転生者がいっぱい   作:もぬ

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Fate/決して間違いなんかじゃnight

 突然だが。

 私は、運命の人が現れるのを待っている。

 

 運命の人とは、言葉通りの意味だ。赤い糸で結ばれた二人、生まれた時からいずれ一緒になるように定められた相手。

 何を今時乙女チックなうわごとを口にするのか、と思われるだろうが、違うのだ。

 これは根拠のある理屈なのです。

 

 転生者同士で結ばれる例があるのをご存知だろうか。

 彼らは多かれ少なかれ、趣味や嗜好がその身体に依ってしまう性質がある。そこでだ、元の作品では恋人同士であるキャラクターの転生者同士が出会えば、どうなるか?

 それはもう、くっつく。7割くっつく。そういうものである。

 これを私は運命の人メソッドと呼んでいる。

 

 さて、この私はもちろん転生者だ。

 しかも、元となったキャラクターはある作品のメインヒロイン。メイン・ヒロインである。確実に結ばれるべき相手がいるのだ。

 私の名は――、

 

「……アルトリア。おい、いないのか? アルトリア・ペンペンドラゴン」

「あ、はい! 元気です!」

「出席とってるときくらい先生の話聞けよー」

 

 私の名はアルトリア。あるゲーム作品の登場人物の容姿と能力を持った、転生者だ。

 エロシーンもある。

 この世界に誕生してすぐ、自分があのセイバーだと知ったとき、私は思った。

 

 あっ、絶対シロウと結婚しよう。

 

 転生者の多い学校へ入学した主な理由もそれだ。シロウの転生者と出会うためである。

 何? リン? サクラ? 知らん。彼女たちはサブヒロインだ。

 セイバーとしての能力を磨きつつ、いずれ来るその日を待っている。

 故意に恋する14歳。それがこの私、アルトリア・ペンペンドラゴンだ。

 

「こ、この反応は――!!」

 

 ……来た。

 来た来た来た来た来た――! ついにこの日が来たのだ!!

 

「うわっ! アルトリアのアホ毛が立った!」

「怖っ! せんせー!」

 

 感じる。

 私の頭頂部でビンビンに屹立したマスター感知センサーが、はるか彼方にその存在を知らせている。

 今、この瞬間。

 この国のどこかに、衛宮士郎の力をもつ転生者がいるのだ。

 そう、私の運命《fate》が―!

 

「先生! 早退しますね!」

「まだ今日の授業始まってもいないのに……?」

 

 こうしてはいられない。今すぐに会いに行きたい。

 返事を聞くのももどかしく、私は教室の窓を開け、外へ向かって飛び降りた。

 三階からのダイブであるが、これくらいは平気である。いつシロウに来いセイバー!されても良いように訓練済みだ。

 人間離れした敏捷ステータスを発揮し、私は心のおもむくままに駆けだ――そうとして、止まる。

 シロウの反応は決して近所ではない。捜索範囲は広くなるだろう。移動手段が必要だな。

 直感に身を任せ、学園の駐輪場へと向かう。

 

「ほええ……今日も遅刻……」

 

 所在なさげに背をすくめて歩いているのは、この学園では有名人の少女だ。

 この田舎学区ではまぎれもなくエース級、上から数えた方が早い実力を持つ能力者であり、たまに活躍してはしょぼい話題しかないローカルニュースを盛り上げている。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいのです。

 注目すべきは、彼女が脇に引いている、自転車だ。

 小学生が使うにしては大きめのサイズであり、寿命がもてば高校生まで使えるであろう上等なママチャリ。

 幸運Aの導きに違いない。

 

「そこの人! 自転車借りますね!」

「はっ? な、なに!?」

「ブリテン民の物は私の物!」

「意味が分からない!? あっこら!」

 

 動揺している間に自転車を奪い、もとい、貸してもらう。

 

「どうか安心してほしい。私の騎乗スキルはB……あなたのマシンは音を置き去りにし、新たな次元へと足を踏み入れることになる」

「そんなことしたら壊れるだろ……」

 

 ええい、面倒な。

 私は膝をついて少女の手を取り、ブリテンキングオーラを全開にして話しかけた。

 

