「今 来たのが一花と二乃」
「えっ」
「まじか」
「あれが三玖」
「えっ」
「へぇー」
「その隣が四葉だ」
爺さんに弟子入りした風太郎と俺は釣りをしながら遠くを眺める
ここから少し離れた場所には、姉妹達が浜辺で遊んでいるが、普通に判別するのさえ難しく中々解にたどり着けない俺たちはうーんと頷く一方だが、爺さんはたんたんと彼女たちの名前を口に出す。離れていれば適当言えるし直接見なければ本当に当たっているかも分からないが、疑う余地もなく当たっていると直感でわかる…、
流石と言うべきか、きっと爺さんが言ってる事は間違いない 一応は俺もこつを掴めたのか些細な違いは見えて来たつもり…………正直自信がない
まぁー何だろうな どう表現し言い表したら良いんだ…ただ何かを掴む一歩手前まできている…あと一歩何かが足りない、その一歩が出ず 脳内を過ぎるのは五月のあの言葉『愛です!』自信満々な彼女のあの言葉は確かに姉妹を見分ける中で最も重要な事なのだと思えてる…。
「うーん…。出かかっているんだがなー」
「俺は、全然わからん」
昔の感覚を取り戻し始めて来た俺とは違い
風太郎はどうすべきか 判別は最早足でするしかないのかと弱気な発言が目立ち始める
「焦るな…………」
「いや 無理だろ 爺さんと居れば何か分かるかと思ったけど なんでああまで言えるんだ」
焦ってばかりでは足元が掬われる 俺たちは何度その間違いを起こしてきただろうか
『とりあえず 冷静に平穏に』何の役にも立たないアドバイスで弟を落ち着かせる
浜辺で水遊びに興じていた四名はぞろぞろここまで歩いてくる
間近で見てもやはり厳しいと言うのが、本音で俺の勘は鈍っている
いやいや…そうじゃないもっと親身になってあいつらと向き合うべきだ
以前と同じだ 何も変わっていない それに昔の俺は、全員の区別は出来ていたんだ…。第一に勘で見つけようとするのが、そもそも間違いだ。向き合えばだれがだか分かってくるはずだ……不安しかねーよな
ともあれ区別する事も大事だが、問題は他にある 残りの四人が余所余所しい原因を探らないといけない…。紛れ込んでいるであろう 二乃と四葉については凡そ理由は分かってきた 全く分からないのは、五つ子ゲーム後に話した三玖と今日まで会えない一花の抱える悩み事 点で予想がつかんぞ…。
「わぁ 沢山釣れてますね!」
「ほとんど爺さんの手柄だ」
「爺さん 何でも出来るよな…………」
「これなんて魚です?」
「クロダイ」
「これは?」
「アイナメ」
「これは?」
「メバル」
(傍から見れば魚なんてどれも同じだ
余程魚の事が好きじゃ無ければ……………………同じ どれも同じ)
「じゃあ、これは?」
「ああ、こいつは・・・キスだな」
「今じゃないわね…」
「何がだよ…?」
目の前の五月の一人が風太郎に寄ってきたが寸前で止まりぽつりと呟く
「見て おじいちゃんが大物引いてる!」
「幸太郎 も手を貸せって どうした?」
「えっ 凄!」
全員が大物に気を取られている間 耳を澄ませ 心を落ち着かせる
少しばかり俺も冷静に考えよう
楽観的過ぎた 気負い過ぎるなとも言うが気負わな過ぎるのも考え物だ
「悪い 少し席外す」
「おお…………無理するなよ」
「お前こそな……………どれも同じ どれも同じ」
「はぁ……………いっ」
ズキッ
「…………!」
「ん おいあぶねーぞ! 怪我でもしてんのか」
状況整理とその場から一旦動き離れた場所で姉妹を観察でもと思って乗ってきたバスの方まで歩いていた
すると近くに誰かが扮する五月がおり
