マギアレコード 偽書e/s memorys   作:ジャックノルテ

37 / 76
5・9章 それがウチの持ち味なんやから

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ外周

 

 

 

ホテルフェントホープの外周では黒羽根達が並んで武器である鎖鎌の使い方を訓練していた。

その様子を同じくローブ姿で遊狩ミユリと共に見つめる神楽教官。

 

神楽教官(羽根達の訓練はまずまずと言った所ね・・・。これなら数を揃えればベテランの魔法少女相手でも多少は出来る筈・・・)

 

ミユリ「燦様!燦様!」

 

 考え事をしていた神楽教官にミユリが話しかけて来る。

 

神楽教官「ミユリ?どうしたの?」

 

ミユリ「安積と宮尾が来ましたですです!」

 

はぐむ「教官。戻りました・・・」

 

時雨「今日の彩月さんとの訓練は終わりました・・・」

 

神楽教官「そう。で菖蒲はどんな様子かしら?」

 

はぐむ「はい!えっと・・・」

 

神楽教官「ゆっくりでいいから報告をして頂戴」

 

 時雨とはぐむは神楽教官に彩月と行った訓練の内容を報告した。

 

神楽教官「じゃあ菖蒲はわざと鉄球にぶつかっていたと言ったのね?」

 

時雨「はい・・・。でもそれじゃ答えは半分だって言ってました」

 

ミユリ「それはどうしてですか?どうしてですか?」

 

はぐむ「はわわわ・・・。それは聞いてみたんですけど教えてくれませんでした。その内に教えるとは言ったんですけど・・・」

 

神楽教官「訓練戦の中で鉄球に時々わざとぶつかる・・・。それで答えは半分・・・」

 

 神楽教官は時々自分でも見ていた彩月と時雨、はぐむの訓練戦を思い出していた。

 

神楽教官「・・・! そう。そう言う事だったね」

 

ミユリ「燦様!燦様!どうしたんですか?」

 

神楽教官「菖蒲が何をしようとしていたのか分かったわ」

 

時雨「えっ?」

 

はぐむ「そうなんですか?」

 

神楽教官「ええ。中々面白い発想をするわね」

 

 神楽教官は意味深い笑みを見せていた。

 

ミユリ「ミユには全然分からないです!です!」

 

観鳥さん「もしかしたらその面白い発想が直ぐに見れるかも知れませんよ」

 

 そう言いながらそこへ白羽根姿の観鳥さんが姿を現した。

 

神楽教官「あら。観鳥。それはどう言う意味かしら?」

 

観鳥さん「明日、彩月さんが黄羽根の地位を賭けて黒羽根達と試合をするみたいですよ」

 

時雨 はぐむ ミユリ「えっ!?」

 

神楽教官「そう・・・」

 

観鳥さん「驚かないんですね?」

 

神楽教官「最近黄羽根の中で菖蒲の評判は悪かったからいずれそうなると思っていたわ。黄羽根はマギウスの直属。特別な地位にいると言っても良いわ。その地位を狙う人間がいてもおかしく無いわ」

 

観鳥さん「まあ確かに。傍から見れば彩月さんは自由気ままに見えますからね」

 

神楽教官「現実はそうでも無いわね。越馬は魔法道具を作る事が出来る。七部は護衛としてはマギウスにおいて右に出る者がいないわ。それと比べれば菖蒲は確かに自由気ままに見えても仕方ないわね」

 

観鳥さん「現実はそうでも無いですけどね。彩月さんは灯花様を守る為に片目を犠牲にしてまで護衛を完遂する覚悟がありますからね。それに・・・」

 

神楽教官「何かあるのかしら?」

 

観鳥さん「彩月さんを半端者って言う人がいますけど・・・。観鳥さんは、彩月さんが半端な覚悟で戦っている様に見えませんね」

 

神楽教官「確かに。その戦う黒羽根にしても菖蒲の事を侮らなければ良いけれど」

 

観鳥さん「それとねむ様が明日の試合に神楽教官に立ち会って欲しいと伝言ですよ」

 

