※風太郎君じゃないから一花ちゃんとの会話に相当迷った
「そう言えば コータローもここに来たことあったんだね?」
「まぁな……」
暫く観光すれば、風太郎は一旦トイレに行ってしまった その間に今後の方針などを五月に聞こうと辺りを探していただが…。どうにも気が抜けていたのか、一瞬の隙だ人混みの中で誰かが俺の手を掴み 何処かへと引っ張っていく…。
最初は誰か気づく事はなかったが、開けたとこに出ると その誰かが判明
先ほど ホテルにいると言われていた 『中野三玖』 彼女が俺の手を引いていた
姉妹の話では未だ体調がすぐれず待機していると教えられ
こいつと合流するのは、夕方頃だと思ってたんだが、これは嬉しい誤算だな
気分はどうなのか? 体調は万全なのか? 心配からでるその言葉に彼女は『コータローは心配しすぎ もう大丈夫だよ』 にっこりと笑顔を作る
特に変化がなければ俺は予定通り この三玖と 行動をしよう
一花との約束もある ちゃんとこいつとは話しておくべきだ
あの日 修学旅行の日に俺が訪れたであろう場所を彼女は楽しそうに散策している
『もしかしたら 会えてたかもね』 何たる運命のいたずらか
ここで姉妹とは遭遇することはなく 中野先生と共に行動していた四葉を見た程度
一応は下宿先の宿で彼女を見かけたが、俺は俺で先生から叱られ
結局は誰とも…………うーん 誰かとは会った気がするな?
『…だね!…で…明日……また…あ……ね!…』
一瞬…ノイズ混じりな、何かが、再生された
つぎはぎだらけのその言葉…何を誰が言おうとしているのかもわからない……何だ今のは??
(っ……誰の声だ?)
生憎と俺は六花さん関連以外、自分の記憶を全て信用できない
過半数の記憶は確かに戻った でも全てではない 全くどうでもいい記憶や実は結構重要な事を忘れていたりする……。 生活する分には不自由はないけど 今のように過去を語り合う際は少しばかり口ごもってしまう
「そう言えば フータローもいたんだよね?」
「俺と顔合わせた途端に逃げやがった……あの時の俺達は喧嘩ばかりだったな…」
「今とは全然違うんだね」
「なるべく 誰も傷つかず 誰もが自分を追い詰めない そう言った行動を心掛けて生活してます」
「誰も傷つかない…………」
「どうした三玖?」
「あぁー 何でもないよ それでねコータロー…。今日は話があってね」
「風太郎から聞いてる…。 まぁ 無事に会えて良かった 三玖とは俺も話しておきたかった」
「そうなんだ……。 うん なら あのね昨日の事なんだけどさ」
果たして このまま 目の前にいる 三玖と名乗る この少女と話を続けるべきか……。
二人は三玖は今日は病欠でホテルから出る事はないと話していた
体調なら後で回復し そのあとに合流も出来るだろう 俺と話す約束もあって無理をしている線もある
色々な理由が頭をめぐるけど、彼女は三玖ではない その答えは揺らぐことは無い
一旦話をやめさせ俺からも言いたい事があると彼女に伝える
何を聞いて来るのか、少女は不安と焦りが見え隠れしており 俺と話すと言うよりも
自分が伝えるべき事を先に伝えたい印象だ…。 まぁ 確定だろうさ
「二度目だ あの日は着けて無かったな髪飾り」
「うん 今日は忘れずに」
「そうだな……ちゃんとつけてくれてるな 安心した でもな その髪飾りは俺がお前に贈った奴ではない 似てるけど 違うんだよ」
「!?………え あぁー 急いで来てから間違えたよ ごめん」
