ISの世界に来た名無しがペロちゃんと命名されてから頑張る話 作:いつのせキノン
モニタリングされる戦闘映像。
しかししかし意外や意外、ペロちゃんは最初に接近戦を許して以来、一度も自分に相手を近付けさせていない。徹底的な回避運動への集中がなせる技、だと思う。それにペロちゃんは思った以上に機体操作が上手だ。確かに大きさ的な問題でアドバンテージはあるものの、それを補って余りある機動。日頃から暇を見つけては飛んでいたお陰かも知れないと内心褒めておく。なんだか面と向かって褒めるのは……ねぇ?
と誰にでもなく思ったところで束さんは次の段階に入っちゃいますよー。
ペロちゃんが戦場に似合わなすぎた所為か向こうは油断している。その油断に漬け込む誘導作戦。単純だけど効果はテキメン。仕掛けを施した部屋の最終調整を行う。
量、質、共に異常なし。我ながら完璧。また今度作ってみよう。以前のあの悪夢を蘇らせない為にも……うっ、思い出したら吐き気がしてきた。モザイク処理しておこ……。
ファング・クエイクが追い、グレーが逃げる。ひたすら繰り返される
相変わらず牽制にマシンガンをバラまくグレー。私もそろそろシールドエネルギーがヤバい。おかげでもう残りが350を切りやがった。早めにケリつけねぇと……。
と、そこで不意に弾幕が止んだ。今まで持っていたマシンガンを投げ捨てるグレー。どうやら弾切れになったようだ。
だったら好都合、追い詰めて嬲り壊す!!
グレーがこちらに背を向けた。逃げに徹するらしいが一瞬こっちの方が早く加速を開始した。徐々に詰まっていく距離。私が手を伸ばせば後ちょっとで届く、その瞬間に、
――――前方から吹き飛ばされるような衝撃波に襲われた。
「 ッッッッ!!!!????」
言葉にならない掠れた呻き声が漏れた。一体どうなってやがる……!?
落ちかけた機動を無理矢理体を捻って立て直すが、体の節々に痛みが走った。
ブラックアウトしそうになる意識を保護機能が何とかつなぎ止めて前を見ると、遥か前方に加速したグレーが見えた。肩部と背部のスラスターが今までにないほど煌々と光を放って。アイツ、あんな速度で飛べんのかよ!?
急いでこちらも再度加速、してはみるが一向に距離は縮まらない。曲がり角に差し掛かっても向こうは匠な制御でスピードを殺さずにカーブを曲がりきってみせた。なんつー機動だよ、戦闘じゃ素人同然だったのに……。
だけど私だって
俺は距離を離し過ぎないように一定の距離を保ち研究所内を縦横無尽に駆け回る。無論空中を。
亜音速化の機動を狭い廊下でやるというのはスリル満点だが、ISの保護機能と超高性能演算処理、更には高速化された神経伝達速度が俺をサポートしてくれる。
――――作戦目標地点まで残り10秒。
視界に映るナビゲーションシステムとカウントダウン。後はひたすら進んで進んで、束さんに合わせれば万事解決。
さて、最終段階だ。俺は徐々に速度を落とし始める。それも後ろの虎柄さんが目標地点到達と同時に追い付いてしまうくらいに。だがそれで良い。
速すぎてもダメ、遅すぎても捕まるからダメ。難しい調整だが、出来る。不可能でないなら、出来る。いや、不可能でないからこそやれる。万に一つの可能性であろうと、人はそれを一番最初に持ってくることだって出来るのだから。
――――作戦目標地点まで残り2秒。
脳内で処理される情報は既にコンマを割り小数点以下無限大まで遡る。切り取られる瞬間の情報、しかしそれは既に過去。次を割り出し、その次に、次に。
――――作戦目標地点まで残り0.1秒。
真後ろに虎柄のIS。もうその手がこちらを掴もうとしていた。
勝った!!
私は瞬時に悟った。後0.2秒後、私は
思っていたのに、
刹那、0.1秒の間にグレーが反転し、こちらに向かってきた。
「なッ――――!?」
回避は、無理。ゼロレンジで互いに向かい合えば回避できる距離が潰されるのは必然。
だからこそ私はグレーに抱きつかれるように拘束された。
バシュンッ、と音がする。グレーの背部からだ。
――――男……!?
なんてことだ、どうなってる、何でISから男が出てくる!?
