マギアレコード 偽書e/s memorys   作:ジャックノルテ

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5・8章 強いですよ。あなたみたいな半端者よりも

□ 神浜市内 北養区 ホテルフェントホープ 廊下

 

 

 

ホテルフェントホープの廊下を黒羽根達が歩いている。

ある者は仕事を初めに。ある者は仕事を終えて。

 

黒羽根9「・・・・・・・・」

 

黒羽根9(いつまでこんな事を続けていたらいいんだろう・・・。私は・・・。自分が助かれば良かったから藁にも縋る思いでマギウスの翼に入った。けど・・・。ここにいればいる程、この組織への疑念は膨らむ・・・。本当に魔法少女を救う気はあるの?)

 

 黒羽根9は魔女を追って神浜市に来た事を思い出していた。

 慎重に行動していたつもりだったが神浜市内で存在に気付かれ魔女に返り討ちにされて途方に暮れていた所を梓みふゆ率いるマギウスの翼と出会って勧誘された経緯があった。

 ある理由で自分の住んでいた町へ帰る事が出来ない黒羽根9はその日からマギウスの黒羽根として活動を始めた。

 組織が魔法少女解放の為にウワサを守護して魔女を集めている。

 そうした活動と組織のトップであるマギウスの3人と遠目からだが謁見した事で黒羽根9が抱く疑念は膨らむ一方でもあった。

 

黒羽根9(やっぱり・・・。私の街にいる仲間に連絡を・・・。でも・・・。何処で監視されているのか分かった物じゃない・・・。それにもしかしたら・・・。私の仲間はもうみんな死んでいるのかも知れないし・・・)

 

黒羽根9(何考えているんだろう。私・・・。自分が生きている事は安堵しているんだ。これじゃ仲間を裏切っているのも同然だよ・・・)

 

 ゴン!

 

 その時、黒羽根9の身体に何かがぶつかって来た。

 

黒羽根9「えっ?」

 

彩月「悪いな。今は目が悪いさかい許しとくれや」

 

 黄色いローブを着て素顔を晒している黄羽根の彩月がぶつかったのだった。

 右目には眼帯をしている。

 

黒羽根9「・・・。いえ」

 

彩月「そか。悪かったな」

 

 そう言って歩く彩月だったがフラフラと足取りがおぼつかず壁にぶつかったり、他の黒羽根にぶつかったりしていた。

 

 ゴン!

 

黒羽根15「あっ」

 

彩月「すまんな」

 

黒羽根15「いえ・・・」

 

 ゴン!

 

彩月「ああ。またか。すまんな」

 

黒羽根10「いえ。大丈夫です!」

 

黒羽根9「何であんなふざけたヤツが私より立場が上なの・・・」

 

 黒羽根にぶつかりながら歩き去る彩月を見て黒羽根9は苛立ちを感じていた。

 

黒羽根9(黄羽根はマギウスの直属・・・。名言こそされていないけど事実上のみふゆさんの様な幹部に近い立場・・・。その証として素顔での活動が許可されている。護衛をするナナツメさんや道具作りをする一夜さんはその特殊な魔法故に給料を貰っている事は羽根の間では周知の事実・・・。でもあの菖蒲彩月は契約する事の出来ない人間だったのに・・・。ねむ様から魔法を授けられただけのただの人間。それなのに黄羽根の一人に任命されて一夜さんの護衛をしているらしいけど、ただのお飾りじゃない・・・。ふざけて羽根の魔女退治に同行したりするけど役に立たないし・・・。それに何より・・・。私達はたった一度の奇跡の為に戦っているのに・・・。あいつは・・・。菖蒲彩月はただふざけてマギウスにいる様にしか見えない)

 

黒羽根9(大体普通の人間なのに契約をせずに魔法が欲しいなんて・・・。どうかしてる。私達は命がけで働いているのにあいつは命を懸けてすらいない・・・。あの怪我だってどうせふざけて怪我しただけだろうに・・・)

 

黒羽根9(あんなやつ・・・。魔女に殺されてしまえば良いのに・・・。それにあいつが死んだら・・・。私が黄羽根になるチャンスがあるのかも知れない。黄羽根になればもっと自由になれる・・・かも。そうしたら仲間たちに・・・。でも連絡をするのが怖い。もし・・・。電話が誰にも通じなかったら・・・。私の仲間がみんな死んでいたら・・・。いや。そんな筈は無い。私を信じてくれたあの人が死ぬ様なヘマをする筈が無い)

 

黒羽根9(やめよう・・・。今は次の仕事まで身体を休めないと・・・)

 

 任務から帰還していた黒羽根9は自室へと帰って行った。

 

 

 

□ ホテルフェントホープ 会議室

 

 

 

会議室では白羽根が数人集まり定例会議をしている様子だった。

白羽根の定例会議は全員の時間が合うとは限らないので余程の緊急案件以外は時間の合う白羽根を集めて行う様にされている。

集まるメンバーの中には神楽教官や観鳥さんの姿もあった。

会議室の端にはミユリも静かに佇んでいる。

 

神楽教官「それじゃ今日の打ち合わせはここまでね。他に何か意見のある人はいる?」

 

 神楽教官が周囲にいる白羽根に意見を求めるが白羽根達は首を横に振る。

 

観鳥さん「意見は無いみたいだね」

 

神楽教官「そう。じゃあこれで会議は終わりにしましょう」

 

白羽根7「お疲れ様です」

 

 神楽教官の言葉を聞いて殆どの白羽根が会議室を出て行った。

 すると入れ違いに入って来る者がいた。

 

 ゴン!

 

 壁に身体をぶつけていたが。

 

白羽根7「!?」

 

彩月「すまんなあ。目が見えなくて」

 

白羽根7「いえ。こちらこそごめんなさい」

 

 そう言って出て行く白羽根7

 

彩月「こんちわー。会議も終わったようやし神楽教官おりまっか?」

 

 頭をぶつけて右目に眼帯を付けて黄色いローブを着た彩月がいた。

 

神楽教官「あら。菖蒲じゃない。その右目は大丈夫なの?それと頭も」

 

彩月「ああ。平気や。平気。もう所構わずぶつかっとるから慣れたで」

 

観鳥さん「さっき見た時もぶつけていたね」

 

神楽教官「それなら良いけど。で何か私に用かしら?」

 

彩月「そうなんや。教官にしか頼めない事を頼みに来たんや」

 

神楽教官「何を頼みたいの?出来る範囲なら聞いてあげるわ」

 

ミユリ(燦様の出来る範囲・・・。ああ・・・。頼めるなら・・・。あのおみ足で間近で踊って貰いたい・・・)

 

 ミユリは一人で妄想の世界に入った。

 

彩月「そやなあ。とりあえず黒羽根を二人ほど貸して欲しいんやけど」

 

観鳥さん「黒羽根を貸して何に使うんだい?」

 

彩月「この目の怪我あるやろ。治ってはおるんやけどまだ完治はしとらんからなあ。光が眩しいんや。まあそれはおいおいとして・・・。ちょっと特訓したいんや」

 

