに何だろう先生が僕の上に見える」
「君は今ベットに寝かされているからね それも仕方ない 無理をしないように……」
「げっほ…………でもおかしいな 喉も痛いし 指もおかしいな 感覚が」
「事故の後遺症か 記憶がないのか? 僕の事は覚えているようだし 一時的なものだろう」
き お く? 僕の記憶…何の話だろう 何か起きたのかな
「上杉君 君に伝えなければ行けない事がある」
「何ですか 今は酷く頭も痛いんですけど」
「上杉君………… 君は事故にあった そして今は7月の初めだ 君はこの三ヶ月の間
ずっと 意識を失っていたんだ」
驚愕と恐怖の顔で埋め尽くされる
目の前の男性は何を言っているんだ…………彼の発する声が不快な物に感じて来た
そして気づいた 自分がどんな姿か ベットに寝かされ
口には人工呼吸器が付けられ 腕は何かで固定されている それに左手には異様な違和感を覚える
「あぁっああ」
…………なんだ…………なんだ…………
「上杉君 僕を見なさい こっちを見るんだ」
「先生……… ぼ 僕の手が………… 指が あぁ 変なんです ぜんぜん…」
感触はある 感覚もある でも僕の脳が発するそれを手も指も認識しない
まるで最初そうだったかのうに少しも動きはしないのだ…
そして僕は本当の意味で今の自分の状況をやっと理解できた
「上杉君 落ち着きなさい こちら集中治療室!」
「ああああ………… 指が 手がぁあああ なんで なんであああああ!」
ひどい声だ 雑音だろう 頭を抱えたくても抱える事は出来ない
体は縛られ手は固定され動かない 自分を支えるのはこのベットだけだ
現実を受け止めろ 上杉幸太郎 現実を直視しろ
お前の目に映るそれは 紛れもない 事実だ
お前の夢もお前の希望もお前の今は 全部消え去ったんだ………。
「ひでー 夢だな おい風太郎 起きろ」
「あっ やばい 流石に体に応えるか」
「まだ 3時だ このまま書き切るぞ」
俺が目を覚ませば隣で弟が小さないびきをかいて寝ていた
このまま寝かせるのも悪くはないけど 明日にはテスト勉強も始まるし
今俺と二人で行っている 作業も朝までに間に合うかも微妙だ
「5人分の想定問題集 幸太郎も良くこんな無茶を考えたもんだ」
「俺もこのままではギリギリだと思っていたし 本気で挑まないと信用は得られんだろうさ」
「一花や三玖は良いけど 二乃から信頼は特にな」
「そう言う事 んじゃ 書き取りさっさと終わらせますか」
「了解だ さて次の範囲は ここと それに」
想定問題集の作成 5人分を製作中
計画自体は以前からあった ただその暇がなく結局は勉強会前日の日
丸一日使って行う事になった プリンターなんて便利な機械はうちにはない
それにこっちの方があいつらも真剣に望んでくれるだろうし
(随分と懐かしい夢だ なんで今あの事を思い出したんだろうな)
何枚もの紙を相手に戦う中でふと一年前の出来事が夢に出た
あれを思い出すとは、きっと最近それを話題に出したからだろう
どうせ見るなら 六花さんとの出会いまで見たかったんだけどな…………
それに手は動く………もう大丈夫
迫る勉強会まであと7時間少し 絶対に間に合わせてみせるぞ みんな待っててくれ
キャラ設定
上杉幸太郎
高校2年となったばかりの少年で周りからの信頼も厚く
頼まれ事も断らず率先してやり 去年一年間はクラス委員もやっていた
誰からも信頼されるが故に自分の考えが正しいという少し歪んだ考えを持つ
親友である須藤和之とは小学生からの仲で彼と共に将来の夢を語り合っている
部活等には通って居らず この時からバイト戦士であった
時期生徒会長と噂されていた
事故に遭った事で事故当時の記憶と一部の記憶を忘れ
何故自分が入院しているか分からず更に利き腕が動かない事態に
頭が追い付かず錯乱した
須藤和之
高校2年で上杉幸太郎の親友であり
高校球児であり スポーツセンスは抜群だが 声が大きく考えが真っ直ぐすぎるのが玉に瑕 妹の須藤真弓を溺愛しているが、彼女からは暑苦しいと苦情を受ける
坂下
上杉幸太郎や須藤和之の友人の女性徒 黒髪のショートヘアである
彼曰く『真の天才』
性格はマイペースでやや上からの発言や見下す事も多く調和性に欠ける人物
基本的に誰とも関わろうとせず 幸太郎と和之は例外らしい
幸太郎が事故に遭う前に最後に会話をしていた人物でもある
中野三玖
高校一年で今年から黒薔薇女子に通うことになる
新しい環境でどうやって行こうか不安の中 姉妹の誰と軽い喧嘩をし
気づけば迷子となってしまい がらの悪い男子生徒に絡まれている
所を あの日共にいた少年で 上杉幸太郎に助けられる
彼が自分を覚えていない勘違いする中
彼女も同じく 彼は自分を覚えてないと勘違いし
初対面のように挨拶を交わした
赤信号を無視した車に跳ねられそうになるが
咄嗟に幸太郎が庇う事でかすり傷程度で済んでいる