転生者がいっぱい   作:もぬ

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俺HOEEEEE!!

 気付けば、部屋の中はうっすらと明るくなっていた。朝が来たのだ。寝不足を感じることなく、上半身を起き上がらせて伸びをする。

 気持ちの良い朝、のはず。しかしなぜだろう、寒気や動悸がじわじわと襲ってくる。

 何かがおかしい。そうだ、いつもは目覚まし時計を止める。

 時計に目をやる。頭が回り始め、現状に対して理解が追いついたとき、つい、反射的に、己の意思でなく、変な叫び声が口をついて出た。

 

「ほええええええっ!!??」

 

 時刻は8時30分。

 遅刻である。

 

――――――――――――――――――

 

 信号待ちをしながら、寝癖のついた茶髪を撫でつける。

 いつも使っている自転車は、自分の成長を見越して買ったもので、乗っていると足が地面に届かない。だから信号を待つときは、こうして降りる。

 移動にインラインスケートを使わないのは、『自分』へのささやかな抵抗だ。

 青になった。遅刻確定の通学路を自転車で進んでいく。新学期早々に怒られる自分を想像したら、汗が出た。

 

「ん?」

 

 いつもの通学路に、少し変わった光景が足されていた。

 背の高い街路樹に、オレよりいくつか年下くらいの男の子がへばりついているのだ。

 

「セミごっこか?」

 

 少し気になって視線を上に向ける。ああ、何をしているのかわかったぞ。上の方の枝に、靴が引っかかっている。少年は片足しか靴を履いていない。

 朝っぱらから靴を遠くまで飛ばす遊びでもしていたんだろう。そのせいで、オレと同じで遅刻ってわけだな。

 ずるずると降りてきた少年は、今にも泣きだしそうな顔をしていた。声をかけると、こっちを見た途端顔がぱっと明るくなる。

 

「あ! 魔法少女のおねえちゃん」 

「魔法少女と呼ぶな」

「えー? えっと、カードキャプター? のおねえちゃん!」

「ちが……いや……あってるけど……ええい、ちょっとどきなさい」

 

 これくらいの木なら登れる。運動神経には自信があるからな。

 

「よっと」

「テレビみたいに魔法はつかわないの?」

「魔法は、普段は法律で制限されているんだよ」

「ふーん。せちがらいね」

「それに、魔法使わなくてもできることには、簡単に使わないの。ほれ」

「えーー便利なのになー」

 

 木の上から、枝にひっかかっていた靴を放る。少年を下がらせ、さっさと飛び降りた。

 

「かっこいい靴だ。大事にしろよ」

「やーい! おねえちゃんのパンツ白色!」

「なっ」

 

 咄嗟にスカートを押さた。とうに無意味な挙動であったが、反射的にそうなる。野郎……。

 

「クソガキ!」

「へへ、靴ありがとー!」

 

 礼を言いつつ少年は走り去る。手を振ってきたので、振り返してやった。

 まったく、小学生男子っていうのはなんでああなんだ。見られる側の気持ちがわからんようだな。

 

 

 

「こんにちは!」

「あら、こんにちは」

 

 大通りから人気の少ない小道に入ると、おばさんとすれ違った。目が合ったので走りながらで失礼だが挨拶をした。カバンを手に提げていたから、街の方に買い物にでも行くのかな。

 続けて、小さいバイクとすれ違う。ちょっと歩行者側に近すぎやしないか? 危ないな。

 そんなことを思ったときだった。

 

「あっ!? ああ……!」

「むっ」

 

 おばさんの悲鳴を聞いて、自転車を止めて振り向く。何が起きたのかはすぐにわかった。ひったくりだ!

 オレがこの場にいてよかった。犯人にとってはアンラッキー。いまどき悪いことはするもんじゃない。

 田舎だからって好き放題できると思うな……!

 自転車から飛ぶように降り、懐から小さな『鍵』を取り出す。呪文は省略!

