「幸太郎君 これ配達お願いね」
「了解しましたー!」
夜の11時だ それでも街には人がいる
お店の賑わいも最高潮だ 仕事疲れやボヤキや愚痴なども聞こえるが生きていれば向かい合う現実だ
世知辛いそれが人生と言う奴だ
店長が俺を呼べば幾つか注文が入ったと出来た物を俺に手渡す
夜中だけど注文は入る この時間に動くのは慣れたもんだ
俺はバイクの後ろに乗せれば、安全確認をし ヘルメットを被り夜の街に走らせる
「住所は………あいつらのマンションか」
一度視線をずらし配達先を確認 事前にしておけば良かったが そのまま外に出てしまった
よそ見は厳禁だ あんな目に遭って学ばない奴だよな。
暫く運転すれば、茂みの多い道へと入る
この時間だ 人はそうそういないだろうと俺はスピードを上げる
「…………これで良いんだよ 五月…。」
「えっ…………」
一瞬見知った顔があり 通り過ぎた後に一度バイクと止めるとそこまで戻る
「お前 この時間に何やってんだ」
「あっ あれ お お兄さん! な何でここに!」
「配達だ」
暗い夜 ベンチに座り何処か浮かない顔で中野四葉そこにいた
俺の登場で慌てふためいており 本当に予想外といった顔だ
服装はジャージ姿であり まさかとは思うが走り込みでもしていたんだろうか?
「お前 今何時だと思ってるんだ?」
「ごめんなさい えっと 色々と訳がありまして」
「そうかい でもこんな夜更けに知り合いがいれば俺は心配するんだが」
「本当にすみません」
「顔をあげろ 叱ってはいるけど そこまで怒ってない 本当に何でここにいるんだ」
「そ それは…………その」
「言い辛い事なら 別に良いさ」
「…………」
「もう 何もないなら帰るぞ」
「えっ でもお兄さんはお仕事ですよね?」
「偶然だろうな 今からお前らのマンションへと向かう」
「それは確かに凄い偶然です」
「まぁ 流石にこのバイクだと お前は乗せられないけどな」
「大丈夫です!走って行きます」
立ち上がればその場で足を動かし 夜道でも元気な事をアピールするが
その姿は何処か痛々しい物を感じる…………。
そこまでお節介をする気はないが お前はいい加減自分の気持ちに正直なるべきだ
だからだろう つい余計な事を口走ってしまうのは…………。
「四葉 本当に 大丈夫なんだな…………」
「あっはは お兄さん何ですか その顔は」
「良いさ…。あまり溜めこみ過ぎるなよ 人間は何時か空回りする」
「私は………大丈夫ですよ 本当に」
「説教は終わり どっちが勝つか競争だ」
「バイク相手でも負けませんよーーーーーーーー!」
『『よーーいドン』』
同時にスタート バイト中で何て事してんだかな
バレたら怒られちまう でも四葉が一人で黄昏てるんだ声はかけないとな
掛け声と共の俺達は走る
勿論負ける気はないし 幾ら四葉はが体力馬鹿と言えまさか追いつく訳ないさ…………。
信じられないフルスロットル
限界ギリギリのスピードを出したにもかかわらず
四葉は何事もない顔で追いつてくる 正直怖かった
ジャェット婆ならぬ ジャェット四葉がそこにいた 俺のバイクを追い抜けば
マンション前で Ⅴサインで待っていた
これは手加減を貰っても勝てるか分からんレベルだ
陸上部が必死こいてこいつを狙う筈だよ
「いえーーい 私の勝ちです!」
「おかしいだろう…………時速何キロだと思ってんだ ギャグ補正でもあるのかこいつは」
「にっししし 私は足と体力には自信満々ですからね!」
「はぁ……それを何時か勉強に回そうな」
「えーと その気が向けば」
「ふふ 了解 じゃ俺は届けるから」
「あ お兄さん 五月の事ありがとうございます 何時も何時も私達を助けていただいて」
「気にするな それが俺の仕事だ あっ 四葉 これ優勝賞品だ あばよ」
「おっと 飲み物ですか ありがとうございます!では おやすみなさい」
すっかり元気が戻ったのか四葉はマンションの中へと消えていく
