上杉幸太郎と六等分の思い出   作:Aikk

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第六十三話 不良少年と長女のお芝居

「カメラチェックしまーす」

 

「ケーキ用意してもらってる?」

 

「台本確認しよっと」

 

「照明どこに置きましょう?」

 

いそいそと周りが慌ただしくなる中 俺達は無言だ

 

 

「・・・ふぅ・・・。よろしくお願いしまーす!」

 

先に動いたのは一花だ

最初は動揺していたが、見なかった事にしたんだろう

他の女優達の元に向かって行く

彼女の存在に気づいた真弓は目がハートだ 俺以上に一花のファンと言っても過言じゃないだろうな

 

女優の仕事は順調なんだろう それが見れれば俺も安心できる

しかし それは私生活にまで影響を出すほどだ……。

見なかった事には出来ないな 一花を支えると言ったんだ 今日の撮影は見届けよう

 

風太郎も気になるのだろう 店長の元へと向かえば適当な理由でこのまま残ると話す

 

 

「先輩 先輩! 一花さんですよ」

「あぁ 俺も見て行くわ」

「それにしても……冬休みの書き入れ時に撮影なんてよく許可したよな」

「確かにな……」

 

あの店長がこの時期を見逃すはずはない 何か策はあるんだろうか?

弟のふとした疑問を投げかければ店長は答える

 

「ふふふ、この頃は向かいにある糞パン屋にお客を取られてる厳しい状況でね。もしこの映画がヒットしたら聖地としてファンが押し寄せるに違いないよ・・・!」

 

抜け目がないな この先の事も考えての採用だった

宣伝4割 対抗6割と言ったところだろうな

店長の対抗意識は物凄いもんだからな まじで向うの女店長と何があったんだ?

 

「とりあえず撮影に使うこのパイに店名の入ったピックを差し込むんだよ。上杉君、弟君、真弓ちゃん

手伝ってくれ。積極的にさりげなくアピールするぞ」

 

「すごい やる気を感じます!」

 

「店長目が生き生きしてんな-」

 

「見習いたいハングリー精神だな・・・」

 

ある意味では風太郎の理想像だろうな店長のこの姿は……

並べられたパイの上に 店名が記載されてピックを差し込む作業が開始され

さりげない全国アピールを狙うようだ

 

「あぁ そうだ 上杉君 例の件 任せて良いんだよね?」

「はい その日は空けておきました」

「向こうには話は通してあるからよろしくね」

「? 先輩何の話ですか」

「ん? 店長の知り合いが営むカフェなんだけど 人手が足りなくてな 暫くそこの助っ人にな」

「店長が良く許したな」

「あぁ…………うちの店のケーキを並べるって条件付きでな」

「店長らしいですね」

 

街の方に店舗を構えるとあるカフェ

そこに短期の助っ人として俺は店長の推薦もあり出向く事になっている

勿論俺がどんな人物か店長の口から知らせているし向こうの店長さんも『ОKОK』と物凄く軽かった

その条件として店長は暫くうちを宣伝して欲しい 願わくば『コラボ的な感じで並べてほしい』

飢えぬハングリー精神だよ…………。

 

「リハーサルを開始しまーす!こちらのパイでよろしいですね?」

 

「ええ!できればこっちの向きでお願いします!」

 

本番まであと少しなのだろう スタッフの人が並べられたパイを運んでいく

店長は終始 名前が見える方を向けて欲しいと念を推している

 

「いよいよですね 先輩 風太郎さん」

 

「真弓が何でびくびくしてんだよ」

 

「だって 知り合いが出てるんですよ 緊張しますよ! あぁ一花さん可愛いな」

「わかる すごく可愛い」

 

後輩とは意見が合うな

呆気にとられあの時は言えなかったが普段は見れない一花の姿だ

とても可愛らしいな 普段は大人びて見えるから余計にそう感じるんだろうな

 

「にしても・・・さすがに雰囲気があるな・・・真弓の言う事は強ち間違ってないな」

 

準備もほぼ終え スタッフの人達や関わる女優陣から発せられる 独特の雰囲気

ごくりと唾を飲む風太郎 彼も緊張し始めている

 

「では シーン37の4…3、2、1…アクション!!」

 

いよいよ 来るぞ!

