ポケットモンスター Re:Union   作:鮭猫

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本文書いていたらいつもより多めになってしまいました…ちょっとだけ読みごたえが増した(気がする)ので時間がない人はいったん後回しで!

それでは本編どうぞ!


第十話 心のトモシビ

「――くそっ!!」

 

俺は自分の体を包む氷との格闘を諦め、止めていた呼吸を再開した。部屋を満たしている冷気が俺の肺を包み、思わずびくりと震える。

俺達がスイレンに捕まりこの牢に閉じ込められてから、既に20分以上が経過していた。俺達の体を包む氷は腰のあたりまで広がり、一歩も動くことはできなくなっていた。

 

「ただ力で氷を砕こうとしたら駄目なんだ…何か別の方法が…」

 

考えることは正直あまり得意ではないが、今回ばかりは必死で知恵を絞らねばならない。辺りを見渡した俺は、あることに気が付いた。

 

「ん?トレニア――何でお前、氷の侵食速度がそんなに遅いんだ?」

「ふぇっ?」

 

確かに、俺とリーリエさんは既に腹部まで氷がやってきているが、トレニアはまだ足の付け根に到達してすらいない。俺の言葉に自分の体をぐるりと見渡し、そして俺達の方も見た彼女は、「本当だ…」とぽつりと呟いた。

 

「何か心当たりとかあるか?」

 

少々尋問めいた問い方になってしまったが、彼女はそんなことはまるで気にせずにちょっと考え、

 

「うーん、私って昔から体温が高かったからかな…?」

 

と、なんだか正当性に欠ける答えを導き出した。思わず苦笑してしまう。

 

「た、体温が高いだけでこれほどの違いが出るのかよ、、、」

 

次いで、トレニアと俺達との違いに気づく。

 

「…そういえば、トレニアのパートナーはテールナーだったな?炎タイプのポケモンを連れているから、氷の進みが遅いのかもな」

 

すると、今まで黙って氷と格闘していたリーリエが突然、大きな声を上げた。

 

「それですよ、カイ君!」

「うわぁぁリーリエさん!?急に大きな声出さないでくれよ!!」

「何で今まで気づかなかったんでしょう――テールナーの炎なら、この氷も溶かせるのではないでしょうか?」

 

それを聞いた俺は、自分は何という大馬鹿ものだろう、と思った。仮にも俺は"チート系転生者"――前世で蓄えた膨大な量のポケモンの知識を、この世界でも保持している。その情報量はリーリエに勝るとも劣らないものだろう。が、大事な時に限って俺の頭は固くなってしまうようだ。氷は溶けるもの、という単純な自然現象すらも意識の範疇から抜け落ちていたのだ。

 

「それなら――テールナー!」

 

俺達とは違いまだ両手が自由なトレニアがモンスターボールを投げる。飛び出してきたテールナーは、一瞬ぶるりと身を震わせたが、すぐに自信たっぷりに笑顔を見せた。

 

「よし、テールナー――まずはリーリエさんから頼む」

「いいえ、まずはカイ君がやるべきでしょう」

 

少々予想外の返答に、俺はしばし戸惑った。

 

「…?リーリエさん、何で――」

「カイ君が元に戻ったら、ゼラオラと一緒に私の氷を砕いてください。私が先に助かっても、あなたの氷を溶かすか、砕く助けとなるポケモンは私の手持ちにはいません。全員助かるなら、その方が確率は上がります」

 

そこまで言われてしまったら仕方がない――「それじゃあよろしく頼んだ」とテールナーに一言伝え、俺は今までに起こったことを頭の中でまとめるために目を閉じた。

 

「カイ…?」

 

心配そうにトレニアが話しかけてきた。俺は一言大丈夫だ、と言って再び目を閉じる。

 

 

 

 

 

