上杉幸太郎と六等分の思い出   作:Aikk

68 / 96
原作を辿りながらもオリジナル回も更に増えていきます
幸太郎君と友人達の間で何が起きたのか詳しく書くのは少し先になります
仕方ないとは言え風太郎は出番より名前でしか登場出来てない


第六十七話 不良少年と過去の清算

『この嘘つき!』

『お前なんて偽物だ!?』

『何が被害者だ  先輩方に怪我を負わせたのはお前だろ その事故も自業自得だ』

 

   『もう二度と 学校に来るな 上杉幸太郎!

 

 

嫌な夢だ 周りの人間が俺を非難し 誰も俺の声に耳を傾けない

一声言えば二重三重の声になって俺を叩きつける

一体全体俺がお前らに何をしたんだ? 俺はお前らに危害を加えた事は一度だってないだろう

俺がどれだけ自分の時間を使い一年の間 学校やお前ら生徒に善意の行動をして来たと思ってるんだ

その仕打ちがこれか………全員で俺を罵倒して ありもしないでっち上げを信用して

俺の居場所を奪っていくのか、

誰も俺を助けないのか……………

 

『ならいっそ  ここで死んだ方がましだ 誰も僕を必要としてないんだ それに生きる意味もなくした』

 

 

『だ ダメです 命を粗末にしては! あ あぁーー 』

 

『危ない !』

 

大きな池の前 危険注意と書かれた看板を無視して

体を乗り上げ直ぐにでも身を投げ出そうと思った時に 彼女の声が俺を救った

飛び降りる俺を制止し 『粗末にしていけません』と呼びかける彼女

 

ただ12月の始め雪もちらつき 走れば転び始めるこの季節

彼女は俺に声をかける事ばかりで自分の足元の確認も疎かに一歩を踏み出した

するっと雪に足を取られ 彼女は階段から落下し始める

 

だめだ ダメだ 駄目だ  助けないと助けない この人は絶対に……………

治ったばかり 未だ入院が必要と言い渡された体でその場をかけ 俺は彼女を受け止める

 

 

『うぐぅ……………』

左手が悲鳴を上げる 落下する人間の体重は実に倍だ

治りかけの手や体にはそれを相当なものだ 痛みで歪む顔に力を入れ

戸惑う彼女に声をかける

 

『大丈夫ですか? 怪我はありませんか』

『はっはい それより だめですよ 命を粗末しては! 死んでしまったらどうするんですか』

『いきなり 大声はやめてください 耳元なんで』

『あっ すみません』

『それと ありがとうございます あなたのお陰で命を拾いました』

 

 

それが出会いだ

黒い帽子を目深にかぶり 分け目で素顔を一部隠し 首にヘッドホンをかけている

その女性 俺の命を救ってくれた その人中野六花さんとの初めての出会いだ

 

 

 

 

 

 

「コータローー コータロー!」

「ん…………三玖か」

「どうしたの急にぼーっとして」

「何でもない…… それより期末試験も終わったんだ 勉強なんて教わる必要はないだろ」

 

現在は図書室で三玖と二人勉強会と言うなのワンツーマン

風太郎は昨日からずっと上の空で一花は会えば何処かに逃げていく

四葉は変わらず今日も元気に走り回っていた

五月も昨日の今日で何か変わる訳もなく 普段通り俺が考え事してれば声をかけてきた

二乃は朝方見かけた時はすごく機嫌が良さそうで近寄りがたい雰囲気でたじろいでしまった

 

時間まで暇だった俺に三玖が声をかけて来た

『まだコータローには教わる事ばかりだから』と真面目と言うか律儀と言うか………

 

「今日は三年生の卒業式だ 授業も短縮される 良いのか俺といて」

「うん 今日はコータローの傍に い いようかと思って」

「お前も大概に心配症だな……………」

「コータローは今日は平気?」

「平気だよ それに今日でこの関係とは終止符をうつんだ………」

(関係に終止符を…………コータローはそう考えているんだ)

 

本当は俺も三年生で 今から体育館に向かう彼等のように晴れて卒業生となり

親や先生に祝福され 『最高の三年間でした』とありきたりな言葉を言い 先生方も涙する

そんな当たり前な学生生活をしてたんだろうな

 

「三玖 何も気に病むな」

「でも コータローは」

「もう その話は終わったろ? 俺はあんな三年間過ごすより お前らと過ごす今の方が

 何よりも大切だ」

 

これは本音だ 隠し事ばかりする俺でも言うべきタイミングは心得ている

あんな奴らと卒業なんてこっちから願い下げだ 

それなら進級出来ない今の方が何千倍も輝かしい三年 いや 四年間だ

 

「ありがとね」

「どういたしまして」

「あっ それとコータロー これ返すね ごめんなさい あの時からずっと持ってました」

「……………」

 

会話の中でふと三玖はポケットの中から一冊の手帳を取り出した

それは俺の手帳 無くしてたとばかり思い探すのをやめた 2年の初めにもらった生徒手帳だ

何時かは聞こうと思い 結局はそのまま放置した案件だ

まさか三玖の方から返しに来るとはな 期末試験で彼女なりに心境の変化があったのか?