俺は頼まれた物をバイクから降ろせば、指定された部屋へと向かって行く
無事に配り終われば、俺は再び夜街へとバイクを走らせた
二乃 三玖 四葉 五月 それぞれ抱えているものがる
一花は大丈夫だと思うが、あいつも溜めておく癖がある
何時かそれが悪い方向に向かわなければ良いけどな…………。
「もう 4時か……店長の話に付き合ってた予想以上に時間かかったな」
アパートまでつけば流石にこの時間だ 音はしない
部屋に入れば風太郎もらいはも五月も良い顔で寝ている
勇也さんはまだ帰ってきていない 6時前には戻ってくるとは思うけど
無理だけはして欲しくないな…………。
「風呂入るか…………。」
帰宅して先ずやる事は風呂入る事だ
流石に汗臭いし そのかっこのまま朝は迎えたくない
音を出さないよう静かにお風呂場まで向かう
『ん…………』と五月の声が聞こえびくっとするがただの寝息だ
焦るな…落ち着け…
「さて ゆっくり浸かりますか…………生き返る …ふぁ…」
風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ
まさしくその通り 一日の疲れも吹き飛びついつい寝そうになってしまう
気を抜けば意識を持っていかれそうだ
こく こくと何度か顔が動き 目も自分の意思とは関係なく閉じられていく
「…………かぁ………」
そして俺は睡魔に襲われ 湯船で寝落ちすると言う
全くおバカな状態になっていた………。
「…………はっ! やばいやばい」
意識は覚醒し俺は湯船から飛び出す
完全に寝ていた 夢を見ないという事は本当に疲れが溜まったんだろうな
あぁ…………本当に何してんだが風引くぞ
扉を開けて洗面所に向かう
「はぁ……………………」
「……………………幸太郎君」
「五月……………………」
『『キゃあああああああああああああああああ』』
洗面所には歯を磨く五月の姿あった
俺と鉢合わせれば、今年最大の悲鳴を二人であげる
こいつが家にいる事をすっかり忘れていた
「す すまん」
「私に方こそ軽率でした 幸太郎君は朝方に帰ってくると聞いていたのに」
「あの 本当にごめんなさい まじすみません 風太郎をクビにしないでください」
あの大声でも風太郎どころからいはも起きることは無く
勇也さんなんて風太郎の布団に入り込み あいつの布団を奪い取って遠くに蹴飛ばしている
すごい惨状だ
俺はと言えば五月と鉢合わせした後 彼女が先に洗面所出てその間に着替えを済ませた
お互い気まずい中 居間で正座をし 五月に声をかけ 土下座をする
こんな不祥事 あの人の耳にでも入れば、何を言われるか
二乃が遭った目に俺も会うとは、これに関しては俺の不注意だ
五月に頭を上げるよう言われるが、女性に裸を晒すのは男としてどうだ
二乃は例外だ あいつが自分でやった事だし そこまで実害は出なかった
しかし 五月は違う 確実に見られた ナニ を
だってずっと 顔が真っ赤なんだぞ 何してるんだ俺は……。
「もう 勘弁してください 幸太郎君 思い出してしまいます」
「ごめん この埋め合わせは絶対にする だから頼む 風太郎だけは」
「それは大丈夫です 私は言うつもりはありませんから…………」
「そうか 良かった」
「それに 幸太郎君も辞めさせません」
「良いのか 事故とは言え」
「あぁーー ぁーーー 何も聞こえナーーい」
そのやり取りは家族が起きるまでずっと行われていた
「幸太郎も行くぞ それと五月 うちから登校するのはいいが教科書どうすんだ」
「ぬかりなく 昨日偶然会った 四葉に持ってきてもらいました」
「なぜ その時財布を受け取らない」
(あぁ………だから四葉はあそこにいたのか)
「幸太郎君どうかしましたか?」
「何でもねぇ」
(あの 幸太郎君今朝の事は 私達の秘密と言う事で)
(わかってる 話す訳ないし 忘れてくれ)
風太郎を起こし 朝食を食べれば、支度をすませ
三人で登校する事に 五月はずっと電柱の後ろに隠れ辺りを警戒している
