上杉幸太郎と六等分の思い出   作:Aikk

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最後試験 三玖~四葉~五月~一花~二乃とそれぞれ繋ぐ形にやらせてもらいます
四葉sideは原作通りなので内容自体はカットしてますちゃんと風太郎君が話してくれます 一花とのやり取りが幸太郎なので完全に初耳です
三玖sideと一花sideと五月sideは幸太郎がメインです


第六十五話 不良少年と最後の試験

 

 

「それでは 試験開始します」

 

 

この試験で目指すのは赤点回避だけじゃない

他の姉妹にも負けたくない……あの日そう決めたんだ

 

 

3月決意を固め 中野三玖は全てがかかる大一番 期末試験へと挑む

この一日が自分とそして彼らとの今後を左右する負けられない一戦である

   もう彼を一人にはさせない為にも…………。

 

 

 

 

 

「冬休みも終わっちゃったね」

「あんたたちのクラスも進路希望調査もらった?」

「何 書けばいいかわからない」

「一花はすぐ書けるよね」

「うーん まだ学校には言ってないんだよね」

 

「よーし集まってるな」

「うーっす さて今日も授業を…」

 

「やりましょう……… ぜひやってください!」

 

「気合入ってるな………」

 

 

中野姉妹の家に訪れれば気合十分な五月に一声で周囲の目も自然と彼女に集まる

あれだけ父親に大見得切ったんだ 五月にかかるプレッシャーは相当だろうな

風太郎も押され気味だ 合格ラインは30点越えと宣言し五月も『やります!』

空回りしないか不安だな…………。

 

「気合入れるのはいいけど 無理はきんも…………」

「わーーー! 幸太郎君 鼻血が出てます まさかぶつけたんですか!?具合でも」

「エッチな本でも見たんじゃない?」

「んなも 読まんわ! 読むなら求人雑誌だ、五月も落ち着け」

 

五月に一旦肩の力を落とすよう伝えようと声をかけるも言い切る前に俺の言葉は途切れ

そのかわりだろうか鼻からは赤い線が伸びる

一花からいらん疑惑までかけられる始末だ そんな本誰が読むかよ

五月も五月だ 最近は大人しいかと思っていたんだが鼻血見れば慌てふためきスマホを取り出し

『救急車を呼びましょう !110でしたね』 普通に間違ってる

こいつは俺を警察に突き出すつもりなのか? 焦るの程がるわ

 

「うーん…………別にどこも悪くねぇよ 最近三玖がやけに市販のチョコよこすからさ

 食ってんだよ食うだけなら害はないさ」

 

「今日も持ってきた 食べてコータロー」

 

「はいよ あむ うーん わからんな」

 

ここ暫くは出会う度に三玖が口にチョコを突っ込んでくる

最初は困惑したが悪意がある訳じゃないんだろうし飽きるまで付き合うのも悪く無いだろう

鼻血はちょくちょくでて勘違いされる事がちらほらあるくらいだしな…………。

風太郎もおすそ分けとして何個もらってるし特に意味はないと思う

 

「あら 丁度甘いものが食べたかったの」

「二乃にはあげない」

「はぁ? 独り占めしないでよ」

「しないよ まだ」

 

不穏な空気を感じ一度五月や風太郎とアイコンタクトをし

何時でも動けるよう準備はしていたが、問題は起きる事無く

はぁ………とため息

 

でも問題は確かにあった

先ほど持っていたチョコを俺の前にずーらっと並べ始める三玖何をしてるんです?

 

 

「コータロー 全部食べて感想教えて」

「はいよー あむ 市販のものだとどうもなー」

「わ 私も一つくらいは」

「だめ 五月は一つじゃ止まらない」

「残念だったな~五月さん…ぁむ、うーん…市販の味だな」

「フータローも一口どうぞ」

「おぉ 悪いな……うーんチョコだな」

「なっ 上杉君は良いのに私がダメとは納得がいきません」

 

 

(あっ そっかバレンタインなんて 今まで意識したことなかったよ)

 

「ん?」

 

手当たり次第にチョコを食べる中 一花が神妙な面持ちで三玖の方をじっと眺めていた

この二人に関しては何の問題も無さそうだけど………大丈夫だよな?

 

 

 

ーーーーーー

 

 

中野三玖は悩んでいた 朝早く起きては台所でうーんと頷き 何度かレシピを見直す

その悩みも姉である中野一花が連れてくるある人物に教えられれば解決する筈

うだうだと考えていては、作りたいのも作れない よしと気合を入れ直す

 

「あれ? 一人で何してんのよ」

 

「二乃…今日は学校で勉強会の筈じゃ………」

 

「一花に呼ばれて戻って来たのよ」

 

「えっ 一花の言ってた人って……………………。」

 

姉が言っていた 料理の上手いとびっきりの人物とは、中野家の次女で何かと三玖とはいざこざを起こしてしまう 二乃だった…。 心の中で『うわ』と期待よりも不安の方が大きく 登場すれば

自然と口は閉じてしまう……………………

 

 

 

ドン

 

『『!?』』

 

無言の二人は突如として聞こえた物音でその場で抱き合う

 

「あっ…………」

 

「何よ 今のびっくりした……って こっちにもびっくりだわ」

 

「……………………」

 

「美味しくなさそうだし滅茶苦茶じゃない こんなのあげて誰が喜ぶのよ

あんたは味音痴と不器用のダブルパンチなんだから……おとなしく市販のチョコでも」

 

ちらりと目配せ 何時もならムキになった三玖は話も聞かず

自分と意見が食い違い何もしないまま終わっている……。

一花に頼まれ来たもののある程度は、三玖に現実を見せる必要もある ただ褒めるだけでは何の成長もならない…………。

 

 

うるさい

 

「ㇶッ……………………」

 

思っていた反応と違った

静かな声は怒ると言うよりも落ち込むでいるようにも見える

どんよりとした空気が広がりだし、言い過ぎたと二乃は彼女を元気づけるべく頭に浮かんだ言葉を並べ慰める 暫くすればぽつりと小さく声を出し語りだす

 

 

「コータローはどんなものも美味しいって言ってくれる だからなのか私もあれこれと市販のチョコを渡して様子を見てた 本当に不器用だなって自分でも分かってるよ でもあの日のお礼もあるからちゃんと喜んで欲しいんだ……………だから 作り方を教えてくださいお願いします……。 」

 

 

上杉幸太郎はとんでもない味音痴だ 適当に食を済ませ 腹に入れば同じと豪語する

ただそんな彼にも譲れないものがあり 二乃はその事を痛い程理解していた

 