さっきまで妙に焦っていたと思えば 急に安心したかのようにため息を漏らしている
どうしたのか、彼女のもとまで歩み寄る
すると突然目の前の五月が苦悶の表情を浮かべよろめきだし 転びそうな彼女をとっさに自分の方へと引き寄せた
「おい 大丈夫か?」
(コータロー君…………)
「ご ごめん ちょっとよろけちゃって」
「……………………」
「昨日 足を痛めちゃったから」
「足を痛めたか……こっちに来い」
引き寄せた五月は確かに足を痛めている
軽い捻挫だ 少々腫れもあるしこのまま放置も出来んな
自分の物持ちの良さには何度も救われる さて昨日の偽五月の時も絆創膏で傷を覆ったし
この五月には包帯だ
「包帯だけ巻いておく 余り動くなよ?」
「あ……うん ありがとう」
直観だが こいつは四葉と三玖ではない気がする
自分でも何故だかそんな気がしている 表情はどれをとっても全員同じなのにな………
「なぁー 少し聞いて良いか?」
「何かな………………って隠れて!」
「な なんだー!」
「おーい 幸太郎どこ行った―」
この子が何時どこで怪我をしたのかそれを聞けば正体は分らずも
彼女が偽五月かどうかは判断出来る筈だ 傷の箇所が違う=偽五月じゃないと言う考えは軽率だ
彼女が質問に答えようと思った 刹那 凄い力で体を引っ張られ
バスの後ろまで連れて行かれた 中野姉妹は怪力過ぎる…………………
ーーーーーー
ーーーー
ーー
バスの裏手では自分の体に幸太郎を抱き寄せる
中野五月(一花)が赤を真っ赤に染めていた 心臓も高鳴り この近さなら彼に聞こえてしまう
それでも咄嗟にこの行動に出てしまった
幸太郎を探す声の主は弟の風太郎 加え彼を観察する 二乃もいた
何でか今あの二人と顔を合わせられない
二乃に対しては軽い罪悪か風太郎に対しても似たような複雑な気持ちだ
昨日の話で余計に幸太郎を意識している一花は
二人の目から逃れる為とは言え何故かこんな行動に出てしまった
「おい 足怪我してんだ 動くな!」
「ご ごめん でも今は少しだけ……………………」
(何故だろう この状況と似たような場面に何度もあったような)
抱き寄せられる彼は一花の足を心配し声をかけるが
今のこの状況で彼女には足の痛みも分からずにいた
(なんで私はいっつも・・・。悪いことだってわかってるのに………
フータロー君と二乃の恋を邪魔してるのに………)
せめて 今の時間が続くよう祈る中 妹が自分より先に動き出し
気づけば彼女の恋路を邪魔する発言ばかり にも関わらず彼とこんな状況……………
許される筈もない これじゃ本当に姉失格だと
「まずは落ち着け ここまで顔が近いと余計に誰か分からんぞ」
(そっか 私が誰かまだ分からないんだ……………………それならいっそ
こんな面倒なこと考えなくてもいいのに………)
本当は自分だって 恋がしたい 目の前の彼に『大好きだ』と大声で伝えたい
二乃と風太郎が付き合い 状況が動き今が壊れるくらいなら
いっそ自分が先に動いいて彼に気持ちを伝えてしまおう もう考えも纏まらない
彼の呼びかけも聞こえない 耳が捉える音は自分の鼓動と静かになる彼の鼓動だけ
(コータロー君 私は君が……………………)
近づけた顔 あと数センチで唇が触れ合う
「そこに誰かいるの?」
「幸太郎ー 何処だー!」
「「!」」
寸前で顔が止まる 先ほど祖父の所に戻った 二乃と風太郎が再び
近くまで来ていた この場をどうするか
考える事を放棄した彼女が問った行動は…………
「えい!」
「ちょ!」
ドボーンッ!
