〈side カイ〉
「──!!──ィ!!」
「ん、ん...?」
「──イ!!──てよ、カイ!!」
「ファッ!?」
気づくと、俺はベッドの中だった。それも大分くたびれているらしい、俺が動く度あちこちでギシギシと軋む音が聞こえる。
と、誰かがこちらを見ている。寝起きのせいかしばらくぼやけて見えなかったその影は、時間がたつにつれてはっきりしてきた。
「ん、トレニア...?お、おはよう」
瞬間、トレニアがわんわん泣きながら俺に抱きついてきた。
「うわぁぁぁぁぁ――ッ!!良かった、良かったよぉ!!ガーベラは連れていかれるし、カイの叔母さんは死んじゃうし、お母さんも見当たらないし、カイまで死んじゃったら私...私...ッ!!」
どうやらそれで感極まったのだろう、トレニアは俺の首をがっちり絞めにかかってきた。もちろん呼吸なんてできない訳で。
「ちょ、やめろトレニア!!俺を殺す気か――ッ!?」
数分後、トレニアもようやく落ち着いてきた。俺はのどぼとけのあたりをさすりながら辺りを見回した。
「ここは、どこなんだ...?どうやら、建物の中みたいだけど」
「廃墟だよ。奇跡的に燃えることのなかった、マサラタウンの一番外れにある家」
トレニアがこちらに背中を向けたままそうつぶやいた。
瞬間、昨晩の出来事が俺の頭の中にありありと浮かんできた。燃える故郷、動かない身体、そして
「――ガーベラ...」
燃え盛る炎の中、気絶したまま連れていかれた、俺の一番の友人は――そして、あの不敵な笑みを浮かべていた男は――一体どこに?
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「ん、どうしたの?」
「俺はあの後、どうやってここに運ばれてきたんだ?」
「私も、覚えてない...急に空から土が降ってきて、そのまま気絶しちゃって、目が覚めたらこのベッドに、カイと一緒に寝かされてたの」
「――ッ!!」
俺はこの時トレニアに放った言葉を一生後悔するだろう。何のことはない、まぁ俺だって年頃の男子だ。
「じゃ、じゃあ俺とトレニアは一緒のベッドで寝てたってことに――」
「な、何を想像してるのよバカァッ!!」
瞬間、耳まで真っ赤に染まったトレニアの左手が俺めがけて飛んできた。
うっ右頬が痛い。自業自得だ、その件については何も言ってはいけないと自分を抑えながら、俺はトレニアにもう一つ質問を投げかけた。
「な、なぁ...」
「何よ、まだ何かあるの?」
「ここ、どこなんだ...?」
「だからさっきも言ったじゃない、廃墟だって」
「そうじゃなくて、もともと何の施設だったんだろうってこと。周りを見る限り、ただの民家ってわけではなさそうだけど」
その通りだった。まずこの建物、異様に広い。さらには、壁伝いに普通の家にはおいていないはずの何やら高そうな機械がずらりと並んでいる。
俺は真相を確かめるべく、外に出ようとした。
「ちょっとカイ、危ないって!またあの人たちが来たらどうするのよ!?」
「大丈夫だ、ちょっと外の様子を覗きに行くだけ――」
「オラァァーッ!!」
ドアノブに手をかけた瞬間、何かが俺を地面に押し付けた。トレニアも相当慌てているらしく、背中越しでも彼女が建物の中で走り回っているのが分かる。
「誰だッ!!」
俺は押さえつけている腕を掴んだ。が、それは人ではなかった。
黄色い毛でおおわれた腕、水色の髭、そして長い尻尾――俺を押さえつけていたのは、ゼラオラの腕だった。
「オラッ」
まるで「静かに」とでも言うように、ゼラオラは俺を抑えていない方の手を口元にやった。
「分かった、分かったから――ここでおとなしくしてればいいんだろ」
その言葉に満足したようだ。ゼラオラは俺を離すと、少し煤けた紙袋を取り出した。
「なんだ、これ――俺にくれるのか?」
「オラ、オラッ!」
ゼラオラはその紙袋を渡すと、建物の端の方に走って行った。どうやら、テレビらしきものをつけようとしているらしい。
それはともかく、俺は紙袋の中身を取り出した。中に入っていたのは帽子といくつかの書類、そして――
