明け方だ 既に外から日が差している
俺と風太郎は結局一度寝落ちしただけでそれ以降はぶっ通しで作業を続け切った
目の前には大量の紙の束 それに一つ一つ手書きで書き続けたのだ
時間が掛かると言うレベルじゃない
達成感と充実感そして疲労感に睡魔 押し寄せる幾多の感覚に体は驚きを覚えている
一夜漬けと同じく余り褒められたものではないが、朝勉として割り切れば割と体も楽に感じて来た……そう思う事にした
「うわーー はぁ…………良い音がなるな」
首を振りポキポキと鳴らし 背伸びをすればまた凄い音だ
猫背の態勢でぶっ通しだったんだこうもなるだろうさ
隣にいる風太郎は最後の一枚を書き終わるころには机に顔を突っ伏していた
意識はあるのかどうなのかと 頭を数回ポンポン叩けば『い 生きてるよ』と何とも弱弱しい声だ
このまま寝かせてやりたいが、今日は土曜日 そうも言ってられない
既に中野宅では全員が集まっているだろうし俺らもうかうかしている暇はないだろう
俺達が終わる前に起きて来たらいは ささっと朝食を作れば
『これ食べて体力つけてー』と俺と風太郎の分を用意
普段ならちゃんと寝ててと怒られるのだが、真剣さが伝わったんだろう止められる事はなく
俺達は作業を続けることが出来た
朝食をかっ込めば、今日は何もありませんようにと母の写真に手を当てて
俺は今だ夢現な風太郎を連れて家を出る事になった
少し歩けば風太郎はヨタヨタとおぼつかない足取りで前に進むのか横に進むのか
はっきりしてくれと言いたいところだが寝ていないんだそうも言えない
俺はある程度 一徹二徹と夜更かしには耐性がある為 弟、程深刻ではないのだろうな
日頃のバイトで慣れているんだろう 風太郎もバイトはしているが俺程頻繁という訳ではない
一度は転々として 今は俺が紹介した店で共にバイトに勤しんでいる
店長も『上杉君の弟ならお願いしようかな』と面接で風太郎に期待をしていてくれたし
紹介した俺も自然と笑顔が出ていた
っとこれがここ最近の風太郎事情だ
まぁ始めてまで少しだ 体もなれないのだろうな やはり疲労も睡魔もWパンチだ
問題集製作がそれを更に加速させていると言う状況
あまり芳しくなく 自身の勉強もあまり進めている暇はないんだろうな
風太郎にしては珍しく最近はそれも見る機会は減ってきている
こいつのは成績は学園上位 2年では一位を取り続けている それを守り続けて欲しいと言う思いと
少しは肩の力を抜いて今の自分で挑んで欲しいと言う 二つの気持ちに左右されている
俺自身は…武田に指摘を受けた通り 確実に落ちている
前回の中間試験から一度行われた テストでは思っても見ない所でミスを連発していたのが
記憶にも新しい 勉強しろと中野姉妹に言える立場ではないのかもしれんな
まぁ今は俺の問題よりも 彼女の為に動かないとな
少し歩いた後に横で歩く風太郎の足が止まる
「風太郎 大丈夫か…?」
「………」
「おーい おーい」
目の前で手を振るが反応は皆無
一応眼球は俺の手を認識しているのか開いてはいるんだがな
風太郎の得意な 目を開けたままの睡眠だ
こいつは器用な事に目をあけたまま寝る事が出来る時折それでやり過ごすほどであり
俺もそれには感心していた
けど 今感心している場合ではない
中野姉妹のいるマンションまではもう少しかかる 倒れずいるだけで奇跡だが
この状態は流石にまずいだろう
家に戻ろうにも今からでは中野姉妹の家に行った方が早く済む
これは俺と風太郎の体調管理の甘さが招いた事だ
それで家庭教師は休みますとは言える訳もない
俺は弟を担ぐとそのまま中野姉妹の家へと走って向かう
「まじで 前回五月がタクシーだしてくれて良かったな 流石に重いなぁ!」
弟の成長を実感すると共に走って向かうにはやっぱり重いという事実が付きまとうが
これも家庭教師の補佐としての俺の仕事だと割り切って思えば、気分も少し良い
気分だけは、前向きで行こう 四葉を見習ってな!