 

「何時拾った」

「助けを呼んですぐ コータローの所に行った時に落ちてた」

「あの時は殴られてボロボロだったしな 薬局でない事にやっと気づいたくらいだし」

「ごめん 本当はずっと言いたかった 返したかった」

「いいよ ちゃんと戻ってきたしな………それにただの手帳だ 特には……………」

 

三玖が拾ったタイミングは俺が殴られ

助けが来た時だ 最初の一発を受けた辺りで胸ポケットから落ちたんだろう

必死過ぎて落ちた事も気づかない程頭に血が昇っていた やっぱり不良少年だなと苦笑している

 

ページを幾つかめくる中である写真がスルッと落ちて来た

 

「これ 挟まってたのか……………」

「うん コータローと私たち それにお母さんで撮った一枚懐かしいね」

「忘れてた 無くしたと思ってたんだこの写真 生徒手帳に入れてたのか」

 

落ちたその一枚はある時に撮ったものだ

水木姐が零奈さんを含め七人で撮るべきだーと言いだし 流石にあの人も困惑していた

最終的には姉妹達の言葉で折れ 彼女の撮影で七人で撮り 大切な思い出として

現像した一枚 そしてこれが七人で撮った最後の写真でもある…………。

 

「みんな 変わったよな………特に一花や四葉 長さが全然だ」

「コータローもまだ目つき悪く無いね」

「今はこんなだけどな ふふふ でも変わらないものあるよな 確かにあの頃とは違うけど

 今も七人だ……」

「うん 一花 二乃 私 四葉 五月 フータロー そしてコータローの七人」

「男が二人になったな でも俺はこの七人でいる 今が楽しいんだ ずっと続いて欲しいとも思う」

「私も今が楽しいよ コータローやフータローに勉強見てもらって 一花達と遊んで

 二乃と喧嘩したり………それでも何時までもこのままは難しいよ」

「そうだろうな」

「でも今だけはこの時間が続いて欲しいと思う」

「ん?」

(今は私とコータローの二人だけ この時間だけはゆっくり進んで欲しい)

 

何を思い 三玖はこの時間がと言ったのだろう

俺には先ほど このままは難しい そう答えた筈なのに………

女心と秋の空は 空模様のようにころころ変わるとは言うがそう言うもんなのかな

 

卒業式が執り行われるまでの間 俺は三玖と二人図書室でその時間を嚙み締めるように

過ごす事になった

 

 

 

その後は2年生も一度体育館に集まり教師の話を聞き終われば

教室へと戻される 三年生の数名がこっちに気づけば式もそっちのけでこそこそと話だしていた

卒業式までそんな暇があるとは余裕もあるな あいつらも ぼやくも別段気にはしない

教室まで戻ればあとは適当に時間を潰した

 

五月は何度か俺に声をかけて来た 悪いが今の俺にはそんな余裕はないようだ

治ったと思ったストレス障害 やはりと言うか三年を見れば嫌でも胸が痛くなる

 

倒れる程とは行かないが息も苦しくなってくる

落ち着け 俺よ 今日はこの胸の苦しみともお別れだ その為にここまで来たんだ

大丈夫だ あいつらが何を言おうと関係ない 俺は俺だ

上杉幸太郎はここにいる……………。

 

(幸太郎君………)

 

 

 

 

そして3年生は卒業式も終われば 校舎を出て行く

体育館の前では多くの生徒が涙し 親御さん方も子供の記念すべきこの日とお化粧とお高い服だ

生きてる中で卒業式は3回くらいだ その中でも高校生となれば一番の思い出となるだろ

 

 

 

「さて 俺も行くか……………」

「コータロー 辛そうだよ?」

「コータロー君。私たちもついて行こうか」

「いや 大丈夫だ けじめだ 俺一人で十分だよ お前らはここで待ってろ 挨拶したい先輩がいるなら話は別だけどさ」

「転校してきて 知り合った人はいないかな 勉強と今で精一杯だからさ」

「そうかい じゃ」

「幸太郎君 ご武運を」

 