「レディ。あなたの力が必要なのです。どうか私に、美しいあなたの慈悲を」

「レ、レディ? えへへ、そんな」

「よっこいしょ」

 

 照れて顔をほころばせているうちにさっさとチャリに跨る。

 外面を取り繕っているようだが、やはり内面は絵に描いたような優良健康女児だ。扱いやすい。

 

「……誰がレディだ! オレは――」

「今からお前の名前はドゥン・スタリオン二世だ……いくぞ、友よ!」

「あ! ま、待て! それを持って行かれたら、うちにはローラーブレードしか……ローラーブレードしかっ……!」

 

 この支配からの卒業。

 少女の叫びをはるか後方に置き去りにし、人馬一体、私はジェット機。

 あまり使ったことのない魔力放出スキルをも遺憾なく発揮し、フルスロットルでその場を後にする。

 このまま私の鞘の元へと一直線、納刀、結婚、子供は二人欲しい。

 県境をぶち抜く一条の閃光。それが剣の英霊である。

 

「くっ……」

 

 走り始めてから数時間。

 機体が悲鳴を上げているのが分かった。

 荷物を入れたりする前のカゴとかがギッシラギッシラと良くない音を発している。

 これ以上のスピードには、耐えられない――。

 

「いいや! お前の力はこんなものじゃない! うおお……!」

 

 武装の魔術。

 戦闘時、魔力で鎧を編む要領で、ドゥン・スタリオン二世に魔術を施す。

 各箇所を鎧で補強し、痩躯のママチャリは頑健なモンスターマシンへと姿を変える。そのままさらにペダルを回し、私達は白銀の流星と化す。

 魔力装甲チャリであった。

 

「あれっ?」

 

 しかしその時、異音と共に、ペダルを踏み込む足が、強制的に止められた。滑らかに回るはずのペダルが回らない、嫌な感触。

 この感触、そう、チェーンが……

 

「あっヤバ」

 

 スピードがついていたのもあって安全には止まれず、バランスを崩し、自転車からアスファルトの地面へと投げ出される。

 

「ウワアアア痛ったあああああ!!! チェーンが外れたあああああ!!!!」

 

 思いっきりコケ、私はマジの重傷を負った。

 

「アヴァロン!」

 

 治った。

 

―――――――――――――――――――

 

 いくら武装したところで、元がママチャリなのでチェーンは外れるらしい。

 チェーンをかけ直した後は、痛いのは嫌なので、常識的な速度でいくことにした。

 直感の導きに従い、街を越え、山を越え、県境を越える。

 そうして全く知らない町に着いた。

 だが――目的地は、ここだ。私の毛がここを指している。

 

「……ここだ。間違いない」

 

 この先に、いる。

 自転車を路肩に停め、我慢できず己の脚で走り出す。私は感極まり、思わず彼の名を口にしようとした。

 

「シロ……」

「シロオオオオオオ!!!」

「我が鞘はここかああああ!!!!」

「ここに私の伴侶となる方がいるのですね……!」

「ぬっ、ここはどこだ? 奏者は?」

「私のアルトリウム・センサーがここを指して……む?」

 

 えっ。

 

「「「えっ」」」

 

 こ、これは……!? 

 どうしたことだろうか。どこを見ても同じ顔。顔、顔……!

 

「うわああああ!! セイバー亜種がこんなに! こんなに!!!」

 

 青いキャップを被ったジャージのアルトリアが、頭を押さえて地面をゴロゴロと転がっている。お前も亜種だろ。

 顔を突き合わせた私達は、次第に状況を理解していく。すなわち、日本中のアルトリアが、この辺りで誕生した衛宮士郎の転生者を感知し、一斉に駆けつけたのだ。

 

「アルトリア・ペンペンドラゴンです」

「オルタ・アルトリウスだ」

「リリィ・セイバーといいます」

「ランサー・A・イングランド」

「謎野エックスです」

「ひっく……ぐすっ……奏者、奏者はおらんのか……」

 

 自己紹介した順に、私、黒いファッションで色白の人、笑顔が可愛らしく幼い印象の人、めちゃくちゃ巨乳の人、キャップにジャージの不審な人、あと何しに来たのかわからない赤いファッションの子だ。

