二乃ちゃんと風太郎君は既に話を終えています
後半は原作の内容がちらほらと
『それでは私はここで』とホテル付近まで来れば
さっさと何処かに行ってしまう せっかくと思ってはいたが
五月も五月で自分のやり方と言う物があるんだろう
なら俺は俺で二乃と向き合う 何時までも後ろ向きに考える事はやめよう
ホテルのエントランスに向かえばやはり 警備員から警戒はされている
朝方も来ているし
彼等の対応は何も間違ってはいない 似たような仕事はした事はあるけど
その都度『邪魔するな』と言ってくる人はいたがまさか自分がその立場になるとは想定もしなかったな
一歩でも動けば彼等も俺の障害となる
下手に時間もかけられない 五月の話では二乃は一度出て暫くしたら戻って来ていたと言っていた
ここの場所は教えたつもりは無いけど 一体誰から聞いたのだろうと少し疑問は出てくるけど
今は後回しだ 二乃の事だけを考えよう
「二乃の事を……」
「で 私が何だって」
「おっ びっくりした 何時の間に」
「それは私の台詞だけど あんたもしつこいわね」
「それが俺達の仕事だからな」
「あんたといい上杉といい 本当にあきらめが悪いのね」
観察がてら待機していれば 後ろから声をかけられた
振り向けばそこには普段と変わらない二乃が腕を組んで立っている
怒った様子もなく 何処か呆れており 『少し前まで上杉もいたわ』と口に出す
どうやら俺では無く 弟が説得に成功した これは良い報告だ
あいつも二乃の言葉とここ最近の騒動で結構参っていたし 心配していたが話が出来て良かった
「それで どうするの?」
「俺はお前と話がしたい」
「そう 少し待ってなさい」
二乃はそのまま警備員の方に向かい何かを伝えれば彼等は去って行き
彼女はこちらを手招きしている
何とも手慣れたもんだな思って見ていたら
『あれだけ 顔を会わせればね』と嫌味混じりで言い返された
頼りになるな 中野姉妹の二女は……
「まずは私から あんた何かあった?」
「急だな」
「上杉もそうだけど あんたも何か吹っ切れた顔だしさ」
「って 何でここ濡れてるんだ」
「それはいいから…………」
話を聞く前には先ず 何があったのかを述べよと部屋の主は申している
適当に座ればと言われソファーに腰を下ろすが何故か濡れていた
弟に何があったのか聞かないが『あんたまで濡れてたらどうしようかと思ったわ』
そう口からもらす二乃だけど顔も赤いし本当にあいつと何があったんだ?
この濡れた椅子と関係があんのかな…………
聞けば怒られるだろうし 話す機会も無事に得たのにそれを白紙にする訳にも行かないな
「ここに来る前か…………以前話した 中野六花って覚えてるか」
「え うん覚えてるけど あんたが会ったって話した 謎の女………… まさか」
「あぁ さっきまであの人といた 急に現れて少し混乱したけどな」
「不憫ねアンタ達兄弟も 泣けて来たわ」
「何の話だよ」
「良いから続けなさい」
「六花さんと話して それでお前の所に来た あの人はまた消えたけど」
「あんたは追わなかったの?」
「確かに追えばまた話せるだろう けど俺が今話すのはあの人じゃない 二乃だ」
「そ そう…………」
「それに 俺が想ってればそれで良いって思えるんだ」
「ぐっすん…………」
「何で泣いてんだ」
「健気ねあんたも 一年も想ってさ」
「恩があるしな………だからこれで良いんだ」
「そう わかったわ…………」
ここに来るまでつまりは俺は六花さんと話し 自分の気持ちを打ち明けた
彼女に言われ 自分はどうしたいのか 自分が何をすべきなのか
少しずつだが見え始めた 『自分を許してもいいので』とあの人は言っていた
でも二乃と話さない限り 俺は何も選べない…………。
あの時は逃げた………… でも今は二乃から逃げない
やるべき事の一つは二乃と話し合う事である
風太郎のお陰だろう 彼女は何処か大人しく 話も真剣に聞いてくれた
『上杉には五月に謝ろうって言われた 私からなんて御免だけどね』