彼が美味しさを決める基準はどれだけ作り手の愛情が、その料理に入っているかで判断

誰もが嫌がる不味い料理でも彼はそれを美味しいとペロリとたいらげる

素直に嬉しく でも何処か納得が行かないのが三玖の本心だ

今回渡す 彼へのチョコはバレンタインであると同時にあの日自分を庇い事故に遭った彼への感謝も込められている だからこそ……。 本当の意味での美味しいと言う言葉が彼女は聞きたい

 

 

真剣にそして 真っ直ぐで不器用な三玖の姿

普段ならきっと断っていた 自分で頑張りなさいと軽い言葉で済ませた

でも 今回はどうもそうはいかない  高校一年のあの日から暫く部屋に籠り

時折顔を会わせれば何処か生気のない表情 そして二乃は知っている

彼女がずっと誰かに謝罪の言葉を言っていたことをかすれた声で名前は聞き取れず

何にをそこまで気に病むのか当時の彼女は理由も知らない

 

 

今は違う 彼女が誰に謝り 誰の為に頑張っているのか二乃は理解した……。

 

 

「全く…………面倒くさいわ   準備しなさい」

 

「……………!   うん」

 

 

「本当 面倒な性格だわ…………」

 

目の下に隈を作り 真剣に取り掛かり

勉強以上に頭を悩ませる 彼女の姿がとても可愛らしく見えた…。

 

 

(ちゃんと食べてもらうのよ……三玖)

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

あれから暫く勉強会は滞りなく…………という訳にも行かず何度か躓き

それぞれの問題と直面 気分転換などを挟みつつ気づけば 2月14日になっていた

 

 

 

 

「ふぁぁ…… 眠い」

「あっ 三玖おはようございます」

「お前も二乃も何時まで寝てんだよ」

「まぁいいだろう…………おはよう三玖」

 

 

「コータロー達…………来てたんだ」

五月や風太郎との話も終えればタイミング良く三玖が起きて来た

まだ眠いのか欠伸もめだつ けど俺達がいるのを確認すれば頬を軽く赤らめる

 

 

「来るなら言ってほしかった でも丁度いい…………あれ」

 

 

「あぁーチョコなら食ったぞ 三玖だいぶ上達したな うまかった」

 

 

勝手に食って悪いと思ってる

最近ずっと三玖がチョコを食わせるもんだからまた事前に準備をしているもんだと気づけば

ここに来れば自然とそれに手が伸びていた………。

今まで市販のチョコばかり 最近では少しアクセントを変えたのか見た目が歪なチョコも多々あった

でもまぁ………先ほど口に入れた物は三玖の頑張って作るという 熱意と愛情が良く伝わりとても美味しかった。 

 

 

「あ ありがと…そのチョコなんだけど…」

「おっとまて 三玖お前に伝えるべき事がある」

「な なに…」

「やっぱり三玖が一番だな 俺の健康を労わってチョコ作ってるんだろう 

 兄思いの良い子だよ ありがと 脳もすっきりだ それとな前回の模擬試験だけどな…」

「あ うん…」

 

最近やたらと疲れてた勉強会の合間にバイトと少しは無理をさせ過ぎたかと反省中だ

三玖がくれたチョコで血行も促進され だいぶ目覚めも良くなった

気―遣ってくれた三玖には感謝しないとな

それに彼女はチョコ作りだけではなく 勉強の成果も着実に出ていた

行った模擬試験では姉妹の中でも頭一つ抜け出ている 

風太郎も期待を乗せてるいるし俺も三玖ならやってくれる 期待は確信へと変わっていた…。

 

「私頑張る 見ててねコータロー」

「はいよ 見てるさ」

 

テストまで残り一か月…このまま突っ走るか

 

 

 

 

「うーさむさむ」

「お仕事お疲れ様」

「三玖 何してるの? っていうか今日だった? 渡せた」

「一花は…コータローにチョコあげないの?」

「ど…どうしたの急に そりゃ誰にもあげなかったらかわいそうだし 

 お姉さんが買ってあげようかなと思ったけど 

コータロー君だけってのもフータロー君に悪いし それに三玖があげるなら安心だね」

 

「安心って何が?」

「…うーん」

「フータローは生徒としか見てないし

 コータローは知ってたけど…ずっと5年前から あの人は私たちを妹としか見てない」

「三玖…」

「だから決めた  こん期末試験で赤点回避する しかも五人の中で一番の成績で

 そして自信をもって 今度こそ好きって伝えるんだ」

 

(それに……きっとこのままだと またコータローは一人になるそんな気もするんだよ…)

 

「あれ 一花 右手包帯巻いてるけど怪我したの?」

「もう平気だよ…大丈夫」

 

 

 

 

中野三玖

 

国語43点 数学48点 理科41点 歴史72点 英語34点 

 

総合238点

 

たいへんよくできました!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

 

今まで失敗続きの私だけど… 勉強の神様どうか今だけは私に力を貸してください

だってみんなで頑張ったんだから

 

中野四葉は今一度自分の今度を左右する戦いへと向かっている

 

あの日言い渡された言葉を彼女は決して忘れない

あんな失敗は二度しないと心に決めた

このチャンスを無駄には出来ない 最後まで向き合ってくれた彼等の為にも…姉妹の為にも

 

 

 

 

 

 

「もーみんな勉強するよー 試験まであと二ヶ月なんだから」

 

やる気を見せる四葉の言葉に他に姉妹も勉強へと意識を向ける

風太郎の指示の元 彼女達はノート向き合い…横で俺がサポートする…。理想の形で勉強は進んでいた………その筈だった

 

 

気づけば2月テストまで猶予は残り一か月

最初はやる気を見せていた5名だが快進撃は止まっている

完全に行き詰っていた

そこをカバーしていく俺達もある異変に気付く

 

『『どこが分からないのか わかんねー』』

 

勉強を教える それはある程度なら誰でも出来るだろう

 

何処かと聞かれれば ここの問題 と答えれば良い

 

だがここに来て俺達には教師としてのノウハウはなく

何故そこで躓くのかと疑問に思い 分かっている前提で話をしてしまっている

俺も一年の時の実績を生かし 何とか彼女達に教えるも中々いい結果にはならず

『IQの差を感じる』と物凄く失礼な事を弟は言いだした

 

