上杉幸太郎と六等分の思い出   作:Aikk

74 / 96
三玖ちゃんヒロインですが
バイト回に関してはそのまま二乃ちゃんが採用されます
五月ちゃんの働く姿原作で見たかった…。


第四章
第七十三話 不良少年と姉妹のバイト


上杉一家 中野一家が共に行った温泉旅行から後日

いよいよ来週から高校三年となる その矢先に

長女である一花から4人に大事な連絡事あるとニッコリ笑顔で微笑む

長年過ごす彼女たちに分かる これは面倒事の始まり

もしくは自分たちに関わる何かだと…。

 

 

「えーっと…。来週から お家賃を五等分しようと思います」

 

『『!?』』

 

「払えなかった人は…。前のマンションへ強制退去してもらいます」

 

 

恐れていた事態が遂に訪れた 何時かは来るだろうとも覚悟はしていた

まさか旅行終わりに直ぐとまで予想が突かず ゴクリと唾を飲み込む

 

全員で頑張ろうと言った矢先だ 今更撤回も出来まい

それにここまで一花一人に背負わせてきた 五等分という表現は何とも彼女らしい言い回しだ

 

 

「みんなで一緒にいられるように頑張ろ! ということで…よろしくね♡」

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー 

 

ーー

 

 

 

 

「まさか 事前に幸太郎君に相談して求人雑誌を準備していたとは…。」

「あぁ あいつは暇さえあれば…。求人雑誌を購読する程のバイトオタクだからね…。」

 

一度場所を変え近くの喫茶店でバイト探しの為に求人雑誌を読み漁る中野姉妹

テーブルの上には山隅の求人雑誌の山 何時の間に集めたのか疑問だが

出来先にこの山の理由を一花が話していた

バイトに青春をかけるあの少年に相談していたのだ。

 

『ほーバイト探しねぇーバイトか…。待ってろ 必要そうな分まとめて持っていく』

 

彼女らの頼みを断ることなく了承し

昨日の夜には大量の空き箱に最新の広告を詰め込み運んできてくれたらしく

二乃が、朝方ぶつけた謎の箱の山の正体がそれだと分かれば呆れたような顔で雑誌を眺める

 

「コンビニ…。新聞配達…。 コータローはどれも大変だって言ってた」

「全員で同じところでできたら安心なのですが…。」

「そんなに募集してる場所はないわね…。それに得意な事もそれぞれ違うんだし」

「私に接客業何て出来るかなー うーーん…。

 最終的に補導される未来がお金を稼ぐって大変だなぁ」

 

今では全員が得意とすることもバラバラ

募集人員を考えれば精々2~3人 5人が一緒に働くのはあまり現実的とは言えない

お金を稼ぐ厳しさは常々あの兄弟から言われている

 

「それでもお金が必要なんだもの…。まさか旅行終わりに言いだすとはね」

「でも…。一花のあの感じ懐かしい」

「あ 私もそれ思った!」

「むしろ今まで…。一花一人に無理をさせすぎましたからね」

 

四葉と話す事で一花は我慢をする事をやめた 無理に何でも自分でやらず

姉妹で出来る事は彼女達もやらせておこうと一花は実行した

実は前々から考えていた事で四花との話で決心がついた

 

 

「そうねああなった一花はなかなか手強いわ…。それにしても強制退去か…。」

 

『『………緊張感しかない』』

 

あの家父親と二人で食卓を囲む中々スリリングである

緊張感食も喉が通らないだろう 何とか今のアパートに留まる為一層集中する

 

「五月は目星つけた?」

「いえ……まだ決めかねいます 幸太郎君が幾つかまとめてくれてますがどれが良いか」

 

見れば五月用と書かれた紙が貼られている

これを準備した幸太郎は彼女達の性格などからどこが良いか簡潔だがまとめていたらしく

目を通す中で気になりはするが五月本人は中々踏み出せずいた

 