それは二乃が少なからず叩かれた事を根に持っているからではなく
五月が五月ではない ように思えて来たからだと俺に語った
その気持ちは俺も分かる
5年前のあの日だ 話し方が俺の知っている五月と違っていた
それが怖くて 俺のしる彼女は居ないんだと俺は逃げ出した
「あんたもなのね……」
「知ってる筈の子が その日から変わった 俺はどうして良いかわかんなかったさ」
「気づけばお母さんと同じ話し方で あれは本当に五月なのって」
「お前は姉妹を大切に思ってるからな 一番にそれがわかるんだろうな」
「本当にどうしたら 良いか分からないのよ……それはあんたも同じ 私の知るコウにぃは
こんな話し方じゃない…………」
五月も変わり そして思い出したかつての幼馴染も自分が知る人間とは全く異なる
そんな状況の中 彼女が素直に従う訳もない
反発もするだろう 何故変わってしまうのか 何故今のままでいてくれないのかと………
「昔は そんな髪でも無かった でもあんたはそれを地毛って嘘までついてさ」
「実際 嘘ではない」
「染めてもないのに そんな白くならないわよ」
「PTSDって知ってるか?」
「どっかで聞いたような…………」
「Post Traumatic Stress Disorder 訳してPTSDだ 日本語で言えば
心的外傷後ストレス障害だ…………俺のこの髪はストレスのせいだよ」
「えっ……………………」
ある日気づけば髪は白く
何でこんな事にと病室で蹲っていた
自分で染めるなんて俺はしてない…。本当に勝手に髪はストレスで白く変色した
「人間なんて そんなもんだよ」
「…………ごめん 」
「やけに素直だな 疑われると思ってた」
「今のアンタの顔はとても嘘を言ってる顔じゃないないから…………」
「ありがとな お前らや家族以外 誰も信じようとしない」
思っていたものと異なっていたのか ふいに二乃から謝罪の言葉が飛んで来た
思い返せば『変な髪』とこいつには散々言われていたが、俺は特に気にはしない
確かに罵倒だ けど こいつのはまだ優しい方だ
信じない奴は信じない 例え友人でも…………。
「俺本人は変わる気なんて無かったんだけどな 変わって行くもんさ 勝手にな」
「それでも…………変わらない物も変えたくないものあるのよ」
「…………」
俺は考えた 当時の彼女達で何故か一人だけ変わらない人間がいたのかもしれないと
一花は目に見えて違う完全にショートカットだ 三玖も同じく一花よりは長いセミロング
四葉のあれは何と言っただろうか ボブ?だったか
そして残る五月はアホ毛が生えた そしてくせっ毛になっている
けど二乃だけは あの頃のままだ 少々異なるところはあれど髪型は当時と変化は見られない………
変わっていたのは五月だけではない 一花や三玖も四葉もだ
どんどん変わって行く中で 彼女はそれでもあの頃を守っているんだ…。
そんな時に見知らぬ男が現れ その男も実は昔は笑顔の絶えないよい子と来た
自分達と過ごした彼までも全くの別人と化した事が彼女を更に追い詰める結果に繋がった…。
やはり全員が馬鹿不器用で優しいと彼女と話していて実感できた
「お前はさ このままでいたいのか?」
「あんた言ったよね 勝手に変わって行くって」
「あぁ…………」
「ふぅ………あんたには恩があるから言うけど 私は勝手に変わって行く気はない
みんながみんな 変わる前に 私は自力で変わって見せるわ」
それが二乃の答えだ
周りが変わって行く 自分だけ昔のままなら 勝手に変わる前に
自分自身で変わってやろうと 彼女なりのケジメなんだろう
(六花さんや五月は怒るだろうな…………)
彼女を見ていて俺も自分の心に踏ん切りもついた
「お前がかわる為には何が必要だ 何が足りない」
「何よ急に…………」
「もし変わるなら 心残りは無い方がいいと思ってな」
「…………今は思いつかないわ」
あっ これは嘘だ 露骨に俺から視線を逸らした
