それでは本編どうぞ!
――そうか。
膝をつき、朦朧とする意識の中、俺はようやくプルメリの意図していたことが分かった。先程彼女が放ったスモッグの対象はゼラオラではなく、俺だったのだ。ゼラオラであれば威力の低いスモッグなどいとも簡単に脱出できると見込んだのだろう、果たして俺達は、彼女の策略にまんまとはまってしまったのか――そこまで考えたところで、視界が暗転した。
倒れ込んだ俺の懐の中身が、激しく光っていた。
<no side>
――勝った。
目の前の少年が膝を突いた時、プルメリは確信した。いくら相手がゼラオラ――幻のポケモンと言えど、全方向に注意を向けられるわけがない。このままあとはこの部屋をスモッグで満たし、後ろにいる少女もろとも瀕死の状態に追い込む。そしてザオボー様の元へ連れて行けば、私はさらに力を得ることができる。そうすれば――。
「ん……?」
そうすれば、何だったか――ザオボー様の下でこの活動を始め、今と同じようにして手下を増やしていった頃から感じ続けていた疑問だった。何か、大切なことを忘れている気がする。とても大切なことを――。
「……チッ」
考えれば考えるほど、頭の中で紫色の光がごうごうと渦を巻き続ける。彼女は仕方なく考えるのをやめ――これも何回目だろうか――目の前で倒れている敵をザオボー様の下へ連れて行こうと一歩踏み出し――
「――!!」
視界の端から飛んできた電撃を、プルメリは危ういところで躱した。先程のゼラオラが、スモッグをかいくぐってやって来たのだろう。だが体内への吸引は少なからずしてしまったようで、苦しそうな表情が見える。
「……フッ。所詮――」
こんなものか、と独り言を口にしようとした途端、彼女の目の前にいる少年が――正確には、その少年とゼラオラが――突然輝きだした。
「なっ……!?」
思わず目を覆う彼女の目に、初めて恐怖の色が浮かんだ。何だ、これは――困惑と怯えで身動き一つとれなくなった彼女の前で、光は互いに引き合って一つとなり――火花を散らして、爆散した。いったい何が、と思ったのも束の間、そこに立っていたポケモンを見、彼女は思考すらも止まってしまった。
目の前に立っていたのは、先ほどと変わらずゼラオラである。だが、先ほどのそれとは全く違うものであることを、プルメリは全身が粟立つほど感じていた。
――この私が、怯えている!?
「…ッ、エンニュート!!」
恐怖心をごまかそうとするかのような彼女の呼びかけに応え、エンニュートが先ほどよりも威力の高い技《ヘドロウェーブ》を繰り出す。だが、目の前で佇む《焔眼のゼラオラ》は、右手を一振りしただけで全身から電撃を放ち、ヘドロウェーブを相殺していった。
「くッ…!エンニュート、もう一度――」
だが、ゼラオラの方が早かった。右手に電撃を集め、一閃の槍と化したその手で、エンニュートを一撃で部屋の端へと吹き飛ばしたのだ。エンニュートはしばらく痙攣したと思うと、やがてその場でぐったりと動かなくなった。
「そんな――」
怖れから身動き一つとれない彼女の首元に、一筋の光が閃いた。
<side カイ>
「――やったか」
目の前で動かなくなったプルメリを一瞥し、俺は小さく呟いた。いつの間にかトレーニングをしていた下っ端たちはどこかへ退散したらしく、部屋の中には俺とトレニア、そしてプルメリの三人しかいない。
「カイ――大丈夫?」
ゼラオラとの融合が解けた俺に、トレニアが話しかけてきた。
「あぁ、俺は平気だ。…さて、こいつの処理だけど――」
考え込む俺の横で、トレニアが笑顔で答えた。
「そっとしてあげようよ。プルメリさんも、ここにいるのが一番いいんだと思う」
「あぁ、そうだな。俺達は、早くリーリエさんを見つけないとな」
意識を失っているままのプルメリの横で、壊れたペンダントが断末魔の光を放った。
「――けれど、リーリエさんはどこにいるんだろう…?」
エレベーターを探す最中、トレニアが不意に口を開いた。俺は今までの出来事とエーテルパラダイスの構造を結び付けて考えていた。
「――ザオボーの近くだ」
「え…?」
「初めて俺達がリーリエさんと会った日の夜のこと、覚えてるか?」
「うん、なんとなくだけど…」
「あの時襲撃に来た奴ら、全員
「確かに…けれど、なんでそれでザオボーの近くにいるって思うの?」
俺は、ザオボーの言動や性格――あくまでゲーム中での、だが――を想像していた。
「あいつのことだ、最後は自分の手で葬りたいと考えているんだろう」