神楽教官「特訓?」

 

彩月「そや。護衛としてもう少し強うならんといかんからなあ」

 

観鳥さん「観鳥さんは彩月さんが羽根の中では十分に強いと思うけどね」

 

彩月「まあでも右目がこんなんなっちまったんやし修行不足が明白やしな。ふざけたやり方は控えんとなー」

 

神楽教官「この話・・・。ねむ様は知っているの?」

 

彩月「ねむ様とみふゆさんからは許可を取ったで。黄羽根の仕事も殆ど無いから特訓するなら良いと。黒羽根を借りたいなら神楽教官を通す様にとも仰せつかったで」

 

神楽教官「そう・・・。良いわよ」

 

彩月「本当でっかー?神楽教官。感謝感激やでー」

 

神楽教官「その代わりどんな訓練をするのか報告はさせて貰うわ」

 

彩月「ええで。後もう一つ頼みたい事があるんやけど」

 

神楽教官「何を頼みたいの?」

 

彩月「特訓に来てくれる黒羽根の事やけど・・・。指名してもええか?」

 

観鳥さん「誰か心当たりがいるのかい?」

 

彩月「この間、クリスマスで男装した時に礼拝堂のベルを鳴らすの手伝ってくれた二人がええんやけど駄目やろかー?」

 

神楽教官「ああ。宮尾と安積ね。別に構わないわ。けど意外ね。あの二人を選ぶなんて」

 

彩月「あの二人には世話になったからなあ。少しは恩返しをしとかんと」

 

観鳥さん「変わった恩返しだね・・・」

 

彩月「それに他に見知った黒羽根はおらへんからなあ」

 

神楽教官「まあ・・・。あなたが良いならいいわよ。それで特訓はいつから始めるの?」

 

彩月「まあ速い方がええから明日からがええなあ」

 

神楽教官「二人には私が話しておくわ。今日はこれから工匠区の拠点に顔を出す予定があるから」

 

彩月「ありがたいでー。流石は神楽教官やでー。マジでお姉様になって欲しいで」

 

神楽教官「っ・・・。あなたみたいな妹はごめんよ。二人には明日、地下倉庫へ行く様に伝えておくわ」

 

 苦笑しながら神楽教官は答えていた。

 

彩月「それで大丈夫やで。それじゃ用は済んだし退散するで。ほなまた!」

 

 笑顔で部屋を出て行く彩月だったがやはりドアや壁に頭や身体をぶつけながら出て行った。

 

観鳥さん「彩月さん。どんな特訓しようとしてるんですかね?」

 

神楽教官「恐らくは・・・。対人訓練じゃないかしら?礼の件もあるだろうし」

 

観鳥さん「ですよね・・・。灯花様にあんな事があったんじゃ護衛にも特訓が必要ですよね・・・」

 

 神楽教官と観鳥さんを含めた数名の白羽根は先日みふゆから彩月が灯花を護衛中に何者かに操られた羽根に襲われた件を聞いていた。

 

神楽教官「どんな特訓をするのか興味深いわ。ミユリ行くわよ」

 

 神楽教官が話しかけてもミユリは反応しない。

 

神楽教官「ミユリ?」

 

ミユリ「ああ・・・。燦様への頼み事・・・。あのおみ足で・・・。ミユの眼前で」

 

頭を抱えた神楽教官「・・・。ミユリ!」

 

ミユリ「はっ。はい。燦様!」

 

神楽教官「会議は終わったから行くわよ」

 

ミユリ「はっはいです!はいです!」

 

観鳥さん「じゃあ観鳥さんも今日は白羽根の仕事をしないとね」

 

 神楽教官とミユリ、観鳥さんもそれぞれの仕事へと向かって行った。

 

 

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 地下倉庫

 

 

 

地下倉庫前にある入り口にある受付に座っている眼帯した彩月と一夜。

 

彩月「まあそんな訳で今日から特訓する訳や」

 

一夜「そうなんだ・・・。やっぱり怪我をしたのが・・・。その・・・」

 

彩月「まあ怪我した事も悔しいからなあ。もっと強くなりたくなったからなあ」

 

一夜「彩月さんは強くなってどうしたいの?」

 

彩月「うーん。まあ強くなるのは目的の為の通過点と言う所やなー」

 

一夜「目的?」

 

彩月「まあゴールとも言うなあ。けどそれはウチのゴールや。聞いても意味が無いで」

 

一夜「うん。やっぱり倉庫番はつまらないの?」

 

彩月「そう言う訳じゃないで。ここの仕事も悪く無いで。けどこの右目の件があるからなあ。たまには気の済む様に殴り込みたいと言った所や。一夜さんといるのがつまらない訳やないで」

 

 そう言って彩月は一夜の頭を撫でた。

 

一夜「アタシのが年上なんだけどな」

 

彩月「今は朱奈さんの身体使っとるからウチと同じ位やろ」

 

一夜「そうなんだけど」

 

 すると地下倉庫入り口のドアを開く音がした。

 

黒羽根2「こんにちは・・・」

 

黒羽根1「神楽教官に言われて来ました」

 

 そう言って黒羽根の二人が部屋に入って来た。

 

彩月「おー。来たかー。待っとったで」

 

 彩月の手招きに応じて近づく黒羽根二人。

 

彩月「さて・・・。特訓の前に・・・。ドアの鍵閉めといてくれへん?」

 

黒羽根2「はい・・・」

 

 黒羽根2が地下倉庫入り口のドアにある鍵を閉めた。

 

彩月「これでええやろ。素顔見せてええで」

 

黒羽根1「えっ?」

 

彩月「前にもアリナさんに絡まれた時に会ったやろ」

 

黒羽根2「覚えていてくれたんですね・・・」

 

彩月「ウチは記憶力のええ方やで」

 

黒羽根2「時雨ちゃん」

 

黒羽根1「うん。それなら・・・」

 

 そう言って黒羽根1と黒羽根2はローブのフードを取った。

 

黒羽根2=安積はぐむ「えっと。黒羽根の安積はぐむです」

 

黒羽根1=宮尾時雨「宮尾時雨・・・」

 

彩月「ウチは黄羽根の菖蒲彩月や」

 

一夜「えっと。アタシは越馬一夜です」

 

彩月「さて。名前も知ったし・・・。時雨はん。一つ頼みたい事があるんやけどな」

 

時雨「えっ。なっなに?」

 

彩月「そのゴーグル。ウチにもくれへん?」

 

時雨「えっ?でもこれは必要な物だし・・・」

 

彩月「わーとる。わーとる。だから一夜さんにコピーさせて貰ってもええか?」

 

一夜「アタシが触れればコピーが作れるから大丈夫だよ」

 

時雨「それなら・・・」

 

一夜「じゃあコピーするね」

 

 時雨のゴーグルに近付いた一夜が右手で触れた。

 そうすると左手に時雨が付けているのと同じゴーグルが現れた。

 