「急がせる訳じゃないけどさ もし手伝えるなら 俺は手伝うさ」
「本当に何時までも兄貴面ね…………手伝われたら自力にならないじゃない」
「それが俺だしな…。お節介な男だ」
「ごめん………あの時は悪かったわ 一応は言わないと
上杉には言ったのにあんたに言わないの変だし」
「俺もだ二乃 あの時は逃げてごめんなさい…………。」
軽くだが頭を下げたあと彼女は先日の件での謝罪を述べる
「もういいわよ… この数日馬鹿に真面目な二人見てたら 怒る気もなくなったし」
「それは助かるな」
やっとだ 二乃に謝る事が出来た ここまで来るのにどれだけ時間がかかったものだろう
今の俺に家庭教師以外で何か悔いがあるとするならば それはあの時二乃に何も言えなかった事だ
俺の名前を呼び 助けを求める中 俺は彼女には何も言わず去った
『あんたも………色々あったんだろうし』と言葉まで貰えるとは兄冥利につきるな
何だろうか泣けて来たな『見っともないから』と二乃も困惑しているダメだしゃんとしろ
「家に帰れって言わないの?」
「言って帰るならそうするが、今は無駄だとお前を見ればわかるさ」
「何か あんたに怒ってた理由分かって来たかも…………。」
「そうかい」
「ねぇ あんたここまで一人で来たの?」
「誰かがいると思ったか」
「いや 別にそんな事はないわよ」
「はいはい じゃ俺は帰るから それとだちゃんと勉強してるんだな」
「あんた達兄弟は本当に目ざといわね ほらさっさと帰ったー」
「おすなよ」
「べーー」
前回とは違う喧嘩はしていない
二乃ときちんと言葉も交わせた 二乃がどうしたいのかもちゃんと聞く事も出来た
確かに期末試験も大事だ けど今は少しづつ彼女達の問題を解決させないと何も始まらない
このまま放ってはおけば俺も風太郎も後悔するだろう
部屋から追い出されれば俺は何処か軽い足取りでアパートまで向かう
五月も帰ってきているだろうし 風太郎が適当にアドバイスをしていれば彼女も捗ると思うが
あまり期待しない方がいいだろうな
「二乃が謝罪したって…………そんなにすんなりいきますか? にわかに信じられません」
「本当だ お前もいつまでも意地張ってんじゃねーよ」
やけに爽やかな風太郎が家にいた
話を聞けば二乃との会話で聞こえた通りきちんと謝罪の言葉を貰ったと五月に伝え
機嫌をなおせというが五月はそれを全く信用せず 全く聞き入れない
「俺も二乃から謝ってもらったぞ?」
「ほらな」
「幸太郎君 私に嘘をついているんですか」
「五月は俺が嫌いなのか」
「そう言う事は………って違います話を逸らさないでください」
「なら五月も風太郎の話を聞いてやれ」
「致し方ありません」
「お前 俺と幸太郎で何が違うんだ言ってみてくれ」
「幸太郎君はとても優しくて立派です」
「はい 俺は優しくもないですよ」
「付き合いは良いけどな」
適当な話で何とか場を繋ぎ 五月と二乃がどう円満に解決できるか模索する俺達
『そう言えば お前ら映画行っただろ また』と以前出かけた時の話題を提示し
二人の友好関係の把握にかかる風太郎
帰ってきて最初に『一度 二人の現状を探るべきだろう』と彼に伝え
どうにかそれらしい話題を風太郎は思い出した
喧嘩はするが 五月と二乃は二人で出かける事は多く
やはり喧嘩する以前は仲の良い姉妹のままだという証明にもなるだろう
その話が出れば五月の表情は一気に沈む
どうやら彼女が見たのは 一花の例の映画らしい
四葉あたりが教えたのか、それとも三玖が話したのかどちらにせよ
あの時連れて行かれた時の五月は半泣きで俺に助けを求めていた程で何か申し訳なくなってきた
「あんときは悪かったな」
「いえいえ 幸太郎君も勉強で忙しかったはずですので」
(言えない 最初から最後までおままごとしてたなんて…………)
菊とのおままごとは色々と考えさせられる事もあったし
あの時『このさき何も無ければ』と壮大に俺はフラグを建てていたな
余計な事ばかりいうな俺は…………。