「そんな…」
落ち込むトレニアの横で、俺は再び唸った。
「しかし、それが分かったところで、ザオボーはどこにいるんだ?まずあいつが保護区に行くことはないとしても、この広さから人間2人を探し出すのは、いくらなんでも――」
そこまで言ったところで、俺の目に、今まで見たことのないものが見えてきた。同時に、トレニアが叫ぶ。
「あっ、カイ!あれってもしかして…」
少しずつ進んでいくにつれ、俺達の予想は確信へと変わっていった。
「あぁ、間違いない。地上階に通じるエレベーターだ」
「やったね、カイ!それじゃあ、早く上に――」
その時、俺はエレベーターの近くに人影を見た。どうやら寝そべっているようだが、明らかにリーリエのものではない。
「トレニア、待て!!」
エレベーターへ駈け込もうとする寸前で何とか止まったトレニアが、ふくれっ面でこちらを見た。
「もう、何なのよ?これですぐにリーリエさんを探しに――」
「待つんだ、トレニア。あそこに誰かいる」
俺が指差す先を見、トレニアも気づいたようだ。
「本当だ…それに、あの人影は――」
トレニアが言い終わる前に、「うぅ~ん…」と言いながらその影が起き上がった。
「トレニア、隠れろ!」
しかし、存在を悟られないためにおれが出した小声の叫びは、トレニアには届かなかった。彼女の目の前で、その影はゆっくりとこちらに向かっていき――
「!?び、ビッケさん!?」
素っ頓狂な声を上げたのはトレニアだった。彼女もさすがに危険を感じたのだろう、じりじりと俺の下へ下がってくる。
「あなたは…」
まだ意識が朦朧としていたビッケは、トレニアの顔を見、目を見開いた。そして、驚くことにその場で涙を流し始めたのだ。
「あぁっ…私は、あなた達になんてことを…ッ」
「び、ビッケさん!?いったん落ち着いて――」
「いいえ、その前に謝らせて!本当に、ごめんなさい…私のせいで、あなた達はリーリエと…」
明らかに、今までのビッケとは様子が違う。不審に思った俺は、警戒しつつも彼女に一歩近づいた。
「ビッケさん…首元を、見せてくれ」
少し頷いた彼女は、上着を脱いで首元を露わにした。そこには――紫色の、壊れたペンダント。彼女は、既に何者かによって洗脳を解かれた後だった。
「どういうことだ…?ザオボーなら、決してこんなことはしない。まさか、リーリエさんがやったのか…?」
独り言を続ける俺に、ビッケはかぶりをふった。
「いいえ、私は確かにリーリエをザオボーの下へ送り届けました。そして、あなた達も始末しようとエレベーターに乗って――気が付いたら、ここで倒れていました」
何も分かっていないのは、彼女も同じのようだった。その疑問を後回しにし、俺は一番聞きたかったことを彼女に聞いた。
「なぁ、リーリエさんをどこに送り届けたんだ?」
その答えは、真っ先に俺が思いつくべき場所だった。
「エーテルパラダイスの奥――リーリエとその母親が、すんでいた場所です」
「お待ちしていましたよ、お二人とも」
俺達が屋敷に入った途端、ザオボーの姿がホログラムで映し出された。
「ザオボー、貴様…」
「まぁまぁ、そう怒らないで。あなた達を、歓迎しようと思ったのですよ。お二方に、最高のショーをお見せしようと思いましてね」
今度は、トレニアが声を荒げた。
「歓迎、ですって…?リーリエさんは、どこなのよッ!!」
しかし、ザオボーは一言言っただけだった。
「屋敷の奥に来なさい。ここまで頑張ったお二人に免じて、教えてあげましょう。それでは、次は面と向かって話すとしましょうねぇ…」
「待て、ザオボーッ!!」
しかし、ザオボーの姿は消え、奴の声も聞こえなくなった。
「カイ…」
心配そうにこちらを見るトレニアに、俺は視線を変えずに答えた。
「あぁ、行こう。ザオボーを倒しに――そして、リーリエさんを助けるために」
部屋の奥に設置されていたワープを抜け、俺とトレニアは決戦の地へと赴いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!気が付けば年が明けてから一月が立とうとしていました。ようやく更新できたけど月一ペースはまずい…テストも近いですが何とかやっていきます。まだ死にたくねぇ…
それでは次回予告!
「──やって下さい、カイ」
彼女は、悪夢の中で魘されていた。解放される術は、ただ一つ。けれど、それは諸刃の剣。
命を散らす、その前に――。
次回[光りて]
お楽しみに!