神楽教官「問題無いわ。安積。宮尾。明日の試合にはあなた達も観戦しなさい」

 

時雨「えっ?」

 

はぐむ「私達も・・・。ですか?」

 

神楽教官「明日の試合で二人と行った特訓の成果を菖蒲が見せるでしょうね。それと答えの半分も」

 

時雨「・・・。分かりました」

 

はぐむ「私達も答えの半分を知りたいしね」

 

ミユリ「ミユも見たいです!見たいです!」

 

神楽教官「ええ。別に構わないわよ」

 

観鳥さん「明日の午後17時に試合をするそうですから審判をお願いしますよ」

 

神楽教官「ええ。教官として審判を請け負ったとマギウスに伝えて置いて」

 

観鳥さん「分かりました。では観鳥さんはこれで失礼しますよ」

 

 そう言って観鳥さんはフェントホープへ戻って行った。

 

神楽教官「明日は面白い事になりそうね」

 

 笑みを浮かべる神楽教官とミユリ。

 それを微妙な表情で見つめる時雨とはぐむ。

 

 

 

□ ホテルフェントホープ 一夜の私室

 

 

 

一夜の私室にはねむとナナツメが来ていた。

ベッドに座る一夜と椅子に座っているねむ。

ねむの背後には護衛としてナナツメが控えている。

 

ねむ「と言う訳で君には明日の試合の為に必要な試合用のペンダントを作って欲しいんだ」

 

一夜「分かりました・・・。ローブのペンダントを加工すれば直ぐに出来ます」

 

ねむ「分かりやすい様に色を変えてくれるかい?元は金色だから・・・。銀色にでも」

 

一夜「はい・・・。あの・・・。彩月さんは明日、本気で試合するつもりなんですか?」

 

ねむ「そうだよ。黄羽根の地位が懸かっているからね」

 

一夜「でも彩月さんはまだ右目が万全じゃないんじゃ・・・」

 

ねむ「それでも明日試合をする事を選んだのは彩月だよ。だから僕が反対をする理由は残念ながら無いね」

 

一夜「・・・・・・・・」

 

ねむ(少し言い過ぎたかな?)

 

ねむ「一夜。そこまで心配をする必要は無いと思うよ」

 

一夜「でも・・・・・・」

 

ねむ「彩月の訓練は順調みたいだしね。あの訓練は例え視界が半分になったとしても戦える様にする為の訓練だからだよ」

 

一夜「そうなんですか?」

 

ねむ「僕はそう思うよ。それに・・・。彩月はそこまで弱く無いよ。そうだろう?ナナツメ」

 

ナナツメ「はい。菖蒲は弱くありません。小生よりは弱いですが」

 

ねむ「ナナツメらしい回答だね。まあ・・・。ナナツメの意見に僕も賛成だよ」

 

一夜「あの・・・。彩月さんってどれ位強いんですか?」

 

ねむ「ふむ・・・。それは明日にでも分かると思うよ。今説明してしまうのは興ざめも良い所だからね」

 

一夜「あ・・・。はい・・・」

 

ねむ「一夜。明日は君も観戦すると良いよ。これは君にも良い経験になる。そして菖蒲彩月と言う一人の半魔法少女の真髄を知る事が出来るよ」

 

一夜「分かりました・・・」

 

ナナツメ「気に病むな。これは彩月の選んだ選択。一夜が選択した事では無い」

 

一夜「・・・・・・・・」

 

ねむ(ふむ。今日はナナツメが饒舌だね。これは面白い物が聞けたかな。むふ)

 

 

 

□ ホテルフェントホープ地下訓練場 

 

 

 

次の日の16時55分。

既に地下訓練所には灯花とねむ、ナナツメ、一夜とみふゆがいた。

その周囲にはローブ姿の神楽教官とミユリ、それに時雨とはぐむ、観鳥さんも来ていた。

離れた場所には黒羽根9と黒羽根3と黒羽根15もいる。

更にはこの話を聞きつけて見学に来ている羽根達も数名いた。

 

灯花「そろそろ時間だねー」

 

ねむ「灯花。君が見に来ると思わなかったよ」

 

