-???-
[side ???]
「はぁ、はぁ...っ」
何とか森の中に逃げ込むことができた。奴らはきっと、俺が今まで書いてきた記録を抹消する気なのだろう。これが広まれば、巨大勢力とて立場が危うくなるのも事実なのだから。だからこそ、これは奴らに渡すわけにはいかない。
「待て!今すぐ隊に戻るんだ!」
後ろで、俺の上司――いや、もう上司と呼ぶべきではないか――が、俺の後を追いながら叫んだ。相当なご身分なのだろう、護衛らしきスピアーとドンカラスが後ろからついてきている。勿論俺が何者なのかはすでに上層部まで知れ渡っているとの情報を得たため、自分が身を置いていた部隊に戻るのはほぼ自殺行為に等しいと言える。こんな状況で、素直に応じる方が馬鹿だろう。
「はぁ、はぁ...っ、くそ...このままじゃ本当に殺される...!!」
昔から体力はあるほうだ、と自負してはいたが、なにせ彼らの本拠地からここまで来るのに、ほとんど道なき道を通ってきたのだ。さすがに息も上がってきた。俺を追ってきている奴らはというと、地上を低空飛行する機械でこちらを追ってきているため、その機械のバッテリーが切れない限り疲れなど知らないのだ。
この圧倒的不利な状況、このままでは本当につかまってしまう。だが、この資料だけは奴らに取り戻されるのはごめんだ。俺が入隊してから今日までの25年間で積み上げてきたことが、すべて無駄になってしまう。誰に渡すという当てはないが、せめてここから少しでも遠くに...奴らに見つからない"どこか"に――
「ハッ、そうだ!!」
腰につけていたモンスターボールを投げる。中から飛び出してきた俺の相棒は、今まで俺が何をしていたかを瞬時に理解したらしい、すぐに俺と共に走り始めた。俺は帽子を脱ぎ、その中に奴らに関する資料を詰め込んで、最後に彼らが手にしていた手のひらサイズの機械も押し込んだ。ヒラにその機械は配られない。俺が持っている物は、今俺を追っている男から拝借したものだ。
帽子というのは、いざというときに役に立つ。奴らの資料を散々詰め込んだ帽子を相棒に託すと、俺は簡潔にこう言った。
「いいか、ここからなるべく離れて安全な場所へ行くんだ。その帽子と中に入っているものは絶対に落とすなよ。それから、俺のことは気にするな、すぐにあとを追いかける。」
相分かった、とでもいうように、相棒は何も言わずに軽くうなずいた。流石は腐ってもポケモン、俺よりもずっと速く走りすぐに見えなくなった。
安心したと同時に疲れがどっとやってきて、オレはその場にがくり、と膝をついた。その場で動けなくなった俺に、上司だった男が近づいてきて、気持ち悪い猫なで声でこう言った。
「さてさて、君が持ち去った資料はどこにあるのかな?言わないと全身をバラバラにして隅々まで調べることになるけど?うん?」
「何をされようと、俺はあれの場所を教える気はないぜ。第一、もうここにはないんだからな」
その男はひどく驚いたようだ。慌てながらも、彼は護衛として連れてきていたスピアーとドンカラスに命令を下した。
「何だと...!?お前達、今すぐ付近を調べてこい!」
が、すぐに冷静さを取り戻すと、
「さて、君の処理についてだが...これは我々の機密事項を侵したことになる。これは大逆罪だ、君は本部で死刑の執行を待つのみ、と言いたいところだが――」
周りから足音が聞こえてきた。見渡すと、周りからその男と同じ服装を身にまとった団員達がじりじりと迫ってきていた。驚く俺を見、その男はひどく満足したようだ。
「ッハッハッハ!!これでもう君は袋の中のコラッタ、まな板の上のコイキング状態さ!!っと、それはさておき...彼らも君を
その男が輪の中に混じると、大きく息を吸い込んでこう叫んだ。
「これより、"誰が一番先にこいつを殺るか選手権"を行うッ!!」
たまったものではない、こちらからしてみればただの処刑場だ。まぁいい、こちらもすでに手は打ってある。が、少し様子見をした方がよさそうだ。体力も少し戻ってきたことだし、少し遊んでやるか――こうして、俺vs彼らの
度々、ドキッとするような場面もあったが、うまく逃げきれている。途中、ポケモンの技が飛んできたときはさすがによけきれず、足にかすり傷を負ったけれども。俺に傷を負わせたのはアメモースだ。"ねばねばネット"でけん制し、そのすきを"エアスラッシュ"で突いてきた――なるほど、よく育てられている。普段から相手の動きを止める戦術を使っているのだろう。それでも、あまり支障は出なかった。こう見えて反射神経はいい方なんですよ。
「あぁもう、何でこうもちょこまかと!!」
さっき叫びすぎて声がガラガラになっている俺の上司だった男が、イラつき気味に叫んだ。彼のパートナーは先程辺りを探索しに行ったドンカラスだということが判明し、彼は恐ろしい形相(だと本人は思っているようだが傍から見ると完全に変顔)でこちらに向かって短刀を振りかざしている。何とも可哀想な男だ...などと同情するとでも思ったか、ざまぁみろ元上司。
と、突然"ねばねばネット"が飛んできた。どうやら、先程のアメモースが飛ばしたものと同じようだ。まぁこれぐらいならすぐに避けられると思った矢先、自分の体が突然思うように動かなくなってしまった。まるで痺れているかのように。