『お前が誰といようが 幸太郎に四六時中つきまとってんだから何も言われん』と風太郎は一蹴
ただその人物の家から出てくるのはそれはそれで問題だけどな
それと今朝の事は二人の秘密として未来永劫封印する事になった
「私も後から気づいたのですが 四葉も忙しそうだったので…………」
「そういえば昨日あいついなかったな 何してんだ」
「え………聞いてないのですか?」
「詳しくはな…何かあったか」
「陸上部の助っ人で大会前の練習があるらしいですよ」
「は?」
「初耳だ 三玖から用事としか聞いてないし」
「何故 四葉はお話にならないんでしょ」
「それはまぁ……一応テスト勉強開始と同時にやめるって これと約束したからな」
「あぁ……納得です」
「納得するな いくぞ幸太郎あいつにはきつく言っておかないとダメなようだ」
ここに来て四葉が未だに陸上部への助っ人として練習に参加しているという事実が舞い込み
俺達には秘密で行動していた事が発覚 昨日の時点で気づくべきだったし
断れないのが、あいつの良い所であり それがまた悪い癖でもある
一長一短だ 風太郎も『約束は約束だ』と早速四葉を捜しに向かい俺も同行
五月には、先に教室に行ってて欲しいと言えば『わかりました 問題は避けてくださいね』と
有難い一言だが 五月もこれ以上は下手に動かないようして欲しい
彼女を探す事数分
体育館近くで走り込みをしている四葉を発見し すぐさま追いかける
風太郎にはここで待機して 挟み撃ちにする形となった
俺の存在に気づけば四葉はスピードを上げ逃走を開始する ただ向こうには風太郎が既にいる
悪いけど話だけは聞かせて欲しい でなければあいつも納得出来ないだろう
「すみませーーーん」と大きな声が聞こえる どうやら無事に兎の捕獲は成功したようだ
声のする方に向かえばリボンをわしづかみされ風太郎に謝罪る四葉と怒りと言う文字が具現化している
風太郎の二人が、叱られる側と叱る側という構成となっている
「よー 四葉何故逃げる」
「お お兄さん おはようございます
いやお兄さんの顔が真剣だったのつい本気で走ってしまいました」
「はぁ それでどうしてまだ陸上部にいるんだ」
「断ったがしつこく勧誘してきてるらしい こいつの性格上断り切れないんだろう」
「内緒にしててすみません でも家ではお二人の問題集を進めてます」
「四葉 無理なら無理と言う それも大事な事だという事も忘れるな」
「お兄さん……………でも私」
お人好しも大概にと風太郎は強く言って聞かせ
ただそれでも彼女は断れない いや ある意味で自分のその性格が彼女を苦しめる形になっているんだ
本当は風太郎の頼みも聞きたい筈だろう 中野姉妹は全員優しくて不器用過ぎる。
頭を抱える彼を見て目の前の少女もどうするべきか、眉をひそめ
表情も強張る……どうしたものか?…打開策を考えよと試みるもふと背後から彼女を呼ぶ声が飛んで来た…。
「中野さーーーん 戻ってきて」
「私頑張りますから!」
「って話は終わってねぇぞ」
「無理だ 風太郎奴は バイクより早い」
「意味わからん」
走り去っていく四葉を追いかけようとする風太郎を制止し首を横に振る
俺は見てしまった本気を出さずともあいつは乗り物よりも早いと言う事実を故に追いかける事は不可能
体力のない風太郎ならなおの事だ
今は彼女の出方を見るべきだろう どちらにせよ四葉には選択を迫らないといけないのだから
(四葉 自分の気持ちに正直になれ その言葉の意味をもう一度考えてくれ)
その後は教室に向かい
風太郎は四葉を見つけるたびに追跡 その度に逃走
俺はその間に一花や三玖の勉強を見て 現状を伝え 昼には五月の勉強を指南
最大の難関である 二乃は姿も見えず そのまま放課後を向かえる
そして放課後 四葉の追跡に俺も借り出せれ二人で走っている途中見慣れた顔がそこにはいた
「二乃かやっとみつけた」
「学校来てたのか この前のことは気にしてないから帰ろう!な?