一夜「はい」

 

彩月「悪いな。一夜さん」

 

 一夜からゴーグルを受け取った彩月は眼帯を外すとゴーグルを付けた。

 彩月の右目は完全に治っているが眩しそうに眼を細めていた。

 

彩月「一夜さん。このゴーグルを右半分だけサングラスみたいに暗く出来へん?」

 

一夜「出来るけどちょっと待って」

 

 一夜が改めて彩月の付けたゴーグルに触れた。

 

一夜「はい。これでどう?」

 

彩月「おー。ちょうどええで。注文多くて悪いな。一夜さん」

 

一夜「大丈夫だけど・・・。これで大丈夫なの?」

 

彩月「ああ。ちょうどええで。これで準備の半分は出来たな」

 

一夜「半分?」

 

彩月「ああ。後はお二人さんにも準備して貰わんとな」

 

時雨 はぐむ「えっ!?」

 

彩月「ウチの特訓に必要な事やからな」

 

 そう言いながらゴーグルを付けた彩月は笑みを見せていた。

 

 

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 正面広場

 

 

 

広場の前で黄色いローブを着て柔軟運動をしているゴーグルを付けた彩月。

彩月の前には黒羽根姿のはぐむと時雨が立っていた。

 

彩月「さて・・・。準備OKやで。始めようか」

 

時雨「本当に良いの?」

 

はぐむ「はい・・・。これを使うなんて・・・」

 

 はぐむと時雨のローブの両袖から伸びていたのは通常装備の鎖鎌ではなく鎖で繋がった鉄球だった。

(大体サッカーボール位の大きさで当たっても打撲で済む位の強度しか無かった。一夜の魔法で黒羽根ローブの鎖鎌から変化させられた)

 

時雨「これ当たったらただじゃ済まないんじゃ・・・」

 

彩月「けど切られるよりはマシやろ」

 

はぐむ「でも・・・。結局怪我しちゃいますよ?」

 

彩月「打撲だったら大した事無いやろ。じゃあ始めよか。ウチに向かってその鉄球を本気でぶつけて来い!」

 

時雨 はぐむ「・・・」

 

彩月「良いからやりい!」

 

はぐむテレパシー(時雨ちゃん・・・。やるしかないよね・・・)

 

時雨テレパシー(はぐむん・・・。やろう・・・)

 

 時雨とはぐむは両手の鉄球を振り回し始めた。

 

彩月「ようやくやる気になったか。さあ始めよか!」

 

 その彩月の言葉を合図に時雨の右手の鉄球が撃ち込まれて来る。

 

彩月「っ!」

 

 回避した彩月に向かって時雨は左手の鉄球を向けていた。

 それを回避・・・。せずに彩月は鉄球に近付くと両手に鎖鎌を実体化させると鎖鎌をぶつけようとした。

 だが彩月の足元へはぐむの放った鉄球が放たれて躊躇した彩月は時雨の左手から放たれた鉄球をよけ切れずにぶつかってその場に倒れた。

 

時雨「あっ!?」

 

はぐむ「すみません!?大丈夫ですか?」

 

彩月「平気や!ちょっと打撲しただけや。さあ!次をやるで!」

 

 直ぐに起き上がった彩月は次を促した。

 

彩月「速くやりい!」

 

時雨 はぐむ「はっはい!」

 

 時雨とはぐむは彩月の怒声に押されて次々と彩月に向かって鉄球を撃ち込んで行く。

 その鉄球を避けている彩月だが避けている時は何故か悔し気な表情を見せている。

 

 

 

 そんな訓練をしている彩月達の様子をフェントホープのテラスから神楽教官とミユリ、観鳥さんが見つめていた。(3人共羽根の装いをしている)

 

ミユリ「燦様。燦様。あの3人は一体何の訓練をしているんですか?」

 

神楽教官「そうね・・・。あの様子だとただ避けるだけの練習と言う訳じゃ無さそうね」

 

観鳥さん「神楽教官の言う通りですね。彩月さんは避けると悔し気な表情を見せていますよ」

 

 観鳥さんはカメラ越しに彩月の動きを見ながらそう語った。

 

神楽教官「避けるのが悔しい・・・。それにあの二人に装備させた武器。わざわざ鎖鎌じゃなくて鉄球にした理由・・・。そう。そう言う事ね」

 

 神楽教官は彩月達の行動から自分なり結論を出した。

 

ミユリ「燦様!もう分かったんですか?分かったんですか?」

 

神楽教官「ええ。おおよそだけど見当は付いたわ。菖蒲も中々やるわね」

 

ミユリ「ミユにはサッパリです!です!」」

 

観鳥さん「観鳥さんにはもサッパリと分からないね・・・。けどあんなに一生懸命に特訓に取り組んでいる彩月さんは見応えがあるかな」

 

 観鳥さんは答えながらカメラ越しに彩月の事を見ていた。

 そしてチャンスがあれば写真を撮っていた

 

 

 

 そしてホテルフェントホープのエントランスに出入りしている黒羽根達の目にも彩月達の特訓が見えていた。

 

黒羽根10(あれ・・・。あの人って黄羽根の。黄羽根ってあんなに激しい特訓が必要なんだ・・・僕も頑張らないと・・・.。妹を・・・。りおんを守れる様に・・・)

 

 黒羽根10はそう思いながらフェントホープへ入って行った。

 入れ違いに出て来る黒羽根9。

 

黒羽根9(下らない・・・。今更あんなお遊びをみんなの前でやってみせて・・・。それで頑張ってるつもりなの・・・。命も賭けられない半端者の癖に・・・)

 

 そこへ黒羽根15もフェントホープから出て来た。

 

黒羽根15「あれ?黄羽根の人の訓練初めて見た・・・」

 

 思わず声を出した黒羽根15の声を聞いて黒羽根9は存在に気が付いた。

 

黒羽根9「ねえ・・・。あなたはあの黄羽根・・・。菖蒲彩月をどう思う?」

 

黒羽根15「えっ?」

 

黒羽根9「ねむ様のお気に入りと言う理由だけで黄羽根って言う立場にあるけれど・・・。ふざけてばかりでまともに働いているのを見た事が無いわ」

 

黒羽根15「地下倉庫の整理と一夜さんの護衛をしているって聞いてますけど・・・」

 

黒羽根9「ああ。あなたは知らないの?菖蒲彩月はたまに魔女退治に付いて来るのよ。役に立たない癖に」

 

黒羽根15「それは・・・。知りませんでした」

 

黒羽根9「それにあいつは・・・。願いを叶えずに魔法を手に入れたのよ。それが私には許せない」

 

黒羽根15「願いを叶えず?」

 

黒羽根9「そこは知らないのね。菖蒲彩月はねむ様の魔法で魔法を手に入れた疑似魔法少女なのよ。だからあいつはまだ願いを叶えるチャンスがあるのかも知れないわ」

 

黒羽根15「そんな事って・・・」

 