暫く走れば、マンションへとつき
入り口で彼女達の部屋番号を慣れた手つきで入力
対応してくれたのは五月だった『息が荒いですが 幸太郎君大丈夫ですか?』と
最早恒例となった俺への気遣いだ 大丈夫だと言えば彼女は不思議そうにしながらも開けてくれた
エレベーターに乗り込めば一旦風太郎を下ろし 顔を軽くパンパンと叩く
『その数式は……違う ……それだと 答えは』
夢の中まで勉強会となっている 家庭教師としての自覚はあるんだが、ここまで来ると心配にもなってくるが、ある意味弟らしいと複雑な兄心である
(起きる気配は無さそうだな……)
スマホを確認すればそろそろ昼になる
ここまで来るだけで結構なタイムロスだ タクシー何てセレブな乗り物も使えんし
自転車に寝たままのこいつを乗せる自信も俺にはない
引きずって行こうかとも考えたが、それは余りにもバイオレンス過ぎる発想だ
担いできた兄にに少しは労いの言葉も欲しい所だな
「さて はぁ 疲れて来たな 昨日の夢と良い 何も無ければいいんだけどな」
再び風太郎を担げば、何度か声をかけ 家は目の前だと言い聞かせる
『……ん』と唸るような声が聞こえる 本当に疲れてんだなと改め思い知った
「あの みんなは既に待っていま……って 上杉君に幸太郎君どうしたんですか!」
「おはよう 五月 まぁ朝勉だよ 起きろ風太郎」
「ふぁー…………はっ よう」
エレベーターがつけばすぐ彼女達の部屋が見える
既に五月が待機していたのか扉から顔を覗かせていた
俺と目があえばその状況に彼女も驚く
担がれる風太郎は目が開いたままという 何とも奇妙な状態だ
「またやってしまった…………勉強に集中しすぎて気づいたら朝だった……… しかし
朝勉は一概に悪いとも言えないのかもな…………」
「朝まで勉強することを朝勉とは言いません 幸太郎君にまで迷惑をかけて」
「俺も似たようなもんだよ 朝勉はいいぞ」
「幸太郎君まで 体を壊しますよ ご自愛ください」
「俺と幸太郎だと対応の差が相当あると思うんだけど」
「何時もこんなもんだろ」
「うぅ…………お二人が遅いので みんなで先に始めていますよ」
いい加減こいつのこれには慣れて来た 世話好きの後輩?とでも思えば良い
害は無いし 放っておいても大丈夫だろうと最近は気にしない事にした
本人は自覚はあるのだろう ばつの悪い顔で廊下を進む
彼女が行ってしまう前に風太郎は背負っていた鞄から大量のプリントの束を取り出し
それを五月に手渡した 俺ももう半分を持っており肩にかけていた鞄からそれを取り出せば
嫌な顔する五月に躊躇いなく渡した 『な なんですかこれは』と驚愕する五月
本当に何ですかだよな 我ながら馬鹿げた発想だが 今の彼女達にはこれが必要不可欠である
下手な問題集よりも役に立つと自身も自覚もある
学園最高の風太郎の手も借りたんだ これで勉強が出来ないなんて事は先ずないだろう
「今回の範囲を全てカバーした 想定問題集だ 人数分用意したので課題が終わり次第始めてもらおう
これを一通りこなせば勝機もあるはずだ」
「やっぱり今日の約束はなしで お引取りください」
この反応も想定していた
ドン引きする五月は怪訝そうな顔で渡されたプリントを返そうとするが
風太郎もここで引けば何もかも終わる 粘りを見せる
俺もここで一言加勢をせねばなと彼女に一声かける
「五月 お前は既に受け取ったろ お前は受け取った物を返す そんな奴じゃない」
「うぅ 幸太郎君までそのような事を言うのですか………しかし この山は流石に ん?」
説得はするが、五月もこの現実を直視するのが嫌だとばかりに
何度も手放そうとするが、その都度言い聞かせた