「するからには自分の血肉となりえる仕事にしたいのですが……。

 都合よくそんなもの見つかりませんね……。何故か私の名前が書かれた紙には

 飲食店が避けられてばかりで……。不思議です 間違っているのでしょうか?」

 

(お兄さんは五月の性格を見通してたんだね……。)

 

「血肉って……まかないが出るってこと? 」

 

「私を…。あの人と一緒にしないでください」

 

「まぁ…。でもどうせならやりたいことってのは同感だわ」

 

血肉とは表現の仕方にやや引いているが五月の意見には同意している

嫌々やるよりも自分がやりたいこと それに準ずる働き先の方がモチベーションも変わっていく

 

(やりたいこと…。

『何かのきっかけでやりたいと思える日』……コータローはあの時そう言っていた)

 

 

 

「あ!上杉さんたちと言えば!こんなバイト募集を見つけました!」

 

『『!!』』

 

視線が四葉の持っているチラシ 幸太郎と風太郎が働く Revivalのアルバイト募集の紙だ

 

 

「ここって…。」

「コータローたちが働いているケーキ屋…。」

 

 

反応したの二乃と三玖 体を出し 四葉からその紙を奪い取る

 

 

バシッ!

 

「二乃それを渡して」

「なんでよ…。これは得意分野よ」

「なんでわざわざコータローたちのいるところなの? 二乃なら他でもやっていける」

「うっ…。あいつらがいるのは不本意…。

 ふふっ不本意だわ 味音痴のあんたはおとなしく諦めなさい」

 

不本意と述べる彼女の表情は傍から見ても分かるほどにやけている

言葉だけで心は正直と言える

 

 

「ねぇ…。五月はいいの?コータローのところ」

「私は構いません…。得意ではありませんし 

 行って幸太郎君の足手まといには…。なりたくありませんから」

「コータローの足手まとい…。」

「いえ 三玖の気持ちは分りますがこれはあくまで私個人の意見です…。 彼はそうは思いませんよ!」

 

上杉幸太郎が関わる事なら誰よりも早くそして迅速に反応してきた

五月は彼のアルバイト先の話が出た際には微動だにせず 二乃と三玖に譲っている

 

幾ら彼が、心配とそれを行動で表しても成果に出なければ、余計な迷惑をかけてしまうと五月は考えていた 最初の頃ならばと本人も言う 今は彼の迷惑ならず尚且つ自分たちの生活を安定させる事が最優だと彼女もそれはきちんと理解している…。

 

(あっ…。よく見たら 五月の目が笑ってない)

 

本音を言えば幸太郎の傍で働きたいだろうが今は心を鬼に自分に合ったアルバイト先を探している

 

「私はやっぱり…。みんなで一緒にお仕事したいなー!」

「四葉 これあなた用と書かれています…。」

「おお 流石お兄さん ねぇー三玖このお掃除のアルバイトなどうー 一緒にやろうよ」

「むむむ…。」

 

五月は五月で踏ん切りをつけ選び

二乃はニンマリとチラシを眺める

四葉は自分に合ったアルバイト先を見つけた

残った三玖が選ぶ答えは一体…。

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー 

 

ーー

 

 

 

「つまりはな…。 俺は過去にあいつらと遊んでたって事」

「それは衝撃的な事実だな…。」

「対して驚いてねーくせに その顔やめろ」

「お前とあいつ等のやり取り見てたら…。何か接点はあるのかと」

「風太郎にしてはちゃんと見てたなー」

「失礼な奴だ勉強のついでに見てた…。だけだ」

「ぶれない弟で俺は安心です」

 

Revivalでのアルバイト中 休憩室で俺は風太郎に簡単なあらましを説明

俺が過去に友人の家を経由し 彼女達と交友を持っていた事 5年ぶりに再会した事

驚かれると思っていたがリアクションは小さく『へー』で済ませられた

 

「一応言うが…。学校であった当初は俺も忘れてた」

「事故の影響で消えた記憶ってあいつらの事か…。俺や親父たちの事は覚えてるって言えてたから…実はガセじゃないかと」

「ぶっ飛ばすぞ 誰が好き好んで記憶喪失のふりなんてするかよ…。」

 