幸太郎を海まで突き飛ばし 最悪の事態から救われた
「なにしてのよ!」
「幸太郎見なかったか えーっと 誰だこの五月」
「あはは 誰だろうね 上杉君さー 向うまで戻ろうか」
「なんで 俺は突き飛ばされたんだよ…………」
ぷくぷくと泡を作り 海上で漂う幸太郎は訳も分からずその場で頭を悩ませる
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「へっーくしゅん ちくしょう訳わからん」
「お前なんで 海水浴なんてしてんだ」
「俺が知るかよ……………はぁ」
「ずぶ濡れですね おに 幸太郎君」
「 おい こいつ 四女だぞ」
その後 漂う幸太郎が発見され バスまで戻れば毛布を渡された
いまだ海水浴には早い季節 何で飛び込んだと呆れる弟だが本人が一番驚いている
バスの裏手まで引っ張られたと思えば顔を近づける 何をするのかと思えば
急に両手で海へと突き飛ばす どれもこれも謎すぎて頭はパンク寸前だ
(コータロー君 ごめんねー 今度何かお詫びするから)
「あいつと二人でもおじいちゃんの前だと何かと制限されるわね」
「ねぇ 二乃別に今じゃなくても・・・」
「この旅行もお互い明日まで・・・2人きりで会えるチャンスがあるとしたら・・・」
一花が離れていた間もあれよあれよと策をを巡らせるがどれも不発
風太郎には全く効果の程はなく
この旅行期間の間に進展する事を望む二乃は何が一番に彼を振り向かせられるか
その事のみを考え一花の言葉もびしょ濡れの幸太郎の姿も見えてはいない
それ程までに風太郎への熱は上昇中 一花の不安は募るばかり
「…ねぇ 一花」
「な なに?」
「夜になったらここを抜け出して彼に会いに行くわ。手助けしてちょうだい」
嫌な予感しかしない 今の暴走機関車の二乃は決して止まらない
自分の言葉は届かない…………徐々にだが確実に一花の心に靄がかかり始めて来た
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宿に戻り 幸太郎は部屋まで戻って行く
声をかけようにも祖父の前で迂闊に動けず くしゃみをする彼をただ見ているだけだった
『その時ネックになるのはパパね。だから一花は邪魔されないように、パパを見張っていてほしいのよ。できるわよね?』
(お父さんは今おじいちゃんと話してる。もし私たちの部屋に来ようとしても、私が足止めすれば二乃に気付かれない。きっと…その時こそ、二乃はフータローくんと密会することになる。そして…もしかしたら…キスを…もうとめられない このままなし崩し的に状況は変わっていく
今の関係が崩れていく コータロー君だって変わってしまう…)
聞く耳無し 計画を伝えれば一花に父の監視を一任し
着替えが終われば風太郎の手紙を持って部屋へと走って行った
一人暗い廊下で体育座り 今までを振り返れば自分は人の恋路の邪魔ばかり
本気で風太郎と向き合うとする妹の邪魔をして今に留まろう
ダメ元だ彼に近づこうも考えた 思い返せば返す程 自分はダメな人間だ
「こんなのコータロー君に応援してもらう資格も 恋する資格もないよ」
自分の心を押し殺し 他人の恋に嫉妬して そんな自分が本気の恋をする妹の邪魔をした
もうあの少年と会う事すら一花には辛いものになっていた…。
「うー トイレトイレーっ。 一花だ こんな所で何して… あーっと漏れちゃうかもーっ」
チラ
「一花…? どうしたの…? 泣かないで 」
「四葉…」
「久しぶりにあそこ行こっ」
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ーー
「あっ お父さん気づいた みたい 後で怒られるかもねー
…ししし でもまさかこんな所にいるとは思わないだろうね」
(やばい どうしよう 二乃に頼まれてた通り 止めなきゃいけないのに…)
二人は二階の窓から降りられる屋根の上で肩を並べ座っていた
下を見れば今まさに 父親が消えた娘達の捜索に動き出す
ここ暫くは傍観していたがそろそろ誤魔化しも効かなくなってきた
まさか屋根の上にいるとは思うまいと余裕の笑みを浮かべる四葉と違い
冗談を言える余裕は彼女にはなく 今もまだ葛藤している
会話がない なんとか場を盛り上げようと 口を開いた途端に四葉は大きなくしゃみ
余裕はないが、寒がる妹に上着を貸すことくらいが出来る
羽織っていた上着を四葉に着せれば『大丈夫』とそう述べ
一花は父親を追おうとしている
もうダメだろう せめて最後の願い聞き入れよう一花が出した結論だ
一人で行こうとする一花 でもそれを見逃す四葉ではない