灯花「だってこんな面白そうな事を見ないなんて損だと思うにゃー」

 

みふゆ「ワタシは今でも反対ですけど・・・」

 

ねむ「と言うか彩月は何処にいるんだい?そろそろ時間なんだけどな」

 

一夜「一時間前には一緒に地下倉庫にいたんですけど・・・」

 

みふゆ「魔力ではこれだけ魔法少女がいると分かりませんね・・・」

 

ナナツメ「・・・・・・・。彩月。いい加減にした方が良い」

 

 突然ナナツメが訓練所の柱上部に向かって言った。

 

彩月「なんや。バレたか」

 

 そう言って彩月は足場のある柱上部の影から姿を現すとその場に飛び降りて来た。

 黄色いローブ姿だったが目には右側だけが黒いゴーグルを付けている。

 

ねむ「何してたんだい?」

 

彩月「面白そうやから上から観察してたんや」

 

ねむ「ふむ・・・。緊張はしていないみたいだね」

 

彩月「それどころかむしろドキドキしとるで。どうなるか楽しみや」

 

みふゆ「しかし彩月さん。ワタシは今でもこの戦いには反対です」

 

彩月「もう結論は出とるんや。みふゆさんでもこれだけは止めさせないで」

 

みふゆ「それは分かっています。もうこうなった以上は好きにして下さい。ですがこんな暴力を伴ったやり方が恒常的な物になる事だけは容認できません」

 

ねむ「それを防ぐ為にわざわざ神楽教官に来て貰ったんだよ」

 

神楽教官「はい。完璧にジャッジして見せます」

 

ミユリ「燦様のジャッジは完璧です!です!」

 

彩月「よろしく頼むで。神楽教官。それに・・・。お二人さん。今日は特訓の成果を見せたるわ」

 

 彩月はそう言って時雨とはぐむに向かってウインクして見せた。

 

時雨「だと良いけど・・・」

 

はぐむ「私達まだ半分を分かってないけどね・・・」

 

黒羽根9「余裕みたいね・・・」

 

黒羽根3「そうかな?ハッタリに思えるが」

 

黒羽根15(実際の所はどうなんだろう・・・。私には分からない・・・)

 

 その様子を観鳥さんは笑みを浮かべて見ていた。

 

観鳥さん「良い画が撮れそうだね」

 

ねむ「準備万端みたいだね・・・。じゃあ始めようか」

 

 ねむの一言に全員が注目する。

 

ねむ「今日は黄羽根になりたいと言う黒羽根と現黄羽根である菖蒲彩月との試合を行うよ。黒羽根がこの試合に勝つ事が出来るなら黄羽根になる事を認めるよ。なお試合は菖蒲彩月の要望もあるから黒羽根3名と菖蒲彩月1名の3対1の試合で行って貰う。そこで3対1の戦闘でも支障が出ない様に僕が特別なウワサ結界を用意したよ」

 

 魔法少女姿のねむが本を開くとひし形の鏡面体が現れた。

 鏡面体から見える内部には無数の鉄骨が縦横無尽に伸びて森の様な空間を構成している。

 

ねむ「この鏡面体の内部は鉄骨の森の様になっていて遮蔽物もあるから姿を隠す事が出来る。まさしく単独対多数の戦闘にはもってこいだよ。むふ」

 

彩月「まさしく要望通りやな。ねむ様。感謝するで」

 

ねむ「今回の試合時間は30分。ここで一番重要な事を言うよ。固有魔法及び固有武器は使用禁止。使える武器はローブに搭載されている鎖鎌のみを使って戦う事」

 

黒羽根9「それは何故ですか?」

 

ねむ「一応羽根は固有魔法の使用禁止のルールがあるからね。それに彩月は固有魔法を使えないからこれである程度公平だろう?」

 

黒羽根15「それはそうかも知れませんね・・・」

 

黒羽根3「鎖鎌の扱いには慣れているから問題ありません」

 

ねむ「それと勝敗が分かりやすい様にこの特別制のペンダントを付けて貰えるかい?このペンダントを奪い合う事が今日の試合の勝敗を決める物だよ」

 

