ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
迂闊だったと言わざるを得ない。私、篠ノ之束は久々の失態をやらかした。
研究所を開けている間に、まさかの来訪者。いつか来るだろうとは思っていたが、こうも予定が狂うとは思いもしなかった。
実際、自分自身の不注意が原因だ。ペロちゃんの体内に入り込んだISのコア。未完成品だったとは言えアレは9割方完成した物で、後は内外部の相互入出力電磁パルスの調整だけで良かった。しかしアレが人間と同期するとは思えなくて目の前の事態に唖然としてしまった。
様子を見るためにしばらく彼の自由にしすぎたのだ。コアの反応がバレたと気付いたのは後々になってから。
しかし、二日目、三日目と追っ手はナシ。拍子抜けするくらいに誰も来ないので束さんは疲れてしまいましたとさ。
で、今日。ここまでコアの反応を垂れ流しにしておきながら何もしてこないということは来る気がないんじゃないかと舐めていたのが悪かった。
ペロちゃんからの通信を終えてすぐさま秘密基地へ戻る。いつもの表口は使えないので、町中から行ける隠し通路を使うことに。とある生活感のありそうな一軒家の玄関を開けて中へ入り、土足のまま奥へ進む。殺風景な部屋のクローゼットを開けるとそこには地下へ続く階段があり、それを使って深く潜る。無論、家に入るまで周りに人がいないことは確認済みだし、この家も持て余しているお金で買った物だ。
地下に行くと、そこにはこぢんまりとしたプラットフォームが。束さんのお手製である。待機しているのは狭いレールの上に浮かぶリニア式の単車のようなもの。シートの下にある衝撃吸収材に包まれた場所に荷物を押し込み、ハンドル部分にかけてあったヘルメットを被る。最近は滅多に使用しなかったがきちんと手入れされているようで埃も無いし不快感も無い。
単車モドキに跨って生体認証、更にロックを解除。レールに沿って僅かな照明灯が点灯していく。
「さて、後は……、」
ハンドルを握り、単車モドキに体を預けるように蹲る。こうでもしないと空気抵抗で吹き飛ばされるからだ。
カウントが始まり3秒、単車モドキが加速を始めあっという間に最高速度へ。景色を後ろへ置いていく。
――――ここも廃棄しないとねぇ……。
束さんはと言えば後処理を考え中です。やはり秘密の拠点とは言っても国土内だと見つかったら面倒になるんだよねぇ。これまでにも両手じゃ数え切れないくらい研究施設を廃棄してきたし。
そっか、そう言えばペロちゃんが今度は一緒なんだ。どうやって逃げよう……。
そんな事を考えつつ、急ぎ拠点へ。ちょっとペロちゃんが心配になってきた。あんなサンプルをみすみすどっかの輩に渡したくはないしね。
俺です。ペロちゃんです。
束さんに言われた通り階段とかを使って最深部に辿り付きました。滅茶苦茶暗いです。ISのハイパーセンサー使えばよく見えるんだろうけど、コアを停止させているのでセンサーは使えない。使ったら使ったでやっこさんに位置バレて俺の寿命がマッハでヤバい。
『篠ノ之束博士の知人、ペロちゃんですね?』
「うわー、親切だけどその名前スゴい心に突き刺さるー」
そうです、俺がペロちゃんですよ!!