何処か無理をしている 何でもかんでも背負い込む 今行かせたらきっと一花は傷つく
四葉は手を伸ばし 一花の裾を掴む
「無理してない? 心配だよ」
「え…」
「気のせいだったら ごめん この旅館に来てから 昔の事 思い出したんだ…」
今回の温泉旅行 始まる前から不安だらけ
始まってからも不安は尽きない そんな時ふと昔を思い出した四葉
ここで起きた様々な思い出や 祖父とのやり取り
何時も自分は怒られたばかり 彼女が語る昔話 一花は当時を振り返れば
『四葉はやんちゃだったから』 その言葉が適切な筈だった
でも四葉は違うとそれを否定した
一番に怒られ 叱られたのは 一花であったと
昔は今以上にやんちゃでガキ大将のような性格 おやつの横取り シールの奪い合い
何時も何時も一花は全部取っていた お転婆娘に母親も手を焼いてた
「遊びにくる お兄さんも引っ張り回してたよ」
「あっはは そうだったね 彼は昔からお世話好きだから どうにも面倒かけっぱなしで」
(それは今も変わらない 彼にはずっと迷惑ばかりかけている…)
痛い所つかれた 苦笑いを浮かべる
「ま まぁ…………そんな私も大人になったってことで…」
「不思議だったんだー なんで私は子供のままなのに 一花だけ大人になれたんだろって」
「…それは お母さんが死んじゃった後の あの痛々しい五月ちゃんの姿を見てたらね
当然だよ お姉ちゃんらしくしないと」
「一花…」
母の死で一番に影響を受けた 五人目 中野五月
まるで呪いだ 死んだ母の役を自ら演じ 未だにそれを続けている
一番最後に生まれた痛々しい妹 彼女がそうなったのなら自分は少し先に大人になろう
母を装う彼女の負担を減らしてあげようと彼女は思いたった
気づけばこうだ 姉として 姉らしく そう振る舞う事が彼女の中では当たり前の事になっている
どんな時でも自分は 姉 年上 大人 そ言い聞かせて来たんだ
そんな姉と言い張る彼女の前に 兄と言い張る彼が現れた それが自分を狂わせた
それでも自分を曲げず選択は常に妹たちの為 その筈だったのに……………………
「って お腹から生まれた順なんだけど…」
「あはは 私が一番じゃなくてよかったよ… 一花が一番で良かった」
「五月ちゃんや三玖だって………………」
「ううん…これだけは言っておきたかったんだ 子供の頃の一花はガキ大将で
すぐに 人のものが欲しくなっちゃう 嫌な子だったけど………………」
四葉は一花の言葉に首を横に振る
五月でも三玖でもない 一花だからこそ一番に生まれてきて良かった
「私たち姉妹のリーダーだった………あの頃からずっと お姉ちゃんだと思ってたよ
………って あれ? なにが言いたいんだっけ」
「……………………」
「一花だけ 我慢しないで したいことしてしてほしいな………かな!」
我慢はしないで 自分達を先導する 彼女は何時だって辛い選択を自分に強いて来た
それに文句は言うがけして弱音を見せない 自分は平気だと言い続ける
まるで何処かの誰かさんを見ているようで四葉は姉が心配になっていた……………。
「私がしたいこと………………!」
(ずっと 今が続いて欲しかった……………。
…この一番心地の良い空間が変わってほしくない。
でも 本当は……………………。)
『一花ちゃん ずっと一緒だよ 絶対に! 』
『俺はお前の夢の為なら なんだってするさ お前は俺が支える だから俺を頼れ 一花』
(コータロー君……………コウくん 私は素直になって良いんだよね
君にこの気持ちを伝えても良いんだよね もう我慢しなくて良いんだよね……………。)
「誰にも取られたくなかったんだ……………………」
一人だけいた ずっと前から自分を姉だと見ない人物が突然現れては姉妹達を翻弄し
急に消えては自分を心配させる……………放ってはおけないあの少年
素直かと思えば隠し事ばかり 知らない所で妹の為に自分まで犠牲にする
お兄ちゃん……………上杉幸太郎……………………
誰にも遠慮なんてする必要は無いのかもしれない 四葉の言う様に我慢の必要はない
変わらない今を変えてしまおう 彼だって一歩先に進んだんだ 自分も一歩先に進み
少しぐらい欲張りになってみよう
「? 一花 さむー何で取るの!」
「実は私も寒かったんだー だから没収ー」
「えぇー 一度は貸してくれたのにー」
「あはは さーて 部屋に戻ろうか 五月ちゃん達もいるだろうからさ」
「って 一花 お父さんに用事あるんじゃ」
「あぁ………ううん もういいや 」
(ごめん 二乃我儘な姉で………それに今更間に合わないから)
四葉に羽織らせた上着を奪い取り
文句は受け付けないと彼女はさっさと窓から中に入ってしまう