 ねむがそう言うとナナツメが銀色のマギウスの紋章を象ったペンダントを出した。

 それを彩月と黒羽根3人へ配って行く。

 

ねむ「4人共それを付けて試合をして貰う。彩月は全員のペンダントを奪ったら勝ち。黒羽根達は彩月のペンダントを奪った子が新しい黄羽根だよ」

 

黒羽根9「でも別に協力しても良いんですよね?」

 

ねむ「それも構わないよ。協力しようと単独で動こうとそれも構わないよ」

 

黒羽根9「分かりました。ちなみに誰もペンダントを奪えなかった場合は?」

 

ねむ「引き分けと言った所かな?」

 

彩月「現状維持ならウチはそれでもええでー」

 

ねむ「うん。決着が着くまで戦って貰おう。今決めたよ」

 

彩月「まっそれが妥当やな」

 

ねむ「うん。それじゃあ始めようか。彩月と黒羽根達はこの空間に触れてみて。そうすると内部に転送されるから。黒羽根の3人は同じ場所に転送されるから安心して」

 

黒羽根9「分かりました」

 

彩月「さて・・・。やりますかあ・・・」

 

 彩月は率先して鏡面体に触れると内部に転送された。

 続いて黒羽根達3人も鏡面体に触れて内部へと転送された。

 鏡面体の表面には内部の様子が映し出されている。

 黒羽根達3人は同じ場所に転送されて周囲を警戒していた。

 一方で彩月は直ぐに転送された場所から離れて移動していた。

 

ねむ「さて・・・。彩月はどう動くのかな?」

 

灯花「直ぐにその場から離れたのは評価できるねー」

 

みふゆ「彩月さんの姿が良く見えませんね・・・」

 

一夜「大丈夫なのかな・・・」

 

ナナツメ「移動し続けている。敵に狙われない為の作戦だな」

 

 

 

□ 鏡面体内部

 

 

 鉄骨の乱立する森の様な鏡面体内部。

 鏡面体の内部で黄色いローブ姿の彩月は鉄骨の間を縦横無尽に動いていた。

 

彩月(おもろい空間やなあ。やりがいがあるで・・・)

 

 すると彩月は自分から見て下の方角に黒羽根達がいるのに気が付いた。

 鉄骨の背後に身を隠した彩月。

 

彩月(さあて・・・。こっからが勝負所やな!)

 

 

 

 その頃、黒羽根達は3人で周囲を警戒しながら進んでいた。

 両手に鎖鎌を構えて直ぐに戦闘する準備をしている。

 

黒羽根15「来ないですね・・・」

 

黒羽根3「この空間は魔力探知がやり難くなっている。周囲を警戒しないと」

 

黒羽根9「こうやって固まっていれば余程の馬鹿でなければ仕掛けようが無い筈よ」

 

黒羽根3「けど・・・。あのふざけた性格なら何かやりかねない」

 

黒羽根9「同感・・・。あの半端者だって手柄が欲しくて焦っている筈・・・!」

 

黒羽根15「どうしたんですか?」

 

黒羽根9「見つけた・・・。見て」

 

 黒羽根9が鎖鎌で指し示した方角に鉄骨からなびいている黄色いローブが見えた。

 

黒羽根9「やっぱり半端者よ。隠れる事もまともに出来やしないなんて」

 

黒羽根3「分散して包囲しよう。あれなら・・・」

 

黒羽根15「囮とかじゃ・・・」

 

黒羽根9「あの半端者がそんな事出来る訳が無いわ・・・。行きましょう!」

 

 3人の黒羽根は鉄骨の影からなびく黄色いローブに向かって3方向から攻めようと一旦バラバラになった。

 それぞれ武器を構えて黄色いローブのなびく鉄骨の近くで立ち止まった。

 バラバラの3カ所で包囲網を形成した。

 

黒羽根9「・・・・・・・・・」

 

 黒羽根9は黙って黄色いローブのなびく鉄骨へ向けた。

 それを見た黒羽根3と黒羽根15は頷いた。

 

黒羽根9(これで・・・・・!)