これまで、アセロラ、スイレンの二人と戦ってきて――スイレンとは直接戦ってはいないが――俺は幾つか、違和感を感じていた。普段とは全く異なる言動、加えてスイレンの首についていた妖しく光るペンダント――前者はザオボーによって洗脳されていた影響だろう。普段は眠っている人格が呼び覚まされたのか、もしくは全く別の人格が支配しているのか定かではないが、少なくともこれについては理由が説明できる。だが問題は後者だ。前述のとおりスイレンに今まで眠っていた、もしくは植え付けられたドS人格によるものと言ってしまえばそこまでなのだが、俺はそれだけではないと思っている。根拠はないが、いわゆる"嫌な予感"だ。何だか、それ自体に意思が宿っているような――

 

 

 

 

 

 

「あぁーッ!?テールナー、リーリエさんをッ!!」

 

俺の思考はそこで中断された。トレニアの涙交じりの叫びによりはっと目を開けると、そこにはリーリエが、顔の半分以上が氷に覆われた状態でこちらを見つめていた。俺も必死に体をよじって分厚い氷を割ろうとしたが、既に感覚の鈍っている俺の四肢は、動くことはなかった。

 

「駄目、です……私の前に、カイ君を――」

 

それを最後に、リーリエは氷の中に囚われた。その直前まで、体の感覚がなくなっていきながらも必死に俺達に指示を飛ばした、苦しそうな顔が張り付いたままで。

 

「許されないぞ、スイレン――いや、ザオボー!!」

 

体から猛烈な怒りが沸き上がってきたが、その熱は体現されることなく、俺の体は相変わらず感覚が鈍っているままだ。氷の冷たさからか俺の怒りもすぐに静まり、テールナーが必死に炎を出す音と、トレニアのすすり泣きしか聞こえなくなった。テールナーも必死だが、それで氷が解けることはなかった。リーリエと比べると氷の侵食速度は遅くなっているもののそれは止まることを知らず、俺の意識を徐々に奪っていく。それに気づいたトレニアが、嗚咽を漏らしながらこちらを見た。

 

「カイ、私――」

 

目に涙をこれでもかと浮かべ、泣きはらして真っ赤になった目でこちらを見つめるトレニアに、俺は先程と同じように大丈夫、と言った。が、実際は何ら大丈夫ではなかった。視界はぼやけ、目の前でテールナーが出しているはずの炎が燃える音も聞こえなくなっていた。そして、すごく眠たかった。それでも何とか震える唇を動かし、

 

「ごめん、トレニア――せめて君だけは、ここから脱出して…くれ……」

 

言い終わる前に、俺は深く冷たい眠りへと堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side トレニア>

 

「ごめん、トレニア――せめて君だけは、ここから脱出して…くれ……」

 

その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、カイは分厚い氷の向こう側へと消えていった。

リーリエさんも既に氷の中に囚われてしまっている。残ったのは私一人だが、きっとすぐに、二人と同じ道をたどるだろう。

私の心を読んだのか、心配そうにテールナーが駆け寄ってくる。

 

「テールナー…」

 

きっと、自分を責めているに違いない。カイとリーリエさんを助けられなかったのは自分のせいだ、と。

 

「大丈夫だよテールナー。あなたのせいじゃない」

 

泣きたくなる衝動を必死に我慢しながら、震える声で慰めの言葉をかける。それに応えるようにテールナーはしばらく私を覆っている氷に向かって炎を撃ったが、ほどなくして力尽きてしまったようだ。テールナーはその場に座り込んでしまった。

 

「私はいいから、テールナー――せめてあなただけでも逃げて」

 

しかし、私の声に反して、テールナーは私を――正確には私を覆っていた氷を――震える手で抱きしめた。

 

「テールナー、あなた――」

 

足元から氷に包まれていくのも気にせず、テールナーは私の顔を見、満面の笑顔を見せた。

 

「分かった、テールナー。最後まで一緒にいようね」

 

私を覆う氷は、既に口元まで達していた。完全に意識が消えるその瞬間まで、私とテールナーは互いを見つめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は何も覚えていなかった。気が付くと私は燃え盛る炎の中、カイとリーリエさんと共に、エーテルパラダイスの二階と一階を繋ぐ非常階段の前で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<side ザオボー>

 

突然警報が鳴ったのは、私が外の空気を吸おうとバルコニーへの扉に手をかけた時だった。

サイレンの音とともにエントランスの扉をくぐって走ってきた職員の話を聞きながら、私はこの建物の地下にある管制室へと急いだ。

 