今風太郎を待っているであろう妹に謝罪を述べながら………………。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
中野父が二乃を捜しに行く直前にまで時間は遡る
最初から五月が自分を足止めしていたと気づいていた彼は娘の話も聞くべきだ
あの少年の言葉を思い出し 少しばかり付き合っていた
でも それは少しだけ 五人いる筈の娘 帰って来たのは僅か一人
残り三名は行方知れず 何とか一人だけでも連れ帰ろうと父自ら出向く事に……………。
残った 五月 三玖は久しぶりに父に叱られ 少々参っている
「みんな どこに行ったんでしょう」
「はっ……………まさか コータローのとこだったりして」
「あははは こんな夜中に会う理由なんて…………」
(ダメです私は心当たりが多すぎます 話を聞けば幸太郎君はずぶ濡れだとか
大丈夫だったのでしょうか 心配です………。)
彼女達に限って彼の元に行く事はないと結構失礼な発言が目立つが
もしそれが自分ならばと考えてみれば、あれやこれやと理由を重ね向かっていたかもしれない
「………三玖」
「何?」
「ただ待ってるだけなのもなんなので、温泉に入りに行きませんか?」
他の姉妹の行先は気になるが、黙って座るのも暇である
それに断る理由は三玖にはなく承諾すれば 五月と二人一階へお風呂まで向かう
「あ」
「ここで何してるの?」
一階では偶然にも風太郎 幸太郎 祖父に出くわした
五月と三玖を見れば訝しげにじーっと顔を見ている
「えーっと」
「うーん…………」
「三玖、五月」
「あーっと! 今言おうとしたのに! 先に言われたぜ 今言おうとしたのにーーー」
「風太郎 流石にかっこ悪いぞ…………………ん?」
「ああの 彼と幸太郎君は何をしてるんですか?」
「中野さん」
「むーー五月です!」
「本物だな あぁー 実はな 風太郎と二人爺さんに弟子入りしてさ
お前らを見分けようかと 俺もお前の言葉で色々と考えてな……………」
「おい 幸太郎行くぞ」
「おっおう………じゃ また おやすみ 五月 三玖 おーいまてー」
幸太郎から事情を聞けばやや複雑な表情になった
偽五月を見つける為には必要な事だと彼は五月に言って聞かせる
「コータローたち 大変そうだったね」
「三玖たちも 何もこんなタイミングで彼等を試さなくてもいいじゃないですか……」
「元は二乃が言いだした事」
「事情は聞きましたが タイミングが悪すぎます
しかし呆れました 彼だけではなく幸太郎君まで」
偽五月探しの為に足止めをしていた
今進行しているのは誰が誰なのかの見分け方
ここに来るまであらましは聞かされたがここまで真剣に取り込んでいようとは
「仕方ないよ……一度コータローは全部忘れたんだから
…それに私はコータローに見つけてもらいたい」
「三玖…………」
上杉幸太郎には記憶がないそれは何も会わない五年間で忘れていた自然な形ではない
彼女=中野三玖を交通事故から庇った際に頭を強打した彼は、事故の前後の記憶のみならず中野姉妹と関わっていた全てを忘れ思い出せないそれが、何かも分からずあの日食堂で再会する日まで悶々と生きていた
林間学校での一件後、病室で事故と進級の事を話すが、記憶に関しては彼は一切触れずいる
三玖は五月同様に彼が、あの一年どう過ごしていたのかも知っている人物であり 隠そうとする彼を見ると不安になってしまう 彼が大切にしていたあの日の思い出を奪ったのは他でもない自分だと三玖はずっと後悔していた
「その事で三玖が自分を責める必要はありません…。間接的となってはいますが、原因は信号無視をし彼を轢いた、あの乗用車です…お父さんもそう言っていたはずですよ?」
「でも…。考えるよ、事故さえなければ、コータローは怪我もしない 記憶も忘れる事はなかったって……」
「五つ子ゲームを通して幸太郎君が、本当に覚えているか、三玖なりに知りたいそう言った意図があるんですね?」
コクリと彼女は頷いた、確かに突然起きた五つ子ゲームだが当時を良く知る三玖にはこれはある意味で挑戦なのだろう
彼がちゃんと記憶を戻しているのかはたまた未だ誤魔化し続けているのか……
当事者としてそこは知っておくべきというのが一番の理由と口にする
「聞けば、きっと彼ははぐらかすから…」
「幸太郎君はそういう人ですからね…自分だけ何でも背負い込む…本当に困ってしまいます」
(五月も似たようなものだけどね…)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「そう言えば 幸太郎君は三玖と再会した時には覚えてなかったと言っていましたね」