その後五月は二人で次は何の映画を観るかで二乃と軽い衝突があったとも話す
『恋のサマーバケーション』
『生命の起源~知られざる神秘~』
「と言うように二人で映画が別れました 昔と違って二人共好みがかわってしまったのです」
「ちなみに俺はどちらも見ようとは思わない」
「名前だけなら 生命の起源とか気になるな」
「なら 今度見に行きませんか!」
「まぁ この問題が解決すれば幾らでも付き合ってやるさ」
「うぅ…………これは揺らぎますね」
「幸太郎の犠牲で全てが丸く収まるぞ」
「弟と袂を分かつべきか?」
五月もそんな事で二乃と仲直りされても困るんだけどな
ただまぁ……映画が何かのきっかけになれば良いかもな 少し俺も考えてみるか
「あー 今日まだごみ出してないかも!」
「今日は不燃ごみの日ですね まだ間に合いそうなので 私が出しておきます!」
「五月さん ありがとう」
夕食の合間も五月は普段と変わらず世話焼き人間だ
らいはが出し忘れたごみを出しに……向かったと思えば勇也さんが探す腕時計を直ぐに探しだす
二人はそれに大助かりと言った感じで五月がいる事を喜んでいるが隣の弟は何処か不満気な顔でもくもくと箸を進める
(風太郎 俺はあれを学校でもされたんだぞ)
(ほとんど世話焼き女房だな 何か二乃が怒った気持ちも分かってきた 明日もう一度話してくる)
(そうか今の二乃は五月よりもまだ話は通るだろうしな)
五月が世話を焼く姿は俺には見慣れたもんである
最初は多少なりと困惑もあったが今では日常の一つとして…………
「そうじゃねーーよ 同学年に世話を焼かれるのやっぱおかしいよ」
「幸太郎君どうしたんですか 何か具合でも悪いんですか? お口に合いませんでしたか?」
「そうじゃない お前は本当にうちに来てもかわねーなと思ってさ」
「何だ 幸太郎 五月ちゃんにお世話されてるのか このこの!」
「勇也さんもからかわないでください 俺は頼んでませんから」
「私が自分の意思でやってる事なのでお父さんもお気になさらず」
「お気になるわ と言うか お前が勇也さんをお父さんって何でそうなる!」
「ふん 何なら お父様と呼んでも良いんだぜ」
「勇也さんも悪ノリは控えてください 俺は五月とは家庭教師と生徒って関係です」
本当にここしばらくはこんなやり取りだ
昼頃に俺が心配だと五月は探しに来てくれたが、やはり今の関係は他から見てもおかしいだろう
何でここまでして俺につき合うんだろうな 六花さんならその理由も知ってそうだ
(俺が困っていれば来るとあの人は言ったけど 今は来ないんですね六花さん)
頭に浮かべるは俺の恩人の姿『自分で考えようー』と脳内では白旗を挙げている
はぁ…………五月も何時までうちで世話になるつもりだろうか
早く仲直りして彼女も姉妹達といられれば
それが一番なんだろうけど後は明日の風太郎との話次第でどう動くかだ
今回の事といい風太郎は俺が思っているよりも二乃とは上手くやれてんだよな
本人は先ほどからずっと無口を決め込んでいるけどな
いい加減お前も何かを話してほしいんだけど………。
『こっちに話を振るな』と無言ながら圧を感じる
「はぁ……」
「またため息ですか」
「何ですか 五月さーん」
「いえ 幸太郎君 やっとまともに私と会話をしてくれるようになってくれたと思いまして……」
「あぁ…………六花さんと話すまで俺も風太郎も忙しかったしな」
「先ほども会話にまざってくれましたし 無事に考えが纏まったようなら良かったです」
「まぁな………ふぁ 眠い」
「お布団敷きますか!」
「そこまでする必要はねーーよ 自分でやるわ」
「いえいえ それくらい私が」
寝るときくらいはそっとしておいてくれ
お前は自分の布団でも敷いてろ 本当にお前に関しては分からん事ばかりだよ
「お父さん 五月さんお嫁さんに貰おうよ」
「幸太郎の手綱をちゃんと持ってる辺り 五月ちゃんなら任せられそうだな」
「親父もらいはもそれくらいにしておけ 幸太郎に怒られるぞ」