するとプリントに目が行ったのか彼女は食い入るようにそれを見る
少しすれば、呆れたような表情でこちらに声をかけてきた
「まさかこれが原因で徹夜したんですか?」
「そ そんな事はどうでもいいだろ お前たちだけやらせてもフェアじゃない
俺達が お手本にならなきゃな」
「お手本って…………」
「そう言う事だ 風太郎の覚悟分かってやってくれ ふあぁ」
「俺達…………まさか幸太郎君の徹夜もこれが…………」
気が緩めば欠伸も出てしまう
一度寝落ちした以外俺も睡眠は取っていない
勘のいい五月だ それだけで気づかれるだろう
彼女の事だ色々気を遣うだろうし『知らねーよ』と適当にあしらう
風太郎もやる気で進んで行く
『誰か逃げ出さないうちいこーぜ』とアシストをくれた
まぁこいつの場合は勉強させたい為でた言葉だろうけど…………。
「また二乃を引き留めるのは骨が折れそうですから 三玖の力も借りて何とかです……」
「もう逃げようとしてんだな あいつ……一言 灸をすえてやらねばならんな」
「あの………揉め事は勘弁してくださいね」
「風太郎も気負うな 肩の力を入れすぎると五月の言う通り 揉め事の種になるからな」
「そうです 時間は限られているのですから みんなで仲良く協力し合いましょう!」
俺達が来るまでの間に五月や三玖の働きで二乃の足止めには成功したようで
それが無ければ既に家から逃走していたようだ
本当にあいつは期待を裏切ねぇな………。
彼女の言う通りに 俺達全員で な か よ く 協力するそれが一番だ
「仲良くねぇ」
「な 仲良く…………」
「五月 前を見ろ これが現状だ 微笑ましいな」
「幸太郎君こそ 現実をみてください!」
「三玖 この手をどけなさい」
「二乃こそ諦めて」
「はぁあんたが諦めなさいよ」
「諦めない」
リビングに入れば早速 次女と三女によるリモコン争奪戦が開始されていた
いがみ合う二人の手にはリモコンが握られ両者一歩引く事は無さそうだ
前途多難だな………おい
止めに入る風太郎に 二乃と三玖はそれぞれ自分が見たい番組があり
それ故にリモコンの取り合いになっていると話す
『勉強中はけしまーす』と風太郎はテレビの電源を消し 机に散らかったノートや筆記用具を見て
大きなため息を漏らす
「昔はここまで喧嘩する奴らじゃなかったろうに」
「まぁ 色々あったからね コータロー君も知ってるでしょ」
「これ以上大きな騒動にならなければそれが一番だけどな 一花も今日はよろしくな」
「うん 今日は頼んだよ お兄ちゃん」
「へいへい」
俺の知らない4年間の空白 その間に姉妹の仲は俺が知っている物とは別物となっていた
あいつの本音を聞けば、それは愛情の裏返しだと俺には見て取れる
二乃も不器用なだけで本当に根は優しい良い子なんだけどな
一花もそれは分かっているだから仲裁もするし 彼女に声もかけている
ぶーたれる二乃もしぶしぶと机に向かう
「はーい みんな再開するよ それじゃ 二人とも これから一週間 私達のことお願いします」
「ああ リベンジマッチだ!」
「お前ら覚悟しとけよ」
全員の前で意気込む俺達 さて遂に始まる勉強会 この一週間をけして無駄にはしない
絶対に全員にいい点を取らせてやるんだ その為なら俺は何だってするぞ…………。
と気合を入れたのは良いのだが やはり懸念があるとすれば
二乃と三玖の二人だ この勉強会を円滑に進めるには二人が喧嘩をしないよう俺達でフォローする
それが今やるべき事だ 下手に刺激して喧嘩でもされたら今までの苦労が水の泡だ
喧嘩なんて見ているだけでも嫌なもんだしな
「それ私の消しゴム」
「借りただけ」
「あ それ私のジュース」