『認証しました。奥へどうぞ』
「あ、ども」
女性の機械音声が鳴り終わると廊下の奥の厚い扉が開いた。こんなのも作ってたんか、束さんは。
内部は広すぎず狭すぎないドームのような形状。電源が入り暗かった部屋に明かりが灯る。照明によってそこがようやく“篠ノ之束の研究室”だとわかった。見ればわかる、置かれている計器が今まで見てきたソレとは全く違う。
「お、ペロちゃん無事来てたねー」
色々と機器を眺めていたら、俺が入ってきた入口から陽気な束さんご登場。仮想敵に攻め込まれているのに呑気なもんだ。買い物袋が酷くシュールである。
「おかえり束さん。で、どうすんの? スゴい好き勝手荒らされまくってるけど」
モニタリングされる侵入者の動向。さっき俺が寝泊まりしてる部屋が蹴破られた。何も置いてなかったから良かったものの、自分の使ってた部屋が荒らされるのは見てて心地よくない。
「あー、毛布燃えてる。アレお気に入りだったのに」
「ペロちゃん寒がりだよねぇ」
「俺的に“涼しい”と感じることよりも“暖かい”と感じる方が好きなのよね。リラックスできるし」
ってそんなことよりだ。
「うん、わかってる。その
わかっていらっしゃる。
「突然だけど、この基地は捨てまーす」
「やけに思い切ってるのう」
「まぁ何回もやってきたことだしもう慣れたかなぁ。組織に見つかると後から後から数で攻めて来るから捌くのが面倒くさい」
「戦いは数だよってか。まぁ確かに質があっても量には叶わないわな」
「ISにも集られるだけで面倒だしね。それにペロちゃんがいるとそっちも狙われちゃうから……、」
ありゃ、これやっぱ俺お荷物さんじゃないの。
「ああでもでも、ペロちゃんはちゃんと連れてくよ? じゃないと研究できないし。流石に未完成コアを持ってかれると束さん困る」
「え、これ未完成?」
「うん。と言っても9割完成してたから普通に動くよ。入出力のフィッティングが終わってなかっただけだし」
良かった。もし勝手に自爆機能がーなんてのを想像して肝が冷えたぜ……。
「しかしだ束さん。俺はアレだ、住処がああも荒らされて腹が立った」
「同感。ちょっと今回のはやりすぎだね。束さんも制裁を加えようかと思ってたところだよ」
束さんと目が合い、どちらともなく悪い笑顔を浮かべる。どうやら利害は一致したらしい。
「一泡吹かせちゃお」
「そうしましょ」
地下30階に到達。未だにISを探してるが、中々見当たらねぇ。
「どこ行ったんだ……?」
念のため出入り口には据置型の自立ユニット置いてきたからそこから出ようものなら反応があるからわかる。常に通信状態が保ってあることから破壊されればされたで居場所が分かる訳だ。
「無駄に広いなココ……」
壁に衝突しないよう速度を落として廊下を進んでいるとやたらとルン●が多い。ここの住人は余程面倒くさがりやだと見た。私もそうだけど。
「うん?」
しばらく進んで地下45階。何か雰囲気が変わった。明確には言えないが、
「……何かいるのか?」
こちらに向けられる視線が一つある。敵なのか、味方なのか――――先ほどのISなのか。
「見付けた」
思わず、舌舐り。不意にハイパーセンサーが捉える、
前方に見える、グレーの
束さんの協力得てISの武装を追加。全身を包む灰色の薄い装甲と右手にクラスターカノン、左手にエネルギーシールドを装着。背部には肩と腰に一対ずつのスラスターが増設され、脚部は細い流線型の形を取る。一般的なISとは打って変わってやたらと線が細い。
「いやぁ、間に合わせでフィッティングしてみたけど意外にできるもんだね」
『これ実弾兵器やないですか』
「ISの絶対防御は伊達じゃないぜぃ、ペロちゃん」
グッとサムズアップをしてくる束さんは自分の作品によっぽど自信があるようだ。まぁいいんだけどね。
「さてペロちゃん。実は束さん今回は君の稼動テストもすることにしたよ。取り敢えず狭い空間内でどれだけ動けるかやってみてくれるかな」
曰く、ピンチになったらどうにかするそうだ。
相手は軍属、こっちはISを知って初めての実戦。経験というか色々と劣り過ぎているのが難点か。束さんがバックアップするっていうから全然安心できるんだけどね。
「ほら、それに罠だってあるし。稼動テストはついで」
『そーでしたね。いっちょ頑張ってきますわ』
束さんに見送られ、こちらに徐々に迫っているISのいる所へ向かう。これめっちゃ緊張するねん。あーすげぇ動悸が激しい……。
取り敢えず所定のポイントで待機してると、廊下の向こうに薄いシルエットが見えた。第一印象はとっても派手。
「おいテメェ今失礼なこと考えてただろ!!」
なんて、急に罵声が。なぜバレたし。
『失礼だなんてとんでもない。
俺が喋るとそれは機械を通してマシンボイスに変換される。アルトの音域だから少し低い女性の声になるんだろうか。これは俺とかあんま言えねぇや。