まさか弟が俺の記憶喪失を疑って半信半疑 一年以上過ごしていた

それはそれで衝撃的な事実 俺の方が驚いた…。

 

「すまん…。でも家庭教師の補佐が記憶を戻す切っ掛けになったのか複雑だな」

「まぁ他の人間から見れば…。記憶喪失に見えんからな 

 忘れてた記憶の人物があの場にいないわけだし」

「改めて思うと幸太郎の人生は壮絶だな…。」

「色々あったが今は今って割り切ってる 卒業式にも顔出して気分もすっきり」

(どうりで…。ここ最近のこいつの口調が何処となく以前に戻りつつあるのはそれか…。)

 

すんなり受け入れたくれた弟に俺は少し感謝している

自分の話を受け入れて貰えず過去に悲惨な思いした俺には弟のその当たり前がとても嬉しく思える

こいつが家庭教師の話を貰わなければ俺は一生彼女達の事を思い出さず悶々とした人生を歩んでいた

兄として不甲斐ないがこいつはとても心強く 肩を並べられる存在だ

 

「それで風太郎は…。二乃との一件はどうなった? あの日も何かずっと考え込んでいたし」

「いや考え込んでいたって言うか…。俺も色々と合ったとしか言えない 二乃の件だけど…俺も変に構えない様しようかと…。」

「プレッシャーをかけるようで悪いが…。二乃は本気だ」

「……何が正解なのか俺には分からない…。告白なんて俺には無縁と思ってた」

「何度も言うが悩め 悩んだ先にお前が目指す答えが出てくる…。」

「何とも浮いた答えだな?」

「俺のアドバイスはいらないらしいな…。」

「嘘です…。すみません参考にさせていただきます」

「まぁ 俺は味方だ…。安心しろ」

 

旅行が終わってから風太郎は何処か変わった

姉妹を見分ける事が出来た事も大きい 彼女達の祖父と接した事も要因だろうが

それなりにいい方向へと進んでくれている

『人生の終着点』と言っていた頃が懐かしく思えるな

 

未だ答えは見つからない うじうじしてても始まらない このスタンスで暫くは突き進む

今はまず迫る進級に目を向けようと中々前向きだ

 

「幸太郎もやっと三年だな」

「だな…。」

「嬉しくないのか?」

「実感がわかん…。一年生やって二年生を二回 そして三年 進級かーってくらいだな」

「お前と同じ学年をやるって昔の俺なら絶対信じないな」

「俺もだあの頃の俺がまさか出席日数が足りず進級出来なかったなんて『嘘つきだ』って指さしだ」

 

交通事故で三年生の道を断たれた去年

今年は違う 出席日数も足りているしテストも真面目に受けた…。

アルバイトも並行して行えている順風満帆 この気持ちで今度は一歩前に進める

前向きに考える…。一年前の俺ならつまらなそうな顔で日々を生きていたが変わるもんだな

 

「せーんーぱい! 店長が呼んでますよ」

「あぁー そう言えば…。今日面接があるんだった 行くぞ風太郎」

「募集人員一人 俺もやっと後輩が出来るな」

「私は風太郎さんの先輩ですからね!」

「真弓先輩は今日もゲンキデスネ」

「先輩 この人クビにしましょう」

「ひどい」

「遊んでないでいくぞー」

 

たっぷり休憩もとった 知らせに来た真弓ちゃんもまた後輩が出来るのが嬉しいと話す

風太郎も慣れるまでは大変だったしな…。真弓ちゃんが丁寧に指導した甲斐があったよ

さてうちの新たな戦力はどんな子かねー

 

「初日で皿10個は、やめて欲しいね 真弓ちゃん」

「ですねー先輩」

「うっうるさい!」

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー 

 

ーー

 

 

 

「……」

「……」

 