そしてその男、少年は、こちらを見てニヤリを笑みを零していた。それは、勝利の笑み。負け犬ではない、勝者だけが浮かべられる満面の笑み。それを見て初めて、私はこれが罠だと理解した。
グレーのISの装甲が、内側から破裂する。内部から飛び出して来たのは、数多の合金ワイヤー。それが私をファング・クエイクごと絡めとり、身動きの出来ない私はそのまま慣性によって吹き飛んで、
「――――が、ハッ、ァ……!?」
何かに突っ込んだ。
クソッ、前が見えねぇ……。
明滅する視界。脳が揺さぶられて焦点が合わない。身体中が軋むように痛い。保護機能だけでは防ぎきれない強烈な衝撃が体にダメージを与えたのだ。
いっその事意識を手放して眠ってしまいたくなるが、今回はここぞとばかりに保護機能がブラックアウトを防ぐ。便利なのか不便なのかわからない機能だ、今の状況にとっては。
「おー、見事に引っかかってる」
遠くて、近い位置から男の声が聞こえてくる。
「束さーん。
「やぁやぁやぁやぁ、ペロちゃんお疲れー」
誰だ、アイツらは……? 片方は有り得ない話で、ISを今まで駆っていた男。もう一人は、お伽話に出てきそうな格好をした、女。ボヤけた視界が輪郭をはっきり映してくれない。
ああ、クソッタレ、これじゃあナタルに笑われちまう……。
「束さーん。
「やぁやぁやぁやぁ、ペロちゃんお疲れー」
イェイっ、と束さんとハイタッチ。あーしんどかった。
「中々頑張ってたねぇ、初の実戦」
「やー、そう言ってくれると頑張った甲斐があったもんですわ」
最初はどうなることかと思ってたが、まあどうにかこうにか生き残りましたとさ。
「さて、」
「さて、」
そう言って二人で壁に設置された装置に視線を向ける。そこには、盛大に背中から突っ込み頭が下に、足が上にと殆どが首倒立の形になっていた。顔は苦痛と屈辱に歪められているが、まだ目の焦点が定まっていない。相当な速度で突っ込んだからな、アレ。離脱が無事成功して良かった。下手したら俺も目の前の女の人みたいになってたかもしれない訳だし。
「クソッ、テメェ……!!」
「ちょっと黙ってね、こっちが話するから」
「ッ、それはコッチのセリフ――――ッ!?」
ダンッッ、と、女の人の顔のすぐ横にナイフが刺さった。食器のナイフではない、軍で使われるようなコンバットナイフだ。
「黙っててよ負け犬。敗者は勝者の言う事に従うのが常識だよ」
「………………………………」
黙り込んだ女の人。束さんの殺気が強すぎて俺まで姿勢を正してしまった。てか態度変わりすぎでしょ。
「わかってるとは思うけど、君は私とペロちゃんの家を好き勝手してくれたね。だから君には罰がある」
罰。それは俺と束さんが考えた、考えうる限りで精神的ダメージがデカいことこの上ない代物。俺だって精神崩壊間違いなしだ。束さんも「束さんも、使われたくはないなぁ」と苦い顔をしていたりする。
「あと、記憶も消させてもらうよ。拒否権はナシ。取り敢えず今日のドンパチ騒ぎは消さないとねー」
ああ、束さんの笑顔が怖い。あんな笑顔って人間できるんだなーって初めてわかった。
一方女の人は何が何だかわかってないご様子で首を傾げているが、果たして数時間後はどうなっているのやら……。
「束さんや。俺は先行ってるぞ」
「はいはーい。束さんもやることやったらすぐ行くから出発できる準備だけしといてね」
「りょーかい」
…………………………………………あれ、私は……なんで、こんなとこにいるんだ…………?
うぅ、首が、痛い……。ひっくり返ってるし……何だってんだよ……。
……ああ、そう言えば、依頼受けてたんだっけ。おかしいな、途中から全然記憶がない……。
――――カサカサカサ……。
ん? 何の足音だ?
――――カサカサカサカサカサカサ…………、
やけに多い……軽い足音……、
――――カサカサカサカサカサカサカサカサカサ…………、
視界の先、遙か先、暗闇の向こう。冷たい光沢を放つ甲殻が、無数に、
「ひっ――――」
それは、やってくる。
――――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ…………、
大群を引き連れて。
――――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ…………、
「ぁ、ぁぁあああああぁっ、ぁぁ……!!」
逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ……!!
しかし、体は動かない。ISを纏っているのに、その怪力でも動かない。
「なんだよこれぇッ!?」
ISに絡みつくネバネバとした粘着性のあるナニカ。それが決して彼女を動かさせない、決して、決して。
――――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ…………、
「やめろっ、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
――――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!! 飛ばないで!! 来るなっ!! どっか行けっ、どっか行ってくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 許してっ、ごめんなさいごめんなさいごめんさいぃぃぃぃ……、助けて、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
その日、泣き叫ぶ女の声が響いた。コードバの町に、七不思議の一つが出来上がった瞬間だった。
強気な少女を泣かせるのってスゴい快感(ドS)