 

「『封印解除』!」

 

 鍵だったものが大きさを変え、バトンのような姿になる。これはこの世界にはあるはずのないもの。いわゆる、魔法の杖だ。

 続けて、服に忍ばせてある『カード』のうち、1枚を手に取った。

 

「風よ、縛めの鎖となれ。『(ウインディ)』!」

 

 カードが秘められた力を解き放ち、真の姿を現す。

 美しい女性の姿を見せた『風』は、すぐに自身の形を崩し、その名前の通り疾風となって、走り去る犯人へ殺到した。

 犯人はバイクごと空中に浮き、やがて風の檻に閉じ込められた。うん、バイクをひっくり返したら危険だからな。『風』にならこういう繊細な仕事を任せられる。

 

「おばちゃん、オレのカバンに携帯電話入ってるから、それで警察呼んでください」

「ああ! さくらちゃん! ありがとうねぇ」

「咲です、サ・キ。おまちがいなく」

「あら、ごめんねサキちゃん。本当にありがとう」

 

 やがて警察の方がやってきた。

 魔法を徐々に解除し、犯人に手錠がかけられたのを確認して、杖を鍵に戻す。

 

「やあ君か。ご協力感謝します」

「いえ。あの、能力使用の許可証明書を頂きたいのですが……」

 

 遅刻の正当性も証明できる。ラッキー。

 

「ああ。えーっと……この書類に必要事項を記入してください」

 

 さらさらさらりと。何度も書かされたものなので、素早くすませる。

 国から発行された資格を持つものは、非常事態に限り、異能の力を使うことが許される。犯人にもけがはないはずだから、今回は簡単な手続きで済んだ。

 

「そうだ、これにもサインもらっていい? 娘がファンなんだ」

「へ? サインって……芸能人とかがやるやつ?」

 

 警察のおじさんは、手帳を差し出してそんなことを言った。

 照れるな。まあ身体の元ネタが人気キャラだから、自分の人気とは思わないけど。

 

「木之本咲、と」

 

 おしゃれな自分だけのサインとかないので、学校のテストに書くときくらい普通に名前を書いた。

 

「じゃあオレ、急いでるので!」

「サキちゃん、ありがとう! これからも応援してるからね」

 

 去り際、カバンを取られそうだったおばちゃんにお礼を言われた。

 照れ隠しに、さっと手を振るだけにして、自転車でその場を後にした。

 

 

 

「さて、今年入ってきた生徒はよく聞きなさい。二年目以降のやつらは居眠りでもしていると良い。……知っての通り君たち――俗に言う『転生者』は、この能力制御の時間だけ、各々のクラスから離れてこの教室に集まってもらっている」

 

 遅刻に正当な理由があっても、授業の途中から入っていくのにはまた勇気がいるものである。

 教室の前へたどり着くと、良く知る先生の声が聞こえた。既に1時限目の授業が始まっているのだ。

 引き戸をほんのちょっと開け、隙間から覗く。

 ほんの十数人の生徒を相手に、一人の女性が講義をしていた。

 

「この教室では、力の使い方を教える。

 ――ああ、君らの特殊な能力をバリバリに発揮する方法を教える……という意味じゃない。この現代社会で問題を起こさずやっていけるように、規則やモラルを叩き込んでやるってことだ。

 まあ、放っておいたら力が暴発することもあるから、制御訓練の時間も含まれる。しかしそれ以外は普通の学校とそんなに変わらないし、実技より座学の方が多いよ」

 

 この学校で、転生者や異能者に関わる先生はこの人だけだ。

 美人だが、他の教科の先生に比べてまあ授業が面白くない。たぶん教師が本職じゃないからだろうと勝手に思っている。絶対職員室とかで浮いてるね。

 生徒の様子を見ると、どいつも漫画かアニメでみたことのある連中ばかり。何人かは先生の話を聞き、がっかりしたような顔をしていた。残りの何人かは居眠りをしたり、ぼうっと窓の外を眺めている。あいつらはオレと同じで、去年から続けてこの講義を受けているやつらだ。

 これなら別に遅刻したっていいのでは?

 

「君らの『生まれたて』によくあることだが、自分が選ばれた特別な人間だと思っているような奴は留年する破目になる。前世の記憶があるやつも、意外と高校生くらいからは勉強がわからなくなる。とくに近代史がヤバいらしいぞ。君たちの前世からずいぶん経っているはずだからね。あー、その辺りもこの科目でふれよう」

 

 先生がプリントに目を落とした隙にそっと後ろのドアをあけ、音を立てずに教室へ入る。

 

「とにかく、国によって生活と教育の機会が保障されていることに感謝して、はやく世の中に貢献できる人間になりたまえ。……木之本! 新年度の初っ端からそれとは、さすがだな」

 

 みんなの顔が一斉にこちらを向く。恥ずかしさを飲み込みながら、オレは自分の席についた。

 

 

 