「えー 今日は面接ということで…。まずは募集を見て来てくれて嬉しいよ」

 

「…………」

「…………」

 

「しかしまさか二人も同時に来るとは…。」

 

空いた部屋を使い 募集を見てやってきた人物その面接の同行も任せられた

最近は目の前パン屋の影響だろう…。経営を考え人員は一人までとチラシにも書いてた

実際来たのはよーーく見知った少女二人だ

 

「なぜ お前らがここのバイト受けてるんだ!」

「まさかここを受けるとはな……。二乃は分かるが三玖は意外だな」

「いやー 二乃さんと三玖さんですか………。これは戦力的にニ乃さんですよねでも…うーん悩ましいです!」

 

面接を受けているのは 二乃と三玖

一花からの相談で幾つかアルバイトを募集している求人雑誌などを届けたが

その時にうちのチラシも紛れ込んでいたようだ…。

慣れ始めて来たが知り合いのいるバイト先は神経を使う…………。

 

 

「なんでこの子がいるのか、アタシも知りたいくらいだわ」

 

「出来るならうちも二人ともに採用してあげたいんだけどさ 向かいの糞パン屋のせいでギリギリ

 チラシにも書かれているけど一人が限度さ」

 

「売上は好調だけどやっぱ昼時なると客はダンチですからね…………。」

 

「そうそう 上杉君か弟君が辞めてくれたら」

 

「はっははは 店長冗談やめてください」

「本当に店長はお茶目ですねー」

 

やめてくれ……。風太郎の巻き添えでクビにはなりたくない

時間と給料を考えればここが一番ベストだ 暫くはやめるつもりはないですよ店長

それに風太郎の次に皿を割るのは隣で知らん顔してる後輩も同じですから…………。

 

 

「ケーキ作りたいです」

 

『『!?』』

 

「へぇ 得意なんだ……。 じゃあ君に」

 

「ちょちょっと! 私の方が得意です!」

 

「うーーん 上杉君 弟君 彼女たちは君達の友達だったよね……。

 ここは任せていいかな」

 

 

席から立てばケーキを作ると言いだす

当然得意な二乃は黙ったままではなく自分こそが主張する

唸る店長はさじを投げ俺たちに一任した

 

「コータローどうするの! 私にできることなら何でもするよ!」

 

「あんた当然私を選ぶわよね」

 

『『選んで!!』』

 

 

「風太郎さんも先輩も人気者ですね」

 

 

 

『『他人事かよ!!』』

 

 

選べと言われても俺たちそれぞれの意見では簡単に決めれる事ではない

姉妹がバイトを始めた つまりは一花が動いたと考えるべきだ

ここはケーキ屋だ勝負事なら料理で決めるのがセオリー

詰め寄る二人を一旦避け ごほんと喉を鳴らす

 

 

「じゃあー 二人には今…言ったようにケーキ作ってもらうから…。

 それなら白黒はっきりするだろう」

 

「幸太郎良いのかそれで?勝敗は分かりそうなもんだが…。」

 

当然店頭に並ぶなら二乃の作るケーキが圧倒的に有利だ

散々食べて来た俺が言うんだ三玖の料理はまだ人に食わせられるには程遠い

でも彼女はちゃんと練習を続けて来た その成果を見定める為にはこの勝負は最適だ

 

 

「二乃には負けない! 前とは違う」

「あんたには負けられない!」

 

バチバチバチッ!と火花が見える 二乃がここで働きたい理由は察しがつくが三玖は何でかな

 

「いっちょんわからん」

「先輩…。三玖さんの前で迂闊にそう言う事言うのはなしで」

「?」

 

何か叱られた

真弓ちゃんは三玖と同じクラスだから仲が良いきっと理由も知ってるんだろうな

俺が心配ならそれはそれで有難いとは思うけど…。バイト先まで同じにする必要はないと思うけどな

 

考えれば考える程後輩からの視線は突き刺さる 俺が悪いのか?