これから戦争にでも行くのかと 面も引き締まる

健闘を祈るように見送るお三方 風太郎は二乃の件でこの場にはいない

二乃は未だ教室だ四葉は知らん 何故かいない

アイツの事だし 部活動で世話になった先輩達の挨拶周りだろうな

 

 

「足が竦むってこんな感じか……………」

 

向かう足が自然と止まる まるで石だ

個人の力ではどうにもならなそうな重みを足のつま先から頭のてっぺんまで感じている

腰抜けめ 今更怖気づくな 前を見ろ 歩くだけで良い 話は口でする

足癖の悪さを今出すな

 

 

俺の表情が余程怖いのか先生方を含め 親御さんまで道を空ける始末だ

久々のモーセだ これなら迷うことなくあいつらと会えるさぁ行くぞ

 

 

 

 

「よーー お前ら 卒業おめでとう」

 

『『上杉・上杉君』』

旧2年1組 現3年一組  

かつての友人達が俺を見るなり 表情を曇らせる

ひそひそと話すかと思えば視線も合わせない 余程嫌われてるな…。

あの時の全員が一組に属してる訳でもないが、あいつがいるクラスはここだ顔を出すべきだ

 

「まぁ お前らの相手は今はいいさ  須藤 元気か」

「上杉………おっ おまえ 何でいやがる」

「可笑しな事聞くな? 親友の卒業式だぞ 祝うくらいさせてくれよ」

「な 何が親友だ お前は お前なんか!」

 

ざわざわと周りが騒ぎ出す 教職員も様子を伺い始める

おーこえこえ 別に喧嘩をしに来た訳でもないのさ……。

目の前の坊主頭の男子生徒は俺が来た事が余程嫌なのか

睨みつけ胸倉まで掴んでくる

 

「お お兄ちゃん! 先輩もやめてください せっかくの卒業式なのに」

「悪い 真弓ちゃん 今はこいつと話さねぇーといけないんだ」

「真弓 下がってろ」

「妹にそんな強気の口調はやめろ 怖がるだろう?」

 

須藤和之の妹 真弓ちゃんの存在を忘れていた

彼が卒業するんだ 祝いに来るのは当たり前だろうな

俺と須藤が睨み合をすれば引き離そうと試みるが須藤自信ががそれを制止した

 

同時に後方から彼の親からの援護『二人はちゃんと向き合うべきだ』

 

(おじさん おばさん ありがとうございます)

 

 

 

 

 

「和之  卒業おめでとう」

「!!」

「悪かったな ずっと避けてた お前はいい奴だ本当に今も昔もな

  今の2年は噂で俺を避ける でも何で今の3年が俺を避けるのかずっと考えていた」

 

 

俺の世代の3年は今の2年と違い ある意味で事件の当事者と言っても差し支えない

当時の【あれ】は俺が病院を抜け出した頃から始まり 周りはそれを当たり前のように行っていた

 

ただある時を境にそれがぴたりと止まった

俺が再び2年をやることが決まった4月の終わり頃だ

こいつらは俺を見るなり逃げていく 『噂もここまで来ると暗示だな』と頭を抱えていたが

どうも何時もと様子が違って見えた

 

俺を避ける彼等の目は あの時の『怒りに満ちた』それとは違う

『すみません』と謝っているように感じたんだ ただ怖いからなのか

それはおかしい 怖がるなら俺の方だろ あんな目に遭ったんだ避けるのはこっちだ

 

暫くはそれも慣れ 五月達が転校して来て風太郎とも学校でも会話も増える

そんなある日だ 『あの噂 嘘だって3年の生徒が騒いでた』帰り際にそれを耳にした

噂なんて沢山ある 俺とは違うだろうとその時は気にも留めずていなかった

 

 

 

 

 

「考えたんだ ひよるこいつらと 騒いでる3年の生徒の事………… 和之

  お前さ 庇ってくれてたんだろ?ずっとさ みんなに言ったんだろ 俺は何もしてないって」

 

 

須藤和之は馬鹿だ けどそのぶん心は真っ直ぐで いじめはしない

そんな事をこいつは見過ごさない

『言えよ 幸太郎 お前は何もしてないって!』

『……………ごめん和之』

『謝ってんじゃねーーーよ この野郎』

 

俺が最後にアイツの前で名前を呼んだのが去年の1月が最後だ

それ以降から俺は今の3年との付き合いを完全に絶った

 

その俺が今 あいつを下の名前で呼んだ

どれだけこそばゆいか言ってる俺が一番身に染みている

目の前の男子生徒はボロボロと涙を流し出す

 