 放課後になった。学業っていうのは本当につまらないし、1日が長くて仕方ない。

 前世がいい歳だった奴らは「若いな」とか「もう1度学生になれるのが嬉しい」とか言う。オレは早く大人になりたいけどな。特に今は、ちょうど『本物』と同じくらいの歳なのが嫌だ。

 

「咲ちゃん、飲み物買ってきたよ」

「ん、ありがと」

 

 屋内訓練場のベンチで休憩していたオレの横に、同じくらいの歳の男の子が座った。受け取ったペットボトルを顔に当てると、火照った身体が落ち着くようだ。

 

「今日はありがとう。僕、前より能力が使えたよ」

「ああ。元ネタに精神を近づけるのが、引き出すコツだ。あとは自分でやれよ」

 

 小竜(シャオロン)は、オレと同じ転生者。付き合いは結構長いが、能力制御を教えてくれと頼んできたのは初めてだ。

 オレはこいつのことは……嫌いではないが、あまり近づきたくない。なんせ木之本桜と李小狼だ。一緒にいると周りの目が鬱陶しいし、オレの気持ちもこいつに――、

 いや。何を考えていた。だからこの身体はよくない。

 

「ええと……シャオ。なんで急にこんなことを? 護身くらいならできるだろ?」

「県の特対課を目指そうと思ってさ」

「え? そうなの?」

 

 特殊事態対策課。オレの第一志望と一緒だ。

 こいつはこっち側には興味ないタイプ……将来、一般の進路を選ぶんだと思っていたが。

 

「なんでまた? いやまあ転生者ならフツーか」

「咲ちゃんの近くにいたいから」

「へ?」

 

 ……な!? なんてこと言うんだこいつ!? たしかに数少ない友達で付き合いは長いし境遇も似てるしまあまあ信頼できて一緒にいるとき油断するとはにゃーんってなるけど……! 転生者とはいえお互いまだ小学生なのに、心と体の準備ってもんが。

 

「ほら、この前もテレビで見たんだけど、君って危なっかしい戦い方するでしょ。誰かがサポートしないとなって」

「あ、そっそういう意味ね! ハイハイ」

 

 あああああもう。またこれだ。能力を使いすぎると元ネタに精神が近づく。やっぱりシャオはオレの、天敵だ。

 気を落ち着けよう。

 

「って、誰が危なっかしいだあ? お前はオレを心配するレベルかってーの」

「だから先生をお願いしたんだよ。咲ちゃんがこの辺りじゃ1番つよいんだから」

「お、おう。まあね。それはそう」

 

 何がおかしいのか、シャオはくすりと笑う。

 少女漫画に出て来そうなツラをするな。ただの転生者のくせに、よくシラフでそんな仕草ができるな。

 そうやって雰囲気をつくられると、はにゃってしまう。マジでやめてほしいね。

 

「咲ちゃん、今日はありがとう」

「……うん」

 

 笑顔と、感謝の言葉をこっちに向けてくる。

 オレはもう一度、貰ったペットボトルを当てて、熱い顔を冷やした。

 

 

 

 耳障りな音。

 うとうとしていたところを強制的に現実に戻される。目覚ましアラームの音じゃない。先生から持たされている通信機が、やかましく着信を知らせていた。

 ぼーっとする頭のまま耳にセットし、通信をオンにする。

 

「何時だと思ってんですか」

『21時だが』

「小学生は寝る時間です」

『ほう? 小学生だという自覚があったのかな』

 

 話しているうちに頭が回ってくる。

 先生がこの通信機に連絡してくるときは、大抵面倒な用事があるときだ。

 部屋のテレビをつけてみると、いつもこの時間にやっているであろう番組を小さく押しやり、画面の大半が緊急の避難呼びかけで埋まっている。

 災害が起きたのだ。

 

『市内でかなり強力な反応が検知されてね。Aランク以上の人材が必要だ。地元警察では対応しきれない。この地域で条件に合う嘱託登録者は君だけ』

「なんで? 市役所の人とか、県庁のエースは?」

『前者はよそで研修中、後者より君の方が現着が早い』

「スーパーロボット系のやつが近くの基地に配備されたって聞きましたけど」

『遠征中だ。太平洋の真ん中で怪獣でも相手にしてるんじゃないか』

「わたし怪獣じゃないもん!! ……ハッ!?」

『いちいち反応するな、君のことじゃない』

 

