「終わったー」
『『天才!』』
「えへへ………もう 一生分勉強したかも…………」
中野宅に残された 一花 三玖 四葉
その中でも最大の難問となっていた四葉は遂に渡された問題集を終え
どてーんと横たわり 二人から喝采の拍手を受けている
本人も満更ではないと笑顔で答える
「五月と二乃も今頃やってるのかな」
「居場所は分かってるし あの二人がいればね」
「きっとすぐに戻ってくる」
無事に二人から渡された問題集を終えた三人だが
家出をした残り二名の成果が気になり その話題へとシフトした
二人のうち一人は家庭教師である上杉風太郎の家にいる事は
幸太郎から聞かされており『そのうち戻るだろう』と彼からも言われている
勉強馬鹿の風太郎の家でお世話になっているそうなれば
ただで泊まらせてもらっている訳は無いだろうと一花は述べる
現状報告は随時幸太郎から聞かされているが勉強の度合いは彼女達も知らない
『五月なら大丈夫だよ』と彼がいるならと三玖は話す
一方の二乃は五月以上に現状は不明であり 二人からはそれに関しても知らされてはいない
(コータローくん もう少し三玖の気持ちも考えてあげてね)
「四葉 鳴ってるよ」
「あ もしかして…ついに二人から連絡が…ってごめん 陸上部の部長からだった」
他の姉妹の現状を話し合う中で四葉のスマホが鳴り出した
三玖の教えで早速 通知を確認したが、四葉何処か疲れた表情で肩を落とす
しかし悟られないよう 二人には笑顔で返し『あぁーお風呂入ってこようー』
立ち上がればそのまま向かってしまう
三玖と一花の心配する開いては 二乃と五月だけではない
四葉もその中の一人に数えられている
毎度の事風太郎と幸太郎は彼女を追いかけ走り その都度逃走し
『まかせてください』と彼女は言い張るのみだ 実際問題集も終わり 無事に事が終えた
…しかし 未だ陸上部から声はかかり続け 四葉はそれを断れず毎日通い続けている
「一花…」
「うん 当事者同士で解決するのが一番だと思っていたけど そうも言ってられないみたいだね」
自分が請け負った事は自分で解決すべきだろう 一花はそう考えていた
周りの助けを時には貰うそれでも自分で決着をつける事がベストだ…………
でも今回はそうも行かない 期末試験も控えているが 四葉自身はどうしたいのか
一花はそれをずっと考え 三玖も頑張るが故に四葉にその事を聞く事すら出来ない状況だ
(四葉……一人で出来る範囲にも限界があるって事 思い出してね…)
「勉強も陸上も頑張るぞ!」
そして夜は更けていく…
「朝だぞ五月起きろ」
「むぅ もう少しだけ…」
「今日は早めに出る」
「あと五分だけ…」
「そんな時間はない…」
「いいじゃないですか二乃…………! あ あの おはようございます」
「ああ おはよう」
「おーい 五月は起きたか おっすおはよう」
「幸太郎君 おはようございます!」
「えぇ…俺の頑張りは」
上杉家の一日が始まった 試験勉強も兼ねて少し早めに家を出る予定だった風太郎は
居候と化した五月に何度も声をかけるが『もう少し』と言うだけで起きる気配ない
ただ時間だけが過ぎて行った しかし『二乃』と口にした途端に五月の意識は覚醒し目を覚ます
おはようとにこやかに挨拶を交わす彼を見れば
昨日落ち込んで帰って来た人物と同じとは思えずにいた
その後はひょっこり幸太郎が顔を出せば、先程の眠そうな顔など嘘の如く元気に挨拶を返す
風太郎は改めて自分と兄の扱いの差を実感していた…。
「安心しました…私達のせいで気が沈んでいるようでしたので」
「全くだ 手を焼かせるな」
「もう大丈夫なのですか?」
「お前が心配することじゃねーよ 五月は自分の事を考えておけ」
「幸太郎の言う通りだ」
昨日の今日だ落ち込んでないと言えば嘘だろうな
二乃との約束を風太郎は破ってしまった そして俺もそれに手を貸した
結局は二乃に看破され 気づけばあいつの手がかりは無し 電話にも出ないだろうし
ラインなんて俺は知らん 五月は心配しているが、今は自分の事に集中していて欲しい
五月は気づいてないだろうがやはり他人の家だ 傍目で見ても疲れが見える
「五月は五月に出来る事がある だから心配すんな!」
「はい そこまでおっしゃるなら」
「試験勉強は順調か?」
「あの問題集も終わらせてます」
「上出来だ 一花と三玖からも連絡は来てるし 問題は…」
「そういえば に 二乃もやっているんですよね それなら安心です」
まぁ今も続けてくれているのなら…安心だろう
風太郎が、何処まで彼女と話したかは知らない