「――?何だ、これ...?」
紙袋の奥から出てきたのは、手のひらサイズの発信機のような機械。スピーカーのようなものが付いており、側面にはアルファベットで"Zeraora"と彫られている。
「うーん、分からんな...で、こっちは何だ?」
俺はさっき見えた書類に目を通した。どうやら誰かの手記らしく、ところどころ文字がかすれてしまっている。それを少しずつ読んでいくにつれ、俺は冷や汗が噴き出てくるのを感じた。
「――ここに配属されて×年が経った。この仕事に×だいぶ慣れて×たが、それでも×酷だ。レイ×ボーロ×ット団の表の×しか知らない×々は、裏でこ×なことをやってい×ことなど知ら×いだろう。
――遂にマ×ラタウン焼失命令×下った。×の故郷でもある×ら守ってやりた×が、今の俺は何の×もない、ただの労×力に過ぎない。ここは次の世×に託すほかないだろう、ゼ×オラと共に。
――最後に、この×記を次に拾ってくれる人がこの×界を根底から覆したいと思×ている人に届くよう祈って×る S×tos×i」
と、ゼラオラのいる方向から音声が聞こえてきた。どうやらゼラオラ自身が電力の供給源となっているようだ。そのテレビからコマーシャルが流れているのが見えた。
「――なんとポケモンたちが巨大化!?でっかいポケモンたちとコースターを駆けまわれ!RRリゾート、ポケモンランドへみんな遊びに来てね!」
俺はその場から動けなかった。
「R、R...レインボーロケット...」
「あら、最近オープンしたポケモンランドのcmじゃない。どうしたの、これを見た途端に動かなくなっちゃって?」
「間違いない、奴らは――
レインボーロケット団は、水面下でこの世界を支配していたんだッ!!」
あまりに大きな叫び声を出したせいで、トレニアはビクッと肩を震わせた。
「どういう...こと?レインボーロケット団は、この世界を支えている巨大な会社じゃないの?」
「そんなものじゃない――奴らの生み出す平和には、常に破壊と殺戮が付きまとっている。これを見れば明らかだ」
トレニアもその手記を見、顔から血の気が引いていった。
「――!?これは――」
ちょうどその時、テレビのコマーシャルが終わり、ニュース番組に変わった。
「――ただいま速報が入ってきました。カントー地方の南西に位置する町、マサラタウンが先日未明、
山火事により全焼しました」
これで、確信がついた。俺とトレニアは顔を見合わせ、頷いた。
「これで、分かっただろう?あいつらは、自分たちに不都合なものは容赦なく消していくんだ」
「うん...こんなことで、私のお母さんもガーベラも連れていかれるなんて...」
さらにニュースが続く。
「――この山火事により、マサラタウンの住民全員が亡くなりました。現在、調査団を派遣し、詳細を調べているところです。さて次はお天気です。パキラさん、よろしくお願い――」
ここでテレビが切れた。いや、ゼラオラがテレビを消した。
「どうしたんだ、ゼラオラ?疲れたなら休んで――」
ゼラオラは俺に向かって、もう一度「静かに」の合図を送った。どうやら、外の様子をうかがっているようだ。
「――!!」
瞬間、ゼラオラは俺とトレニアを掴んで二階に駆け上がった。
「何だよゼラオラ、別にそんな急がなくたって――」
おれがそう言いかけたその時、突然ドアが勢いよく開く音がした。そして、何人かの足音。さらに、野太い声も聞こえてきた。
「いいか、生存者がいたらちゃーんと保護してあげるんだぞ。我々の貴重な
労働力、だからな。ハッハッハッハ!」
ちなみにポケモンランドの元ネタは初代アニポケのやつです。「何も心配はいりません、ポケモンたちは壊れてございまぁ~す♪」のやつね。
さてさて次回予告!!
「トレニア──ここから逃げよう」
遂にマサラタウンを離れざるを得なくなったカイ達。必ず戻ってくると誓い、新たな一歩を踏み出す。
次回[すべて捨てて、2人で]
感想、評価等お待ちしています!次回もお楽しみに!