「俺が細かいだけってのもある…………それと もう一つ 何で鈴の音がするんだ?」
「あ…………」
ここに来るまで、俺を引っ張って進む彼女の方から何処かで聞いた
鈴の音がチャリンと鳴っていた 走って進んでるんだ。体は揺れるしもう少し慎重に動くべきだったな
五つ子で鈴の音を持ち歩くのはスマホにつける五月 財布につける一花の二人だ
顔面蒼白 瞳孔も開き 奥歯を噛む……、 何でそこまでお前は必死なんだ
何で お前が 三玖と一番に仲の良いお前が、あいつを騙すような事をしてるんだよ
「なぁ………一花 何で三玖の変装してるんだ? 教えてくれ」
この少女は中野三玖でない 中野姉妹で一番に大人で視点の高さで周りを見回す
どんな時でも姉妹を心配し 長女だからと何かとため込む癖がある 彼女だ
名前を言われ その場で首を横にふるい『変な事言わないでよ コータロー』
必死に自分は三玖だとアピールしている
でも 残念な事に俺にはハッキリと誰が誰なのか今は区別がつく
不思議と冷静で頭も冴えている 昨日からずっと考えていた あの三玖は違うと
そして一花からの相談で三玖と話をして欲しいと言われた時点で
俺の違和感は確実なものとなった……。 元より三玖は来ることはなく
彼女が何かしら 三玖と振る舞い 俺と話す予定だった 妄想にしか過ぎないけど
そっと近づき 頭に触れる…。 何も言わずただ俯くだけ
傍から見れば俺は、女性を襲う不審者だ でも 確かめる必要がある こいつが一花だと確証できる
何かがあるはず… 例えば 普段から持ち歩く変装道具とかさ…
触れた手は確かに彼女髪を触っている… でもそれは本物ではない
ばさりとこっちに引き寄せれば、それは頭から外れ 本当の姿を現した
「悪いな…本当はお前の話を最後まで聞くべきなんだろうけど… どうせ話すならさ……一花として俺と話せよ」
「私は…」
「あの日も一花だったんだろ?」
「あ あれは私じゃ!」
「やめてくれ…一花 それ以上嘘をつかないでくれ 頼む 」
頼れる存在…同じ長女と長男同士
昔から共に歩み 時には言い合った事もある…。
俺と一花はずっと仲の良い友達で家族が何よりも大切で 今の一花は俺に取って憧れだ…。
夢を諦めた 俺とは違い 最初に一歩を踏み出した この子は、俺の目指す理想…その一花が、何でこんな事してるんだ…
「お前は…一花は誰よりも真剣で前を向いている そうだった筈だ」
「コータローくんは覚えてる 昔のことさ」
「今はその話は関係ないだろ」
「関係あるよ…6年前 君は誰かが好きだった あの五つ子の中で好きな子がいた筈だよ」
「………」
「私さ 思い出したんだ コータローくん ううん コウ君が、僕と一緒いてくれませんかって
私に言った あの日のことを だから私は!」
一花が好きだ…。 それは紛れもない事実
一目惚れだ 零奈さんに連れられ向かったあの家で俺と会話を交わしたこの子に
心の底から惹かれていた…。 時には強情でややガキ大将なところもあったが、
ふいに見せる あの眩いまでの笑顔を見るとどうにもこみ上げる想いがあった…。
俺は一花という少女が好きだった
高校で再会した際にも 実は一花の存在には気づいていた
髪は短く 性格も昔よりも大人な雰囲気で 少しばかり面倒な所もあるけど 中野一花として
俺は5年ぶりに彼女を見つけた…。
最初は忘れていた あの頃の記憶を彼女は思いだし
遂にはあの日の事も思い出してくれた…。
何時も遊ぶ あの河原で、必死に作った花束をこの子に渡した