ただそれ以前の問題もあった…

ここ暫くは勉強と生活の両立だ 姉妹達の集中力自体も限界に来ている

そうなってしまえば勉強を教えても何の効果もない

頭に入るところか集中力が更に激減するだけだろう 適当な事を覚えテストの赤点も免れない

 

逆効果を恐れた風太郎はその場で逆転の一手を考え出す

風太郎の手には先日俺と一花が出かけた際に買った一冊の本が握られており

弟は中身を何度も見直し…ある一文に目が留まる

 

「時には飴だ」

「お前にして冴えてるな」

「何時も甘やかしてるからなこの兄は」

 

飴と鞭は使いようだ… 飴ばかりで鞭を使わない俺は逆にその発想を頭ら除外していた

という訳で 風太郎の発案で俺達は一度息抜きとして姉妹を遊園地へと連れて行く事となる

 

そして翌日

『今日だけは勉強の事は忘れよう』と弟から出る言葉とは思えない発言だったが

そこは素直に受け取ろう姉妹達も久々の遊園地なのだろう

高校生なのに…高校生だからのはしゃぎようだ

 

 

「あぁ…………吐きそう」

五月に連れられ俺と一花はダウン中だ

苦手と言う訳ではないが連続で乗らされれば幾ら俺でも体には応える

暫くベンチで休んでいると彼女達に告げ少しばかり休憩だ

 

 

「動くな観覧車 目が回るだろうが……ん? あれは四葉か」

 

ベンチの真ん前のアトラクションは観覧車だ

絶叫マシンで疲れ切った俺の目にそんな物を見せないでくれ

口元を押さえ視線を上に逸らした時だ…

 

観覧車の一つに四葉が乗り込んでいた

流石に何をしているのかまでは分からないが真剣そうな顔で中腰の姿勢だった

気になりはするが今動けばリバースだ すまん四葉…

 

戦力外となっていた俺は無力さを噛みしめ下を向く

すると観覧車の方から聞き覚えのある声が聞こえ 

その声の主はそのまま観覧車へと乗り込んだようでスタッフも止める暇さえなかったのか焦っている

 

 

(まかせたぞ 風太郎…)

 

四女の事は弟に一任し 俺はそのままベンチで眠る事にした

完全にバイト疲れに加えジェットコースターがトドメを刺したな

 

 

「…………」

「幸太郎君? 寝てるんですか ここで寝てたら風邪をひきますよ」

「ふぅ…………くぅ……」

「だいぶ お疲れのようですね  先月はありがとうございます」

 

眠りこむ上杉幸太郎の元に中野五月が現れた

他の姉妹の姿はなく それぞれアトラクションを満喫している

その途中『わるい 俺は一旦休憩』と顔色を悪くした幸太郎が何処かへと向かってしまい

五月は彼を探していた 何度か起こそうとするも反応はなく完全に意識は夢の中

 

今の今までずっと動きっぱなしで 先月14日の際も自分の用事に彼は付き添ってくれた

その彼にお礼の言葉を述べれば五月は彼の隣にこしかけベンチに座る

眠っている彼を自分の方まで持って来れば そっと彼の頭を自分の膝の上に乗せた

 

「まるであの日の一花のようですね…………幸太郎君 今はゆっくりお休みください

  大丈夫です 私たちもあなたもきっと乗り越えられます」

 

そっと彼の髪を触り 優しく問いかける

 

「六花……さ…ん」

 

 

 

 

そしてテストの答案が返却されたその日

幸太郎はある人物を探している

それは中野四葉だ

一花からある程度の事情は聞かされて彼なりに彼女の様子を見に来ていた

暫く廊下を歩き散策する彼は遠目でそれを確認する

嬉しそうに涙を流し 風太郎のお辞儀をしている中野四葉の姿を…………

『これはお邪魔だな』と彼は呟き元の道へと戻って行く

 

 

 

中野四葉

 

国語51点 数学33点 理科32点 歴史36点 英語32点 

 

総合184点

 

 

たいへんよくできました!

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

 

 

 

お父さんとの約束もありますが…………

私の夢のため まずはこの試験を通って進級しないことには話になりません

背中を押してくれた彼の為にも…………

 

 

中野五月の意気込みは普段以上と言えるだろう

このテストは確かに自分たちの転校もかかっているが同時に彼女の目指す先に

そこに向かう為の第一歩 そして自分の選ぶ道は間違いではないと確かめる為だ………。

 

 

 

 

 

 

「今日で三学期が始まって一週間 せっかくの日曜日 これからって時に…」

『『ごくり…………』』

「何故 五月と幸太郎がいない!」

 

学校も始まり テスト勉強も開始された14日

一番に意気込みを見せた中野五月の姿はそこにはなく 上杉風太郎の声が虚しく響く

他の姉妹も『まぁまぁ』と彼を落ち着かせ 何とかその場をやり過ごそうと試みる

姉妹の中でも特に真面目な五月がいないのは風太郎としても芳しくない状況なのだろう

一体なぜいないのかと考えるが事情も知らない彼ではその答えは出る事もなく

何だかんだと頼りになる兄も今日に限ってこの場にはいない

去年の春以降の例外を除けば彼も彼でこうして時折姿をけすらしく

風太郎も詳しい事は聞いてはいない

 

適当な理由で誤魔化そうとする中 中野二乃は何のためらいもなく言ってのける

 

「今日は「あの日」なのよ」

「あ!? なんだよそれ ハッキリ言え!」

「直球に聞いてきた」

「ノーデリカシーの名をほしいがままにしてるね」

 

あの日と曖昧な答えに納得のいかない風太郎は他の姉妹を問い詰める

呆れる二名を余所に風太郎は嘘の言えないだろう四葉に事情を行こうとするも

汗をだらだらとかいては口ごもり どうすべきか四葉も頭をフルに回転させる

 

「女の」

「いや普通に母親の命日」

 

流石に二乃も四葉の言いそうな嘘には黙っておらず彼に今日が何の日かを教えた

それは母親である 零奈 彼女命日だと 

正式には8月14日 今日1月14日は月命日だと詳しく話した 

最初は疑っていた彼だが何か腑に落ちたのだろうか『どうりで』と呟く

 

「そう言えば 何でコータロー君もいないんだろうね?」

「一花 もしかしてコータロー…………」

「お兄さんもまさか」

 

ここにいる筈の彼が何故いないのか三玖は直ぐに答えに行きついた

彼も知っているのだ…………彼女達の母親命日を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです 零奈さん 去年はこれず申し訳ありません」

 