 まだねぼけているらしい頭を振り、布団から出る。

 不満を口から垂れ流していると、先生に一蹴された。

 

『これが君の選んだ仕事だ。おこづかいと、就職の点数稼ぎだと思って頑張りなさい』

「それはそうですけど……わかりました、ちょっと行ってきます」

 

 めんどくさ。確かに特対の嘱託職員としてたまに働いてはいるが、平日のこの時間帯はキツイ。転生者って身体が子どもだとしてもあんまり法律で守られてないよね。県は、というか先生は、年々人使いが荒くなっている気がする。

 転生者・異能者の少ない田舎はどうもこういうことが多いらしい。

 

『エリア3-2-2だ。急げ』

「3丁目の2の2番地っと……」

 

 なにがエリアだ、かっこよく言うんじゃないよ。この人、転生者でもないのにちょっとアニメキャラっぽい言動なの、正直ひく。

 携帯端末のアプリケーションで検索し、現場に見当をつける。

 

『報告によると、転生者や異能者の類である可能性は低い。おそらく“トレース”の方だ』

「遠慮なくブッ飛ばしていいってわけだ」

『そうだな、フルパフォーマンスでやるといい』

 

 軽口を叩きながら、外に出る準備をする。とりあえず顔をバシャっと水で洗って、寝巻の上から厚手のジャケットを羽織った。

 鏡を見ると、寝癖がすでにビョンビョンとひどいが……髪をセットする時間はない。人命にかかわるかもしれないし。

 部屋を飛び出すと、緊急事態にも関わらず寮のみんなは落ち着いていて、テーブルゲームなんぞしている連中もいた。まったく、たまにはお前らが出ろよ。もっと訓練しやがれ。

 気持ちのこもっていない声援を受けながら、寮を出る。

 まだ寒さの残る季節、空はさぞ震えると思うと嫌になる。仕方なく気分を無理やり盛り上げ、寝巻の首元をごそごそと探った。

 

「てっ! てけててけててけてて~ん。てっ! てけててけててけてて~ん」

 

 小さな鍵を取り出す。どこからともなく暖かい風が吹き、オレの身にまとわりついた。

 

『木之本。その、どうかしたのか? 何を口走っている?』

「え? BGMですけど。フルパフォーマンスでやれっていったでしょ」

『BGM? 騒音ではなく?』

「……?」

 

 まさかこのオレが音痴だと言いたいのか。そんははずはないだろう。ある声優さんに似た美声だけはけっこう気に入っている。

 ともかく。ひとつ咳払いし、気を取り直して集中力を高めていく。目を閉じ、意識を向けるのは己の内側だ。

 

「闇の力を秘めし『鍵』よ。真の姿を我の前に示せ」

 

 鍵を手に取り、呪文を口にする。『身体』に聞いた、力を最大限発揮するためのプロセス。

 

「契約のもと、咲が命じる」

 

 スイッチを切り替えるようにして、異常を自分の内から呼び起こす。

 

「『封印解除(レリーズ)』!!」

 

 乱回転を始めた鍵はぐんぐんと長さを伸ばし、やがて一振りの杖になる。

 手に取ったそれを、癖でくるくると回転させながら、一枚のカードを取り出す。宙に投げたそれに、杖の先を叩きつける。

 

「『(フライ)』!」

 

 杖の頭にあった天使の羽根のような飾りが巨大化し、鳥の翼のようになる。オレは魔法使いが箒に乗るように、杖にまたがって大地を蹴った。

 

 

 

 風を切って空を飛ぶことは気持ちがよくて好きだが、この時期の夜となると不快さが勝る。

 

『トレースの反応はひとつ。大きさは人間の大男くらい。やはりここいらでは君が適任だろう』

「むしろそれなら、他に勝てる人はいるのでは?」

 

 この国で今、『トレース』と呼ばれているもの。それはこの星に元からいた異能者や、宇宙人といったものではなく、正体はオレ達転生者とほぼ同じ存在だという。その力、外見は、創作物に登場する架空のキャラクターと似ているのだ。

 転生者との違いは、意思があるか無いか。生物らしい意思が確認できない彼らは現象とでも呼ぶべき存在であるとされ、この国では自然災害のひとつに分類される。日本という国は昔から天災が多かったらしいが、それもここに極まれりって感じだ。よその国には転生者とか、あまりいないらしい。

 

『報告が入った。対象の外観は、ちょうど朝の特撮番組に出てくる怪人のような姿らしい』

 