『僕と一緒にいてください 一花ちゃんが大好きです』
人生初めての告白だった
うーんと不思議がる 一花は少し考えた後に
『うん ずっと一緒だね 私もコウ君が大好きだよ これからもずっと親友でいようね』
意味をちゃんと理解してもらえなかったのか、それともあれが彼女なりのОKだったのか
その後の俺と彼女の日常を思い返せば、一花という少女は上杉幸太郎を異性とは見ていなかった
そりゃそうだ…小学生なんだ 何を勝手の期待して思い上がってるんだ
どちらにせよ 上杉幸太郎小学生6年生の淡い初恋は終わり
あの人の葬式を最後に完全にこの想いを断った…。
思い出した そう告げる彼女は瞳から雫が落ちる
涙と同時に辺りはいつの間にか雨模様 ザーザーぶりで俺も一花もずぶ濡れだ
必死に訴えかける中野一花に俺はなんと答えるべきなのか…。
あの日の延長戦 まさかここに来てあれが尾を引く形になると6年前も去年だって…そんな事思いもしないさ…。
「最初は忘れてた でも あの人と話して 全部 全部思い出したの……私も君が…コウ君のことが」
「あの…人…!?……!」
あの人…その単語で俺の脳は一旦止まる
そして思い出す…一花が何時から可笑しくなってきたのか
あいつが何時 一花と会話をし始めたのか…。
やはり 元凶はあの女か…
「坂下に…何を言われた」
「えっ 紡木さんに …それは」
「一花… ごめん 俺やることが出来た…今はお前の話を聞けそうにない…悪いな」
「コータローくん 待って! お願い 行かないで…私は」
俺の名を呼び 掴んで来た手を離す
『早く みんなと合流しろ』 少し強めの声で伝えれば、何処かにいるであろう
あいつを探しに一花を一人置き去りにして行った…。
「やっぱり…私じゃ ダメなのかな ずるばっかりした 私じゃ…ねぇ コウ君」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「坂下ぁあああああああああああ!」
「おっーーと 急に私をお呼びとは、良かったね 近くにいてさ」
「お前 ふざけるな! 一花に何を吹き込んだ お前のせいであいつらが」
あの女を探すのは容易だ
あいつは俺の行く先で待ち構えているか、後方でやり取りを眺めて愉悦になるかその二択だ
戻った先の駐車場には赤のオープンカー その横に傘を差し
にんまりと顔を作り 俺の神経を逆なでする 雨宮紡木が立っていた
何故 笑っていられる 何が可笑しい どれだけ怒っているのか
こいつには分からないのか…?
「俺は一度でもお前は、まともだと そう思ってた でも撤回だ!
お前はやっぱり 最低だ あいつらに何の恨みがあるんだ」
「っハハハハ 滑稽だ 私が原因? 私が元凶と来た 誰が一番に悪いのか
それは君だろう 幸太郎? 今までの君の行動が招いた結果だ 言葉に責任を持てない君が今を生み出した 私になすりつけるなよ」
「分かってるさ…それでも お前が一花に変な事を吹き込まなければ ここまで拗れる事はなかったろ
俺を恨んでるなら 俺だけを狙え 俺だけをターゲットしろ 巻き込むな」
「気づいているなら余計に最低だ…ではさっきの言葉の返答を返そうか
彼女たちに恨み何てないよ? 気まぐれ 遊び心とでも言えば良いかな」
「ふざけんな! 一花と三玖が喧嘩して 楽しい修学旅行を台無しにして
遊び心で済むか…何で そこまでお前は他人の気持ちを考えない」
何か考えがあったのか…あったところでこいつがやった事は最低だ
一花をたぶらかし 一花と二乃が喧嘩