あるお墓の前で俺は手を合わせ軽く現状を伝えた

その中に眠るのはある意味では俺の恩師であり 母や勇也さんと同じく尊敬している人物

零奈さん 墓標には中野家と刻まれており 中野家の人間として埋葬されている

 

「幸太郎君も来ていたんですね おはようございます」

「よう 五月…………お前もか……不思議だな こうして同じく足を運んでいる筈なのに

  ここで会うのが今回が初めてなんてな 零奈さん 娘さんが来ましたよ」

「そうですね 私も不思議に思います…………お母さん 来ました五月です」

 

彼女への連絡を終えれば五月が花をもってそこに立っている

真面目なこいつだきっと欠かさず来ていたんだろうな

 

 

その場を退け 五月に譲れば彼女は母への連絡とこれからの自分についての悩みを打ち明けている

聞かないように少し席を外し 辺りを見回す…………。

お墓だけあって人の気配は全く感じない 頻繁に人が訪れるような所ではない………。

 

 

「幸太郎君 お話が終わりました 帰りましょう」

「ちゃんと話せたか?」

「どうでしょうか 私にもわかりません 本当にこれで良いのかも」

「まぁ…そんな辛気臭い顔するな あの人も心配すっぞ」

「そうですね 母を心配させる訳には行きません 行きましょう」

 

風太郎にはそれとなく伝えたつもりだけど…………。

隣の女性徒はどうなのだろうか、デリケートな話題だ きっと何も言わずに出て来たんだろう

向うでフォローが入っている事を祈るのみだな 頼むぞ中野姉妹

 

「お 先客が それも二人珍しいこともあるね」

「えっと…………初めまして」

「どうも お初です」

 

「うげっ………先生!? 勇也!?」

 

『『??』』

 

見知らぬ女性が五月の顔を見れば驚いたよいうに一歩下がり

『先生』と口にし どうしてだろうか俺の父親である勇也さんの名前まで出て来た

状況が理解できない俺達は顔を見合わせ 

この女性が何者で何故ここに来たのか一旦状況を整理する事に 相手側は何度か頭を悩ませ

『よしゃ』と声を出せば 零奈さんのお墓の前に向かう 何だか念仏を唱えだした

話が終わったのか『私は下田 取り合ず二人共ついてきてくれ』と俺と五月を連れ

駐車場へと向かえば後部座席に俺達を乗せ そのまま何処かへ走って行く

 

 

 

『『どういう事?』』

 

 

 

 

「わっはっは 悪ぃ 悪ぃ」

連れてこられた場所は俺が良く知る ケーキ屋 Revival

入れば早々に店長とご対面『上杉君がお客なんて珍しいね』と真顔で驚かれた

バイト先は予定が無ければ来ることはほぼまれだ 店長の反応も分かる

 

席に案内され 適当に注文し

彼女 下田と名乗った女性に 五月と俺の素性を明かした

するとどうだろうか 腹を抱えて大笑い 周りの視線もこちらに集まってくる

眼鏡をかけた知的な人物か思いきや何ともガサツな人物だ

 

俺が勇也さんの息子としれば「勇也の長男か へーそっくりだな」

嬉しいんだけど反応に困った

軽く話を聞く限りだとこの人は勇也さんと同じ学校通っていたらしく

当時は粗暴な生徒で五月の母親である零奈さんに毎度の事 げんこつを受けていたとか…

 

「意外だ 俺には凄く優しい人に見えたんだけどなぁ」

「私の方が意外だねー まさか勇也の息子と先生の娘さんが二人であの人の月命日に来てるとはさぁ」

「まぁー色々とあるんっすよ」

「あの人で出会ったわりには君もだいぶ ぐれてんなー?」

「人生色々ですよ 下田先輩」

「そういう所 勇也にそっくりだ」

 

へいへいと軽く流す こっちの話が盛り上がってばかりで五月が置いてきぼりを食らっている

 

「おっと悪い………まぁ 聞きてぇならいくらでも話してやるが なにぶん先生とは…

 高二の一年間だけの思い出しかねぇ 私も少々おてんばだったかかもしんねぇがとにかく…こえ~先生だった」

 

俺もあの人の親としての顔しか知らず

学校の教師としての姿も少々気になっていた………。

他人の俺が聞いていて良いものか、迷っているんだが五月が『幸太郎君も聞いておいてください』

そう言えば俺の手を掴んで離そうとしない その手は少し震えていた。

あの人を演じそれをやり続ける 五月に取って

零奈さん本人の話は最大のプレッシャーだ

 

気持ちの整理はついてると言っているが、やはり怖いんだろう

『わかった…』 それだけ述べれば俺は帰るのをやめる

 

下田さんも俺たちの様子を見て 話を再開する

彼女曰く 愛想もなく笑いもしない それでいて誰にも媚びないまさに鉄仮面

初対面の時もそうだけど…あの人は他人の前だと一切の感情殺すそうしてる節があった 大人の事情ってもんがあるんだろうけど…。

 

「はは…さぞ 生徒さんには怖がられてたのでしょうね」

 

ケーキを口に運ぶ五月も母の仕事を聞き苦笑い

 

「いーや それが違うんだ」

 

五月の意見を下田が否定

何処か懐かしみように下田さんは話を続ける

 

「どんなに恐ろしくても 鉄仮面でも許されてしまう 愛されてしまう慕われてしまう

 先生はそれほどに店長……めっちゃ美人だった

 

 

「・・・!めちゃ美人・・・!」

「わかります あれはヤバいっすよ」

「分かってくるか 後輩よー あれはまさに女神だよ」

 

鉄仮面だろうが何だろうが…零奈さんは誰もを魅了する容姿だ

うちの母が可愛い系なら零奈さんは美人系… 中野の先生が羨ましいよ

実は中野家に通っていた理由もあの人見たさと言う 子供ながら下心があったのは秘密だ

あいつ等の前では口が裂けても言えん

 

「ただでさえ新卒で私たちと歳が近い女教師でしかも超絶美人。それだけで同学年のみならず学校の全ての男子はメロメロよ」

「メ…メロメロですか…」

 

あの人の話を聞くたびに横で驚きのリアクションばかりの五月

こいつにとっては偉大な人だ あの人の凄さを実感してるんだろう

 

「ふふふ」

 

急に不敵な笑みを浮かべる下田さんは俺と五月の顔を交互に見る

一体なんだ?