 それを聞いて、少し気が引き締まる。

 

「仮面ライダーじゃないだろうな。パンチ力何トンの世界ですよ? 死にます」

『例によって、そんな設定上の数字は飾りだ。君たち同士の戦いでは機能しない』

「……まあ、そうだといいけど」

 

 トレースも転生者も、基本的には元ネタほど強くない。しかし油断できるはずもない、奇跡的な幸運で手にした第2の人生を、小学生のまま終えるなんてごめんだ。戦うからには全力でやってやる。

 寒空の下、田舎町の景色を飛び越え、目的地に向かって進む。

 やがて、自分がそこにたどり着いたことがわかる。

 白いパトカーが何台も出張って、一人を……いや、人の形をした黒い影を取り囲み、道を塞いでいるのが見えた。

 やや低空へ移動し、耳を傾けると、かすかに人々の声がした。

 

「ええい、うちにもレイバーとかウィルウェアとかあればな」

「こんな田舎にああいう兵器は下りてこないですよ」

「レイバー? ウィル……? ってなんですか?」

「何!? 知らんのか、パトレイバー!?」

「アクティヴレイドめっちゃおもしろいのに!?」

「自分、何世紀も前の作品とかあんまり見ないんで……」

 

 朝にも会った顔見知りのおじさんが、部下に向かって何やら声を荒げていた。警察の方々も苦労しているらしい。

 

「我が言葉を人々に届けよ。『(ヴォイス)』」

 

 パトカーの上に降り立ち、魔法を使う。杖をスタンドマイクのようにして言葉を紡ぐと、拡声器のような機能を発揮した。

 

「「あー。あー。こちら嘱託登録異能者です。警察の皆さん、いつもありがとう。あとはお任せください」」

「おお……咲ちゃんだ」

「パジャマもかわいい」

「助かった」

「「なるべく距離をとってください。この中で処理します」」

 

 まるで闘技場か何かのように、パトカーで囲まれた交差点の真ん中に、今回の標的が立っている。

 オレはみんなを下がらせ、リングの中に降り立った。

 

「「おおい、聞こえますかそこの人。聞こえたら右手を上げてくださーい」」

《………》

「よし、トレースだ。殴ろう」

 

 警戒しつつ相手を観察する。先生が事前に知らせた通り、相手は虫か何かが人間の姿になったような外見をしている。おおよそ、日曜日の朝にやってたヤツの、どっちかの怪人だろう。

 大人しく突っ立っているようだが、いつ暴れ出すか分からない。そしてもちろん、攻撃すれば意思がなくとも反撃してくる。大抵の攻撃は魔力ではじき返せるが、気を抜けば女子小学生並の防御力しかないオレには不安だ。

 さて。

 様子見で牽制から入る戦法でいくか、初手必殺技でさっさとやっつけてしまうか。これが創作の世界なら、後者は負けフラグだが……。

 まあ、眠いし、これ以上夜更かししたくない。

 上着のポケットから、3枚のカードを取り出す。

 

「『(パワー)』、『(ファイト)』……『(タイム)』」

 

 まとめて杖で叩くと、見える景色が黄昏色になる。自分の呼吸以外の音は聞こえない。この止まった時の中を動けるのは自分と、自分が触れたものだけだ。

 内からみなぎってくる力に身を任せ、トレースを正面から適当に蹴とばす。

 おっと。遠くへ吹き飛びそうになったので、瞬時に足を掴みコンクリートに叩きつける。どこを殴るかしばし考え、とりあえず首の辺りに馬乗りになって拳を固めた。

 

「おりゃ。ほりゃ、ふんふん」

 

 人型なんだから多分顔面が急所だろ。がんがん殴り続ける。

 ちょっと硬いな。少し力を入れる。丁寧にやらないと地面がひび割れて修繕費が発生してしまうのだが、最初に叩きつけたときにけっこう壊れてしまっていた。ううん、後で怒られるかな。

 

《……!? ガアアアッ!?》

 

 しこたま打ちのめされた怪人が、苦し気にわめく。事前に設定していたタイムの効果が終了し、時が動き出したのだ。

 立ち上がり、両手をぱちぱちと合わせて埃をはらう。

 一連の殴打で大ダメージを負わせることに成功したらしく、トレースは立つことも出来ず痙攣していた。

 しかしまだ息があるな。消し去るにはもう少しダメージを与えなければならない。

 

「ん~」

 