思い出作りところではない…。 高校生活でたった一度
三日間しかない その日をこいつは台無しにしやがった…。
『私だけのせいか 君の頭が花畑だよ』
はぁ…とため息をこぼし 面倒そうな表情 肩を竦め 投げやりに言葉を伝える
坂下とはそういう人間だ 正論なんて通じない
先のこと見据え 答えは既に自分の中に出ている 周回遅れの会話なんてこいつは覚える気もない
論議する気もさらさらない…。
俺の初めて出来た 友人だ 幼馴染だ 恋人だった
だからこそ許せない…。 全てが正当化され 周りから賛美されるこの人間が
他人に叱られた経験なく育った…。 誰も彼もが坂下を甘やかす その結果
こいつはブレーキのかけ方を知らないまま育ちやがった…。
ぐっと手に力が入る…。 もう我慢ならない 俺の事ならつゆ知らず
無関係な五つ子まで巻き込んだこいつを…。簡単には許せない
「ぶつのかな? はぁー 本当に退屈な人間になったね 幸太郎…。」
挑発するように笑顔はそのまま両の手をあけ ノーガードをアピール
「っーーーー! 坂下ぁああ」
俺は最低だろうな…。 例え 元凶といえ
女性に手を出そうとするのは、でも既に抑えられない所まで来ていた
誰かがこいつを叱らなければ、誰かが教えなければ、こいつは一生誰かを傷つけ続ける
かかげた左手を俺は振り下ろす 止められない
あと少しでその掌が、目の前でたたずむ 女性に届く
手遅れだ 後悔も今更に 乾いた音がなるの待った…。
だが その掌はけっして坂下を捉えない
パッシ‥
「先輩が手を出してはいけません あなたはそれを一番してはいけない人です
誰も傷つけず 誰かの為になれ 一人だった私に勇気をくれた 上杉幸太郎は女性に手を上げる
野蛮な人間じゃないんです!」
あと数センチと言う所で 俺の手は坂下の前で止まる
一体誰が、俺を止めてくれたのか、小さいが止めるその手は確かに強い力を持っていた
「真弓ちゃん…。なんで ここに」
「先輩が心配でずっと後を着けていました すみません ずっと顔を見せず」
俺を止めてくれたのは、何時も笑顔を絶やさず
呆れると時は呆れ 面倒な時はちゃんと声に出す でも人が嫌がる事は率先し
人と人とのつながりを大切に思う 彼女…。
須藤真弓だ
あの4月のあの一件以来 俺は彼女と久しぶりに言葉を交わした
「ごめん…。真弓ちゃん…止めてくれてありがとう」
「いいんです…。私の役目は先輩を支える事ですから」
「っ あぁーーつまんない 和之の妹さ 何で止めるかな?
面白い事になってたのにさ はぁ 興覚め」
「坂下 お前!」
「先輩は少し冷静に…。 坂下先輩 私はあなたが怖いです
ここ数ヶ月 あなたの顔が離れず怯えていました…。 」
「それでー 何で私の前に立つ?」
「確かにあなたが怖い でも 私はあなたを見過ごすことは出来ません
大切な先輩と大切な友人の為なら 私は前に出れます! あなたにはもう屈しません」
「……私 帰る…どうする乗ってく?」
「誰が乗るか さっさといけ」
興が覚め 皮肉も言う気もなくなったのか、坂下は車に乗って帰ると言いだす
真弓ちゃんと坂下の間に何があったのか俺は知らない
何時も坂下に怯え 和之や俺の後ろに隠れていた彼女が、俺を止め 更に坂下の前に立ち
追い返して見せた… あいつ自信も予想以外な出来事で、行動を狂わされたように見えた
車を出す際に俺に乗るよいうあたり 神経が可笑しいと再認識した。
残った俺たちは、その場で項垂れる