 

「ま、それは言わずもがなだな!先生似のお嬢さんが まさか勇也の息子とねぇー」

「なーに言ってんだ あんた?」

「わっ…私た!?そ、そんなことありません!/// えっとですね ///

  あの何と言えば良いのでしょうか 幸太郎君…どうしましょう」

「俺に聞くな……… 下田さんもからかうな 俺と五月はそんなじゃねーよ

  単なる幼馴染見たいなもんですよ」

「こ う た ろ う  い つ き  下の名前で呼び合う仲ねー 」

「ダメだ 五月 この人昔のやんちゃしたせいだろう 人間の言葉が通じねぇぞ」

 

何を言いだすとか思いきや 俺と五月が付き合って

寝言は寝て言えとはまさにこの事だ幾ら否定しようが流石講師あれやこれやと言葉を羅列

俺の意見は悉く打ち崩される

隣の五月さん怒って顔が真っ赤なんだけど… どうしてくれんだ?

『わけーな 青春かよ』少しでも隙を見せれば彼女はちゃちゃを入れてくる

 

「はぁ…………さーせん 俺トイレ行ってくるんで」

「いってこい いってこい」

 

話していたら胃が痛くなってきた

どうも俺はあの手の年上女性相手だと調子が出ねぇよ

少しばかり席を外し 一旦気持ちをリセットする為トイレまで足を動かす

 

 

「さて 話を続けっか…まぁそれもあって ファンクラブもあった とにかく女の私でも惚れちまう美しさ」

 

俺が去ったのを見れば下田さんは未だ顔が真っ赤な五月に話の続きを始める

席を外した理由は、簡単だ彼女からの目配せ軽いアイコンタクトだ

ここに第三者がいると話しにくいことや五月に対して思うところでもあるんだろな

 

 

「あの無表情から繰り出される鉄拳に私ら不良は恐れおののいたもんだ。まさに鬼教師だ。だがその中にも先生の信念みたいなもんを感じて・・・いつの間にか見た目以上に惚れちまってた」

 

「……」

 

「結局1年間怒られた記憶しかねぇ。ただ、あの1年間がなかったら・・・・・・私も・・・教師に憧れて、塾講師なんてなってねーだろうな」

 

 

「下田さん、ありがとうございます。下田さんの話を聞けて、踏ん切りがつきました」

 

 

上手く内容は聞き取れないが、五月は何かを決めたんだろう

学校で配られた進路希望調査を机に出せば第一希望にボールペンを向ける

 

(あいつの夢か…… そう言えば知らねぇな)

 

ペンを紙につけたその瞬間だ…下田さんが持っていたフォークで受け止めそれを阻止

 

(なーんか雲行きが怪しいな)

 

 

「ちょいと待ちな。母親に憧れるのは大いに結構だ。憧れの人のようになろうとするのも決して悪いことじゃない。私もそうだしな。だがお嬢ちゃんは教師になりたいんじゃなくて・・・お母ちゃんになりたいだけなんじゃないか?」

 

「!!!」

 

「なりたいだけなら 他にも方法がある……あの人に拘る必要もねぇ」

 

「…………」

 

「・・・とはいえ、人の夢に口出しする権利は誰にもねえさ。生徒に勉強を教えるのも楽しいし、やりがいがあっていい仕事だよ。お嬢ちゃんが教師になるっていうなら目指すといいさ。・・・『先生』になりたい理由があるなら、な」

 

少しばかり内容が聞こえた…………五月の目指すそれは果たして彼女の夢なのかと…

人生の先輩からのそしてあの人の生徒からのアドバイスを下田さんは五月に提案している

さて そろそろ戻るか…………さっきから店長がずっとこっち見てる営業妨害になりかねん

 

「おっと、こんな時まで説教だなんて・・・先生としての悪いところが出ちまったな。悪かったな、えらそうなこと言って」

 

「いえ…………参考になる貴重なお話ありがとうございます。」

 

「うっす どうした五月?」

「おっ戻ってきたな ヤンキー少年」

「こ 幸太郎君 お帰りなさい いえ 何でもないです」

 

何事もなかったかのように戻れば

下田さんが声をかけ 先ほどまで塞ぎ込んでいた五月も顔をあげた

 

「へいへい 下田さんも何かお疲れっす」

「何の事か わかんねぇ―な」

 

食えない人だよ 五月が零奈さんの事を聞こうとした時からずっと俺に目配せしてたくせに

五月を見て彼女も何か思う所があったんんだろう

初対面の下田さんから見ても何処か五月は歪に見えたって感じか…………。

あいつにもう一度考えるよう 進めている程だ

 

俺は他人の夢を否定はしないそれは絶対だ だから五月の夢も俺は応援してる

それでも今だけは安易に『頑張れ』と声をかけてはいけないくらい俺でもわかるさ

 

 

「そんで 勇也の息子さんは 進路希望調査は持ってんのか?」

「はぁ? んなも捨てた」

「うわ これはやベー奴だ 先生がいればげんこつもんだぞ」

「こ 幸太郎君 それは本当なんですか!」

「嘘だよ」

「そう言う冗談はやめてください!」

「何時もの五月だな それで良い 今は普段通りの五月でいろ 俺もそれが安心すっからよ」

「え あのまさか 幸太郎君 わざとあんな事言ったんですか」

「知らねーよ 下田さんも笑ってないで帰りますよ」

 

あのまま五月が塞ぎ込んだ ままだとあいつ等も心配する

俺も五月には笑っていて欲しい…………。

ガラじゃねぇ事はするもんじゃないな むず痒い

 

「これも何かの縁だ。連絡先交換しようぜ  勇也の息子もさ」

「俺のスマホは現在ガラクタ状態なんで いらないです」

「なんか色々とあんたも大変そうだな…………。

 それじゃお母ちゃんの話が聞きたくなったらいつでも話してやる。

 またどこかで会おうぜお二人さん」

 

五月と連絡先の交換を終えれば下田さんは俺に名刺だけ渡すと

支払いは自分がすると言い先に帰って行く

 

 

 

「父はまだ 怒ってるんでしょうか」

「さーな あの人は俺が嫌いだから使えてただけ 奇跡だよ」

「やはり ここは一度父に言うべきでは…ん 幸太郎君?」

「いいよ 言わんでも お前らの成果を出せばあの人も嫌でも認めるだろうしな」

「そうですね…………きっとあの人も分かってくれます」

 

今何を言ってもあの人は首を縦には振らんだろう

なら実力で認めさせるそれが一番の近道だ 

それに使用できるようになれば俺はあの男にイタ電ばっかししそうだしな

 

「俺たちも帰るか」

「はい みんなが待ってます」

 