 

 

 

「ではでは 私から説明します お二人にはショートケーキを作っていただきますね

 完成品を私たちで試食致します…。味は勿論の事見た目も大事です…。どちらも疎かになってはいけません」

 

 

「余裕ね…。さーてあんたのお手並み拝見ね」

「むむむ…。絶対に負けない」

 

「アレンジもОKです どうせ余った素材なんで好きに使ってください」

「真弓ちゃんそういう事はいいから…。 じゃーよーいスタート」

 

厨房にはケーキの材料がたくさん並べられている

面接の為とはいここまで大盤振る舞いな理由は後輩が示した通り

余りもんだ このまま捨てるのは勿体ないと…。気持ちは分るがもう少し言い方があると先輩は思っていますよ 

裏事情はここまで開始の合図と共に先に動いたのは…。三玖だ

その彼女を試すかのように二乃は余裕の表情を崩さない

はっきり言えば料理作りの才能も作ってきた数も断然に二乃が上だ

 

前回の料理対決で俺が三玖が勝ちと言った理由は愛情の差ゆえだ

だが今回はその愛情の差で決めるのも難しそうだな

俺の言葉を覚えているのか『愛情ねー…。同じ轍は二度も踏まない あんたも見てなさい』

堂々の宣言だ…。勝負の程はここから一時間程で決まる

柄にもなく緊張してきたな

 

 

「先輩 風太郎さんどっちが勝ちますか? 一応ですが私はお二人の料理は知ってます」

「順当にいけば二乃だろ…。三玖の頑張りは認めるが俺たちの仕事だ 幸太郎も頼むぞ」

「へいへい 贔屓はしない…。つうかそれは二乃と三玖どっちにも言えるからな」

「先輩は中野姉妹に甘いですからね 今更どっちとは言いません……私も同じかな?選べません 」 

 

風太郎には釘を刺された

三玖を贔屓せず公平に勝負を見極める 勘違いされがちだが俺は三玖だから優遇してるのではない

中野姉妹全員を優遇してるその二人が争えば…。後は二人の頑張りを祈るのみだ

何だかんだ言いつつも『三玖頑張れよ』と口から出てる弟君

俺よりも優しい奴だな

 

審判三名が話し込む間も彼女たちは黙々とケーキを作り上げていく

はてさてどうなることやら 

前回の大喧嘩騒動の不安が過ぎったが杞憂に終わるかも

作ってる姿を見れば以前のような喧嘩はもう起きないだろうと見ている側でも分かる

二人は真剣だ…。これはどっちが勝ってもおかしくねぇかもな

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー 

 

ーー

 

 

 

時間が経過

終了のホイッスル 全力を出しての勝負……。負けても文句は言えんだろう

先ずは見た目だ 二乃の作ったケーキは、何一つ崩れたものは無く

飾られた果物も綺麗に並べられ完成度で言えば

今すぐにでも店の看板商品として陳列ケースに置きたい素直にそう思える

 

対する三玖のケーキは…。やはり崩れてしまっているクリームがどろどろと滴り落ち

上に載せられる苺もバラバラになってしまっている

 

「ふふーん」

「むむむ」

 

「まっまだ 実食が残されていますから」

「真弓いいのよー 私は何でも勝ったも同然だし」

「食べて判断して! 味は保障する」

 

「じゃあ 俺から うーん 二人共普通にうまいな」

「私…。 うぅ 二乃さん流石です…。悔しいですが私よりもおいしい

 三玖さんのも確かに味は以前よりは上がりましたでも…。

 見た目の精巧さと味を見るに二乃さんが優勢です」

 

風太郎の感想は全く参考にならない事が改めて実感させられた

以前と全く変わらないぞ………。

店長も恐る恐ると三玖のケーキを食べるが『独創的』の一言

 

残ったのは俺一人 ここまで来ると多数決だ

判定を待つ二人に俺もちゃんと答えないと失礼だ

先ずは最初に口にしたのは三玖の作ったケーキ

フォークを差し込むがねちょりと変な音が聞こえる…………。

スポンジが………と 解けてる?