 印象は皆異なるが、顔が同じだった。自分そっくりの怪物・ドッペルゲンガーに会うと人は死ぬと言うが、今私は5回死んだ。でも平気~、アヴァロンがあるから。

 しかしセイバーは原作にただ一人のはず。これは一体どういうことだろう。

 困惑を隠せずにいると、オルタさんがフォローしてくれた。

 

「なるほど……fateのソシャゲのせいだな」

「fateにソシャゲ!? そんなものが……」

「なるほど、別キャラ扱いのアルトリアとして転生した子がこれだけいたのですね」

「ぐうう……巨乳美女になれて我が世の春だと思っていたのに!」

「セイバー顔がこんなに。ここ地獄ですか?」

「余、帰ろうかな」

 

 右からも左からも正面からも自分の喉からも川澄の声がして頭がおかしくなりそうだ。丹下がいなければ発狂していたかもしれない。

 全員、内心そう思っていたようで、間違えてやって来てしまったらしい赤い人が帰ろうとするのをみんなでそれとなく食い止めた。

 

 ……さて。

 このようなハプニングには遭ったが、我々の目的は同じだ。

 この通りの先、閑静な住宅街の一軒家に、シロウの転生者がいるはずなのだ。

 私達は彼を見極めねばならない。そしてあわよくばイチャイチャし、幸せなセッッをしなければならない。運命(さだめ)である。

 ライバルがたくさん現れてしまったのは想定外だが、最後にこの元祖アルトリアたる王の隣に士郎がおればよい。だいじょうぶ、自分との闘いとか、タイプムーンにはよくあることだから。

 私達は互いにもみくちゃになりながら目的の家へ進んでいく。

 ……しかし。突然の警告音が、夜の住宅街を切り裂いた。

 

「トレースか? チッ、こんなときに……」

 

 どこからか避難警報が放送されている。住民を家から出して避難所へ誘導するという内容は、Aランクの異能者が出張るレベルの災害だ。

 

「この中に、Aランクの人は?」

「いや……私はBだ」

「わたしはまだDです」

「普通の巨乳OLです」

「うーん、だめそう」

 

 困ったな。Aランクがいれば事態を収拾できるし、指示を出してくれればある程度動けるのだが。

 

「!」

 

 異様な気配を感じ、誰からともなく先を急ぐ。

 近づいてくるのは、腐臭。あってはいけない邪悪さ。

 通りを出ると河原にたどりつく。それなりに大きな一本の川のうちに、巨大なナニカが出現していた。

 腐った肉の塊。都会の建物ほどの大きさはある。

 

「あれはまさか……海魔!?」

「異能者が来るまで待っていたら、爆発するかもしれんぞ」

 

 海魔……それはfateの派生作品に登場した、めちゃくちゃ気持ち悪い怪物である。タコとヒトデとナマコの嫌~なところだけ融合させたみたいな生き物だ。

 巨大な邪悪の塊は触手をうねらせ、この町へ害をなそうと力を蓄えている。

 大きすぎる。こんなもの、本当のアルトリアじゃなきゃ……。

 

「………」

 

 なぜ実力も備えていない私達がこの現場へ来てしまったのか。

 後ろを振り返り、みんなを見る。

 覚悟を決めたまなざし。きっと自分も、そんな顔をしているのだろう。

 そうだ。この町には、守るべき人々が、そしてシロウに似た誰かがいる。

 戦う理由はある。戦わない理由は、ない。

 

「ハァッ!」

 

 自分の中の異常を高め、現実の世界に呼び出す。私の身体は青いドレスと銀の鎧を纏う。手には風に覆われた不可視の剣が出現した。

 他の子たちも戦う姿に変化している。私一人ではAランクに及ばないまでも、みんながいれば……。

 それに今日は何故か能力の調子がいい。これまでにないほどに、アルトリアになりきれる気がする。

 

「みんな……宝具を使おう」

 

 今の自分なら、できる。

 手の中の剣を握り締め、私は彼女たちをみた。

 頷きを返される。みんなもきっと、それができると確信しているのだ。

 