 

「ここのケーキ屋さん、一度来てみたかったのです~」

 

「ん」

「え」

「は」

 

時間が止まった

あの言動 本当にあの一花なのか? 普段見せるお姉さんキャラとは真反対だ

ぶりっ子と言うんだろうな 一花は語尾を~と伸ばし そのキャラを演じ切っている

 

「タマコ!そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 

「え~?何の話です~?」

 

「それ呪いのリプライだよ!」

 

「送られると死んじゃうっていう・・・」

 

「う~ん・・・タマコには難しくてよくわからないのです~それよりケーキを食べるのです~」

 

雰囲気以前の問題だったと風太郎は口にする

呆れているのか脱力しているのかといった感じで眺めており

店長曰く『ホラー映画』らしい…女子校感でのホラー映画か 人間のがえぐいタイプだぞ

真弓ちゃんは『可愛い』の連呼だ 語彙力が死んでおられる

 

「なぁ……真弓ちゃん」

「な なんですか先輩!」

「リプライってなんだ? RTって レベニュートンの事か」

「あぁー 先輩 入院する前もTwitter使ってなかったですからね SMSと言うものの中で使われるスラングの一つです。兄も使ってますよ」

 

知らぬ単語が出てくれば 俺にはまさにホラーに見える

一花は何時の間にそんな知らぬ単語を学んでいたんだろうと別の意味で真剣に悩んでいた

どうやらその単語自体は俺が入院する前から使われていたとか…

須藤ですら使っていたと衝撃を受けていた

 

そんな俺をおいて撮影は続く

風太郎は一旦席を外し トイレに行っている

 

演技を続ける一花を見ていればふと口から言葉も出てしまう

 

「それにしても 一花の配役 あれで大丈夫なのか? 間違ってない?」

「間違ってないよ。一花ちゃんは幅広い役を演じられる女優だと私は信じている」

 

突然横から声が聞こえ 視線を送れば

あのおっさんが飲み物片手に立っている 何時の間に現れた…。

 

「上杉君だったね 久しぶり」

「あぁ あの時はどうもです その菊は元気ですか?」

「かわらずだね でも前よりは笑顔は見せてるよ」

 

一花をスカウトした男性 あの祭りの際に俺の前に現れ

彼女とはどんな関係かと聞いてきた 社長さんだ

挨拶も交え 娘さんはどうかと尋ねればかわらず元気らしく 

俺や風太郎に憎まれ口もちらほら目立つと楽しそうに教えてくれた 

 

「一花は無理してませんか…」

「どうかな 彼女はそう言った事 口には出さないからね」

「そうですね…でもああやって演技してる姿 生き生きしていて あいつはやりたい事を全力で出来ている…本当にそれを嬉しく思います」

「迷っていた彼女の背中を押したのは他でもない君だ 君さえ良ければうちで働いてみない?

 君には人を突き動かす 何かしらの素質を感じるんだ 一花ちゃんの才能を見抜いた目だ

 どうかな?」

「残念ながら お断りさせていただきます 俺のやるべ事はあいつの帰る場所で

 あいつを支える事です あいつが女優業の中で無理をしないようにするのが社長さんの仕事でしょ」

「そうかもしれないね 彼女にもそういった場所はあるからね…分かった今回は挨拶も兼ねてだったからね 上杉君 一花ちゃんを頼んだよ」

 

まさか一花の働くプロダクションからお誘いが来るとは予想外だった

一花の才能を見抜き 開花させたのが彼ならそれの彼女の背中を押したのが他でもない俺だと

社長は言っていた 実際は俺が一花の存在に感化されたに過ぎない

俺に取って一花は憧れだ 夢を追い そしてそれに着実に向かって行く彼女の姿は俺には眩しく

けして届く事のない大きなもんだ その彼女が安らげる日常でアイツが無理をしないよう見守る

俺に出来るのはそんくらいだ 俺自身プロデューサーってのもがらじゃないしな

 

 

俺との話で満足したんだろうか社長さんはスタッフ側の方へと戻って行った

あの人には感謝しないとな…大変だろうけど今の一花は本当に楽しそうで充実している

風太郎は悪いと思ってる 一花に甘いと言う あの言葉も自覚はしてるんだ

罪滅ぼしなのかもしれないな…

 

 

 

「?どうした?」

 

「次、一花だよ?」

 

「え?あ・・・すみません・・・ちょっといいですか?」

 

「カーット!」

 

 

俺が感傷に更け込む間に撮影は一度中断され

一花が俺の元まで歩み寄ってくる

 

そのまま店側への許可をとればずるずると俺は連行されていく

まてまて 一体何のようだ?

