ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
あけましておめでとうございました。
死にそうです。
「いづづづいいいぃぃぃぃぃ!? 痛い!! いったい!!」
ギャーギャーと声が聞こえてくる。ああ今日もやってるなー、と他人事のように思いながらその方向に向かう。
ここは
私、ナターシャ・ファイルスは、最近では数週間前の福音事件に巻き込まれた関係で観察入院もしたりした。あれは本当に苦痛だった。
細かいことはさておいて。私が今向かっているのはその病院のリハビリ施設。私は特に何もなかったのでずっと前に退院したんだけど、残念なことに相方の方が私より重傷で入院していた。現在彼女は絶賛リハビリ中であり、私はそのお見舞い。
「あああギブギブギブギブ!! 待っ、あぁぁぁッ!?」
「声がデカすぎよー、イーリ」
リハビリ部屋に入って行くと一際大きな声が響いている。言うまでもなく相方、イーリス・コーリングのものである。今は台に横になって背中付近をぐりぐりされているけど、相当痛がってる。
「あ、ナタルッ、助けtああああああああああああ痛いってばああああああああああ!!!!」
バンバンと台を
「……ほれ、終わり。また明日」
それからしばらくイーリの絶叫を眺め、終わった頃にはすっかりグッタリしたイーリが出来上がっていた。施術員の彼女はぱしぱしと背中を数回ほど叩いてアッサリ退場、次の患者への方へ颯爽と歩いて行った。何か無駄にかっこいい。
「毎度のことだけど何で助けてくれねぇんだよ!?」
「貴方の為を思っての事よ」
「お前ちょっと鏡見て来いよ何でそんなにサディスティックなんだよ絶対楽しんでるだろ!?」
そんな筈は、……ない。
「おい、考えるな。やめろ。やめてください」
「冗談よ。貴方に全快して欲しいのは本心からだから。多少痛くたって我慢してれば良くなるわよ。さっきの人、施術に関してはスゴイ腕らしいじゃない」
「
「でも?」
「…………悔しいことに施術受けるたびにどんどん良くなってる自覚がある」
「良かったじゃない」
「……複雑なんだよ、察してくれよ……」
福音事件。今では情報が整理されてそう呼ばれている。
ザックリ言ってしまうとそれはIS『
事件当時、私はその『
アメリカ・イスラエルの共同開発によって完成した第3世代型軍用ISでもトップぶっちぎりと言われる程の性能を持つと噂される程の私の相棒。
そんな相棒が、試験中に突然暴走した。
相棒の中にいた私は、ただただ混乱した。外部からの情報も全て遮断され、機体が別の誰かに動かされる。無茶苦茶な機動をされて、中にいた私でも本当に死ぬかと思った。
暴走の原因は未だに不明だけど、取り敢えず事態は終息した。IS学園の生徒達によって、『
そしてその裏ではイーリも、
後から聞いた話だけど、イーリは私の乗った『
イーリが撃墜された後は
ともかく、あの福音事件が何者かの意図によって起こされた事態なのは確かと言うことだ。
これによって受けたアメリカの一方的な被害はとても大きい。経済的なことはよくわからないけど、あの事件はアメリカ内部を大きな混乱に陥れた。
「ま、部隊再編かつ入院で休めるってのは有難いけどなー」
が、目の前のイーリはそんなこと露知らずと言った様子でベッドの上でダラダラしている。
個室を与えられた彼女だけれど、棚や台にはコミックがたくさん置かれている。入院中はどうやらドラマからコミックにシフトしてたらしい。まぁでも内容は相変わらずジャパンの恋愛系だ。下の方に積んで上にアメコミ系統を置いたって誤魔化せてない。本人はそれで大丈夫だと思ってるみたいだから口には出さないけど。
福音事件でイーリは入院により戦力としてカウントはできなくなり、私も『
「そうそう、私達が抜けてる間の事が決まったわ。ISの代わりにEOS部隊の投入ですって」
「EOSぅ? あの無駄に重いだけの?」
「あれくらいしか穴埋めできるのがないのよ。でも知ってるでしょ、ウチのEOS部隊。相手がISじゃなければ百戦錬磨だって」
「まぁ、確かに……EOS使わせたらあの部隊は世界最強だと思う」
ここで言うEOS部隊は、福音事件時にイーリを救出に向かった部隊だ。あの謎のISとも接触したらしい。流石に交戦は避けたそうだ。
「ってことはあれか、EOS部隊も試験部隊から正式に本体合流ってことか」
「そうなるわね。貴方が復帰したらまたそっちがメインになるんでしょうけど……」
「ナタルは?」
「私は……どうかしらね。あの子、凍結処分の案まで出てるくらいだから、復帰は無理かも」
そう。言った通り、『
「そっかぁ…………納得いかねぇなァ。どうにもならないのか?」
「無理よ。ただの兵士の私の意見なんて……それにあの子を止められなかった。まだここにいれる事の方が奇跡だわ」
本来なら私は退職処分すら免れないような立場だ。今はまだ何も指示は出されておらずに待機の状態だが、『
「……この話は止めにしましょ。私は帰るわ。イーリは早めに復帰できるようにリハビリ頑張りなさい」
「ん、そうだな。んじゃ、またな」
イーリの部屋を後にして基地の宿舎に戻る。しんみりした空気になったのが耐えられなかった。
病院から隊舎に戻る道中は徒歩。
ぼんやりと空を眺めながらゆっくりと歩き、途中でそう言えばケータイの電源を切りっぱなしだと気付く。病院内は電源オフが義務付けられていたのだ。