黒羽根9「あいつはキュウべえが見えなかったって言っているけど本当の所はどうだか分からない。だから私は菖蒲彩月が嫌いなのよ。あんな見せかけの半端者が黄羽根でいる事自体、気に入らないわ!」

 

黒羽根15「・・・・・・・」

 

 黒羽根15は同僚の黒羽根からこんな話を聞くのは初めてで少し戸惑っていた。

 

黒羽根9「あっ。ごめんなさい。少し愚痴を言ってしまったわ。それじゃ」

 

 そう言って黒羽根9は再びフェントホープの内部に戻って行った。

 

黒羽根15(・・・。行っちゃった。でも・・・。組織だからあんな風に人間関係がいがみ合う事もあるよね・・・)

 

 黒羽根15は与えられた仕事をこなす為にフェントホープを後にした。

 

 

 

 その時二人の黒羽根は背後にある植木の影にもう一人の黒羽根がいたのに気が付かなかった。

 

黒羽根5(最近黄羽根の・・・。と言うよりも菖蒲彩月への風当たりが強いのは聞いていましたがここまでとは・・・。みふゆさんに報告をしないと)

 

 

 

□ ホテルフェントホープ ねむの私室 

 

 

 

ねむの私室には灯花とみふゆがテーブルを囲んでいた。

壁際にはナナツメも控えている。

 

みふゆ「最近・・・。黄羽根の・・・。と言うよりも彩月さん個人への風当たりが強くなっている様です」

 

灯花「そうなのー?どんな風に強いのかにゃー?」

 

みふゆ「隠さずに言うと・・・。彩月さんはただふざけているだけで役に立たないと・・・」

 

灯花「確かに彩月はかなりふざけているからにゃー」

 

みふゆ「それにその・・・。ねむのお気に入りだから実力も無いのに黄羽根になっただけだと。魔女退治に付いて来ても役立たないと・・・」

 

ねむ「ふむ・・・。まあ気に入っているのは認めるよ。ただ僕としては僕の魔法を使った実験台だから手元に残して置きたいから黄羽根にしたと言う意味もあるんだけどね。まあ魔女退治に関しては勝手に付いて行っているのは聞いていたけど」

 

みふゆ「彩月さんは黒羽根としての訓練を受けていませんから連携が上手く行かないみたいですね。ただ最近はそれが分かっているから率先して魔女に向かっていたみたいですね。彩月さん的にはその間に羽根の体勢を整えさせる為に手伝っていると主張していましたが・・・」

 

灯花「それは・・・。まあ一応役に立っているからグレーゾーンかにゃー」

 

みふゆ「一応、ワタシからも注意したので右目の怪我をする前にはもう勝手に付いて行く事はしてなかったみたいですが・・・」

 

ねむ「勝手に付いては行かなかったけど、自分から売り込んで天音姉妹の魔女退治を手伝ったとは聞いているよ」

 

みふゆ「それは初耳です」

 

ねむ「彩月の事だから他にもやっていると思うよ」

 

みふゆ「ですよね・・・。後、彩月さんの右目の怪我ですけど・・・。羽根の間ではふざけすぎて怪我したと言う認識が強いみたいです」

 

灯花「どうしてー?わたくしを助ける為に怪我したって事にした筈だけどにゃー?」

 

みふゆ「その・・・。灯花の実験に付き合って怪我しただけじゃないかと・・・。灯花の実験で振り回された羽根も多いので」

 

灯花「名誉棄損だにゃー!」

 

ねむ「灯花。それは否定できないよ。前に黒羽根をワープさせた事があったよね?」

 

灯花「あれは、必要な実験だったにゃー!」

 

みふゆ「その話は一旦置いとくとして・・・。どうします?」

 

灯花「うーん。今の所放置でいいんじゃないかにゃー?」

 

ねむ「うん。下手に僕らが口を挟むと余計にこじれそうだしね」

 

みふゆ「ですよね・・・。何も無ければ良いんですが・・・」

 

灯花「ところでこの事は彩月も知ってるのかにゃー?」

 

みふゆ「本人の事なので既に話しました。ただ本人は組織で良くある事。そう言うのがいるから面白いんや。と言っていました」

 

ねむ「相変わらず図太いね。でもそこが面白い所なんだよ。むふ」

 

灯花「確かにそこが彩月の持ち味だよねー」

 

みふゆ「前言撤回します。何か起こりますね。確実に」

 

 みふゆはマギウスの二人が笑顔で語った発言からこれから何かが起こるのは確実だと諦めの表情を見せていた。

 

ナナツメ「例え何か起きたとしても自分の身に降りかかった火の粉を払えるだろう。彩月はそう言うヤツだ」

 

灯花 ねむ みふゆ「!?」

 

 滅多に喋らないナナツメが喋った事に3人は驚いた。

 

みふゆ「心の準備が必要ですね。確実に何かが起こると言う・・・」

 

灯花「そうだねー。でも計画で不測事態が起きるのは当たり前だからにゃー」

 

ねむ「物語は先が読めない方が面白いからね。むふ」

 

ナナツメ「・・・・・・・」

 

 

 

□ ホテルフェントホープ 正面広場

 

 

 

訓練を続ける彩月と時雨とはぐむ。

 

彩月「まだまだや!」

 

時雨「うっ」

 

はぐむ「ごめんなさい!」

 

 その時、はぐむが右手の鉄球を彩月に向かって放とうとした。

 

彩月(そこや!!)

 

 一気に駆け出した彩月とはぐむが放った鉄球は一瞬の内に衝突した。

 衝突の衝撃で倒れる彩月だったが両手に構えた鎖鎌の握りは緩めない。

 

はぐむ「大丈夫ですか!?」

 

 思わず駆け寄ろうとするはぐむに彩月は手で制した。

 

彩月「何やっとる」

 

はぐむ「えっ!?」

 

 戸惑いの様子を見せるはぐむ。

 

彩月「ウチが敵なら倒すチャンスやろ。躊躇ってどうする」

 

時雨「でもこれは特訓だし・・・」

 

彩月「あのなあ・・・。特訓だから本気でやるんや。神楽教官だってそう言うと思うで」

 

時雨 はぐむ「あっ・・・」

 

彩月「まあ・・・。今日はこの辺りでええやろ。二人共・・・。今ウチが言った事を胸に刻んどきい。明日も同じ時間によろしく頼むで」

 

 そう言って彩月は手を軽く振りながら少しだけフラフラしながらフェントホープへ入って行った。

 

時雨「はぐむん・・・。大丈夫?」

 

はぐむ「うん。私は大丈夫。でもあの人・・・。やっぱり強いね」

 

時雨「うん。あれだけ鉄球が当たったのに平気な顔して訓練続けるなんて僕達とは違うんだね・・・」

 

はぐむ「明日は出来るだけ彩月さんの言う通りにしよう・・・。それが彩月さんの望みだから」

 

時雨「そうだね・・・」

 

はぐむ「じゃあ帰ろうか。時雨ちゃん」

 