「男が泣くなよ」

「幸太郎 ごめん 俺何も出来なかった お前がいじめられてる時に 何も」

「お前は良くやったさ 俺の身の潔白をみんなに証明しようと毎日毎日さ

 ありがとう お前は最高の親友だよ もう一度 言わせてくれ 卒業おめでとう」

 

この時をどれだけ待ったか

胸の痛みは最高潮だ 今にも倒れてしまいそうだけど こいつと話さず

こいつを卒業させたならきっと俺は永遠にトラウマに悩ませされ

本当の意味での卒業も出来ないまま人生を過ごす事になっていた

泣き崩れる親友の肩に手を乗せ『馬鹿やろう』と一声

真弓ちゃんまで号泣してやがる

 

「だ……………だって お兄ちゃんっど ぜ ぜんばいが やっと」

「可愛い顔が台無しだ 涙もろい所はそっくりだよ」

 

おめでとう親友 お前は夢の為にこのまま突き進め

もう俺に負い目を感じて 俺の前で悪ぶる必要もない

和之が異様に俺を警戒するのは俺の前では強くあろうとし

あの日守れなかった親友を遠ざける為だった 普段は喧嘩も出来ないこいつが

そんな器用な真似をしてんだ 言葉もおかしくなるだろうさ

 

加え 本当の意味で俺に怒っていたのもある

誰に弁解せず 説得を諦めた俺にこいつなりに激怒していたんだ

 

俺はあの件には無頓着を決め込んだ 和之は俺の分まで怒ってくれていた

随分と負担をかけさせちまったな

 

 

「じゃ俺は行くわ 」

「こ 幸太郎っ!」

「俺は不良少年だからよ これ以上は入れない……………何のつもりだお前ら」

 

和之を立たせ 五月達が待つ体育館前に戻ろうとしたが

何人もの卒業生に阻まれる 全員何か言いたげとばかりにその場で黙る

『あぁ?』と睨めば 一斉に頷く

 

 

 

『『ごめんなさい』』

 

「えっ……………何だ」

 

 

全員が深々と頭を下げる

流石にこれは想定外だ 俺も困っている

何人かの生徒が俺の方までくれば事情を話す

 

「上杉君が何もしてないって 須藤君から聞いた それにあの写真や動画もでっち上げだって」

「っ…………今更かよ」

 

 

胸が痛い 心臓がドクン ドクンと鼓動する

どんどん速度上げていく これだこいつらと話す 顔を見るだけで俺は息ができない

瞼も自然と閉じようとすらする 現実と過去を直視しようとしない

怖くして仕方ないんだ また いじめられる 足が震える 嫌な汗も出る

今すぐに 逃げ出して何もかも無かった事にして 今すぐ あいつらの顔が見たい

でもダメだ ここは引けない…………。

 

「っ………う……」

 

吐きそうだ 今すぐトイレにかけ込んで食ったもんを吐きだしたい

 

ただあいにくとうちで朝食が出る事は稀だ 吐くもんなんてねぇ

それにこんな情けない姿 彼女達には見せられない

今は前を見ろ こいつらの顔を見ろ 逃げるな……。

 

 

 

「あんな情報に踊らされて 君の話も聞かずにみんなであんな 酷い事とをしてごめんなさい」

「真面目だった 君がそんな事しないと言っていた生徒もいたんだよ」

「だから なんだよ?」

「……………」

 

「今更だな…………本当に調子が良くねぇか?」

「ひっ!」

「ご ごめん でもあの時は みんな」

 

「みんながやれば それが正当化されるのか? お前らあいつ等より質が悪いな」

 

入院の最中は和之以外は誰も来ない

電話をしようもみんな俺を無視して番号すら変える ネットを見れば捏造された

暴力事件の記事 学校に行けば謂れのない暴言ばかり

孤立無援だった…………。

 

 

結局今日まで 和之以外の誰も俺とは話そうとはしなかった

そのこいつらが卒業式で友人と仲直り なら俺達も仲直りできるよね

そんなアットホームなゆるふわな答えを期待していたのか?