緊張の糸が途切れたという表現が正しいな… 俺に至っては怒りで我を忘れる程だ
どうにも頭に血が昇りやすい
隣で『あわわわ』と今更 動揺しだす後輩
彼女もまた自分が思ってた以上の行動に出ていたようで俺に視線を向けると
『どうすれば』と慌てている
「これで良いさ 多分 修学旅行でアイツがしかけてくる事はもうないよ」
「恋人だからわかるんですか?」
「元な…まぁ そんなもんだ 特に真弓ちゃんの登場がアイツにとっては想定すらしてなかった
最後の投げやりな言葉でわかる あいつは真弓ちゃんに負けた」
「初めて 坂下先輩に勝てました…でもすごく疲れましたね」
「俺もだ…あいつに振り回されるのは、勘弁願いたい」
ここ数週間 姿を見なかった後輩はとても立派で更に逞しくなってくれていた
俺を支え 友人たちを守る そう宣言した彼女の瞳は真っ直ぐで
あの天災にとって純粋すぎる彼女は、苦手な部類だったのかもしれない
本当にこの子には助けられてばかりだ
もしあのまま 坂下を殴っていたら俺は、永遠に後悔し 五つ子とも顔を会わせられないところだった
男女問わず 俺は人を殴らないと決めていた…
暴力とはもっとも愚かで他人を守る以外で行われそれは誰も救われずただ罪悪感に苛まれるだけ
俺がもっとも嫌悪しておりかつて目指した夢はそれとかけ離れた存在だった、
それでもその嫌悪していた何かに頼らざる状態まで俺は俺を追い込んでしまい、すんでのところで俺は後輩に助けられた。
「先輩 戻りましょうか…一花さんなら先ほど戻って行くのが見えました」
「まさかとは思うけど 会話聞いてた?」
「いえ そこまでは、してませんある程度は後ろを尾行はしていましたけど
真剣な話だったので、一度戻りましたし」
「そっか、もしかして真弓ちゃんはさ 坂下を警戒して 俺の後をついてきてたのか?」
「あの人がいると知ってすぐに行動に移しました でも 一花さん達の問題は止める事は出来ませんでした すみません」
申し訳なさそうに顔を伏せる後輩に俺も状況が状況だと理解し自分を責めないよう言葉をかけた。
「あれは 無理だ…。現場に居合わせた俺が言うんだし」
「当人たちの問題でしょうが…もしかしたらと可能性も考えてしまいます」
「君には君の出来る事がある‥だから考え過ぎないって事でさ」
了解ですと、少女は頷いた。
確かに俺や彼女にも何かしら出来た事は合ったはずだ、ただ少しミスでもっと悲惨なことだって連鎖的に起きてしまう、そんな気さえするのだ。
ザーザー
「冷えてきた」
少し話をしたのちに気がつけば、雨足はどんどん強くなっていた。このまま此処にいても体を冷やし風邪を引いて三日は、寝込んで過ごす
そんな最悪な事態は想定出来てしまうし避けておきたい…毎度の事俺はその手のトラブルに縁があり過ぎる
ホテルに戻らないと教師からどやさえる
これ以上は台無しにしたくない 一花も戻っているなら留まる理由もない
一歩 足を動かした時に俺はある事を思いついた
先ほどのやり取りで、危うく人間として大切な何か 男として最低な事をしようとした俺
何もなく ホテルに戻るのは、俺のプライドが許さない…
前を歩く後輩の肩をぽんぽんと叩く
何事かと振り向く彼女にこそこそと耳打ち
するとどうだろう 坂下を追い払う時の勇ましい彼女とは裏腹に顔を真っ赤に染めだしている
「変か?」
「先輩はそういった事が好きなんですか」
「いや 全然 でも 踏ん切りがつかない だからさ真弓ちゃん 思いっきり頬を叩いてくれ!!