 

 

 

物置部屋まで連れて行かれれば 何故か壁ドンを受けている

顔を真っ赤にしている一花 俺の相手なんかせずに撮影に集中すればいいものを…

 

「どうした タマコちゃん?」

 

「コータロー君…恥ずかしいからあんまり見ないでくれるかな?///

 あとその呼び方も出来ればやめて欲しいな…」

 

「あっ 悪い悪い それでなんだ俺だけ呼び出して?」

「フータロー君は急に何処か行っちゃうし コータロー君は社長と何か話してるしさ」

「あいつはトイレだ それに俺は別にあのおっさんとは何も話してねぇよ

  菊は元気かーってくらいの世間話だ 一花が気にするような事はなしだ」

「そ そうなんだ」

 

元は風太郎も呼び出す筈だったのか見れば俺しかいない

一花も驚いただろうな それに働いてる事務所の社長がお店の店員と話してる姿が目に入れば

声もかけてくるだろうさ

 

「それで 何で俺をここまで呼びだした? 何か重要な事か?」

「みんなには誤魔化してるけど貯金が心許なくてね・・・」

「そりゃそうだ 一人でも大変だろう生活をお前が支えてんだ」

「いやー、食費やら光熱費やらって、思ったよりお金がかかるもんだからまいるよ。だからどんな小さな仕事でも引き受けるって決めたんだ。あの子たちのためにも、私が頑張らなきゃ・・・」

 

それは当たり前の現実だ 人一人生きていくのがやっと 

その中で一花は一人で4人の妹の生活までカバーすると家を出たんだ

本人が思っていた以上に大変だった だから少しでも無理をする必要があると

受けれる仕事はなるべく受ける……

 

 

ぽん

 

「一花……頑張ってるな」

「えっ……」

「安心しろ 俺はお前の仕事を否定はしない 言ったろお前の為ならやれる事はするって

 それにだ 家庭教師をもう一度やれるチャンスをくれた恩がある 今は仕事に専念してくれ……でも…………」

「でも?」

「お前がそこまで無理をし続ける 姿を俺はあまり見たくないな…風太郎も止めはしないだろうが、きっと俺と同じ事言うはずだ お前は今のままやり続けるんだな?」

「コータロー君お願い……今は私の言う事を聞いて……」

 

正直言えば少しは自分の為に休んで欲しいと言うのが本音だ

問いを投げかけるが多分彼女は止まらないだろう 中野一花とはそう言う人間だ

やはりというか 伊達に四葉の姉でないな

止めるつもりは毛頭ないけど一応は聞くべきだろう

 

「でないと これをばら撒くよ」

「何とも懐かしい 写真だな…………ばら撒くねぇ」

「あっ…………今のなしで」

「はぁ…………五月から聞いたんだろうな 気にすんな 前以上は気にはしないさ」

 

一花は前言撤回と画面を戻す

『写真をばら撒く』と言う発言で彼女の表情は一瞬変わった

もう誰から聞いたのか、一発で分かる 軽くだろうけど俺の過去を五月から聞かされたんだろうな

 

「何も そこまで気にすることはねぇーよ 当時の俺ならつゆ知らず……今は何も思わんし それにその写真は良い思い出だ」

「それでもごめんね」

「一花 俺はお前を止めないさ お前がやりたい事を俺は肯定する

 でももし辛くなったらさ 俺に言え 長男と長女だ 悩みは共通出来るさ」

「うん その時はお願いするね コータロー君も疲れたらまた膝枕してあげるからね…あの時はあまりにもぐっすりだったから起こすの悪いと思ってさ」

「いい感触だったしな…………」

 

疲れからの睡眠でいつの間にか爆睡で一花から起こされた

翌日には実は膝枕でしたと明かされたけど 余り深くは考えず適当に流そうとも考えてたな

一花もオーデイションで疲れてたのに膝枕かお疲れ様だよ……。

 

 

「って 言う事で今回の事はお姉さんとの秘密って事で」

「了解だ それと風太郎にもそれとなく伝えておく一応は共有しないとまずいだろうしな」

「うんフータロー君との連携は任せたよ お兄ちゃん」

「姉なのか妹なのかハッキリしてくれ…………」

 

一花との軽い打ち合わせが終われば風太郎も既に戻って来ていた

幾ら胃袋が強かろうとあたる時にはあたるらしいなお腹をさすっている

先程の話を軽く伝えれば『はぁ…………』と大きくため息だ 今日は胃薬が大盛況といった感じか

 

 

「う~ん、おいしいのです~」

 

 

「はいカットー!」

 

「一花ちゃん、今のいいねー!今のもいいけど、もう一パターンいってみようか!」

 

「はい!」

 

撮影も滞りなく進んでいるようで安心だ

事情も伝えた事で一花も仕事に集中出来てるし問題はもう起こらんだろうな

ふぅ…………安堵のため息を漏らす

 

何度かスタッフの方々が移動し序盤の撮影も佳境に迫る中

一人の男性スタッフが手にする パイを見て俺は何か違和感を覚える

この撮影の為だろう 今日は店長と共にパイを作っていた

その後明かされた事情で風太郎達と三名で店長の手伝いでパイにピックを差し込み

店の名前を広める作戦  今しがた通って行ったスタッフが手にするパイは差さってなかった

 

(まさかっ!)