「きっとあれは コータローなりの誤魔化し でもちゃんと名前で呼んで欲しかった……中野さんって呼ばれ方は寂しい」
「三玖 その気持ち痛い程わかります…………」
「それにさ フータローにも少しは期待してる 付き合いは半年で普通なら無理だって思う…でも頑張ってるみたいだし」
「そうですね 今は二人に任せま……………!?」
姉妹の相談から目的がかわり始めて来たが彼が本気と言うのは二人はちゃんと理解した
この一件は二人にまかせ 自分たちは温泉に入ろうと脱衣所に入り浴衣を脱ぎ始める
会話も交えながら浴衣を脱ぎだす中で、ふいに五月が言葉に詰まる じーっとある一点を見つめ…今回のある騒動を知る五月は当然それを見て驚き、何故なのかとその場で頭を働かせる
何事かと自分を凝視する五月を不思議そうな表情で返す中野三玖その彼女の右足だ、そこに視線が止まる
そこには絆創膏が貼られていた
「どうしたの五月?」
「三玖 その足の絆創膏は………偽五月の正体は三玖だったのですね」
「そっか そのままだった コータローが心配するからさ」
「三玖 何故ですか 一番協力的で 上杉君の勉強にも参加していたあなたが
それに二人で話した筈です 幸太郎君の傍を離れないと……何故関係を断とうと?」
「その前に謝らなくちゃ とっさとは言え あんな嘘を
まさかフータローがいるとは思わなくて いや これは言い訳か…………
本当は三玖としてコータローに大好きって伝えたかった その為に手紙を読んだ
あんな事言うつもりで行った訳じゃない…………」
「み 三玖って 幸太郎君がす 好きだったんですか!」
その言葉は中野五月には衝撃的過ぎる言葉
まさか彼を好いている人物が自分の姉妹 彼の事を相談する間がらの三玖が彼に恋心を抱くなんて
何かと、疎い五月は全く想定もしていなかった……………。
「え 今更 あれだけ二人で話してたのに五月は気づいてなかったの…………」
「それは 三玖が幸太郎君に助けられたから恩を感じているのだと」
「……………………鈍い」
「あぁなんてことでしょう こんなこと皆が知ったら! 驚きます」
(多分 みんな知ってる……………五月はどうなのかな?)
「で でもいいのでしょうか 幸太郎君ですよ 私たちの兄のような人で
今は教師と生徒です」
「だからだよ…………コータローは私たちを妹としか年下の後輩としか見てくれない
彼を見守るならそれだけで良かった…。」
「……………………」
「私が一番の生徒に 妹以上になれば良いと思ってた」
停滞する時間 今の彼は三玖や五月を含め全員を恋愛対象として見た事は一度とすらない
彼にとって中野姉妹は何時までも手のかかる妹 それは不変だ
けれど三玖はそのままではいけない 今動かないとこの関係は進まない
だから期末試験に全てをかけた 結果は五月も知っている
一番になれたのは長女の一花 三玖は二番という結果に終わった
「こんな私でも自分を認められるチャンスは誰にでも公平にあるんだって
結局は一番になれなかった…。その一縷の望みも潰えた今こうするしかなかった
今のままだとコータローの傍にいれてもコータローを守ってあげられない
同じ目線でコータローの隣に立ちたいの………もう守られるだけはいやなんだよ」
自信を無くし 一人だった自分に励ましの言葉をくれたのは
今の幸太郎とあの日自分を助けた幸太郎 同じ人間に二度も救われた
自分がここにいられるのは他でもない彼のお陰 感じていた恩は何時しか恋になり
愛へと変わっていた
ここから先 もっと彼は無茶をするだろう
このまま彼の生徒で終われば、彼に守られるだけ けして彼と同じ目線で物事を考える事も
彼本人を守る事すらできない…。
彼に言った『この関係に終止符をうつ』 それは三玖の心を動かすには十分過ぎた
「勿論 五月との約束も守る コータローを一人にしない 彼を裏切らない
彼が困っていれば手を差し伸べる 私の本位だから」
「約束の件感謝します…三玖の気持ちもわかりました。そのうえでお願いです」
「話して…」
「はい。明日の旅行の最後の日に・・・幸太郎君に会ってください
そして上杉君とも会って欲しいのです あなたにばかり負担をかけてすみません」
「いいよ 自分で蒔いた種 それに私がフータローを見定めるチャンスでもある」
決して進まない停滞した今の状況それを動かしたい
三玖の気持ちを五月は全て聞き入れた
彼女は話す それは この半年だけではない彼に助けられたあの日からの延長戦だ
それに幸太郎だけではない 風太郎の覚悟も確認する必要があった
彼女が家庭教師に協力したのは幸太郎からの説得だ
本物の家庭教師である風太郎と本当の意味で分かりあう為にはここで彼の答えを見ておきたい…。