「借りるだけ ってマズっ!」
既視感だ先ほどと同じく二人の言い争いや物の取り合いが勃発している
どうしても馬が合わないのだろう
あれをやればそれがダメ それをやればこれがダメと負のスパイラルだ
「ほれ 消しゴムなら俺の貸すから 返しておけ」
「コータローは無くていいの? 困らない?」
「俺は教える側だしな 今は使わん ほれ二乃も口元を拭け」
「うぅ………なんてもん飲ませんのよ」
「それは二乃が」
「はい ストップだ 今は目の前の課題に目を向けような 終わったら買ってきてやっから」
俺が割って入って言い聞かせるのもそのうち限界がくるぞ
三玖には消しゴムを渡し 二乃にはハンカチを渡す
悪化だけしないように二人にフォローを入れつつ勉強を続けさせる
その間に風太郎は打開策を考える為 『アイデア募集』と声に出す
彼の前に座る 四葉は手を上げ元気よくアピール その笑顔を今の二人も分けて欲しいもんだよ
『みんな仲良し大作戦 by四葉』
「きっと慣れない勉強でカリカリしているんです お二人がいい気分に乗せてあげたら喧嘩も収まるはずですよ」
凄く不安を感じてしまう 風太郎はけして社交的とは言えない 俺が言えたことではないが
あまり人と話さない部類だと言える でなければ俺を補佐として任命しないだろう
一応はこいつも俺の昔の姿を知っている 今でこそこうだがある程度は人と話す事もしていた
ある意味で黒歴史と言えるがな……。
「んで 四葉さん 勝算はあるのか」
「えっと……まぁ はい お兄さん達なら大丈夫です」
「了解 望み薄と言う事は分かった」
笑って済ませる四葉 仲良し大作戦 始まる前から落ちが見えて来たんだけど
俺の心配をよそに 風太郎が先手をきった 玉砕覚悟といった顔だ
弟の勇士を俺は見届けねぇとな見せてみろ お前のこの5年を……。
「素晴らしい 二人共いい感じだ 何か凄く良い しっかりしてて……健康的で……良いね
うーん…… 偉い!」
『『褒めるの下手くそーッ!』』
「どうしたの フータロー?」
「気持ち悪いわね 変なもんでも食べた?」
これは酷いな 俺は何処でこいつの教育方針を誤ったんだろうな
もう少し兄としてきちんと接してやれば良かった
何か凄く申し訳なくなってきたな
二乃にも心配されている 二人は完全に困惑している
玉砕覚悟で行って本当に玉砕していった……。
「風太郎が言いたいのは、家庭教師に言われた事とはいえ
きちんと課題に挑んでるその姿勢を褒めてんだろうさ 聞いてやってくれ」
「お兄さん ナイスアシストです」
「本当にそうよ 何でこんな面倒な事やってるのかしらね」
「二乃そう言う事は言ったらダメ」
「そうですよ 幸太郎君が褒めているんですきちんと聞くべきです」
「っ 三玖は分かるけど 五月まで何なのよ」
今現在の俺が二乃に嫌われている前提で進んでいる やはり何か言えば揚げ足取りとなる
俺は少し傍観に徹した方が良いかもな 早速戦力外だ
風太郎の事言えんぞ 三玖が俺を庇う限りは二乃とは相容れないだろう
と言うより五月は黙って進めていてくれ 一々反応してたら進まんぞ
何処からか取り出した ×マークを五月の口につけ
これ以上割って入らないよう厳重注意をする
「四葉さん これは駄目だ 発言の先で直ぐに正面衝突してる おまけに末っ子まで来るぞ」
「お兄さんも上杉さんも 元気出してください!」
「はい失敗 次」
「こんなのどーかな」
続いての発案者はこの中野姉妹の長女である一花だ
彼女はこの中でも一番に人とのかかわりの多い女優という仕事に携わっている
期待できる作戦を提示してくれるだろう
(幸太郎君 これを外してください!)