 

 その時、鉄骨の影から黄色いローブから鎖鎌が1本伸びて周囲を縦横無尽に動き回る。

 

黒羽根3「流石に黙って倒される訳が無いか」

 

黒羽根9「もう少しなのに・・・」

 

黒羽根15(まずい・・・。離れすぎて・・・)

 

 黒羽根3人はバラバラの方向に離れて距離がかなり開いて行った。

 

黒羽根15「どうしたら・・・!」

 

 黒羽根15の離れた位置からは鉄骨に陰にあるのは黄色いローブだけだった。

 そこに彩月の姿は無い。

 

黒羽根15「嘘!?相手がいない!?みんな!これは!」

 

彩月「そこや!」

 

黒羽根15「!?」

 

 黒羽根15が声のする方向を見るとジャージ姿の彩月が迫って来た。

 

彩月「先手必勝やで!」

 

 彩月は巧みな足さばきで黒羽根15に近付くと右手で思いっ切り右の頬を殴った。

 驚きで対応する事が出来ない黒羽根15の胸から右手で銀色のペンダントを奪い取るとその場から逃げ出した。

 その時、黒羽根15の目には見えていた。

 彩月の左手から鎖鎌が伸びている事を。

 鉄骨の影にある黄色いローブは彩月の左手から伸びる鎖鎌を通じて有線操作されていたと言う事を黒羽根15は理解した瞬間に目の前の景色が変わった。

 そこは元いた地下訓練場だった。

 

ねむ「やあ。ペンダントを奪われたから戻って来たみたいだね」

 

黒羽根15「はい・・・」

 

 黒羽根15の脳裏に先程の戦闘が思い出される。

 鏡面体の表面からは内部の様子が見えている。

 

ねむ「僕達はずっと戦いを観戦していたよ」

 

黒羽根15「あの・・・。先程の私への攻撃は反則では?」

 

神楽教官「それは無いわね。菖蒲は素手であなたに戦いを挑んだけど変身解除や徒手空拳は禁止されていないわ。ローブの有線操作は意外だったけど許容範囲ね」

 

黒羽根15「確かにそうですね・・・」

 

 黒羽根15は殴られた右の頬を押さえた。

 赤く染まっている事が自分でも直ぐに分かった。

 

みふゆ「大丈夫ですか?彩月さん。思いっ切り殴ったみたいですね」

 

黒羽根15「大丈夫です・・・。魔女にやられるよりはマシですから・・・」

 

 黒羽根15は無理やりに無表情を作っていた。

 

みふゆテレパシー(黒江さん・・・。無理はしないで下さい)

 

黒羽根15=黒江テレパシー(!? はい。大丈夫です)

 

 黒江がみふゆに促されて再び鏡面体に目を移した。

 

観鳥さん「意外な手に出ましたね。まさかローブの遠隔操作に素手での戦闘をするなんて」

 

神楽教官「菖蒲があそこまで徒手空拳に通じているのは意外だったわ」

 

ミユリ「そうです!そうです!」

 

時雨「これが半分なのかな?はぐむん」

 

はぐむ「うーん・・・。違うと思う」

 

神楽教官「恐らくこれからよ。二人共ここから目を離してはダメよ」

 

時雨 はぐむ「「はっはい!」」

 

 

 

□ 鏡面体内部

 

 

 

黒羽根3と黒羽根9は離れた場所に身を潜めながらも黒羽根15が倒された事は目撃していた。

 

黒羽根9(もう一人やられた・・・。まさかローブを遠隔操作して囮にするなんて・・・)

 

 黒羽根9は鉄骨からそっと顔を出して様子を窺った。

 既に彩月の姿は無かったが黒羽根3の位置は見えた。

 

黒羽根9テレパシー(相手の位置は分かる?)

 

黒羽根3テレパシー(すまない。見失った)

 

黒羽根9テレパシー(まだこっちには数の優位がある・・・)

 

黒羽根3テレパシー(それなら私が囮となろう)

 

黒羽根9テレパシー(えっ?)

