翌日 ケーキ屋Revivalでのバイト中だ
俺は店長の指示で厨房で皿洗いに勤しむ
一方 風太郎は店長の作るアップルパイを自らも真似て作る事で厨房入りを目指し
給料のランクアップを要求している
家庭教師のアルバイトは実質的には無賃だ 善意で行っているようなもんで
それ故にだろう バイト代が上がる方法を弟なりに模索しているのだ
ただ食料品を出す以上は味や見た目に最善の注意を払う必要があり
下手な品物は店頭には並べる事はできない
果たして弟は 我らが雇い主 その味は彼の舌を唸らせるのだろうか?
「うーん 上杉君 君も一口食べてごらん」
「えっ………はい うぅ!」
「どうだ 幸太郎! これは自信作だ」
「お前も食ってみろ」
眉を顰める店長は俺にも味見を頼み
一切れ口にしたが、正直言えば不味い 確かに俺は味音痴であるがある程度は
判断つける舌は持っている 風太郎が作ったパイは
【愛情ではなく 欲望まみれの味がした】
給料を上げて欲しいって気持ちがひしひしと伝わってくるが
客を安心させる気持ちがこのパイには微塵も感じない
「はっそんな筈はない 完璧に…… おっえええ これは三玖のことバカにできねぇな」
自らの作品に自信を持つ彼だが一口食べれば前言撤回その場で吐いてしまう
落ち込む弟の肩に手をのせ『まだ無理だ』と先輩から一言
「掃除終わりましたって 店長さんのお手製ですか!一つ頂いてもいいですか?」
「あっ 真弓ちゃん!」
掃除を終えて戻ってきた後輩は目の前にある見た目だけは完璧なそれに手を伸ばす
制止しようにも彼女の方が早く 間に合わない パクっとそれを口にした途端に顔が真っ青に変わる
「あむ むむむ 何ですかこれは!?」
「真弓ちゃん 安易に変なもん口にするな ほれ水だ」
「あ ありがとうございます先輩」
一声かけるべきだったな 目の前で苦しむ後輩は吐く事も出来ず
頑張って飲み込んでいた 気休めだろうけどコップに水を汲み彼女に呑ませる
何とか大事な後輩を失わずに済んだな 災難だったな。
「これ 風太郎さんのですか」
「まぁ うん 見た目は完璧だったろ?」
「見た目はですよ! 何で中がべたべたしてて酸っぱいんですか」
「これは 焼き加減の問題もあるな 風太郎 もう少し練習しろ」
「何故 兄弟でここまで差が出る!」
「お前は欲が出過ぎだ……」
確かに見栄えは完璧だろうけど味はひどい
三玖の作る料理は見た目も味もまだまだろうけど人に食べてもらいたいと言う気持ちがある分、風太郎よりは勝っている
「厨房に入るのはまだまだ先だね… 自分の片付けといて
あっそうそう 上杉君に弟君 それに須藤ちゃんもう帰っていいから お疲れ」
「おい 風太郎のせいでクビになったぞ?」
「はわわ 何故に私まで 風太郎さんのせいで…」
明日からまた新しいバイト先見つけるかぁ……
って言っても店長の事 要件を飛ばしているだけだろうな
「違うよ 今日は午後から休みだから映画の撮影に店を貸すことになってるから」
「はやく言ってくださいよ」
「よ 良かった ここのお店割とお給料いいので焦りました」
「しっかし撮影ね なーんか他人の気がしないんだけどな」
クビはまぬがれたが、今日は店じまいと言うのは割とまじだった
真弓ちゃんに掃除を頼んだのも清潔を保つ以外
今からここで行われる撮影で汚い所を見せる訳にも行かないしな
その時に事情を説明してくれればいいのではと出そうになった言葉を押しとどめる
「主演は今を時めくみぃちゃん。りなりなやこんタンも出るらしい。生で見れちゃうかもよ・・・」
「詳しいですね・・・」
「店長の意外な一面だ」
映画なんて一花が出る作品以外全く興味ないからな
言われた所でピンと来ねぇ―な…。
「私は見学していきます サイン欲しいなー」
「真弓ちゃんはこう言うの好きだねー」
「先輩たちが興味なさすぎるんです! では一緒に」
「では帰ります。1人たりとも知らないんで。お疲れっした~」
「風太郎 お前はなぁ……映画の撮影ね 邪魔になると悪いし 俺も今日はあがります」
「そうかい。まぁ、僕もあんまり詳しくないんだけどね」
何か参考になればと思ったけど 素人が一花に何をアドバイスできるのか?
撮影も始まれば邪魔にもなってしまうさっさと支度して帰ろっかな
一花も勉強が遅れてるだろうし 今日ならば家にもいた筈
確認したくても俺のスマホは使い物にはならない……。
「失礼します。今日はよろしくお願いします」
撮影スタッフだろうか 何人か入って来れば更に女優らしい人物が数人入りにこやかスマイル
「わー!おいしそー!」
「よろしくお願いしまーす!」
「きた サインもらっちゃお……」
「私も行ってきます!」
「ミーハーかよ」
「ミーハーっすね」
何処から出したんだ? 色紙片手に二人は行ってしまう
見送った俺達は帰り支度を始めるべく奥に戻ろう そう考えていた
何故だろうか……ある一人の女優が店に現れた事で俺達の足はその場で止まる……。
「よろしくお願いしまー・・・すぅ・・・」
「あっ…………」
「あぁ このお店は確か!」
「店長 さーせん 気が変わりました」
「俺もです店長……。よ~く知ってる女優がいましたわ」
俺達の視線の先にいる人物 たいして女優にも詳しくない俺達だけど
その人物はいやという程知っているんだ……。
中野姉妹の長女 中野一花だからな