「――何!?突然炎が上がっただと!?」

「はい、それに火元はスイレンさんの冷凍室だと推測されています」

「何だと!?あそこを満たす冷気は温度の上昇など許さないはずなのに、まさかあそこで火が昇るとは…」

 

管制室についた私は、急いで冷凍室に設置した防犯カメラのログをチェックした。

 

「――こいつらは?」

「侵入者です。冷凍室の中に閉じ込められていたようです」

「ふむ…」

 

注意深く録画を見るが、変わったことはなかなか起こらない。そうこうしているうちに一人、また一人と侵入者の体は氷に包まれていく。防犯カメラの角度のせいで顔は見えない。

 

「ここまでは何も起きていないが…?」

「いいえ、ここからです」

 

そう言われ、再びスクリーンに視線を戻す。映っているのは先程凍った侵入者2人、そして体の大部分を氷に包まれた少女と、同じく氷で覆われているテールナーだ。しかし、テールナーごときの炎では警報を鳴らすほどの炎を生み出すことなど不可能だ。ましてあのスイレンの冷凍室の中でその威力の炎を放つなど、数万年前に眠りについたとされている伝説のポケモンであるグラードンにしか出来ない所業だろう。

 

「――?」

 

頭に次々と浮かんでくる疑問を処理しようと腕を組んで天井を見上げようとしたその時、

 

「あっ、ここです!」

 

隣の職員の叫びで再び録画に目を戻すと、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

体を覆っていたはずの氷が跡形もなくなっているテールナーと、その周りから広がっていく炎。見る見るうちに部屋の氷は溶けていき、侵入者である三人の氷もほどなくして解けた。が、

 

「ん?ここにいた娘はどこへ行った?」

「分かりません。彼女の所在は、今のところ不明です」

 

そんなやり取りを返す間にも、状況はめまぐるしく変わっていく。燃え盛る炎は扉を突き破り、そのまま外へと出ていった。様子を見に来たスイレンは炎と、なぜか雷に包まれ――すぐに通路の端まで吹き飛ばされて動かなくなってしまった。

 

「おい、別角度の防犯カメラの映像を見せてくれ!」

 

すぐに映像が用意される。これは冷凍室に繋がる通路を正面から写した防犯カメラだ。つまり、ここに侵入者の正体が映っていることになるが、果たしてそれはすぐにやってきた。

が、その正体を見破ろうと画面に近付こうとしたその瞬間、私は一歩も動けなくなっていた。

 

「――!?」

 

画面の向こう側に移っているのは、先ほどのテールナーだ。が、その目を見た瞬間、私の頭の中に信じがたい感情がせりあがってきた。

 

この私が、ポケモンごときに畏怖の念を抱いているだと!?

 

にわかには信じ難かった。目の前にいるのは何の変哲もないテールナーのはずなのに、私はそれ以上画面に近付くことができなかった。

何とか画面から目を離すと、私は"彼女"を呼んだ。ほどなくして現れた彼女は、このような状況にもかかわらず笑みを浮かべていた。

 

「どうしましたか、支部長?」

「そう呼ぶのはやめてくれと何度も言っただろう――ともかく、逃げ出した侵入者三人を足止めして来い。今の状況であいつらを止めるのは、君が一番適任だ」

 

私の指示を聞いた彼女は、顔に貼りついた笑みを崩すことなく頷いた。

 

「分かりました、ザオボーさん。私が行って、足止めを――いいえ、戦力の分散を行ってきます」

 

 

 

<side カイ>

 

――少し時間を遡って、15分ほど前――

 

「――ん?」

 

気が付くと、俺は何だか訳の分からない場所に立っていた。

 

「あれ、確か俺は――確か、氷の中で――」

 

それが突然こんなところまで飛ばされてしまったのだろうか?だとするとこれは夢か、それとも走馬灯のどちらかだ。

実際、この場所は見覚えがある――俺が初めて、マリアとあった場所だ。あの時も今と同じように地面がなく、自分の足が地についていることが不思議だった。

 

「おいマリア、いるなら返事してくれー」

 