「まさか..."でんじは"か?」
アメモースが地上付近で動いているのが見えたのと同時に、その横にエレザードがいるのが見えた。どうやら"でんじは"を撃ったのはアイツのようだ。2人の団員が、勝ち誇ったような顔でこちらを見ていた。
痺れとネバネバで動けなくなった俺のまわりに、奴らがぞろぞろと集まってきているのが見えた。その先頭には、さっき叫びすぎて声がガラガラになっているキレやすい体質であろう俺の元上司がこちらを見、例のごとく吐き気がするような猫なで声でしゃべりかけてきた。
「フッ、もう動けないようだな...選手権とは言っていたが、真の目的は君の体を拘束すること。その後は僕が直々にこの短刀で手を下すだけの簡単なお仕事さ」
彼は自分が持っていた短刀に両手をかけた。彼の腕が小刻みに震えているのを、俺は見逃さなかった。
「おい、手が震えてるぞ...そんなに俺を殺すのが怖いか?」
「――!?そ、そんなことは――」
「そうかい、だったら早くやっちまいなよ。こっちはとうに覚悟できてんだ」
その男は、まだ迷っているようだった。その間に、俺はまだ痺れの残る体で、ネバネバの中を立ち上がることができた。ついでに、"奥の手"の準備も。
彼はようやく心を決めたようだ。
「この野郎...死ねぇぇぇぇ!!」
さっき叫びすぎて声がガラガラになっているキレやすい体質であろう吐き気がするような声を持つ俺の元上司が短刀を振り上げたのと同時に
俺は羽織っていた上着に火をつけた。その裏地には、これでもかというほど爆薬が仕込まれている。
「―――お前もな!!」
その男が短刀を振り下ろすよりも早く、上着についていた爆薬が爆ぜた。その直前、俺の脳裏に今までの冒険が波のように押し寄せてきた。走馬灯を見るのは初めてではない。これまで幾度となく死を覚悟したことはあった。そして今日、俺は間違いなくここで死ぬ――
まるで、時間が止まったかのようだった。爆薬は下の方から爆発しているらしいく、俺の意識は最後の最後までうっすらと残っていた。俺の脳裏によぎったのは、帽子と共に奴らの資料を持っていった、俺の相棒だった。届くはずもないと分かっていたが、意識が途絶える直前、俺はかすれた声でこう呟いた。
「むか...の......しを、たの......よ――」
-???-
[side ???]
――もう、何も聞こえなくなった。いや、先の戦闘で耳がおかしくなってしまった、と言った方がいいだろう。おそらく、ドンカラスに耳を突かれて鼓膜が破れてしまったのだろう。奴は倒したからもう追ってはこないはずだが、それでも俺はあの人に言われたことをやるだけ――ボロボロになった帽子を抱えて、俺は森を抜けた。近くに町の明かりが見えたが、そこには向かわない。あまりに近すぎるのだ。俺はもっと先を目指す。もっと、もっと遠くへと。あの方の知らない場所まで走り続けるんだ。たとえこの命、尽きようとも――
-カントー地方 マサラタウン-
[side カイ]
「続いて、トキワの森で起こった謎の大爆発についてですが、いまだ真相はt――プツン」
突然、家の中が暗くなった。停電だろうか?もう日がすっかり暮れていたため、ほとんど何も見えない。が、他の家の明かりがついているのを見ると、停電が起こったわけではなさそうだ。誰かがいたずらをして、ここの家のブレーカーだけを落としたとしか考えられない。まったく、これでは記念すべき15歳の誕生日が台無しではないか。折角、幼馴染のトレニアとガーベラも来てくれているというのに。
「カイ、家のブレーカー見に行ってきてくれる?」
一緒に住んでいる叔母に言われ、俺は家を出て町のはずれまで向かった。マサラタウンでは家にブレーカーを設置せず、別の場所で共同管理している。そのため、ひとたび今のようなことが起こると、復旧するために町の端から端まで歩いていかなければならない。なんでもその方が地方行政の管理がしやすいんだとかなんだとか...こっちの身にもなってほしいものである。
30分歩いて、ようやく町はずれのブレーカー共同管理施設が見えてきた。管理とはいっても基本ここの鍵はフルオープンなので、「どうぞどうぞ、お好きなブレーカーをご自由に試してみて下さい」状態なわけだ。いくらなんでも酷いなぁ、などと役所に対する愚痴をつぶやきながらドアを開けて
その場で立ち尽くした。目の前で、一匹のポケモンが傷だらけで倒れていた。その手には、同じぐらいボロボロになっている帽子を抱えていた。糸がほどけていて一部の文字は判別不可能だったが、帽子の脇に「Sat×s×i」と文字が刺繍されていた。
はい、例のごとく初手で主人公死亡。使いにくいからしょうがないね、うん。これから一切出てこない(とは限らないかもしれない)のでそれが嫌な人は回れ右してくださいね。
さて次回は...
「誰だ、お前ら...?」
カイのもとに突然現れた、謎のポケモン。それとほぼ時を同じくして現れた、謎の集団。
今、世界を覆う闇に反旗を翻す大冒険が始まる――!!
次回:始まりの夜
お楽しみに!