俺が知るのは二乃との電話とのやり取りだけだ…。
けど、あそこまでニ乃と話せていたのに最終的には薬で眠らされちまって 風太郎も相当堪えてるだろう
俺もあまり人の事を言えた義理じゃない
この期末試験までの間は、彼女達の事を最優先に考え行動しなければいけないだろう…。
その後は、五月達とクラスに向かい
風太郎は二乃の現状を知りたいと話す あまり気乗りしないがな
俺はあのクラスではどうも嫌われてんだよな…。
「まぁ自業自得か…」
「そう言う事は言わないでください 怒りますよ」
「五月さんは俺を叱るんですか」
「幸太郎君の為を想うならです」
「おい 夫婦喧嘩は後にしてくれ」
「誰がだ 誰が! 」
「それで 二乃はいないのか?」
隣のクラス前で五月との会話をしていれば風太郎から『夫婦喧嘩』というフレーズが飛んで来た
こいつからそんな言葉が出るとは思いもしなかったな
必死に否定するが『はいはい』と投げやりに返される
五月は急に黙りこむし 否定くらいしてくれ…。
教室から現れたのは二乃と仲の良い生徒らしく彼女から今日二乃はどうしているのか聞き込みをした
最初は物凄く嫌そうな顔で俺から視線を逸らしていたが『二乃もああ言ってたし大丈夫かな』と
何か独り言のような事を呟いている
(もしかして あの時二乃と俺に割って入った子か?)
クラスの女子は『二乃なら休むって』と風太郎に教え それを聞けば二人で頭を悩ませる
「やっぱりな 風太郎」
「あぁ…あとは信じて待つだけだ」
「痛手だな…」
「あのお二人共 朝からすこし変ですよ 何かあったのですか?」
「なんでもねぇ」
「もう一人の問題児…陸上部の助っ人さんの所にいくぞ」
退路は無い そして二乃との連絡方法も完全に絶たれた
後は二乃が何処までやってくれるかにかけるしか残った道はない
事情を知らない 五月にはチンプンカンプンだろうが、色々と俺達はやらかしたそれだけの話だ
(悪いな 二乃あんなやり方しか出来なくてよ)
本人に直接謝りたくても今 その本人はここにはいない
弱気な考えは捨て去ろう 残りの問題児 お人好しの助っ人の様子を見に行かないとな
後悔なんてあとで嫌でも出来るんだから…
昼休み 四葉が動き出したのを確認すれば風太郎と共に後を追う
気になるのだろうか五月も後ろからついてくる
中野姉妹での問題だ 五月が同行する事は別におかしい事でも無い
それだけ四葉も気になるし 先程の俺達の様子も気になってんだろうな
何処からか声が聞こえその方向に向かえば
数人の生徒と四葉が会話をしており『走りの天才 頼りにしてるよ』と一人の女子生徒が四葉に激励とばかりに賞賛の声を送っている
見ていて嫌なやり取りだ 四葉も何でそんな困った顔までして助っ人やってんだよ
隣の風太郎は『天才』というワードが出た時点で行動を開始し四葉の元まで足を運ぶ
「お前が天才とは世も末だな」
「よう 四葉 大丈夫か?」
「上杉さんにお兄さん」
「君は? …んそっちの人はまさか あの 上杉幸太郎くんか」
「んなこと関係ねーよ」
「あんたが部長か?期末試験があるのに大会の練習なんてご立派だな」
「うん 大切な大会なの試験なんて気にしてられないよ」
「あ? 試験なんて?」
「部長さん あんまり刺激すんのはやめてくれ」
「君には言われたくないな」
「っ…………」
「わーー 大丈夫です! ちゃんとやってますよ!」
部長である一人の女子生徒は何者か聞くが風太郎は答えず
話を進める 俺にいたっては知られていた 相手は運動部だ知られていても無理はねぇな…。話を続ける中で 彼女はさも当たり前かのように『勉強なんて』と言いだし
流石に風太郎もその言葉聞きづてならないのか食って掛かる
落ち着かせようと 彼女に無駄な発言は控えるよう言うが『俺にだけには言われたくない』と痛い所をついてくる 何時の間にか喧嘩腰になっていたのか 四葉が俺達の間に割って入り
大丈夫ですと心配させないようこちらを見て答えている
(俺には大丈夫そうには見えんぞ…)
「四葉無理してませんか?」
「うん問題なし」
「もういいかな? まだ走っておきたいんだけど」
「まぁ四葉がそういうなら 止めねぇよ」
「ちょ ちょっといいんですか?」
「俺達も走っか…運動不足だろう風太郎」
「そうだな 走る分なら 邪魔にもならない」
五月の呼びかけにもこの反応ならば強行手段も辞さない
風太郎と俺は袖をまくれば軽くストレッチをし 走り込みに参加すると部長に声をかける
『ご勝手に幸太郎さん』と全く過去を知る相手は面倒この上ないな
(幸太郎君 あの方と何かあったんですか?)