 

黒羽根3テレパシー(私は黄羽根になる気は無い。黄羽根になるのはそちらでも構わない)

 

黒羽根9(ちょっと!?)

 

 そう言うと黒羽根3は鉄骨から姿を出した。

 鎖鎌を両手に構えて周囲を警戒している。

 

彩月(成程。囮役か。それなら速攻でやらせて貰うで!)

 

 一気に駆け出した彩月は鎖鎌を通して回収していた黄色いローブを身に纏い黒羽根3に向かって姿を見せて駆け出した!

 

黒羽根3(来た!)

 

 黒羽根3は迎撃の為に両手の鎖鎌を彩月に向かって放った!

 左右から向かって来る鎖鎌に対して彩月は自身の両手に構えていた鎖鎌を放った!

 彩月の放った鎖鎌は正確に黒羽根3の放った鎖鎌に命中して両者は鎖鎌を引っ込めた。

 

黒羽根3(まさか当てて来るなんて・・・)

 

彩月(こっからが・・・。覚悟を決めなアカンなあ・・・)

 

 彩月が黒羽根3との距離を詰めて行く!

 

黒羽根3(この距離なら!)

 

 黒羽根3は鎖鎌を構えて振り下ろして投げる体制に入った。

 

彩月(チャンスや!)

 

 相手の動きを見た彩月は一気に走るスピードを上げる!

 黒羽根3が鎖鎌を振り下ろそうとした瞬間に彩月は更に足に込めた力を増してスピードを上げた!

 

黒羽根3「!?」

 

彩月「いただきや!」

 

 戸惑いを見せる黒羽根3の振り下ろして放った鎖鎌にぶつかった彩月だったが意に介す事無く一気に黒羽根3の懐に近付いていた。

 黒羽根3は右手の鎖鎌を構えるが左手の鎖鎌は彩月にぶつかった反動で明後日の方向に飛んでしまって直ぐには戻せない。

 

彩月「!!」

 

 彩月は黒羽根3の右手で構えた鎖鎌を自身の鎖鎌で上手く引っ掛けて押さえると隙を見て銀色のペンダントを奪っていた。

 黒羽根3はその瞬間に鏡面体の外へ転送された。

 彩月はペンダントを奪うと同時にその場から離れていた。

 黒羽根9は一連の流れを見ていたが距離があり過ぎた為に駆け付ける事は出来なかった。

 

黒羽根9(アイツ・・・。半端者だと思っていたけど・・・)

 

 黒羽根9は自身の認識が甘かった事を痛感していた。

 しかし今はもう共に戦う仲間がいない。

 

黒羽根9(私一人でアイツに勝たないと・・・)

 

 覚悟を新たにした黒羽根9は周囲を警戒して彩月を探し始めていた。

 

 

 

□ ホテルフェントホープ地下訓練所

 

 

 

鏡面体の近くに黒羽根3は転送されていた。

 

黒羽根3「ごめん。やられたわ」

 

黒羽根15「それは私も同じだから・・・」

 

 二人の黒羽根は自分達の不甲斐なさを反省していた。

 

神楽教官「宮尾。安積。二人共分かったかしら?」

 

時雨「えっ?」

 

はぐむ「何をですか?」

 

神楽教官「今、菖蒲が行った行動があなた達と行った訓練の成果よ」

 

時雨「今のが?」

 

はぐむ「分からなかった・・・」

 

神楽教官「今、菖蒲はあの黒羽根の鎖鎌に激突したのはワザとよ」

 

時雨「え?どうして・・・」

 

神楽教官「菖蒲は相手が完全に鎖鎌を振り下ろす前に意図的にぶつかる事でダメージコントロールをしたのよ」

 

はぐむ「え?でもそれじゃ怪我するんじゃ・・・」

 

神楽教官「確かに怪我はするわね。でも振り下ろされた武器が最大の威力を発揮するのは振り切った時よ。振り切る前にこちらから当たってしまえば怪我の程度は低いわ」

 

時雨「あっ・・・。それで・・・」

 

神楽教官「勿論博打みたいな手段だからあなた達にはおすすめはしないわ」

 