隣でうーうー言う五月は無視するか……。
仲良くさせたいならお前はもう少し自重してくれ
『第三の勢力作戦by一花』
「あえて厳しく当たることでヘイトが 二人にも向くはず 共通の敵が現れたら二人結束力が強まるはずだよ」
叱るのは気が引けるが、二人が協力できるなら俺もやぶさかでない
自信満々に一花は語り 風太郎はそれを静かに聞いている
「うーん……一応それなりに頑張ってる あいつらに強く言うのは心が痛む……」
「ぷっは …… あなたにも心があったのですね 」
「五月さん 少し静かにしてましょうか? 勉強見てやるからお前はこっちに来い」
「幸太郎君 自ら 私に……そんなもったいないです」
「何がだ つうか お前あれだけ俺からだけは教えられたくないって言ってたのに今回すんなりだな」
口に貼ってあるテープを外すと五月は辛口の発言を飛ばす
お前は時々毒を吐くな……
そっと風太郎の傍から遠ざけ 彼女の勉強に目を贈る
「いえ 本当は嫌なんですが」
「さいですか……」
「いえ そう言う意味ではなくて
確かに私は幸太郎君の厚意に甘える訳には行かないと言いました
しかし あなたは私に向き合うんです それを無下にすると言う事はあなたを否定する事です
それだけは私はする訳には、行きませんから」
「否定ねぇ……別に今更だ 気にはしないさ」
「また そんな事を言うんですから」
「でも その気持ちはありがたく受け取るさ サンキューな」
「……当然の事をしているだけです」
五月は風太郎からは教えても構わないと以前話した
しかし俺からだけは受ける訳にはいかないと
それは頑なで泊まり込みの際は俺が勝手に横で声を出して教えると言う回りくどい方法を取った程だ
何でここまで意地をはるのか俺には心辺りはない 嫌われているならいざ知らずだ
俺を労わるという意味でだ 事故の事だとしてもだ
五月自身からそこまでされる理由にはならない あの時にこいつはいない 俺と五月とが再会したのは………
あの食堂での相席でのやり取りだ…。
ただまぁ……これからは俺からの教えも素直に受け取ると話す 不安要素も消えた事が分かる
風太郎が見れない時に俺が教える際に『いえいえ結構です』と来た意味が全くない状況になりかねなかった
それに五月は『否定したくない』そう言った
本当にこいつは俺の事何処まで知ってんだろうな心配してくれるのは良いけど少しは自重してくれ
「そうです かぁああ! いっ」
「コータロー ここも教えて」
「なら 抓らんでも良いだろう 声をかけろ」
「朴念仁のコータローには言っても分からない 五月以外も分からないんだよ」
「別に五月を優遇はしてねぇーぞ」
「本当にコータローは何も分かってない」
「はぁ? 別にこの問題くらい 俺はわかるぞ」
「あぁ うん コータローくんは黙っていようか」
「一花まで一体どう意味だよ」
「お兄さん ここは黙っていた方がいいですよ」
「おい 風太郎助けてくれ」
「ダメだ 俺にはそこに踏み入る自信はない」
突然三玖に抓られたと思えば 俺が何も分からないと言いだしムスッと膨れる
一花や四葉まで俺にはこれ以上話すなと言いだしてきた
風太郎に助けを求めても 白旗を上げており 今は一花の下した作戦を優先すると兄は見捨てる
朴念仁とはつまり 愛想がなかったり 分からず屋と言う意味だ
何故それが今の俺に飛んでくる
ただ 勉強中だ話声が多すぎると妨げになるだろう 二乃から凄く睨まれている
ここは一花達の言葉に従い静かにするか……ヘイト集め任せたぞ風太郎
(今なら 俺が共通の敵になるのでは?)
(たぶん 三玖はそうは思ってませんよお兄さん でも今は黙りましょうか)
「おいおい! まだそれだけしか課題終わってねーのかよ!」
『『!!』』
「と言っても半人前のお前らは課題を終わらせるだけじゃ 足りないけどな あ!違った!
半人前じゃなくて 五分の一人前か! ハハハハハ!」
(なんだか生き生きしてない?)