時雨「うん。帰ろう。はぐむん」

 

 時雨とはぐむはフェントホープから出て行った。

 

 

 

 その頃、フェントホープの誰もいない廊下で歩いていた彩月は膝を付いていた。

 

彩月(カッコつけてのやせ我慢も楽やないなあ・・・)

 

観鳥さん「大丈夫かい?随分と激しい特訓をしていたみたいだけど」

 

 彩月が振り返ると白羽根姿の観鳥さんが立っていた。

 

彩月「まあ・・・。キツイけど、選んだ事や。だから平気やで」

 

観鳥さん「そうかい。でもまあ・・・。肩ぐらいは観鳥さんも貸す事が出来るよ。どこまで連れてけば良いんだい?」

 

 観鳥さんはそう言いながら彩月に肩を貸した。

 

彩月「それならウチの部屋までお願いするで・・・」

 

観鳥さん「いいよ。たまには観鳥さんが貸しを作ってあげよう」

 

彩月「お言葉に甘えるで」

 

観鳥さん「どういたしまして。それで特訓の調子はどうなんだい?」

 

彩月「かなりええで。それにもうすぐ掴めそうやしな」

 

観鳥さん「それは・・・。良い写真が撮れそうだ」

 

彩月「期待してくれてもええで」

 

観鳥さん「じゃあ観鳥さんはそうさせて貰おうかな」

 

 

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープの廊下

 

 

 

廊下で黒羽根9と白羽根7が話をしている。

 

黒羽根9「ですからあのふざけた態度を見ていて不愉快なんです。黄羽根の菖蒲彩月が勝手な行動を起こさない様に白羽根の方からも要請を出すべきです」

 

白羽根7「話は分かったわ。けど・・・。私はそうは思わないわ」

 

黒羽根9「!? どうしてですか!」

 

白羽根7「確かに勝手な行動をしているのは確かだけど連携が出来ないから率先して囮役をやるなど積極的な部分もあるわ」

 

 

 

 数週間前に数名の黒羽根を率いた白羽根7は魔女との戦いで苦戦していた。

 

白羽根7「くっ・・・。せめてもう少し相手の動きを見極める時間があれば・・・」

 

黒羽根10「うぅぅ・・・」

 

 周囲にいる黒羽根達は疲弊して直ぐに動く事は出来なかった。

 

黒羽根?「しょうがないなあ。ウチの出番と言う訳やな!」

 

 そう言いながら黒羽根?が黒いローブを脱ぎ捨てると黄色いローブを羽織った彩月の姿が現れた。

 

彩月「ウチが囮になるさかい、その間に作戦を考えてな」

 

白羽根7「えっ!?ちょっと」

 

 白羽根7の眼前で魔女の攻撃を回避し続けて行く彩月。

 

白羽根7(これで少し時間が稼げる・・・。黒羽根達の隊列を整えて・・・)

 

 勝手に黒羽根のふりをして付いてきていた彩月が囮役となったことで時間を稼ぐ事が出来た白羽根7と黒羽根達は魔女を倒していた。

 

白羽根7「なんとか倒せたわね・・・」

 

彩月「じゃあなあ。ウチはいい経験が出来たからそれでええで~」

 

白羽根7「えっ!?ちょっと」

 

 そう言って彩月は戦いが終わるとそのまま去って行った。

 

 

 

白羽根7「彼女はただ勝手な行動をしている訳では無いわ。それに灯花様を守って黄羽根としての仕事は果たしているじゃない」

 

 過去に助けられた恩義もあるが、その事を押さえて白羽根7はそう答えた。

 

黒羽根9「それ・・・。本当の事なんですか?黒羽根の間ではふざけて怪我したのを灯花様が庇っているだけだと聞きましたが・・・」

 

白羽根7「私の話が信用出来ないと言うの?曖昧な話に耳を傾ける暇があるのなら自分の時間を大事にしなさい」

 

黒羽根9「ですが」

 

白羽根7「もし本気で菖蒲彩月の動きを押さえたいのなら自分でマギウスに提案する勇気はあるのかしら?」

 

黒羽根9「!?」

 

白羽根7「他人に言わせて自分は安全な場所でリスクを負わないつもり?それなら意味が無いと思うわ」

 

 そう言って白羽根7はその場から去って行った。

 しかしその言葉は黒羽根9の心に突き刺さった。

 

黒羽根9(確かにそうかも知れない・・・。けどマギウスのお三方への直訴か・・・。禁止されている訳じゃないしやってみようかな・・・。他にあの黄羽根への不満を持っている羽根と一緒なら・・・)

 

 黒羽根9には菖蒲彩月に不満を抱く羽根の心当たりがあった。

 それ程に彩月の行動はマギウスの翼に波紋を起こしていた。

 いい意味でも悪い意味でも。

 

 

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 正面広場 

 

 

 

 次の日、彩月と時雨、はぐむは昨日と同じ訓練をしていた。

 その次の日も。その次の日も。そして・・・。

 

はぐむ「えい!」

 

 はぐむが右手から鉄球を放とうとする。

 

彩月「っ!!」

 

 その瞬間に足に出来るだけの力を込めて彩月がはぐむに向かって駆け出す。

 

時雨「そこ!」

 

 そこへ時雨の鉄球が彩月の足元へ来る!

 

彩月「よっ!ほっ!」

 

 巧みな足さばきでかわした彩月に向かってはぐむは鉄球を放った!

 

彩月「!」

 

はぐむ「ごっごめんなさい!」

 

 ところが彩月はスピードを緩める事無くはぐむの放った鉄球に向かって突っ込んだ!

 鉄球が彩月の身体にぶつかり衝撃が走るも視界を横へ向けた彩月は時雨の鉄球が迫るのに気付くと同時に鎖鎌を時雨の放った鉄球に向かって放った!

 彩月の鎖鎌は時雨の鉄球にぶつかり互いに弾き合う。

 それを見た彩月ははぐむに向かって身体から体当たりをした!