電源を着けると着信が入っていた。上官からの一報だ。丁度イーリのお見舞い中にあったらしい。
「……あの子の処分かな……」
十中八九そうだろう。上からの連絡は大抵が業務によるものだ。今回も例外なくそうなのだろう。
待たせるのも良くないと思いすぐさま掛け直す。覚悟を決めて通話のボタンをタップ。3コールぴったりの後に低い男の声が響いた。
『ファイルス中尉か』
「はい、ファイルスです。先程は連絡に気付かず申し訳ありません。少し病院方に行っていたので」
『そうか。まぁ、いい。…………国防総省より通達が来た。『
「……お聞かせ願います」
『うむ。……『
「…………はい」
空を仰いで、ぐっと奥歯を噛み締める。言葉の重みに潰されそうになりながら。
覚悟はしていた。きっとそうなるとも思っていた。
だけど、辛いものだ。
『後日正式な通達書が届く。受理が確認され次第、君は軍人でなくなる。準備を怠るな』
「……
通話はそれっきりだった。耳からケータイを離し、溜息を1つ。
「…………終わっちゃったか」
私が積み上げてきたモノが、音を立てて崩れていく。嗚呼、倒れてしまいそうだ。
「……イーリに何て言おうかしら」
なんて口にして現実逃避。取り敢えず、今ここでよろけてる暇ではない。隊舎に戻って、自分の部屋で、ベッドに潜って。叫ぶのはそれからだ。
あの電話から3日が経った。イーリには昨日処分について話してきた。元気でな、って、無理して笑ってたみたいで、こっちまで泣きたくなった。その前日にあれだけ吐き出したのに、イーリの前だとそれもぶり返しそうだった。
隊の同僚達にも処分の話は出回っていたらしく、皆が皆私のところにやってきた。中には上に直談判しに行こうなんて血気盛んなのもいたけど無理矢理宥めてどうにかした。これ以上事を大きくしたくなかったから。
今は隊舎の、自分の部屋にいる。もう、自分の部屋とも言えなくなるんだけど。
私物を片付け終わり立ち上がると、備え付けのデスクの上に書類が見えた。例の通達書だ。
私は軍人から、一般人に戻る。悔しいが決まりは決まりだ。いつまでも引きずらないで、さっさと気持ちを切り替えよう。
部屋の荷物は後で担当者が運び出してくれるのでこのままで良い。
私は最低限の手荷物だけ持って隊舎を後にする。もう2度とここに来ることはないだろう。ちょっと、と言うか、かなり寂しいけれど。
今回私が使ったのはテキサス州ヒューストンの校外に位置する小洒落たレストラン。普段は通常通りレストラン業務がなされており、しかしその従業員は皆
因みに基地への出入り口はスタッフルームのロッカー。私が丁度そこから出てくると、そこには知り合いの子が1人休憩をしているところだった。
「あ、ファイルス中尉。お疲れ様ですー」
「お疲れ様。小休憩?」
「はいー。中尉はお出かけですかー?」
「あー…………言いにくいんだけど、私もう中尉じゃないのよ……」
「あ、じゃあ昇進ですかねー? 大尉になったりー?」
「…………ごめん。私、軍人じゃなくなるって話なの」
「へー……へ?」
「そ、そう言うことだから……じゃあねっ」
ぽかーん、とその子が惚けてる間に、逃げるように部屋を出た。あぁ、こんなんだったら人がいなくなった所を見計らって出るべきだった。余計に気まずくなる。
なるべく人目を避けて裏口からレストランを早足で飛び出し、ヒューストンの中心街へ脚を向ける。一刻も早くあの場所を離れたかったから。
「……ん?」
しかし、道を徒歩でバス停まで向かっていると、その道中に人が見えた。夏場だと言うのにグレーのジャケットとパープルのスラックス、黒いヒールに黒のグローブまで着けた白髪赤目の女性。暑くないんだろうか……。
「ナターシャ・ファイルスだな」
涼しい顔で彼女は言った。なるほど、やっぱり私を待ち構えていた。
「貴様に多くの企業から勧誘が届いている。興味はあるか?」
そう言って彼女はどこから取り出したのかタブレット端末を見せてスクロールしてくる。私が軍を抜けたという情報が出回ったのか。斜め読みしたところだとまだ国内の軍事企業が多いが……。
「興味ないわ」
「そうか」
と言ってもそれに私は欠片として興味は湧かなかった。一言でバッサリ切り捨てる。
でも彼女は平然と表情を崩さず静かにタブレット端末を下ろした。
「では貴様に言伝だ。“IS学園の講師就任は斡旋する”。返答に関しては1週間の猶予を設ける。連絡先は、」
ピッ、と彼女が霞むように腕を振るう。その指先から飛んで来たモノ……名刺を受け取る。
「……イギリス、グラスゴー……」
万屋、とある。何でも屋、だろうか。報酬さえあれば汚れ仕事も請け負う、傭兵のような物だった気がする。
「期限厳守だ。蹴りたいのならば無視すればそれで良い」
言い切った彼女は、仕事は終わりだと言わんばかりに踵を返して歩き去って行った。
「……ただの傭兵が、IS学園講師の職を斡旋できるものかしら?」
いや、無理だろう。彼女の裏には何かしらの大きな組織なりのバックアップがあると言って良い。
それが、私にIS学園の講師をしろ? 一体何が目的なのか。
また彼女の素性も気になる。あの顔、どこかで見たことがある。私も裏稼業には結構な関わりを持っていたから、ぼんやりと引っ掛かるものがあった。
「……たまには大胆に行ってみようかしらね。折角自由になったんだし」
取り敢えず、行ってみるとしよう。イギリスに。