貸し作ってばかりなのはどうもな」
「えぇー…でも先輩は一度言ったら引きませんからね でも本当に良いんですか?」
「オフコース」
「では 行きます せーーーーの」
帰り際 物凄い激痛と雨の中でも聞こえる程の何かが叩かれる大きな音が辺りに響いた
去年頃から 勇ましく 逞しく そうやって変わっていく後輩
その小さな手からは想像も出来ない程の怪力で俺の頬は叩かれた
場所が場所だ 俺たち二人は一番最後にホテルに着き
入口付近で待っていた教師たちは俺の頬を見て すごく動揺していた
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「シャワー 空いたよ…先に頂いてごめんね」
「で では 次 四葉どうぞ…」
「うぅ~ 下着までぐっしょり…」
(中で待機しててよかった…フー君ともさっき会えたし)
「…………」
ホテルにあるシャワー室から一花か出てくる
天気予報では晴れが続き 雨の確率は0% 実際は徐々に雨脚が強まり
外で見学していた学生達は足早にホテルまで帰って行った
五月と四葉は風太郎と合流したのは良いが、結局は幸太郎は戻らず
大雨の中を傘もささず探すのは困難 兄である彼を信じ風太郎は二人を連れホテルまで戻った
エントランス付近でソファに座り 外を眺める二乃とも出会う
濡れてる様子はなく ただ暇そうな彼女に『よう』と彼は声をかけていた
その後は一人静かにホテルまで戻ってきた一花を見て
二乃は何かをやらかしたと察知し 彼女を部屋まで連れて行く
少しの間でも自分と話してくれた 風太郎に『ありがとね フー君』一声お礼を述べ
意気消沈と言った言葉が似合う 今の一花を連れ出した
部屋まで一切 会話もなく シャワー浴びている間 誰一人口を開かない
どんよりとした空気が部屋に充満
五月はなんとか場を和ませようと試みるが、すべて不発に終わり
いそいそと自分の着替えの準備を始め出す
暫くすれば一花も戻り 五月に言われ 四葉はシャワー室へと向かう
この空気をどうにかしたいのは一花も同じ
二乃や三玖とは話し辛く 下着の準備をしている五月に声をかけた
「わぁ 五月ちゃん これ攻めてるね着ないの?」
「こ これは違うんです! 身の丈に合わないので捨ててしまいます!」
「もったいなー」
「一花………」
「…………」
「あんた 先ずは三玖に言う事があるんじゃないの?」
五月を弄り 少しでもあれを忘れようと現実から目を離す中
それを許さぬものがいる…。 何時までも放置は出来ないと二乃は彼女に声をかけ
今日までに一花が起こした事に対し 三玖に何かしら言う事がある筈だと一花を逃げたままにはさせておけない…。姉妹を思う故に二乃は先陣を切る……。
「…………あの 三」
「ごめんね……一花」
何を言えば良いのだ……今更何を弁解するんだ?
次女に言われ 動きはするが、一花が言える言葉は何もなく 頭に浮かんだ言葉を口に出す前に
三玖の方から謝罪の言葉が出てくる……。
二人を交互に見る二乃は、どうしてこうも拗れてしまったのか、どうにも上手くかみ合わない現状
そろそろ自分の為に動いてもいいのではと投げ出したくもなってきた
三玖の言葉で、一花の口は閉ざされてしまう
この中で一番 現状に疎い五月は三人を眺め 何故ここまで重苦しい空気なのかを
彼女になりに考えた 何故だろうか、最初に浮かんだのは雨宮紡木の顔だった
二乃と自分に最悪になる前にいった方がいいと忠告を伝え
三玖と自分をホテルまで運んだ 彼女のあの不敵な笑みが頭から離れない
(あの人は、何かを知っている そんな気もします……幸太郎君が消えた事と何か関りがあるのでしょうか?)