了解をとれば俺は五月と共にアパートまで向かった

何事もなく勉強会は進んで一月は何とか乗り来れそうだな

下田さんとの出会いから暫く2月になった頃だ

 

風太郎の提案で以前 三玖に話したそれぞれを補う計画を軽くだが説明

俺たち二人が何時また出禁を食らうか分からんし

あいつらだけの方が気兼ねなく教えられる事も多々あるだろう 

 

当初は困り顔だったあいつらも徐々にそれに慣れ始め

何時しかその勉強方法が当たり前になり始めていた…………。

 

 

 

そして時間は流れあの日から丁度一か月が経った

風太郎から『お墓の場所教えて欲しんだけど』と頼まれ

何を考えているんだろうと疑いの眼差しで見たが、こいつに限って悪意なんてあるわけもない

考える必要もなかったな……。

俺は風太郎に五つ子達の母が眠るその場所を教えた

 

「うーん 良し 任せたぞ風太郎」

「ん? 何か知らんが任された」

 

きっと先に五月が来ているだろう

俺の前だとあいつは本音を隠す 風太郎相手なら多少なりともそう言った事も言えるだろ

彼女事を風太郎に一任すれば俺は迫る期末に向けて準備を始める

あと一か月…………

 

 

 

 

 

 

(お母さん 私………先生を目指します)

 

中野五月

 

国語47点 数学35点 理科70点 歴史32点 英語40点 

 

総合224点

 

 

たいへんよくできました!

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

 

余計なことを考えちゃダメ……。今は赤点を回避することだけに集中しよう……。余計なことを考えちゃダメ……今は今だけは…………収まって

 

 

静かに胸を抑える一花この高鳴りの理由はもはや隠せない………。

今目の前にある それ この紙に彼とそして姉妹の今後がかかっている

その為にも今はこの一戦に集中しよう何度も言い聞かせる

 

 

 

 

 

 

「はぁ…………なんで 好きになっちゃったんだろ」

 

「おー 一花さん ため息は幸せが逃げるぞー」

 

「~~~~ッ!?」

 

四葉を風太郎に任せアパートに戻れば何故か玄関前で一花が大きなため息をしていた

 

「こ コータロー君 な なんで!」

 

ドンッ

 

「っ 痛…………」

「一花 手を見せろ」

「え 大丈夫だよ」

「良いから見せろ」

「はい…………」

 

後ろから声をかけたのが不味かった

びっくりした一花は立った拍子に手を鉄柵にぶつけてしまう

すぐさま手を見せるよう彼女に言うもそれを断る だがそう言う訳にもいかない

二度目は少しドスを利かせた声で言い 彼女は渋々右手を見せる

 

赤くなり擦り傷があり腫れ始めている

 

「こ これくらい平気だよ」

「ダメだ 少し待ってろ」

 

傷は傷だ…。それに何かにぶつかった傷とは、本人が思う程後から効いて来ることが多々ある

鞄に閉まっていた 一式を取り出し手を軽く消毒『うぅう』と染みるのだろう顔を強張らせる

一度拭き取りその上を包帯で包む きつくそれでいて痛めないよう優しく

 

「これで良いな 痛みは少しすれば引く なるべく右手を使わないように わかったか?」

「はっはい…………ありがとうございます」

「ふぅ…………お前は女優なんだぞ 怪我が目立つ訳にはいかんだろうが

  まぁ何も考えず後ろから話しかけた俺が悪いけどな 悪かったな」

「大丈夫だよ お姉さんこそ ぼーっとしてからさ」

 

あっはははと笑って笑って誤魔化そうとするけど

確かに痛いと言う声も聞こえたし 手を摩ってた

大事な友人ってもあるけど目の前に怪我人がいるんだそれを放ってはおけない

普段から持ってて良かったと自分の物持ちよを今日程ありがたいと思った事はないよ

 

「そ それでコータロー君 何でここにいるの?」

「風太郎と四葉の代わりに参考書をな」

「あ……あーそれこの、前捨てちゃったかも…………」

「かも?」

「捨てた うん 間違いないよ私がポイっとさ 後か気づいて焦ったよ」

「まじかよ どうっすかな」

「よし 今から買いに行こうよねぇー」

「お前の借りれないか? 家目の前だし」

「私のも捨てたからー さぁー行こう―」

 

参考書を二冊捨てるとか何やってんだ こいつ………。

頑なに家に入れようとしない一花は俺の背中を押すようにアパートから遠ざけ

その勢いのまま二人で近くの本屋と連れて行かれた

 

 

「とりあえずさ 風太郎に遅れるって連絡してくれ」

「あれ?自分で言わないの…?」

「だから 俺のスマホは何か知んねーけど止められてんだよ たくあの男嫌がらせしやがって」

「うん 了解…四葉にもメールしておくよ」

 

こういう場面で持ってるのに機能しない自分のスマホにイラっとしてしまう

八つ当たりも良い所だよ いい年して…………。

 

「その手だとやりにくいか?」

「大丈夫です このくらい はい送信」

(本当に何でこんなことになったのかな…………。)

 

手の甲に包帯があるとタップもしにくいかと思ったが左手で難なく操作する

現代っ子は手慣れてやがるな………。

 

 

 

 

 

 

 

「参考書選ぶから お前は待ってろ………いや 外は駄目だ近くにいろ」

「あぁ うん」

 

三玖も一人で外にいて変な奴らに絡まられたんだ

目立つ一花を一人外で待たせるのは余り良いとは思えない

中に入れればなるべく近くで待っていて欲しいと伝える

 

「おっ………風太郎にこれ良いかもな」

「コータロー君あった?」

「合ったには合ったけどさ………良い値段しやがるな」

 

手に取った二冊の本は合計しなくても俺と風太郎の昼食代を超えている

自分が原因と口にした一花を見て俺は考えた

このまま会計させて良いものか?家賃や生活で厳しいと以前話してくれてた…。

 

「よし 俺が出そう そのかわり結果出してくれ」

「大丈夫 大丈夫 私が出すよ コータロー君は何もしなくて良いから!」

「何でだ? こういう時は男が持つもんだろう おい一花」

「本当に大丈夫 心配しなくて良いよ………んコータロー君その本は?」

 

俺から二冊奪い取ればそのままレジに向かおうとするが

もう一冊別の本があると気付き ニヤリとこちらの方へと足を戻す

なーんかその顔嫌んですけど?