 懐からいくつかカードを取り出し、眺める。

 1枚取り出し、杖を振るった。

 

「ええと、我の眼前に立ちはだかる者を、あー、とにかく消し炭にしてください。『(サンダー)』」

 

 夜の町を、雷光が白く染める。

 気持ちよく眠れそうなくらいまで魔力を消費し、術を解いた。

 カードさんへの指示通り、ボロボロの消し炭になってしまったトレースは、やがて細かいちりになって消えていった。

 よし、仕事終わり。そんなに強くないやつでよかったな。

 

 蘇りや新たなトレースの発生をしばらく警戒したあと、杖を下げる。

 警察の人たちに終わったことを報告して、帰り支度を始めた。

 

「咲ちゃん、おつかれさま」

「あ、おつとめご苦労様です……ふあ」

 

 顔見知りのおじさんに敬礼をした途端、あくびが出る。

 ……しまった。さすがに失礼すぎる。

 

「後処理は私たちや後からくる職員に任せて、君は帰りなさい。いつもありがとう」

「いえ、その、はい。また呼んでください」

「ああ。おやすみなさい」

 

 通信で先生にも一応確認をとり、お言葉に甘えて帰ることにする。

 あくびをこらえながら杖で飛び、来た空を戻っていった。

 

 

「ただいま……っと」

 

 寮の玄関にたどり着くと、誰かがオレを待っていた。

 シャオだ。……むう、厄介な奴に待ち伏せされたな。能力を盛大に使ったときは、少し内面が元ネタに近づきすぎる。そういうときに一番会いたくないのがこいつなのに。

 

「何してるの? こんな外で」

「トレース出現の警報が出てて、咲ちゃんが部屋にいなかったから」

 

 おかえり、と声をかけられた。

 ただいまと返して、二人で中へ入る。

 そのまま部屋へ戻ろうとすると、シャオに呼び止められた。

 

「咲ちゃん、そこ座って。手当てするから」

「い、いいって。ケガなんかしてないよ、余裕勝ちだったもん」

「ウソ。咲ちゃん脳筋だから――やっぱりね」

 

 ポケットに入れていた手を引きずり出される。

 トレースを殴ったときの力が、魔力の守りより強すぎたようで、少し手が擦れてしまっていた。

 

「もう、ちゃんとグローブ持っていって。前も言ったじゃないか」

「……ごめん」

「じっとして。まったく、やっぱり無茶するんだから」

 

 椅子に座らされ、手に包帯を巻かれる。

 シャオの手はあたたかくて、普通なら落ち着くはずなんだけど、それを感じているとどうにかなりそうだ。

 こいつ。オレを弄んでるんじゃないだろうな。

 能力をあれだけ使った後に、こ、こんなに近くに寄られたら、心臓がバクバクしてるのがばれる!

 

「はいおしまい、お疲れさまでした。……おやすみ、咲ちゃん」

「あ……」

 

 ねぎらいの言葉をかけ、シャオは立ち上がる。

 部屋へ戻ろうとする彼を、思わず呼び止めた。

 

「あ、シャオ……わた……いや、オレ……」

「なに?」

「……お、おやすみ!」

 

 絶対わかってる、あいつ。オレの気持ち。性格悪いぞ。

 自分の部屋に飛び込み、ふうと息を吐く。怪人相手より、あいつ相手にした方が100倍苦戦するし、疲れる。

 汗を拭いて、服を着替えて、布団に舞い戻る。ようやく今日が終わるのだ。

 

「………」

 

 巻いてもらった包帯にそっと触れる。

 たかがかすり傷、包帯でぐるぐる巻きにするほどのものでもない。だけど、こいつを意識すると、なんだか頭がぐるぐるして眠れなかった。

 魔法を使って疲労してるはずなのに。あいつのせいだ。

 

 

 

 朝だ。

 どうやらあの後、オレは眠れたらしい。

 上半身を起こしてごしごしと目をこすり、しばしぼうっとして、頭が起きるのを待つ。

 しばらくして。

 なぜだろう。寒気や動悸がじわじわと襲ってくる。じっとりと嫌な汗が背中を伝う。

 何かがおかしい。そうだ、いつもは目覚まし時計を止める。

 時計に目をやる。現状に対して理解が追いついたとき、つい、反射的に、己の意思でなく、変な叫び声が口をついて出た。

 

「ほええええええっ!!??」

 

 時刻は9時10分。

 遅刻である。

 

 

 

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