コンコン
「入るぞー」
悩む五月 当事者の三名 シャワーを浴びる 四葉と一室で様々な問題が渦巻く中で
扉を叩く音がする 彼にしては珍しく一声をかけ 部屋に入ってくる
同じく雨に濡れびしょ濡れだった彼は 着替えたのだろう
ジャージ姿の風太郎が紙を片手に現れた
連絡事項があり 全員集合だと学級委員の仕事の為に部屋を訪問してきた
一瞬声を聞き 肩を揺らした三玖だったが訪問者が彼では無く風太郎だと知れば
慌てる素振りもなく 再びベット間で縮こまる
二乃や五月は先ほどまで会話をしていたが
一花と三玖と顔を合わせたのが昨日以来だ…。結局二人と会えず
その会う予定だった兄も姿を消し 呼びに向かった部屋では、重々しい空気が充満
こういった事は、ここにいない兄の専門分野だが、あの男は頬真っ赤に腫れさせ
雨に打たれ過ぎたのか少しダウン
偶には自分も相談を受けてみるかと、彼女達に声をかける
「お前らまだ揉めてんのか……ちょっと俺に話してみろ」
「えっいや…………」
「これは……その」
「何だ 二乃? さっきは普通に声をかけて来たくせに やっぱ何かあったんだろう?」
彼なりに親身なって自分たちを心配し 相談をするよう言ってくるのは
二乃として嬉しいことで、問題さえ起きなければ彼に抱き着いていたところだ
でもそうもいかない…。 簡単に相談できることではなく つい口ごもる
ガラ…………
「ふーーースッキリしたーー!」
「あっ…………」
「!」
バン
一瞬の出来事だ……。彼女らに歩み寄ろうとした時
横の扉が大きく開かれ 誰かが全裸で 自分の真横にいたような
いや間違いなく いた この場にいない人物
中野四葉が豪快に扉を開けた 当然中の会話を聞いてはおらず風太郎がいるなんて知る由もなく
目が合った瞬間に四葉は再び シャワー室へと姿を消した
突然のことで思考が停止 その場で全員が固まってしまう
ハッと我に返ったのは一花だった
「た たいしたことないよね」
「えぇ!」
「こんなの姉妹じゃ日常茶飯事よ」
「はっはい…………じょ じょうしきです///」
何とか場を和ませ 風太郎に心配と変な誤解を与えない為
会話で押し切ろうとする三名 その姿は何処かぎこちなく
約一名はあの時に起きたことを思い出し 耳まで真っ赤に染めている
「ならいいが…………とにかく三十分後な 明日の選択コースもそこで決める
らしいから考えておけよ」
バタン
三十分後に全員集合だ と必要事項を伝えると彼は何も見なかった と自分に言い聞かせ
部屋を出て行く
「ごめん 勝手な事言って」
「いいわよ。フー君に心配されるのは一番に避けたいもの あんたも黙ってないの」
「だって…………」
「三玖……気持ちは分りますとは、いいません けどいつまでもそうしてはいられませんよ」
「五月…………でも」
「みんなハッキリさせよう 私たちはそれぞれ フータローくんとコータローくん
彼らのどちらかと二人っきりになる 機会を窺っている……」
「私は班決めの時から言ってるわ…………まぁそん時は コウのこともあるし
三人でって言ったけどさ………… それで五月 あんたはどうなの?
本当に何も思うところがないの…………」
「……………………五月」
「彼と行動をする理由はあります だから否定はできません……。」
「このままじゃ 誰の目的も叶う事はない それは全員が望む所じゃないはず」
「あんたがそれを言うのね……本当に凄い神経してる」
「四葉も聞いて」
「もういないよね…………///」
このままずるずると引きずっても訪れるのは誰もが望まない 最悪の結末
そうならない為 一度ここでハッキリとさせる 先導する一花を見て二乃はぼやくが
今は小言は聞き流す 顔を赤らめて部屋を見回す四葉も現れ
全員が集まった事になる
一花は幸太郎にあの日を思い出させる
二乃は風太郎と共に過ごす為
三玖は彼の誕生日を祝い 彼に伝える事がある
四葉は風太郎と協力し 三玖と幸太郎を二人にさせる
五月は幸太郎と協力し 自分が偽る正体を何とか風太郎に伝えようしていた
それぞれがぞれぞれ 叶えたいこと やるべき事がある…、