 

「まさか 本当にエッチな本を………!」

「鼻息を荒くするな………たく」

 

仮にも女優 そして女子高生がそんな話題で鼻息荒く 男子に詰め寄るな

思春期の男子中学生じゃあるまいし

 

「風太郎にお土産だよ」

「へぇーいい先生になりたいんだ~?」

 

一花曰くエッチな本 実際は『良い教師になる為のいろは』と書かれている

参考書だ これも中々のお値段であるが、俺と風太郎は教師じゃない

さしすせそ基いろはも学んでいない 久しぶりに本屋に来たんだ

こういった参考書はこの先必要なると思って手に取ったまで…………。

教師事態になりたいとは俺は思ってないとだけ主張する

 

「お前らや風太郎の為には必要だろうとな」

「本当にお兄ちゃんしてるね 君は」

「実際一番年上だからな」

「なら それも買ってあげる」

「大丈夫だ これくらいは自分で買うさ」

 

ただでさえ苦労人に二冊も買わせるんだ

一冊くらい自分で買わねぇと男としてダメだろう

 

「遠慮しないで。もしかしたら、今度こそ落第するかもしれないし」

「落第?…………おい まさかお前ら」

「あれっ?言ってなかったっけ?」

「聞かずに俺達はこの仕事引き受けからな…………」

「私たちの前の学校でさ…………」

 

俺と風太郎は 赤点候補の五つ子の勉強を見てそれを教える

その事だけをやってきた 彼女達が何故家庭教師が必要なのか

勉強出来ないだけとそう思っていたが

ただ勉強出来ないだけで あのお嬢様学校からわざわざ転校してくる事もない

一花は語り出す 声を小さく周りには聞こえないよう

 

期末試験に落ちた そして落第寸前まで陥った事

勉強出来ないつまりはテストでの結果も今の比ではないと

今日まで見て来たが成程と合点もいく

それに三玖が前の学校のジャージを着ないで今のを着る理由もそれで納得もできる

良い思い出とは言えないだろうし…………。

 

「了解………ここで聞いた事は胸にしまうさ」

「そうしてくれるとありがたい 三玖はきっと知られたくないから 特にコータロー君にはさ」

「だろうな…………。」

 

三玖は高校でどうやっていくか凄く悩んでいた俺はありきたりなアドバイスで三玖を励ました

結局はそれが仇なったんだろうな

あの時意地になって名乗らなかった自分が本当に滑稽だ

彼女達の力になれるチャンスはあの時に既に目の前に提示されていた

 

「それでさ 口留め料って言うのも変だけど 黙ってもらう為に私が買うよ」

「色々とツッコミたくなるけど…じゃこれよろしく」

「支払いしてくるからブラブラしてて」

「一花 これ持ってけ 図書カードだ 一応は役に立つだろう」

「良いの? コータローくん欲しい本とか」

「参考書を買う分に費やす予定だ 期限も迫ってるしな」

 

欲しい本はもう一花が持ってる

買いたい本はもう俺にはない 使用期限も過ぎるしそれなら

今使ってもらった方がその図書カード本望だろう

 

「一花…今日まで見て来たけど 勉強と仕事を両立してる…お前はやっぱりすごい奴だ 何より飲み込むが早い だからさ今度こそ合格しようぜ」

 

「うん やるだけやってみるよ」

 

 

参考書を三冊持ち レジまで走って行く

あんなに頼まれれば断る方が野暮ってもんだろうな

 

「って 一花て怪我してんだった 見るもんないし 追いかけるか」

 

求人雑誌でも探そうかと足を動かしたは良いが

一花は右手を軽くぶつけてしまい包帯を巻いている

話に夢中でその事が頭から抜けていた何やってんだか…

 

 

「一花を探すか レジは向うだな…?」

 

手間の方で一花が慌てふためく男子生徒を宥めている と言うよりも反応に困っていた

二人の男子生徒は声を上げ『医者は何処だー』と注目を集めてしまっている

申し訳なそうに二人にお辞儀し 一花はこっちの方まで走ってきた

 

 

「よう 大丈夫か? 絡まれたのか」

「ううん 違う何か大げさに騒がれた感じかな」

 

朝方ぶつけた手の甲を見せる 先ほど見かけた男子生徒はこれに反応し

一花は気づかれないよう逃げ来た

包帯はやり過ぎたとは思わないさ 自称兄は何時も心配なんだよ

 

「痛みがないようならおkだ でも一花って少しドジだよな」

 

ドキンッ

(この顔だ…ずっと昔から私は彼に惹かれていたんだ …でもこの気持ちはダメだよ 三玖はコータロー君を…それに彼は六花さんの事が…)

 

「ねぇコータロー君…」

「なんだ?一花 荷物持ってほしいのか」

「ううん 何でもないよ 呼んだだけ」

「そうか……あのさ 一花 この前は無理だったけどさ テストが終わったらで良いんだけど

 サイン貰えるか?」

「うーーん お兄ちゃんは興味深々かー」

「応援するって決めてるし 興味もあるぞ?」

「///…あぁーはいはい テストが終わったら幾らでも書いてあげる だからさ頑張ろうか」

「おう!」

 

よし これで心着なくテストに挑める

本人がいるのに貰うタイミングが中々無くて三玖が持ってるサインが羨ましかった

 

そのまま買い物を終え俺達は風太郎達の所へと参考書を届けに向かう

『捨てたなんでー』と大騒ぎの四葉を見て風太郎もびっくりしていた

その後は一度アパートへと戻り 一花は仕事がある一旦別れる

 

「試験まであと僅かと言ったところか…みんな頑張ろうな」

 

 

 

 

ケーキ屋Revivalに集まる 何時もの七人…… まだ二人ほど来てないけど…

今日はテスト返却日である3月9日

あっという間の三ヶ月だ 無事に赤点回避を成し遂げ姉妹達は嬉しそうに笑顔を浮かべる

一番に心配された四葉も何とか乗り切り 本人が一番に驚いるという

自信を持て お前が成し遂げた結果だ………。

 

「四葉、やりましたね!」

「一番 危なかったのに!」

「おめでとう!」

「えへへ  私史上一番の特典です 自分でもびっくり 合計は184点とギリギリでしたけど…」

「私は計224点 少し危ない 科目もあったのが今後の課題です」

 

前回の期末は全員が全員赤点を取っていた

そのプレッシャーもあり少々不安もあったと話す

真面目な五月は今後の課題として幾つかをピックアップし始め 次回に生かしたいと述べている

 

「三玖はどうでした?」

「私は…238点」

「えー凄い!」

「流石三玖ですね」

 

俺達の見立ては間違い

彼女の成長は想定以上だ どの科目も順当に点を稼ぎ英語以外は40点代

元より本格的に勉強会にも参加し学び続けていたこれも当然の結果 誇るべきだ

三玖の点数を聞き終えたタイミングで一花も入店 残すは二乃だけ

連絡手段のない俺にはあいつの居場所も分からん

 

「あっ一花も来たよ 二乃はまだかな?」

「試験結果が返ってきたら ここに集まるよう伝えてある筈ですが…」

「三玖 やはりお前が一番の成長株だ」

「フータロー…」

 

「お前の頑張りがちゃんと結果につながった おめでとう三玖」

「コータロー…………コータロー…あの 私!」

「ん なんだ三玖」

 

赤点回避おめでとうとその気持ちを伝え

三玖も笑顔で縦ふる 一旦一花の点を聞こうと思った時再度三玖に呼ばれ俺はそっちに視線を戻す

笑顔から一転 俯き何処か口ごもる なんだろうな?