 

何処まで俺を小馬鹿にすれば気がするんだろうな……………低い声で話すれば

全員が目を伏せる  それだよ全員が全員何で 自分の意見を言おうとしない

 

 

「幸太郎………許してくれとは思ってないでも話だけは聞いて欲しい 頼む」

「和之 頭上げろよ お前は悪く無いだろ 俺が話してるのはお前以外の三年だ」

 

他の生徒を代弁して自ら頭を下げる唯一の友人は真剣だ

どれだけお人好しなんだ こいつは……………

何も変わってないな 和之は何時もお前は誰かの為に身を犠牲に出来る真面目で不器用な奴

俺が本当の意味で本音を言えていた相手だ その友人が頭を下げている

 

それにだ 俺は今日 顔を出したのは和之と和解する為だけじゃない

こいつらと話し 過去の俺とおさらばする事だ……。

 

ぽちぽりと頭を掻き 面倒くさいと言わんばかりの表情で卒業生の方を向き直す

ダルそうなその声を彼等に向けた

 

 

「今更だ だから もー 終わった事だ 勝手にしろよ」

『『……………』』

「俺は俺で新しい 奴らと三年を向かえんだ だからお前らもさ 何時までもあの事を考えるな

  誰も悪くねぇさ きっとな」

 

 

何処まで俺は馬鹿なんだろうな

あれだけのいじめを受けた あいつらをその言葉だけで許す

もう気にするなと声をかける 前を向けと諭す 過去に縛られるのは俺だけじゃないんだ

卒業を迎えた こいつ等もまた あの日から止まったままだ

そんな事…………知っちまえば目覚めも悪い 

俺は別にこいつらを責めに来たんじゃない 友人の晴れの舞台を見送りに来た

そう考えれば自然と胸の痛みも消えている

 

 

信じられないといった顔で俺を見る卒業生達は『ありがとう』と何でお礼を言ってんだ

 

 

「はぁ……………まぁ卒業 おめでとう 先輩方」

 

「おい 幸太郎 あいつとはムギとは会えたのか あいつもきっと卒業を迎える筈だ」

 

「さーな 事故以来あいつとは連絡を取ってねぇーよ 

 あの人外だ きっと何処かの大学でも行くんだろうさ」

 

「ムギは戻って来てるぞ…。」

 

「……………そうか あいつ戻ってきたのか」

 

「上杉君 私たちが言えた義理じゃないけど むぎちゃんと話すべきだよ」

「そうだよ 二人はみんなが認めたベストパートナーなんだからさ」

 

何人かの卒業生が駆け寄り あいつと会い 話し合えと

さっきまで辛気臭い顔で俯いてたわりに 余裕があるなこいつら脳内お花畑かよ

 

 

「本当にその通りだ 言われる義理はねーよな 勝手に言ってろ

 俺はあいつとはもう会わない…………。」

 

和之があいつの名前を出すと数人の生徒が俺に押し寄せる

軽くすし詰め状態だな…。 これ以上世間話もする気もない

それにあいつとのことで誰かにとやかく言われる筋合いはもうとうない…。

 

適当に引き離し 落ち着けと彼らに言い聞かせる

はぁ だるい…。

 

(それにな どんな面してあいつと会えって言うんだよ)

 

 

やや予想外の人物の名前で余計にごたごたしたが、やるべき事は終わった

やっとだ あの忌々しい日々から俺は解放された

ずっと心の奥で引っかかっていたそれが解け始めている

 

前を向ける あの男に宣戦布告をした以上はこの因縁とは決着を着けるべきなんだ

ずるずる引きずったまま…。

新しい日々を過ごす何てきっと今の俺には耐えられない

これで良い 誰も彼もが報われず 誰もが後悔ばかりした一年間は遂に終わる

 

人一人の意見なんて誰も耳に貸さず 自分の無力さを知る 

人は多数となることで自分の意見が正当なものだと認識しだす

例え 目の前の人物が何もしてないと答えても

『でも友達が言っていた 動画でみた みんながそう言ってるから』と

言葉の羅列は何時もそれだ…。意見や主張は意味をなさず

『なら正しいと思う方に手を上げよう』

多数決と言うなの存在は一人を標的とした攻撃へと変わっていく

『お前が悪いんだ ほら皆だってそう言っている』

目の前の光景は信じられるものではない、標的となった人物に言葉を話す権利も立場もない

 

あのたった数週間で俺は友人も信頼も何もかも無くした

だから決めた 

『誰もが信じないなら俺は意見はしない』いい感じにひねくれ

それが何時しか学校で一番の不良少年と呼ばれる事になり俺は否定もしない肯定もしないただ身を任せる道を選んだ…。

 

きっと正解だ 流されるままの方が楽なんだ…。

でも俺の考えは、少しずつ変わり出し周りの環境も変化し始めている ならさ何時までも後ろ向きな姿勢はやめて 暗い過去の俺は必要ないんじゃねーかな? 