(あの子個人とは今回が初顔合わせだ 同学年だった子だ 俺の噂を聞いて敵視してんだろ)
(幸太郎君ら何もしてないのに何でそんな事をされるんですか 納得できません!)
(まぁ 運動部は俺が嫌いだしな 色々とあったんだよ まぁ五月は待っててくれ)
どいつもこいつも理由も知らずに適当言いやがってな
流石に俺はあの野球部を庇護する奴はどうかと思うがな…。
相当学園内だけでは 外面が良かったんだろうな 耳が痛くなる言葉だよ
「さて 久々に本気で走るか」
「幸太郎君 無理だけしないようにお願いします」
「はいはい」
五月さんから何時もの言葉をいただけば俺も足を動かし
去って行った風太郎達を追う事にした 今は少しでも四葉の近くであいつの本心を聞けるチャンスを伺わねぇとな あの女は『頼りにしてるよ 走りの天才』とぬかしていた
本人は四葉をここに押しとどめる為に言っている言葉だろうが…。
言っている本人は何んも分かんねぇんだろうな
期待され頼りにされる奴はどれだけそのプレッシャーに怯えているかを
何処までその期待に応えないといけないのかって事にさ
四葉を第二の俺みたいにさせる訳には行かねぇ…。
「あと5周!」
「はぁ……ゼェ…し 死ぬ」
「風太郎 無理はすんなよ」
「お おまえもやっぱ大概だ」
校舎を回る事5周折り返しになって来たのか
風太郎も限界に近く 息も荒いし軽く喘息のようになっている
チラチラと後ろを振り返る四葉はどうにも身が入らない様子で部長は何度も声をかける
「上杉さんもうやめた方が…」
「まだだ!」
四葉でなくとも心配はするだろう
でも風太郎も意地だここは引かない
「フランスのルイ14世が造営した宮殿は」
「ベルリンの宮殿」
(王宮だ)
「『走れメロス』の著者は?」
「太宰龍之介!」
(太宰治と芥川混ざってんぞ)
「周期表四番の元素は?」
「すいへーいりーべーべリウム!」
(僕の船ーーー!)