「だがあれを消し飛ばすほどの攻撃となると、町に被害が出るぞ。本末転倒だ」

「何か町を守る壁みたいなものが欲しいですね」

「原作ではどうしてたっけ……」

「なんかほら、船か何かを壁にしたり、イスカンダルの結界?とか使ってた気がする」

「固有結界に似て非なる大魔術なら、余、使えるけどなー」

「ん?」

 

 丹下の声がして、みんなが一斉に彼女を見る。

 

「え? 何?」

「……みんな、集まれ! ディシジョンスタート!」

 

 オルタさんが号令をかけ、みんなで円陣を組んでごにょごにょとミーティングが始まった。円卓会議である。

 オルタさんが提唱する作戦はこうだ。

 固有結界……に似て非なる大魔術? 意味分からんけど、それを赤い人が発動して、海魔を町から隔離する。

 そうした周りに被害が及ばない戦場の内部でなら、存分に宝具でとっちめることが出来る。という寸法だ。

 

「えー。でもあれ疲れるし、奏者いないし、余あんまり関係ないし……」

 

 どうも乗り気じゃない様子の赤い人を見た我々は目配せをし、彼女を取り囲んだ。

 

「そこをなんとか!」

「皇帝の力が必要なんすよ!」

「皇帝の姐さん!」

「巨乳!!」

「アルトリアより可愛いかもしれない! 多分」

「歌うますぎ!!」

「「「ネーロ! ネーロ! ネーロ!」」」

「うむ……うむ! もっと褒めよ!!」

 

 徐々にドヤ顔へと移行した少女をワイワイと胴上げしながら、海魔の近くまで連れてくる。

 気持ちよくなり、赤いドレスに身を包んだ彼女は、どこからか取り出した赤いバラを放り投げた。

 

「開け! 黄金の劇場よ!!」

 

 世界が一変する。

 河原に居たはずの私達はいつの間にか、広大で豪奢なつくりの『劇場』の中にいた。

 

「これが……固有結界……」

「固有結界に似て非なる大魔術ですよ」

「ええい、どうでもいいでしょう」

「どうでもいいものか! ファンはうるさいぞ!!」

「余の力を貸せるのはここまでだ! 後はなんとかせよ!」

 

 美しい劇場に似つかわしくない、巨大な肉の塊を見据える。

 強い確信を持って、私は両手で不可視の剣を握った。

 風が吹きすさび、手の中に黄金の光が現れる。

 この状態を呼び出せたのは初めてのことだ。それは赤い人の劇場にも見劣りしない、一点の曇りもない輝き。まだ会ってもいないシロウを想う気持ちに、私の中のセイバーが力を貸してくれている。

 剣を上段に振りかぶる。みんなと呼吸を合わせるように、私は彼女の力の真名を口ずさんだ。

 

約束された(エクス)――」

最果てにて(ロンゴ)――」

勝利すべき(カリ)――」

約束された(エクスカリバー)――」

「あっ、私はパスで」

 

 力のすべてを、この刹那にて解き放つ!

 シロウに届けこの想い!

 

「「■■■■■――――!!!」」

 

 全員宝具の名前が違うので、最後の声はみんななんて言ってるかわからなかった。

 

 

 その後。

 今夜は町も混乱しているだろうということで、泣く泣くシロウにあうことを断念し、私達はとなりの市の、一人暮らしのOLであるランサーさんの自宅へとみんなで押しかけた。

 シロウんちの近くの街とかずるいでしょ。私も引っ越さねば。

 

「狭っ……」

「汚っ……」

「独身女の部屋とはかくも地獄じみたものなのか」

「う、うるさい! 前世では綺麗だったんだ! これはこの身体のせいだっ!! お前らも成長したらこうなるんだぞ!!」

 

 寝床はアルトリアギュウギュウ詰め地獄と化した。

 やれやれ、1抜けしてはやくシロウの家に転がり込もう。

 そう企みつつも、私は彼女たちに奇妙な友情を感じていた。

 

「では皆さん、今夜はシロウの魅力を語り明かしましょうか」

「いいですね!」

「フン、私はさほどやつに興味はないが、き、聞いてやろうじゃないか」

「奏者の魅力も語ってよい?」

「私のベッドが……」

「ランサーさん、このカップ麺食べていいです?」

 

 これからの日々が少し、楽しみだ。

 

 

 

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