大切な家族や友人と過ごすにはそれを受け入れ乗り越えられる強さが必要なんだと思う だから俺はここに来た ここに来れた…。

 

 

(あばよ お前ら…。 これが俺の答えさ。)

 

 

 

去り際に手を振った もー俺とは関係ない奴らだ 何を言おうが勝手にどうぞ

この先さ生きていくんだ もう変な噂で人を疑う事だけはするな

一瞬まだ楽しかったあの日の学園生活を思い出すでも、それは過去

俺が向かえるべき今は、卒業するこいつらとのあの日ではなく今を過ごすあいつら6人との明日だ

 

 

 

 

「はぁ……………」

「お疲れ様ー」

「何だ二乃も来たのか」

「幸太郎君 お疲れ様です」

「コータロー 頑張ったね」

「良い顔してるね コータロー君 うん迷いは消えたね」

「はぁ……まぁそんなところだ いい加減あいつ等も反省してるし とやかく言うのは大人げない…。」

「それでも彼等はそれだけの事を あなたにしたんです…。反省すべきです」

「コータロー 手が震えてるよ」

 

戻ってくれば五月達だけではない

朝方から姿を見せない二乃もその場に合流している 『お疲れ様』と労いの言葉

こいつもまだ気持ちの整理がつかないのにお人好しな奴だよ

 

彼女達を見て安心仕切ったのか今更 左手の震えに気づく

三玖に言われるまで全く意識してなかった

 

「正直言えば 今でも人が怖いさ……でも前に進むためには 受け止めないといけない」

 

手の震えは続くが不思議と胸の痛みは消えていた

鼓動も静まり正常に動く

体に感じていた重みが消え かかった靄も晴れだしている

 

「まぁ…………終わった事だ 何時までも考えるのは ………ん?」

「せんぱーい 兄と写真撮りましょう」

「和之と?嫌だよ 面倒だし」

「仲直り出来たんです お二人で卒業出来ませんでしたが 記念に撮りましょう」

 

 

「あの 中野さん達か?」

「お久しぶりです 須藤先輩」

「あの時は悪かったな くすぶってる 幸太郎を見てるとどうも感情が」

「いえ 良いんです もう彼は前を歩んでいます

 先輩もどうか彼が願った夢を諦めないようにしてください」

「ありがとう  それとあんた達 これからも幸太郎を頼む きっと無茶ばかりするし

 あの見た目だ勘違いされるだろうし 卒業する俺には今後はどうにもできない」

「コータローは任せて 私たちは絶対に無茶をさせない」

 

 

「おい 和之 こっち来てくれ 真弓ちゃんがうるさくて」

「うるさくありません さー二人で撮りますよカメラはありますから!」

「わかった 今行くぞ じゃ あんた達も残りの一年頑張ってくれ」

「はい 先輩も今後の活躍応援しています」

 

 

真弓ちゃんもしつこいな

わざわざ和之と写真なんて撮る必要もないだろうに…

 

 

 

 

 

「五月ちゃん あの人良い人だったね」

「はい 最初は怖い方だと思っていましたが、ずっと裏で幸太郎君の為に頑張ってくれていました

 彼には感謝しないと行けません……………」

「五月 まだ納得がいかない顔してるね」

「…………当然です 彼の受けた仕打ちは看過出来るものでありません 自分が歯がゆいです」

「ならさ 一言文句言いに行こうか? コータロー君には来るなって言われたけどそれはあくまでも 彼があの卒業生と話している時だけだしさ」

「……………二乃 ここはお願い出来ますか?」

「別にいいわよ 私は関係ないし………でも一応は兄代わり 私や四葉の分もよろしく」

「行きましょう 一花 三玖」

 

上杉幸太郎が須藤和之との和解と卒業生との因縁も無事に解決

万々歳と喜ぶべきか 実のところ五月も三玖も それにある程度の事情を知らされた

一花も満足できていない 自分で決着をつけると彼は言い 実現させた

これ以上は彼の行為に水を差す

それでも一言物申す必要がある あの優しい少年をここまで陥れた原因になったあの卒業生達に

 

二乃に幸太郎の事を任せれば五月を先頭に三人は彼が戻ってきた方向へと歩いて行く

 

 

「あの………上杉幸太郎君のご友人だった方達ですよね?」

 

「君達は?」

 

「彼の友人です……………上杉 いえ 幸太郎君はあなたたちを許しました

 ですが私たちはあなた方を絶対に許しません 」

「先輩達さ コータロー君に何をやったかもう一度思い出してご覧よ」

「どれだけコータローが苦しんで 今まで学校に来ていたのか 先輩達は考えた事ある?」

 

『『……………』』

 

「あなた方は一人の男子生徒から人を信頼する気持ち そして本当の笑顔を奪ったんです」

 