((全部微妙に間違ってる))
息も絶え絶えの中で彼女の頑張りを確認する
自信満々に答えてはいるが絶妙に違い 何故か混ざり合ってる答えまで存在している
でも以前なら これを答えるのも不可能だった
そう思えば、彼女は確かにこの数日間頑張っている事が伺える けど、果たしてこのままで良いのか……
「だが予想以上に覚えている 本気で両立するつもりかって!」
「無理しゃちダメですよ もう休んでいてください 私は平気です お兄さん 上杉さんをお願いします」
「了解だ 風太郎出直すぞ……四葉 一言言わせてくれ 無理をして得られるもんはたかが知れてるぞ」
「……では私はこれで!」
顔を伏せたまま四葉は陸上部の元まで走って行く
疲れ果てた風太郎を担ぎ一度態勢を整える為 俺もここから場所を変えた
本当に彼女が何をしたいのか 何を言いたいのか
あの部長ではなく 四葉自身の口からそれを聞きたい
大丈夫とは誰でも言える けど大抵その言葉を使う時人間はギリギリまで追い詰められてる時なんだよ…。
だが、これ以上下手に動けない…だから俺達は最後の最後までお前を信じる…お前からこっちに歩み寄って来ることをさ
「この土日で合宿を行う」
「それはちょっと…………」
「中野さん あなたは走るために生まれてきたの 私が あなたを立派なランナーにしてあげる」
「は……はい」
俺達のあずかり知れぬ所で 四葉はまた更なる試練が待っていた
中野四葉は洗面台で歯ブラシを口にいれ ぼーっと鏡を見ている
左手に握られたスマホには 宛名上杉風太郎となっており
文章を書いては消し 書いては消しの繰り返し 何をすれば良いのか
どうすれば上手くいくのだろう 考えれば考えるほど状況は最悪になる一方で
気づけばテスト勉強の暇すらも消え 睡眠もまともに取れないといった悪循環
このまま彼にこれを送れば 自分は彼等と共にいれるのだろうか
でもそれは 陸上部への裏切りなのでは…………送信を押そうとする指はその場で固まる
『無理をして得られるもんはたかが知れてるぞ』
彼の兄が自分に投げかけた言葉が妙に刺さる 本当は自分でも分かっているのだろう
この状況は良くないと…………けど 困っているならそれを助ける
それが自分なんだと四葉は何度も何度も自分に言い聞かせた
「送らないの?」
「うわぁっ 一花~心臓に悪いよ」
「私も歯磨き~」
突然 かけられた声に彼女は肩をびくっとさせ横を見る
ニヤリと笑う中野姉妹の長女 一花だ
自分も歯磨きをするため ここにいる 見てみればスマホ片手に歯ブラシを咥えてるだけの妹がいた
そう言われてしまえば四葉は黙って俯く
『まだ 磨けていない』と一花が四葉の歯を磨くと言い 抵抗も虚しく
彼女の言葉に押される四葉は口を開け 一花は歯ブラシを妹の口に入れた
何とも懐かしい感覚だと 彼女は言う 四葉も何処か気恥ずかしさが残るがこの感覚は嫌いではない
ただ 自分が感じた その味は自分の知らないものだ
『これが大人の味なのだ』と一花なりのいたずらを受ける
そのままされるがまま身を任せた ふと一花は『無理してるから口内炎出来てるよ』と
五月達と同じく 自分が無理をしていると指摘を受ける
大丈夫 無理はしていないと笑顔を作り誤魔化そうにも 一花相手に作り笑いも演技も効果はない
「どれだけ大きくなっても 四葉は妹なんだから お姉ちゃんを頼ってくれないかな」
「私…………部活辞めちゃダメかな…………」
「やめてもいいんだよ…………」
その言葉は本心から出た 彼女の言葉だろう
聞きたかった言葉だ これで妹の力になれると……。
しかし 四葉は 姉の言葉でハッと我に返る ダメだダメだ
自分はこんな事は言ってはいけない そう誓った筈だ
「や やっぱだめだよ! みんなに迷惑かけちゃう 勉強とも両立できてるんだ 一花がお姉さんぶるから変なこと言っちゃった 同い年なのに」
笑って誤魔化し そのまま一花から逃れれば 自分も大人だと主張するが
姉も負けていない 洗濯機から一着の下着を見せれば 四葉も慌てだす
『お子様だよ』と…………
「しまっといて! 上杉さんとお兄さんが来た時は見せないでね」
「はーい」
ぷんすかと少々機嫌が損なわれた四葉は姉をおいて先に洗面所から去って行く
手を振り見送る一花だが…………しまっておいたそれを取り出した
スマホには上杉幸太郎と表示されている
「二人共 ちゃんと聞こえてた?」
『『お子様パンツ』』
「よかった」
「明日 陸上部のとこ行こうと思う 君達はどうする?」
「行くに決まってる」
「あいつを助ける!」
「よし 私は私で頑張るからさ 三玖任せたよ」
通話ボタンを切れば 一花は外を眺める
自分が今すべきこと それは妹を解放させる
そして もう一人の妹に家出した妹の説得を任せ信じる事のみだ
「お邪魔します」
「私にプライバシーは無いのかしら」
中野二乃と中野三玖 数日ぶりの話し合いだ