 

「あむ…。おー三玖凄いな チョコといい断然上手くなってるぞ…。頑張ってるな」

「///…。」

「まぁあんたが、三玖を優遇するのは最初から分かっていたけどさ」

「そうは言うが、上手いもんはうまいぞ? さて次は二乃のケーキか…………。」

「ねぇ…。悪いけどさ本気で判定してよね…………。」

「分かってる…。 こっちも仕事だ妥協はしない……。あむ ! 」

 

以前の勝負は

三玖の料理の方が二乃よりも愛情が勝っていた故に二乃は敗北と

その後の事件でそれを悔しく語っていた彼女の事を思い出す

試食している俺を見る目は真剣だと同時に何処か不安げだ

さっきまで余裕の表情だったのが嘘のように…………。

 

この一口で全てが決まる  フォークに刺したスポンジを口に含んだ瞬間だ

それはとても素晴らしく優しい味だった

 

 

「ど…どうかしら…………。?」

 

「悪い…………。」

 

「えっ?」

 

「今回は二乃の勝ちだ…。 これは誰かの為にこいつが真剣に作ったもんだ

 味が互角なら残されるは見た目だ…。 勝者は二乃だ」

 

 

「満場一致だね…。」

 

 

 

これは三玖の負けだ どっちも本気で挑みその結果選ばれた

きちんと受け入れこれを糧に次のバイトを見つけて欲しい

 

 

ーーーーーー

 

ーーーー 

 

ーー

 

 

 

「じゃあ、来週からよろしく」

 

勝者は二乃だ

店長、真弓、風太郎、幸太郎 誰もが二乃と札を上げた

本気で選んでと言った二乃は本当に自分のケーキを美味しいと言った事が少し信じられない様で

店を出る前に『あの…。ありがとね』と柄にもなく彼にお礼の言葉を残して行った

 

前回は自分の料理に足りないのは愛情だと言われやはり悔しくもあり

今回の結果はつまりは風太郎への愛情は確かに存在していたと再認識出来るものであった

 

 

「負けた…。」

 

「あんたが料理対決に挑むからよ…。まぁでも悪いとは…。」

 

落ち込む三玖はふとケーキ屋の前に構えるパン屋のチラシに目が行く

パンと言えばあの男だ普段から味気ない食パンばかり食している彼はパン好きなのかと

彼女はずっと気になっていた

 

「向かいのパン屋さんでもアルバイト、募集してるんだ。私、こっちにしようかな」

 

「なっ!?」

 

何もケーキに拘る必要はない

パン屋という手も十分にある。遠くで彼の身を案じるよりも近くで見守るならば

ケーキ屋の前のこのパン屋で働いて見るのも悪くはない…。

 

それに同じく彼を案じる五月は『彼の足手まといになるような事はしたくない』

自分のやりたい事を押し殺した自分も偶には彼女を見習ってみるのも良いのかもしれないと心境の変化

 

 

「随分と切り替えが早いわね…。そのパン屋には兄貴のほうはいないけどいいの!?」

 

「うん 私の今の目的はコータローじゃないから」

 

「!」

 

「今日ケーキを作って、改めて思った」

 

『おー三玖凄いな チョコといい断然上手くなってるぞ…。頑張ってるな』

先ほどの彼の言葉を思い出すと胸が温かくなる

この気持ちが大事なんだ…。きっと自分と話す時に彼が抱く気持ちもこの温もり

 

「私、どうやら作るのは好きみたい」

 

勝負には負けたけれど得るものはあった この気持ちを大事に下を向かず前を向こう

俯いたままではいけない…。彼が美味しいと言ってくれた 

それを別の形で彼に作ってあげるのは何も悪い事ではないのだから…。

 

三玖はちゃんと覚えている 彼の好きな女性のタイプ

真面目 そして 料理上手だと話したあの日の夜を………。

 

 

(コータローに好きになってもらえる私になるんだ・・・。)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。