本当は『もう一度彼と話して謝罪してください』五月はこう言いたい

だけど踏ん張った彼の為に五月も三玖も耐え忍ぶ彼が許すと言ったんだ従おう

でも今だけは本音をぶつけ 彼等にも悩む時間を与える

そうでもしないと あの少年は報われない 余りにも不憫すぎる

 

「それでー先輩達に頼みがあるんです 

 もう二度とコータロー君の前に顔を出さないで貰えますか?」

 

『『ひっ!』』

 

一花の見せるその笑みは背筋が凍るものだ

全員『はい』とその場でお辞儀 せっかくの卒業式なのに笑顔すら浮かべない

浮かべられない 

自分達の為に身を削って頑張り続ける彼に今できる恩返しの一つは彼とこの生徒達を遠ざける事

どれだけ彼が自分に言い聞かせても患った精神障害は付きまとう

須藤とは和解できても本当の意味で元の友人達と和解するのは出来そうにないだろう

 

   卒業生はたった一人の男子生徒を自殺寸前まで追い詰めた

その事実は決して変わらない それを永遠に謝れずにそしてずっとモヤモヤしたまま生きていけ

一花の出した答えはとてもえげつない

 

「言いたい事は言えたかな 五月ちゃんはどう?」

「未だに許せません……けど 今はこれが最善なのでしょう」

「うん これ以上は私たちでは出来ないから」

 

「おーい 一花ー 五月ー 三玖ーー」

 

「おっ 戻ったねー 四葉 どうだった?」

「いやはや 色々な部活に顔を出してたから今まで時間かかったよ」

「四葉らしいですね」

「三人はここで何してたの?」

「うーん お話かな?」

 

((脅しとは言えない))

 

この学校に来て一番に三年生と交流を深めた四葉は参加した全部活の先輩に挨拶周りに出ており

やっと終わったと満足げだ

さっきまでシリアス全開で卒業生に物申していたとは言えるわけもなく一花はお話と

間違いではないがその言葉で四葉を納得させる

『うーん まぁいいか さぁー戻ろう―』深くは考えず四葉はそのまま走りだした

それを追いかけるように彼女達も歩み出した

 

 

 

 

「はーいそれじゃ 二人共撮るよ」

「真弓は取らなくていいの? 兄貴なんでしょ」

「良いんです 今は二人が仲直りしただけで嬉しく」

「仲良くか……………」

「二乃さん? あぁー先輩逃げないで お兄ちゃん動ないように掴んで」

 

「うぐぐぐ離せ 和之!」

「嫌だ お前もいい加減諦めろ」

「うるせーよ まったくお節介な兄妹だ」

 

「あんたがそれを言うの 笑えないわね」

 

手厳しい二乃の一言

それに見守る 和之の両親も涙ぐんでいる 二人もずっと気にかけてくれていたんだ

俺もいい加減気持ちを切り替えるか………

 

 

「それじゃ 撮りますよ」

 

カシャ

 

「はぁ 面倒事が終わったな」

「がっははは 良いな幸太郎 お前とこうして話すのも」

「和之も昔の口調に戻ってきたな」

「嬉しいからな 友人と話せたんだぞ」

「へいへい……………ん なんだ 第三ボタン?」

「前 聞いたんだ 第三ボタンは友人に送るって 幸太郎にやる」

「やめろ 恥ずかしい たくよぅ」

 

自分の身に着ける 学ランの第三ボタンを無造作に取れば

それを俺につきだす ガサツ過ぎるだろう お前の学ランを直す真弓ちゃんの身にもなれ

やめろと言うが 俺はそれを受け取った 友人に送る その言葉はとても心地いいもんだ

 

「お兄ちゃんは 第二ボタンは誰かにあげないの?」

「うぐ」

「やめてあげろ 和之が泣きそうだろう」

「誰が泣くかよ…俺だって好きな女子はい いるぞ」

「お兄ちゃん本当ーー 誰誰ーー何で相談してくれないの!」

「それは初耳だな 和之が恋か良いじゃんか頑張れよ」 

「そ そうだよな 幸太郎 こう言う時どうすれば良いんだ! お前恋とか詳しいだろ」

「相手もいないのに詳しいも無いが 好きなら好きでそれを伝えろ

 恋なんて自分が思ってもいない時にするもんだ」

「相手もいないって お前!」

「うるせー 意見はちゃんと聞き入れるよな?」

 

いやー聞いていて耳が痛いな

和之にそう言った話題が出るとは18年間共にいて初めてだった

野球一筋 運動馬鹿 そんなイメージが俺の中では定着している

この一年間俺が知らないだけで 和之にも変化が出ていたことは嬉しい発見だな

 

 

 