(余程鬱憤溜まってたんだろうな)
自分ではそんな事したくない 仕方ないと言っておきながら彼は堂々と言ってのけた
五つ子の無理難題に彼なりに付き合っていたがやはり 相当来ていたようだ
ストレス発散もあるだろうが 本音が九割だろうな
ごめんな風太郎 気づいてやれなくて その顔はとても清々しいものだった
二乃や三玖だけじゃない 一花達まで自分が言われているような気分でそれを見ている
「言われずとももう終わってるわ ほら!」
「……ん? そこテスト範囲じゃないぞ」
「あれぇ!?」
彼の言葉に驚きはするも別段怒る素振りは見せず
自分のノートを自信満々に風太郎に見せる二乃だが
良く見れば彼女がやっている箇所は以前のテストでの範囲であり
期末試験での範囲ではない所で 風太郎もそれに気づいたのか彼女に間違えていると指摘する
焦った二乃は、自分の書いたノートを何度も見直す 『げっ』と言う声を出すどうやら気づいたようで目線をノートから逸らせば、表情をかえる
「二乃 やるなら真面目にやって」
「……っ こんな退屈な事…真面目に やってられないわ! 部屋でやってるからほっといて!」
「おっおい!」
三玖に指摘された事が効いたのか、それとも三玖に言われた事が癇に障ったのか
バツの悪そうな顔をすれば自分のノートを持ってそのまま階段の方へと向かってしまう
この状況で俺も黙っている程愚かではない 二乃を止めなければ
あいつを一人にしてはおけない……。
『無駄にしたか』と落ち込む風太郎に俺と五月は声をかける
所詮俺は補佐にしか過ぎない 彼女と向き合うには風太郎の力も必要だ
『お手本になるんでしょ? 頼りにしています』と励ましの声も彼は受け取った
「二乃 もう少し 残れよ あいつらと喧嘩するのは嫌だろう ただでさえお前は出遅れてるんだ
四人にしっかり追いつこうぜ」
「二乃 戻ろう 話を聞いてくれるだけでも良いから 頼む」
俺と風太郎の説得を聞き 歩みを止める
そしてこちらに振り向く その視線はとても穏やかな物ではない……。
「うるさいわね 何も知らないくせに とやかく言われる筋合いはないわよ
あんたなんかただの雇われ家庭教師
それにあんたにだけは言われたくない 大事な時に消えたくせに 何よ補佐とか
アンタ達なんか 部外者よ!」
「…………」
「…………」
俺達は声が出なかった
忘れていた 俺達は部外者に過ぎない それに彼女の言う通りだ
俺は彼女達が俺を必要とした時に逃げた 怖くなって姿を消してそれを無かった事にしていた
昔の記憶を彼女は思い出したのだろう それ故に今の俺が憎いのだ…………。
『何で コウにぃはいないの? 何でいてくれないの? 何処にいるの?』
ごめんな 二乃俺は本当にダメな兄貴だ…………。
肩を落とす俺の横を誰かが通り過ぎる
隣を見ればそこには、三玖がいた 俺と風太郎が作った問題集を片手に二乃をじーっと見つめる
「受け取って」
「こんなもの いらないわ!」
二乃は払う様に三玖の退かす
同時に彼女が持っていた問題集は辺りに散らばり 二乃自身も声をあげるが
意地なのだろう けして拾おうとはしない
この空気はいけない 二人を止めなければ取り返しのつかない事になる
「ね ねぇ二人とも落ち着つこ?」
「そうだお前ら…………」
「二乃も今は部屋に戻ってていい 三玖も席に戻れ」
「二乃 拾って」
「こんな紙切れに騙されてんじゃないわよ 今日だって遅刻したじゃない こんなもの渡して…………
いい加減なのよ それで教えるつもりなら大間違いよ 何が助けるよ 嘘つき」
「二乃!」
ビリ…
「こんなもの!」
二乃は三玖が拾い上げた問題集の一部をその場で破り捨てる
彼女の表情は怒りというよりも何処か悲しさを訴えるものだった
「気にするな これくらい何時でも作れる。だから………!」
「そうだ 俺達の事は」
破り捨てられたそれを拾い上げようと姿勢を低くした…、
バシッと言う音が響く
俺達が間に入る前に 誰かが二乃の前まで動き 彼女の頬をビンタした
「二乃…………謝ってください!」
二乃を叩いたのは驚く事に 彼女 中野五月だった
その顔は普段見せる優しい顔でも俺に怒られて浮かべるしょぼくれた顔でもない
静かな怒りを表していた…………。