だから言い争いはここで終わらせ 全てを運に任せようと話す
後程 行われる 選択コース
A B Ⅽ Ⅾ E の五つをそれぞれで選択する
この方法なら誰かが上杉兄弟の班と当たり この修学旅行でやりたい事が出来る筈だと
四人に説明 これ以上の策は一花もない
当然 二乃からは苦情が出る こんな運に任せた方法で外れれば後悔しか残らない
彼らが二人で行動する以上は、まさしく五分の一の確率だ
それでも良いのかと三玖に聞く
「今は……どんな顔してコータローに会えばいいかわからない だから低い確立の方がいい…」
「私は……これが最善だと思います………… 最初からこうするべきでした
すみません 三玖」
「五月が謝る必要はないよ もしコータローと当たったら 無茶をしないように見ててね」
「はい…………わかりました」
「はぁ…指さしでいいわね どうせいつもみたいにバラけるから」
『『せーーーのっ』』
三玖の気持ちを知りながら自分の事を優先にしてしまった 謝罪の言葉を述べる彼女を責めはせず
もし 自分ではなく五月が彼の班に当たった時は、自分の代わりに彼を見守り
トラブルから遠ざけて欲しいと頼む…………。
二人のやり取りが終わり どうにも納得が行かないが、話して状況は変わらない
決めるときは一斉に決めようと二乃は提案 何時ものことだ被る事無いと姉妹ながらに分かっている
この指さしで自分たちの修学旅行の最後が決まるのだ
悔いだけは残したくない どんな結果であれ受け入れよう……………………。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
選択コースの話し合いが終わり
それぞれ記入するようプリントを手渡される
ニヤリと不敵に笑う一花は筆をはしらせ 記入欄にあるアルファベットをかき込む
中野一花 Eコース
『おい 上杉明日のコース選択どうすんだ? 兄貴もいないんじゃ決められねーだろ』
『あいつならEコースだろ 俺から話しておく』
彼女は偶然耳にした 前田と風太郎の会話を
彼らの班がどこを選ぶか既に彼女は把握していた 五つの中からどれかを選ぶ
ランダムな状況なら恨みっこなし………………
何故 彼女が提案したのかは明白だった…。
書き込む中で 四葉の言葉 二乃の言葉 三玖の謝罪が頭を過ぎる
でも………これが中野一花のやり方だ
『君は最高のアドバンテージを持っているんだよ』 忘れたい存在も自分に語り掛ける
もう後戻りは出来ない…………選択の余地などなかった
そして時間は進む……………………。
自分達が選んだコースの前で生徒が並ぶ
Aコースには中野二乃が、辺りを見るが 風太郎の姿はない
(やっぱり…………運任せにするんじゃなかったわ はぁ)
続くBコースの前では四葉が二人の名前を呼ぶ 選択してない事を祈っていた
「上杉さーん お兄さーん いませんよねー」
続いてⅭコース前 五月が不安そうな顔で列に並ぶ
「幸太郎君も上杉君も見当たりません……誰が彼の元へ 不安です」
次はⅮコース 順当に行けば、ここにいるのは三玖の筈だ
結構な数の生徒がここを選択し 実際には知り合いが多いという俗な理由の生徒が多々見られる
その中の一人の生徒が後ろを振り向き 彼女の名前を呼ぶ
ここを選択した 中野 一花の名前を呼んだ……………………。
「……………お腹痛ぁ……………………。」
最後に残されたEコース
そこには 前田 武田 風太郎が何を見て どう過ごすか話し列に並ぶ
その一番後ろでおでこに冷えピタを張り 何度もくしゃみをする男子生徒の姿
「はーっくしょん たく これだから学校行事はよー」
「あ…………コータロー……………………。」
「ん? おう三玖かお前もEコースか」
「…………その 私は」
「まぁ…。気楽に行こうぜ」
ニコリと笑い 修学旅行の最後を楽しもうと伝え
彼は列に並び直す 大きなくしゃみをしては鼻をかむ
そんな彼の後姿が心配で今すぐに声をかけたいが、俯いたまま何も言えない三玖がいる
前途多難な修学旅行は遂に最終日を迎えた……………………。