「ねぇ… あんたに話があるんだけど良いかしら?」

「何だよ二乃?」

「あいつは…上杉は学校に来てる?」

「来てる筈だ 普段と変わりねぇーと思う あいつに話でもあったか」

「べ 別にないわよ」

 

写真を撮り終えれば和之や真弓ちゃんからも解放され

後はゆっくりと…休憩は出来ない

昨日の事を聞いてしまった俺には目の前の少女の話を無視する事は出来ない

風太郎はどうしているのか そう尋ねられる

正直言えば朝からテンパって勉強にも身が入らないといった感じで上の空

彼からしたら現実離れした出来事過ぎて 処理が落ち着かないと言った様子だ

それをまんま伝える程俺も馬鹿ではない…。

 

「まぁ…何かあれば力にはなってやる 嫌ならかまわん」

「少しは頼りにしてるわよ 本当に少しだけよ」

「へいへい」

(上杉に告白したって言えば こいつも話を聞いてくれるかしら?)

 

 

 

 

 

「最近はどうも人の恋路の話ばかりだな…恋ねぇ」

 

同窓生達と話し 友人との仲を戻し

妹分は恋の悩みと今日はとことん忙しい一日だ

 

 

あいつ等も言ってたけど 坂下も何処かで卒業式を迎え

何処かの有名大学にでも進学して居る筈だ

どれだけやっても追いつかない雲の上のようなあいつは今俺をどう思っているろうな

 

怒っているのか呆れているのか その答えを聞きたくてもそのすべを俺は持たない

 

ぽつりと呟いた 恋と言うワード はずさりと俺に突き刺さる

 

 

「恋か…俺には出来るのか?……恋が」

 

 

 

 

 

(幸太郎君が恋…えぇ?)

(コータローが…)

(えっ…コータロー君が…)

 

口に出たその言葉は周りの音でかき消されそうなほど小さな呟き誰も聞いてはいない

意識する程でもない空気のようなそれを

戻ってきた三名がひっそりと聞いていたそんな事を俺は気づく事もなく

後に火種になる事すら予想出来る筈もなかった…。




キャラ設定更新
上杉幸太郎
この話の主人公で過去の事件で2年生を継続し
中野姉妹や風太郎達と過ごすうちに少しずつ変わる日常を受け入れ始めていった
過去の友人達の卒業式を見届け
彼等と決別 同時に親友である須藤和之と和解した

過去の事件の影響で心的ストレス障害を患っており
人を特に同世代の人間を本気で信用出来ず 今まで卒業生達を避けていた
その影響かメンタルは弱く 過去に自殺も図った事があり
祭りのさいに心臓を押さえ倒れた理由はこれである

自殺をしようとした際に中野六花の言葉に助けられ以降 彼女を恩人として慕っている


中野五月
この話のヒロインの一人
上杉幸太郎の事を本人以上に知っている事が多く未だに謎である
三玖と五月は幼い頃の記憶を覚えており
幸太郎の事をずっと気にかけていた様子 ただそれが今の動機か不明
幸太郎本人は否定しているが
下田に聞かれた際に彼女は彼との関係を言えずにいた


中野三玖
この話のヒロインの一人
上杉幸太郎に助けられ以降 彼に恩を感じ
同時に傷ついた理由が自分として
再会した時や本格的に教わるまで彼を避けていた
今では自分の気持ちに正直になり 彼に告白する事を夢見ている
五月の次に彼の過去に詳しい人物
現在の悩みは幸太郎が自分達を全く意識していない事らしい

中野一花
この話のヒロインの一人
上杉幸太郎と言う人間に興味がわき
二人を除けば姉妹の中で一番最初に彼がコウと同一人物だと気付いた
三玖とのやり取りや自分を親身になって応援する彼に何時しか
兄と慕う感情以上の気持ちが芽生えた


中野六花
上杉幸太郎の恩人で同時に彼女の恩人が幸太郎である
何時も帽子を被り 顔は良く確認できないが
姉妹とそっくりな顔立ちをしている
ただ 全員にアリバイがあり 幸太郎は頭を抱えている


中野四葉
上杉幸太郎の後輩
何かと幸太郎は彼女を気にかけるが 彼はその理由を告げない

中野二乃
上杉幸太郎の後輩
幸太郎や風太郎とぶつかる事が多く一番の障害だった
現在は和解し 風太郎に告白している


上杉風太郎
幸太郎の弟
勉強馬鹿で何かと姉妹の事で頭悩ませていたが12月の一件以降問題は解決し
新たな問題に直面 現在の悩みは二乃からの告白であり
どうすれば良いかと模索中


坂下
幸太郎の友人で彼が入院している間に転校していた
愛称はむぎ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。