 

「良かったー 一花も赤点無かったんだ」

「合計何点だったの?」

「私? えーっとね 240点だったよ」

「って ことは」

「一花が一番じゃないですか!」

 

「ほー これはまさかのブラックホースだ」

 

 

「あっ そうなんだ……やった」

 

やったと口にする一花 だけどその表情は何処か冷めており

一瞬 一花とあいつが重なって見えた……。

 

 

 

 

中野一花

 

国語38点 数学63点 理科52点 歴史40点 英語47点 

 

総合240点

 

たいへんよくできました!

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

 

 

 

 

ありえない ありえない

私があいつのことを好きだなんて 絶対に認めない…… そんなことある訳ない!

それにもう あいつからは卒業した あの時そう決めた筈なんだから

 

試験の最中 脳裏の浮かぶのはあの少年 勉強にうるさく デリカシーにもかけ

兄と二人で自分を騙したあの彼だ……

同時にその兄への感情 一度は捨てた筈だった けど何処かまだ彼を慕う幼い自分が心の中ににいる

何度か頭を横に振るい その感情頭から追いやり

自分のやるべき事に集中しようと…………。

 

 

 

 

 

 

 

「今のところ 一花が一番だね」

「いや~頑張りましたよ」

「本当に………お仕事もあるのに凄いです」

 

三玖の点数よりわずかとは言え 一花はこの中で一番の点を稼いでいる

本人はあまり実感がないように振る舞っているけど謙遜せず胸を張れば良い

 

「私は てっきり今回も三玖が一番かと……」

「!……あッ」

 

今回も三玖が そう聞いた途端に一花はその場で固まり

三玖の方へと振り向いた どちらも頑張ってここまで結果を出せたんだ

競っていた訳でもないのに何故そこまで動揺しているんだ?

 

 

この時の俺はそんな事を考え 彼女達の想いなんて気にも留めてはいなかった

 

 

 

「三玖… 私……そんなつもりじゃなくて……」

 

「一花 おめでとう 私もまだまだだね」

 

「一花 やったな それに三玖も良くやった 次の糧になる 忘れるなよ」

「うん 次はもっと点数稼ぐよ」

「コータローくん……その」

「なんだよ? さっきから お前らしくもねぇーな」

 

一花がしおらしいとどうもこっちまで調子が狂っちまう

何でそこまで焦ってるのか分かんねぇけど いい点取れてしょぼくれてるの似合わない

三玖だって嬉しそうにしてるんだ 顔をあげて欲しいな

 

俺が三玖達と会話をしている後ろで風太郎の点数を見ようとする五月と四葉

すんでの所で五月は踏みとどまり『罠です』と口走る

この弟は何て良い性格をしてるんだろうか……

 

「そう言えば 幸太郎君の点数はどうなんですか?」

「お兄さんも中間では90点だいキープでしたから 今回もバッチりですよね」

「ん?……まぁ…それなりにはな」

 

答案用紙を咄嗟にポケットの中に押し込む

やべやべ 風太郎と別の意味ではこれは見せられんよな

適当な返事を返せば五月と三玖は何か感づいたのかじーっとこちらを覗き込む

こいつら何でここまで感が良いのか……。

 

「コータロー? 何かあった」

「期末試験があったな」

「そうじゃない コータロー何か今 表情が変わった気がしたから」

「なんでもねーよ 俺の顔は何時もと変わらん仏頂面だ」

 

五月と違い 三玖はそのまま声をかけてくる

横に逃げればすっとまた俺の前に立ち逃がさないように立ち回っている

普段は体力がなくて直ぐにばてる割に こんな時だけ器用に動くよな

『大丈夫 大丈夫』とその場しのぎ

俺にも教える側のプライドってもんがある 今だけは見せられねぇな

納得がいかないようだが一旦身を引く三玖は『相談してね』と一声くれた

 

(相談ねぇ……………)

 

 

「試験突破おめでとう 今日はお祝いだ 上杉君達の給料から引いておくから

 好きなだけ食べるといいよ」

「色んなケーキがあるんで 皆さんどうぞー」

 

「もー店長ったら冗談ばっかりー 真弓まで何だよ悪ノリしてさー」

「本当だよ 店長も本当に人を乗せるのがうまいな- はっはははは」

 

何も言わない二人に俺達は嫌な汗をかく

似たような事を俺は以前確かにしたけど 好きなだけとは言ってないぜ

本当に……頭が痛くなるな

全く目を合わせない後輩と自慢げに商品を見せる店長

商魂たくましいな この人も…………。

 

何時までもねちねち言うのはやめよう 哀愁漂う弟の肩に手を乗せ 首を横に振る

『諦めよう』その一言が心に刺さる

 

それにだ今は祝い事だ 五つ子と風太郎 それに真弓ちゃんも無事にテスト終えたんだ

めでたい日に 辛気臭い顔は似つかわしくねぇ

五月達を見てれば、考えるのも馬鹿らしくなってきた

 

その祝い事にあと一人足りない

五月が口に出せば店長は胸ポケットから一枚の紙を取り出しそれを風太郎と俺に手渡した

 

「風太郎…これまさか」

「試験結果の紙だな」

「あぁ それと二人に伝言がきてます」

 

『おめでとう あんたらは用済みよ』

 

真弓ちゃんの発したその言葉の意味を俺達は瞬時に理解した

あいつは会いに行っているんだ あの男に……。

 

 

 

中野二乃

 

国語32点 数学33点 理科40点 歴史48点 英語56点 

 

総合209点

 

たいへんよくできました!

 

 

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