 

はぐむ「きゃっ!?」

 

倒れたはぐむを横目で確認する事無く彩月は時雨に向かい駆け出す。

 時雨も迎撃の為に残された左手の鉄球を彩月に向けて放とうとした。

 

彩月「・・・・」

 

時雨(なに!?ナナツメさんみたいに)

 

 彩月の気迫に押されて驚いた時雨はそのまま鉄球を彩月に向かって発射するのと彩月が鉄球に激突したのは同時だった。

 

彩月「っ・・」

 

 だが鉄球に激突した彩月はのけぞりながらも無理やり身体の軸を回転させながら鎖鎌を放って時雨の足に絡ませた。

 

時雨「え!?うわ!」

 

 時雨は盛大に転んでしまった。

 はぐむも転んだままで対応できずその場に立っているのは彩月だけだった。

 

彩月「ようやく物に出来たかあ。ありがとな。感謝するで」

 

はぐむ「あの・・・。一体何が目的だったんですか?」

 

時雨「そうだよ。時々、鉄球にわざとぶつかった様に見えたけど・・・」

 

 時雨の言葉を聞いて笑みを見せる彩月。

 

彩月「ええとこに気付いたなあ。時雨はん」

 

時雨「えっ?」

 

はぐむ「じゃあわざと鉄球にぶつかっていたんですか?」

 

彩月「まあそうやで。でもそれだけじゃ答えは半分と言った所やな」

 

時雨「答えが半分・・・。あっ。わざとぶつかるから鎖鎌じゃなくて鉄球に武器を変えたんだ・・・」

 

彩月「それも正解やな。でも後の半分は違うで」

 

 笑みを見せる彩月。

 

はぐむ「後の半分・・・。全然分からない・・・」

 

彩月「まあその内に答えを教えたるわ」

 

 そこへエントランスの扉を開いて出て来たナナツメがこちらに向かって来た。

 

時雨、はぐむ「!?」

 

彩月「おや?ウチに用かい?ナナツメさん」

 

ナナツメ「彩月。ねむ様が呼んでいる」

 

彩月「ねむ様が?OK。ちょうど終わった所や。行きますで」

 

 そう言って彩月はナナツメに付いて行こうとした。

 

彩月「あっ。そうだ。お二人さん。今日で特訓は終いや。神楽教官の元へ戻ってええで」

 

時雨「え・・・。そうなの?」

 

はぐむ「わ・・・。分かりました」

 

 エントランスに入って行くナナツメと彩月。

 

時雨「行っちゃったね」

 

はぐむ「うん。私達も一夜さんにローブの武器を治して貰ったら神楽教官に報告をしないとね」

 

時雨「色々と細かい事を聞かれるから余りしたくない・・・」

 

はぐむ「でもきちんと報告しないと後が怖いし・・・」

 

時雨「とりあえず一夜さんの所に行こう」

 

はぐむ「そうだね。行こう。時雨ちゃん」

 

 時雨とはぐむもまたエントランスに向かって行った。

 

 

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ エントランス 数分前

 

 

 

数人の羽根が行き交うエントランス。

そこへ扉が開いてねむとナナツメが入って来た。

先を歩くねむの後をナナツメが付いて行く。

 

ねむ「ご苦労様。ナナツメ。君の護衛も板に付いているね」

 

ナナツメ「褒められる様な事ではありません。筒地綾女の行動とネットで調べた護衛の行動をなぞっているだけです」

 

ねむ「筒地綾女の行動?ああ・・・。そうか。筒地綾女は朱奈と言う少女と旅をしていたね」

 

ナナツメ「はい。ですから筒地綾女の記憶の中にはいかにして朱奈を守るのかと言う考えと行動があるので小生はそれを応用しています」

 

ねむ「むふ。応用は大切だからね。彩月もどうやら筒地綾女の記憶を植え付けられた事で魔法の使い方を短期間で覚えた訳だからね」

 

ナナツメ「これは・・・・。小生の言う事では無いかも知れませんが・・・。厳密に言えば・・・。菖蒲彩月は失敗作です」

 

ねむ「失敗作?彩月が?」

 

 思わず足を止めて信じられないと言う様な表情を振り向きながら見せるねむ。

 

ナナツメ「はい。筒地綾女の本来の想定では菖蒲彩月の意識は筒地綾女の記憶が上書きされた事で消滅、もしくは細分化してしまう筈でした。けれど菖蒲彩月は筒地綾女の記憶を持ったままで自己を保っている。本来なら筒地綾女のコピーとなる筈だったにも関わらず菖蒲彩月の意志は残っている。だから筒地綾女からすれば失敗作と言う事です」

 

ねむ「成程・・・。言われてみればそうだね。じゃあ彩月はとても強固な自己を持っている人間と言う事になるんだね」

 

ナナツメ「その通りです。筒地綾女は菖蒲彩月に施した記憶の植え付けは初めて行った実験に過ぎなかったので成功しても失敗しても構わないと思っていたそうです。失敗すれば菖蒲彩月の精神が壊れてしまう事を知った上で」

 

ねむ「そう・・・。筒地綾女。面白い魔法少女だね。あの状態から回復したら会話したくなって来たよ」

 

ナナツメ「小生が言う事ではありませんが危険な存在かと。人質を取る事をお勧めします」

 

ねむ「まあ・・・。今一夜は朱奈の身体を借りている状態だから人質みたいな物だね。それにしても今日は饒舌だね。ナナツメ。何かあったのかい?」

 

 少しだけ面白いと言った様子を見せながら語るねむ。

 

ナナツメ「いえ。少しは彩月を見習おうかと」

 

ねむ「別に無理に見習う必要は無いと思うよ。君が喋りたい時に喋れば良いんだから」

 

ナナツメ「はい・・・・・」

 

ねむ「最近忙しかったし一夜の様子を見に行こう。これでも上司だからね」

 

 ねむとナナツメは語り合いながらエントランス内を通り抜けようとした。

 その二人の姿を偶然、エントランスにいた黒羽根9が目撃していた。

 

黒羽根9「あれはねむ様・・・!」

 

黒羽根9(これはチャンスかも知れない!)

 

 他の黒羽根と立ち話をしていた黒羽根9はねむの元へ向かって駆け出す。

 

黒羽根9「すみません!ねむ様!」

 

ナナツメ「!」

 

 黒羽根9がねむに声を掛けた時、瞬時にナナツメがねむと黒羽根9の間に入り込んだ。

 ナナツメの手には鎖鎌が握られている。

 

ねむ「君は・・・。黒羽根の様だけど僕に何か用かい?」

 

 ナナツメの背後から顔を見せる様にして黒羽根9に声を掛けるねむ。

 

黒羽根9「はい。ねむ様に是非進言したい事があります!」

 

ねむ「ふむ・・・。僕に進言なんて興味深いね。じゃあその進言を聞かせて貰おうかな」

 

 そう言ってねむはエントランスに置かれているソファーを見た。

 

ねむ「立ち話もなんだからそこで聞くよ」

 

 ねむに促されてソファーに座る黒羽根9。

 目の前のソファーにはねむが座り背後にはナナツメが控えている。

 

ねむ「さて君は一体どんな進言を僕にしてくれるのかな?」

 

黒羽根9「はい。単刀直入に言います。私を黄羽根にしませんか?」

 

ねむ「・・・。少し驚いたね。黄羽根に志願する羽根なんて初めてだよ。君は黄羽根がどういう存在か分かって志願しているのかな?」

 

黒羽根9「はい。黄羽根はマギウスの護衛を担当するナナツメさん。ローブや道具を作り出す一夜さん。その一夜さんの護衛をする菖蒲彩月で構成されています。一夜さん以外はマギウスの護衛要員。組織内での待遇は白羽根と同等と聞いています」

 

ねむ「黒羽根と違って個室を与えているからその認識で間違いは無いよ。でも幾つか訂正があるね」

 

黒羽根9「訂正ですか?」

 