あいつらも仲良くできるって また昔みたいに」
「はぁ わかった帰るわよ」
「そうか!」
案外すんなりいって怖いくらいだが、これで二乃も家に帰ると言う
残すは五月だが、あいつは二乃が帰れば家に戻ると須藤家で話していた 問題は四葉のみ
と上手く事が運ぶことはなかった
『『って 昨日のホテルじゃねーーか!』』
ここまで来て言う事でもないが、騙された
二乃は帰ると言ったが『家』とは言ってない 揚げ足取りは上手いな本当に
警備員に止められるが何とか二人で二乃に言葉が届くよう声をあげる
試験と言う言葉に一度歩みを止め その場で止まり
風太郎は再度説得に入る
「俺達が合格させてやる! だから入れてくれ」
「試験なんて 合格したらなんなの? どうでもいい」
本心から出たその言葉は俺達にぐさりと刺さり それ以上の言葉を彼女にかける事は出来ず
今日は退散する事になった……………
そこからは持久戦だ
俺達は必死に彼女の説得に当たるも悉く無視をされ 時には軽い挨拶もした
効果は見込めず 加え他の姉妹にも現状を報告しなければいけない
五月は暫く家にいる事が確定し 一花と三玖にも『まかせろ』と言い二人には勉強に集中するよう頼む
四葉は未だに逃走中でその速さはやはり尋常ではない
風太郎も俺も追いつく事は出来ず結局話す事もままならない
下手をすれば二乃よりも成果は低いと言えるだろう…。
そして期末まで4日と迫ったその日
俺と風太郎それぞれ別行動していた
水曜日……………俺はある公園へと足を運んでいた
そこは家から少し先 大きな橋が架かる所にあり 俺にとっては思いでのある場所だ
じーっと橋の下を眺め この数日まともな成果を上げられない自分の無力さを改めて実感させられた
どうしてこうも上手く行かないのだろう
少しでも歯車が合えば次の瞬間にはネジが緩み一気に崩壊する その繰り返しだ
彼女達からの信頼もへて俺は自分の過去を話し
またあの頃にように距離を縮める事が出来ている そう思っていた
けど現実どうだ 五月と二乃が喧嘩し 四葉は逃走…。
二人の喧嘩を招いたのは俺達の不甲斐なさだ そして俺は四葉の背中を押す形で『頑張ってこい』
何とも無責任な発言だ ただ言うだけなら誰でも出来る 俺はただ状況を悪化させただけなんだ
『兄貴づらするな あんたなんか……………………』
「本当にそうだ 俺は必要ないんだろうな 彼女達を笑顔で卒業させるためと言いつつ
俺は自分勝手な理屈や理想を押し付けていただけだ……今だって笑顔と言いながら
勉強に集中してくれ 今は待っていてくれ 何だよそれ……………ただバラバラにしただけだ
一緒にいないとダメなのに……馬鹿だよ俺は」
『失望したよ 上杉君がまさかこんな奴なんて』
『もうお前は俺達の前に顔を出すな!』
『どうせ そのテストも誰かのを見て写したものなんだろ この偽物!』
彼等の言う通りだ 俺は偽善者できっとダメな人間だ
かつての友人達の言葉とあの時の出来事がフラッシュバックする
俺がやっていた事が全て崩れ 誰も彼も信じない 全部失った
そして俺はそれを受け入れた……………………。
今度もまた同じだ 姉妹をバラバラにした責任は俺にある もっとうまくやれたはずだ
やれた筈だ…。
「………………何をしてやれば良いのか 俺には」
もういっそのこと あの時と同じく ここに飛び降りようか
あの時は未遂に終わったけど今ならと…でも俺は手すりに手を乗せただけで何も出来ず止まっていた
「出来るわけないよな……これは逃げだ…。本当に馬鹿な発想だよ」
何を考えているんだ…。
ここぞと言う時には弱い男だ…。情けない奴…。
「本当にそうだね やめて正解だよ」
コツコツと歩く音がし、声が届く 俺は一瞬そちらに視線を送れば それに目を奪われる
「一年ぶりだね 上杉幸太郎さん また 君はそんな所にいて 命は大切するもの
そう教えたの 君だよね?」
「中野…………六花さん」
「うん 私だよ…。上杉さん 君を助けにきたよ 安心して」
あの頃と何も変わらない彼女がそこにいた………
黒い帽子を目深に被り
左目が隠れる斜め分けと首にかけるヘッドホン 何も変わっていない
彼女はあの時と変わらず俺を見ていた………。
『君の話を聞かせてくれないかな?…。きっと私が探す彼を見つけられるかもしれないから』
誰も俺を信じない時に俺の言葉を聞いてくれたただ一人