俺の呼びかけに応じたのか、転生神サマはすぐに現れた。「よいしょ!」と神らしくない言葉と共に。

 

「なぁ、俺は氷の中で意識を失ったんじゃないのか?」

「うん、そうだよ」

 

どストレートな返答に、思わずがくーとなってしまう。気を取り直し、再び質問をする。

 

「それなら、ここはどこなんだ?俺の意識だけを、神の空間に持ってきたのか?」

「んー、ちょっと違うかな?正確には、君の意識が体を離れて、ここに()()()()()んだよ」

「えっと、、、それはつまり、、、?」

「つまり、君はもう一度死んだんだよ」

 

あとになってこのことを思い出した俺は、あの時叫ばなかった自分はとても偉い、と思ったものだ。あの時は氷で思考が鈍ったままなのが幸いしたのか、さほど衝撃を受けることなくすんなりと飲み込むことができた。それに俺は、もう一つ気がかりなことがあったのだ。

 

「じゃ、じゃあ、俺ってもうあの世界には戻れないのか?別の世界に、もう一度転生することになるのか?」

 

神様の答えは、俺の想像通りのものだった。

 

「普通ならそうだね。君はまた別の世界を旅することになる」

 

薄々わかっていたはずのその答えに、俺は膝を落とした。リーリエやトレニア、それにガーベラの顔を思い浮かべると、自然と涙が出てくる。

 

「そ、それじゃあ俺は…」

「待った待った、話は最後まで聞くものよ。さっき『普通なら』って言ったとこでしょ?」

「へっ?」

 

呆然とする俺を尻目に、神様は話を続ける。

 

「今回あなたをあの世界に連れて行ったのは、あなたがあの世界を救う"救世主"だからよ。今回の仕事は私のこれからの進退にもかかってるから、必死で上に請け負って特別にあんたをもとの世界に返してもいいことになったのよ」

「なッ…何ですと!?」

「今回だけは特別だからね。次に死んじゃったら、もうあの世界には帰れなくなるかもよ?次は十分気を付けてね」

 

再び涙があふれてきたが、これはうれし涙だろう。ほどなくして俺の体は輝き始め、転生の準備が整ったことを悟った。

 

「それじゃあもう一度頑張ってね、救世主くん」

 

少しずつ薄れていく俺に向かって、マリアは前と同じように(*'ω')bグッ!のサインを出した。

 

「あぁ、今度はちゃんと見せ場を作って見せるさ!」

 

おれもマリアに(*'ω')bグッ!と返した次の瞬間には、俺の意識は元の体に戻り――燃え盛る炎の中で、リーリエと並んで立っていた。

 

 

 

 

 

 

「おわぁぁ!?」

「きゃぁぁぁ!!」

 

俺とリーリエは同時に叫ぶと、出口目指して一目散にダッシュした。




今回も読んでいただきありがとうございます!
さて、今回でvsスイレン編は終わり、次回は雰囲気が優しげなあの人が登場します!
ちょっと途中文章がグダってる気がしますがちゃんと内容が伝わるものとなっていますでしょうか、、、

それでは前回に引き続きキャラ紹介!今回はしばらく出番のなかった女神マリアさんです!

<マリア>
・神界において、死んだものを次の世界に送り届けるという"転生神"の仕事を行っている。仕事の時以外は基本的に酒ばかり飲んでおり、神界中でついたあだ名は"酒吞童子"。仕事では大体なんかやらかしているため、次の転生が上手くいかなかったらクビとなる、と上から脅されていた中でカイと出会う。カイが死んだときはあぁもう終わりだと思いながらもダメ元で上に媚びを売りまくって何とか神界の掟に背ける特例として認められた。ちなみに神界でクビになった者がその後どこへ行くのかは、誰も知らない。


今後は存在を忘れられない程度にはちょくちょく出していく予定…です。多分。

さてさて次回予告!

「あらあら、皆さんお疲れでしょう?」

スイレンの牢獄を何とか抜け出した三人。ザオボーの待つエーテルパラダイスの奥へと進もうとしたその時、三人の前に意外な人物が!?



次回[こんなところで気を許す馬鹿がいるかァ!]

お楽しみに!

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