ねむ「うん。黄羽根が設立された目的は他にもあるよ。ハッキリと言ってしまえば黒羽根や白羽根と言った規格に収められない我の強くて扱いづらい人間を一まとめにして僕が管理していると言っても過言じゃないよ」

 

ナナツメ「・・・・・・・」

 

黒羽根9「それは知りませんでした・・・」

 

ねむ「僕も今初めて話したからね。ごめんね。ナナツメ」

 

ナナツメ「お気になさらず。仕事です。それに組織ではそうした事も必要かと」

 

ねむ「ほら。こんなに我が強いんじゃ羽根としてはちょっとね。まあナナツメの場合は他にも色々とあるけど。そうだね。例えば彩月なんかは僕の魔法を施した実験台と言う側面があるから手元に置いておきたいと言うのもあるんだよ」

 

黒羽根9「・・・!」

 

 彩月の名を聞いた瞬間に顔色を曇らせる黒羽根9。

 しかしローブによって表情は両者には伝わらない。

 

黒羽根9(ローブで顔が見えなくて良かった・・・)

 

黒羽根9「だったら実験台の菖蒲彩月は護衛から外しても良いのでは?私の方があんなふざけた半端者よりも護衛に相応しいですよ」

 

ねむ「ふむ・・・。自らを黄羽根に売り込んでくるなんて面白いね。でも彩月の悪口は見過ごせないかな。彩月は僕の魔法の実験台なんだから。僕に悪口を言っている様な物だよ」

 

黒羽根9「すみません。そんなつもりは・・・。あくまで私は・・・。私の方が菖蒲彩月よりも護衛役に相応しいと言いたいんです」

 

ねむ「僕は君の事を良く知らないけど君の何処に護衛に相応しいと言える部分があるんだい?」

 

黒羽根9「私の方が菖蒲彩月よりも真剣に物事に取り組んでいます。それに2年以上、命懸けで魔女と戦っています。戦歴だけなら菖蒲彩月よりも上です」

 

ねむ「でもそれは他の羽根にも言えるよね?それに戦歴と言うけど内容はどうなんだい?」

 

黒羽根9「何度も魔女と戦い時に撤退する事もありましたが私はこの通り生きています。引き際を心得ていますし、一人で魔女を倒した経験もあります」

 

ねむ「君、もしかして彩月が嫌いかい?」

 

黒羽根9「それは・・・」

 

ねむ「大切な質問だから答えて欲しいな」

 

黒羽根9「嫌いです。あんな他人から魔法を貰っただけの半端者・・・。ふざけている以外に何の取柄も無いじゃないですか」

 

ねむ「君からは彩月がそう見えているんだね」

 

 ねむは静かな目で黒羽根9を見つめている。

 

ねむ「彩月への風当たりが強いと聞いていたけどこれ程とはね。直に聞かせて貰って感謝するよ」

 

黒羽根9「はい・・・。感謝、ですか?」

 

ねむ「本で言えば著者が読者から感想を直に聞くチャンスの様なモノだからね」

 

黒羽根9「そうなのですか・・・。でも私と同じ意見の羽根は他にもいますよ」

 

 そう言って黒羽根9は先程話していた羽根を手招きした。

 

黒羽根9「彼女達も私と同じで菖蒲彩月が護衛には相応しくないと思っています」

 

ねむ「君達もそうなのかい?」

 

黒羽根3「はい。同じ意見です。あのような半端者よりも我々の方が護衛には相応しいかと」

 

黒羽根15「護衛としては少しふざけすぎているのは確かだと思います」

 

ねむ「まあ確かに彩月の悪ふざけは度が過ぎているからね。クリスマスの時みたいに」

 

 ねむがクリスマスと言う単語を言った時に黒羽根15は彩月の男装を思い出して赤面してしまった。

 

黒羽根15(いけない・・・。あの男装は強烈だったから・・・。メルマガで特集された時に画像を保存したのを知られたくない・・・)

 

ねむ「ふむ・・・。話は分かったよ。けど一方から話を聞くだけじゃ不公平だね。ナナツメ。すまないけど彩月を呼んで来てくれるかい?」

 

ナナツメ「仰せのままに」

 

 そう言ってナナツメはエントランスから出て行った。

 

黒羽根9「ここに菖蒲彩月を呼ぶのですか?」

 

ねむ「うん。やはり本人からも直接話を聞きたいしね」

 

黒羽根15「それなら私達は離れましょうか?」

 

ねむ「いや。本気で護衛役の黄羽根を目指すなら彩月に向かって同じ事が言えるだろう?」

 

黒羽根9、3、15「!?」

 

ねむ「僕は個人的には黄羽根には度胸が必要だと思っているからね。むふ」

 

 ねむが屈託のない笑みを浮かべた事で黒羽根9は悟った。

 

黒羽根9(この人・・・。割と意地が悪いのかも知れない・・・)

 

黒羽根3(意外な展開・・・)

 

黒羽根15(正直巻き込まれたくはなかったけど・・・ウワサ絡みじゃなければ・・・)

 

 そこへナナツメがゴーグルを付けた彩月を連れて戻って来た。

 彩月は直前まで特訓をしていたので少し汚れていた。

 

彩月「ねむ様。ウチに何か御用でっか?」

 

ねむ「ああ。彩月。わざわざ呼び出して悪かったね。早速だけどここにいる黒羽根達が君の事を護衛から外して自分達を護衛にする様に行って来てね」

 

彩月「さいですか。別に構わへんで」

 

黒羽根9、15、3「!?」

 

ナナツメ「・・・・・・・」

 

ねむ「意外だね。君は黄羽根の立場に執着は無いんだね?」

 

彩月「ウチは魔法が使えるなら白羽根でもみふゆさんみたいな幹部でも構へんで」

 

ねむ「ちゃっかり出世しようとするのは言語道断だよ」

 

彩月「まあ・・・。護衛役やりたいなら一つだけ条件があるで」

 

ねむ「何だい?」

 

彩月「ウチより強くなきゃ駄目やろ。んであんさん等はウチより強いんか?黒羽根なのに」

 

 彩月は少し笑みを見せていてそれが相手には嘲笑にも見えていた。

 

黒羽根9(こいつ!)