「ハッ、まぁンなこたどぉでもいい。そこの所属不明のIS、今すぐ投降しろ。痛い目に会いたくなきゃな」
『某は何も悪いことはしていない。寧ろ我が家に堂々土足で、無断で踏み込んできたそちらに非があるのでないか?』
「チッ、正論言ってんじゃねぇよ」
あ、正論なのは認めるんですか。
『某としてはこのままお引き取り願いたいのだが』
「ムリだ。テメェを連れて帰らねぇと、私の生活費が稼げない」
随分と横暴だなこの人。
『交渉は決裂、か』
「いいぜ、その方が燃える」
虎柄のISが構える。見る限り何かの拳法か、体術のようなものかもしれない。中~遠距離用の武装を持っていないのを考えると近接特化のISか。
こちらも武器を構える。右手のクラスターカノンの砲塔を敵ISへ。用途はショットガンと同じだ、拡散した小弾でダメージを狙う。それにここは屋内、しかも廊下。左右への移動は制限がかけられるし、元々は人が通るための幅で作られたソレだ。3m近いISじゃ取り回しがきかない。
が、俺は違う。人間の体に添う形で作られた装甲は薄めだから全体のシルエットは向こうより一回りは小さい。おかげである程度広くスペースを使えるのが幸いだ。
合図はない。敵ISが飛び出すと同時に、俺はクラスターカノンの引き金を引いた。
私が飛び出すと同時、
「チッ」
なるほど、室内戦を想定してきたか。逃げ場がない以上面制圧は確かに有効だ。
前方に
だが、
「甘ェよ!!」
『!!』
至近距離で数々の小弾が爆発。狭い廊下で衝撃波が拡散できずに篭もりファング・クエイクのシールドエネルギーをガリガリと削った。
でも、それだけだ。
更に瞬時加速。慌てて向こうが盾を構えるが、それもお構いなし、慣性ごと全威力をその盾にぶつけた。
『ッ!?』
バシュウッ、と音がして向こうの盾が火花を散らし煙を吐き出した。そうだろうそうだろう、PIC制御で威力を上乗せした当身だ、エネルギーを消費する盾がオーバーヒートするくらいの威力は当然ある。
「ガラ空きだァ!!」
盾が機能しない。右手は中距離制圧武器。そしてゼロレンジとはファング・クエイクが十全に力を発揮できる最高の射程!!
当身では肩を入れた。そこからPIC制御で温存しておいた慣性を開放し、肘に伝える。体を半身にし、右肘を突き出した。最も基本的な肘打ち、単純だからこそ、その威力は計り知れない程にデカい!!
本能的な動きか、グレーが使い物にならなくなった盾を滑り込ませてくる。だが所詮はガラクタ、それすらも砕いて本体へ届かせる!!
『ぬぐッ!!』
苦しげな
一瞬の相対でわかった。コイツはドの付くシロートだ。近接戦で私に良いように煽られているのがその証拠。
生憎向こうのシールドエネルギーのおかげで本体まで攻撃は通らなかったが、手応えはあった。エネルギーはだいぶ削り取れた筈だ。
「拍子抜けだよグレー。お前全然デキねぇじゃねぇの?」
『無茶を言わないでくれ。戦いには慣れていないんだ』
慣れていない?
「巫山戯んじゃねぇぞ。わざわざ遠出して多額の報酬抱えてんだ。ちったぁ私を熱くさせてみろよォ!!」
いや何言ってんのさアンタ。こちとら初めての戦闘で怖い思いしてんだからさぁ!!
なんて言えるはずもない。今はひたすら逃げに徹している。左手の物言わぬ壊れたシールドはパージ。代わりに標準的なマシンガンをコールして適当にバラまく。ダメージは期待してない、単なる牽制と足止めだ。
「どォしたどォしたァ!? あん時の威勢はドコ行っちまったんだぁ!!」
隙あらば近距離に潜り込んできそうな凶暴な人。さっきの当身と肘打ちで理解したが、あの人は超至近距離での戦闘に持ち込んでフルボッコするつもり満々だ。やめてくれ、トラウマになる。
近づかせてちゃダメだ。とにかく撃って撃って撃ちまくる。狭い廊下だから数撃ちゃ必ず当たるんだ。
虎柄ISも先程から本体装甲への被弾が増え始めてる。シールドエネルギーがそこを尽きかけてる証拠だ。ならば好都合。束さんは「弾の消費は何も考えないバカスカ撃ちきっちゃって大丈夫だよ~」とのことだったので遠慮なく撃たせてもらう。
「だぁぁぁぁぁぁぁ、クソッ!! 逃げ回ってんじゃねぇよ腰抜けェ!!」
あ、テメ、腰抜け言いやがったなコンチクショウ、喰らえ!!
「ぅおぉぉぉッ!!??」
連続してクラスターカノンが火を噴く。砲身がオーバーヒートして強制冷却されるまで撃ちだしてやった。ザマみろ。
虎柄にもだいぶダメージが蓄積されたみたいでヒビが入っているのがわかる。それに、目的地ももうすぐで。頭に血が昇ってくれているおかげで誘導も出来る。
右腕、クラスターカノンをパージ。ついでに虎柄に向かって放り投げた。「ジャマッ!!」と言ってそれを殴り飛ばす虎柄、砲身がぐにゃりと曲がって飛んでった。どんだけ怪力やねん……。
長いのでカット。次回からまたネタに走りまくります。