 

それに気づいた頃には既に手遅れだ

あのパイは他でもない風太郎が作った何とも微妙な味のするパイだ

他と区別するため 端の退かして置いたがきちんと処理すべきだった

 

「それは!」

 

「スタンバイできました!」

 

 

「本番!3、2、1・・・アクション!!」

 

 

 

ぱくっ

 

 

「う~ん、おいしいのです~」

 

 

とてもいい笑顔だ 一花はあのパイを食べた

それを表情にも出さずまるで本当にそれが美味しかのように

隣で見守っていた弟も『困った生徒だ』と何処か恥ずかしそうに口からもらす

同時に俺は改めて 一花の演技に心を掴まれた…。

 

(お前はすごいよ 一花…)

 

彼女の浮かべたその満面の笑みを俺は頭に刻み込んだ…。

 

 

その後は休憩に入った

風太郎も用事があると話すとそそくさと帰って行く

どうにもさっきの演技を見て会うのが気恥ずかしいんだろうかうぶな弟だ

店長はスタッフや女優の方々に差し入れとしてケーキを振る舞っている

 

「さて 一花は何処か…って これ台本だ あいつ落としたのか?」

 

一花に差し入れをしようと思ったが何処にも居らず

彼女の名前が書かれた台本だけが落ちていた

休憩している場所は何処だろうかと近くのスタッフに声をかければ

奥の方で見かけたと教えてくれた 届けないとアイツも困るだろうしな

 

 

「一花さん 問五が違うぞ?」

 

そこには必死に勉強に取り組む一花の姿があった

俺達は『遅れてるからな』と話していたが、どうやらそうでもなさそうだ

彼女の疲れは仕事もあるし その合間にこうして勉強も忘れずにやっていた事も要因だろうか

人には見えない所で努力する 中野一花はそういった人間なんだな…。

 

「隠す必要はねーよ ありがとな 勉強しててくれてさ」

「こういうのは陰でやってる方がかっこいいんだよ」

「確かにな…はい 擦ったりんごだ あれだけ撮影で食べれば胃も驚くだろうさ」

「ふふ 君は本当に気配りが上手いね ありがとね」

「まぁ こんくらいしか出来んからな…」

 

先程の厨房でりんごを擦って来た

ヨーグルトも良いだろうけど切らしていたらしい

在庫確認しなかった俺のミスだな…。

そう言う訳で擦ったりんごだ

 

「それで 台本の方は見なくて良いのか?」

「うん 内容は全部覚えたから」

「勉強の方もそうなら 風太郎も気が楽なんだけどな」

 

台本を返す物の一花は既に内容は覚えたと横の方に置いてしまう

 

「あはは…私の役は序盤で呪い殺されるから、出番が極端に少ないんだよねー」

「おう デジャヴ」

 

まさか死国の再来とはな

チョイ役だからという訳で覚える台詞も少ないと彼女は笑いながら話す

 

「あ、そうそう…っていうか…ここのケーキ大丈夫?何というか…よく言えば個性的な味…悪く言えば三玖の手料理だったんだけど…」

 

「こちらの不手際です 申し訳ない」

 

確かにあれはひどいもんだけど

三玖の手料理はまだ愛情がある分ましだろう 風太郎のあれは欲望にまみれていた…。

 

「でも 流石だよ 一花 お前の演技さ 正直言えばさ…あの笑顔さ 見惚れた

 本当に いい笑顔ですませんだもんな すげーよ一花は

 お前は立派に女優なんだなって…………これからも応援させてくれ」

 

「…………!」

 

「それでさ 一花 頼もうと思ってたんだけど………後でサインって

 寝てるのか…………今日はお疲れだったよな 頑張ったな一花」

 

余程疲れていたの緊張の糸が途切れたの寄りかかるようにして一花は眠っていた

せっかくのチャンスとサインを貰おうかと思ったけど…………今度でもいいか

 

「今度はさ 三玖と俺達だけじゃなく みんなで観に行きたいな………」

 

 

(こんな時まで演技だなんて…………これじゃ嘘つきだよ でもこんな顔見せられないよ ありがとうコータロー君…………。)

 

トクントクン 中野一花の胸の高鳴り 少年が何かを語る度彼女の気持ちを表すかのように鳴り響く

彼女が抱くその気持ちは果たしてどういった感情なのだろう

本人も未だそれを胸に秘め決して出そうとはしない…………。

 

 

 

 

ちなみにあの映画は爆発的ヒットなんて都合のいいようにならなかったが、とあるシーンで男の霊が二人も映っていると噂になり、彼等のバイト先で心霊スポットとして一部のファンの聖地となったようだ。

 

 

 

 

 

 

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