 

黒羽根9「強いですよ。あなたみたいな半端者よりも」

 

彩月「半端者か。痛い所突くなー。けど口だけなら幾らでも誤魔化せるやろ」

 

黒羽根9「それはあなたの事じゃないんですか?ふざけた喋りしで誤魔化してるじゃないですか」

 

彩月「言葉は所詮、遊ぶモノ。本当と偽りがあるから面白いんや。ウチがふざけた喋りをしているのは相手にウチを侮らせておちょくる為や。あんさんはウチの策略通りに動いとるなあ」

 

黒羽根9「・・・。減らず口ですね」

 

彩月「良く言われるで。まっあんさんも減らず口やな」

 

黒羽根9「・・・。だったら実力で分からせましょうか?命を懸けた事も無いあんたが私に勝てる訳が無いって」

 

彩月「おや。奇遇やな。同じ事を思うたで。何ならここで負けさせてやりましょか?」

 

 そう言って彩月と黒羽根9が睨み合いながら両手に武器を出現させようとした。

 

ナナツメ「やめろ」

 

 そう言いながらナナツメは両手に鎖鎌を出現させていた。

 

ナナツメ「この場で騒ぎを起こすのなら・・・。小生が双方を倒す」

 

 ナナツメの威圧を受けて両者は武器を収めた。

 

ねむ「ふむ。助かったよ。ナナツメ。僕も戦うのは止めないけどここで戦うのは避けて欲しいな。ウワサの自動防衛機能が発動してしまうからね」

 

彩月「アカン。そうやった。だったらねむ様。ウチから提案があるで」

 

ねむ「どんな提案だい?」

 

彩月「地下に訓練所があるやろ?あそこでウチとそこの3人で戦うのはどうや?一番に強いのが黄羽根になると言う条件で」

 

黒羽根9 3 15(!?)

 

黒羽根9(こいつ何を言っているの・・・)

 

ねむ「それは面白いね。で、どんな風に戦うんだい?」

 

彩月「普通に訓練所で戦っても意味が無いで。どうせなら・・・。ねむ様に森林みたいなウワサ結界を作ってもろうてローブのペンダントの奪い合いと言うのはどうや?勝敗も分かりやすいで」

 

ねむ「うん。中々良いアイディアだね。けど前提として僕の協力が必要みたいだね」

 

彩月「まあそこは・・・。可愛い部下の頼みやから聞いてくれなー」

 

 彩月は大袈裟に手を合わせてねむに頼み込んだ。

 

ねむ「良いよ。君を可愛いとは思わないけど面白い部下だとは思っているからね。で・・・。君本当に一人で戦うつもりかい?」

 

彩月「ウチは一人でええ。でもそちらの3人はバラバラでも手を組んでもどちらでも構わないで。一番強いヤツが黄羽根になる方が面白そうやしな」

 

黒羽根9「・・・。仮に3対1になったとして勝てるとでも?」

 

彩月「ようはここの使い方次第って事やな」

 

 彩月はわざとらしく自分の頭を指でついて見せる。

 

ねむ「君達はどうなんだい?僕は彩月の提案が一番面白いと思うよ」

 

黒羽根9「面白いですか?」

 

ねむ「僕としては黄羽根の増員はしても構わないよ。ただやはり彩月の言う通り彩月より弱いなら話にならないからね。戦闘員では無い一夜はともかくとしてナナツメ程とは言わないけど黄羽根にはある程度の戦闘力は欲しい。これはそれを見るいい機会だと思うんだよ。むふ」

 

 珍しいが物が見れると期待しながらねむはそう言った。

 

黒羽根9「勝てば黄羽根になれるんですね?」

 

ねむ「そこは保障するよ。彩月の代わりに一夜の護衛をして貰おうかな」

 

彩月「ん?ウチは負けたらどうなるんでっか?今更黒羽根なるなんて嫌やで」

 

ねむ「残念だけど客観的に見て君は我が強すぎて黒羽根に向いていないよ。そうだね。負けたら彩月はバツとして地下倉庫の倉庫番専属になって貰おうかな。むふ」

 

彩月「そんなのつまらんから嫌やでー」

 

ねむ「じゃあ必死に戦う事だね。ようは勝てば良いんだから。出来るんだろう?」

 

彩月「口は災いの元やなー。まあ・・・。やってみるで」

 

黒羽根9「半端者は半端者だって思い知らせてあげますよ」

 

彩月「それしか言えんのか?安っぽいなあ」

 

黒羽根9「!!」

 

黒羽根3「よせ!」

 

 黒羽根9が思わず動こうとしたのを黒羽根3が手で押さえた。

 

黒羽根3「今は戦うべき時じゃない」

 

黒羽根9「・・・。そうだったね。ごめん」

 

黒羽根15(驚いて何も出来なかった・・・)

 

ねむ「さて。それじゃ君達はいつ戦うんだい?」

 

彩月「ウチは今すぐでもええで」

 

黒羽根9「私もねむ様の準備しだいで・・・」

 

黒羽根3「同じく・・・」

 

黒羽根15「私も・・・」

 

ねむ「ふむ。じゃあ明日でも良いかな?今から僕はウワサを調整して色々と準備をしておくから」

 

黒羽根9「分かりました」

 

黒羽根3「異論はありません」

 

黒羽根15「大丈夫です・・・」

 

ねむ「じゃあこれで失礼するよ。行こう。ナナツメ」

 

ナナツメ「はい」

 

 ねむはナナツメを連れてフェントホープの自室へと向かって行った。

 

彩月「さて・・・。ほな。また明日な」

 

 そう言って彩月もフェントホープの奥へ向かって行った。

 

黒羽根15(大丈夫かな?流されてあの人と戦う事になちゃったけど・・・。模擬戦みたいなモノだよね・・・)

 

黒羽根9「なんだか巻き込んでごめんなさい」

 

黒羽根3「気にしなくて良い。私はふざけたヤツが嫌いだ。それに・・・」

 

黒羽根9「それに?」

 

黒羽根3「私は黄羽根の地位に興味は無い。だから明日の戦いでは黄羽根にあなたを推薦したい」

 

黒羽根9「えっ?でも・・・」

 

黒羽根3「私は学校でも色々と活動があるからその方がありがたい」

 

黒羽根9「そっか。そう言う事なら・・・」

 

黒羽根15「あの・・・。それなら私も黄羽根の地位は・・・」

 

黒羽根3「良いのか?」

 

黒羽根15「私は正直流されて戦う事になったから・・・。黄羽根の地位に興味は無いしとても勤まる自信も無いから・・・。あなたが黄羽根になるのに協力出来るのならそれで・・・」

 

黒羽根9「それなら私達は利害が一致した訳ね・・・。協力して戦う事が出来るわね・・・」

 

黒羽根3「私は構わない」

 

黒羽根15「うん。私も」

 

黒羽根15(と言うより・・・。私にウワサを取り付かせた・・・。あの人とは関わりたく無いし・・・)

 

黒羽根9「明日はあの半端者に目に物見せてやりましょう」

 

 

 

 




 今回の話では彩月が実は筒地綾女にとっては失敗作だったなど初公開の設定もあります。
 神楽教官や観鳥さんも登場して賑やかで書くのが大変な話でした。
 彩月が羽根の間で評判がよろしくないのも前々から考えていた内容でした。
 そもそも黄羽根で彩月の役割が不透明ですから。


 なお黒羽根9。
 彼女は二部に登場するあの惨劇の起こった街の出身者です。
 つまり例の前日譚イベントであの街へ帰還した人物だったと言う事です。
 彼女はあれ以降、ゲームで掘り下げられなかったのはもったいなかったので活用させて貰いました。
 なお個人名は付けない予定です。
 
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