はぐむ「ですよね・・・。そんな度胸無いですし」

 

ミユリ「ミユは燦様がやれって言ったらやれますよ!」

 

神楽教官「そんな命令しないから安心しなさい」

 

 

 

□ 鏡面体内部

 

 

 

両手から鎖鎌を出して周囲を警戒している黒羽根9。

 

黒羽根9(アイツはどこに・・・)

 

 一方で彩月も離れた場所で身体を休めていた。

 

彩月(二つは取れたが最後の一つは難しいなあー。何処におるんか分からないんじゃ探しようが無いで。下手に先に動けばウチが見つかってしまうもんなあ・・・。それなら・・・。下手な手を使うか)

 

 彩月はおもむろに鎖鎌を構えた。

 

彩月(・・・。そこや!)

 

 彩月は目星を付けていた何本かの鉄骨に向かって鎖鎌をぶつけて大きな音を発生させた。

 反響する音に驚いた黒羽根9だった。

 

黒羽根9(何の音!?でもこの音の先にアイツが!)

 

 鉄骨の間を駆け抜ける黒羽根9。

 その姿は彩月の目にも写った。

 

彩月「さてさて。やりますか!」

 

 彩月も黒羽根9の正面方向に向かって飛び降りて行く。

 

黒羽根9「!?」

 

 突然目の前に現れた彩月に驚きながらも武器の構えを崩さずに彩月に向けて来た。

 

黒羽根9「目の前に来たなら!」

 

 黒羽根9は鎖鎌を両手から放つ際に彩月の右側に集中して放った。

 

黒羽根9(アイツの右目はまだ完治していない筈!)

 

彩月「甘いで!」

 

 彩月は自身の右目側から来る鎖鎌を自身の鎖鎌で迎撃して見せた。

 

黒羽根9「なっ!?」

 

 彩月の右目側の視界が悪くなっていると思っていた黒羽根9は驚きを見せる。

 

彩月「まだまだやで!」

 

 彩月の鎖鎌と黒羽根9の鎖鎌がぶつかり合う。

 鉄骨を飛び移りながら一進一退の攻防を続ける二人。

 その様子を鏡面体の外から見る灯花とねむ、羽根の面々。

 

みふゆ「思ったんですけど・・・。彩月さんの右目って完治していますよね?」

 

時雨 はぐむ「え!?」

 

観鳥さん「さっき右目側からの攻撃を普通に捌いてますよね?視界に異常がある様に見えませんよね?」

 

神楽教官「確かにそうね。右目が光に過敏になっているとは言っていたけど何処まで本当何だか・・・」

 

ミユリ「ミユは全然気づかなかったです!です!」

 

一夜「でも歩く時に色々な場所にぶつかっていたりしてましたけど・・・」

 

ねむ「彩月の性格ならそれも演出の一環だったんじゃないのかな?」

 

灯花「もしかして・・・。この戦いその物が彩月の策略だったって事なのかにゃー?」

 

ねむ「あり得るかもね。でも・・・。だから彩月は面白い。楽しませてくれるよ。むふ」

 

時雨「じゃあ僕達が行った特訓って・・・」

 

はぐむ「意味があったのかな?」

 

神楽教官「意味はあったわ。さっき成果を見せたじゃない?」

 

時雨「でも・・・」

 

神楽教官「それにもしかしたら訓練中は確かに視界が悪かったのかも知れないわ。私が訓練を見た時には右目側の回避が上手く行ってなかったわ。あなた達との特訓で右目側の攻撃に対応出来る様になったと私は思うわ」

 

はぐむ「そうですよね・・・」

 

 

 

□ 鏡面体内部

 

 

 

彩月と黒羽根9の一進一退の攻防は続いている。

 

黒羽根9(くっ・・・。こいつ!右目の視界不良はウソだったのか!?)

 

彩月「右目が見えないと思うたんか?残念やったな。もう治っとるで」

 

黒羽根9「!!」

 

 まるで見透かしたかの様な彩月の言葉に苛立ちが募る黒羽根9。

 

黒羽根9「私の方が・・・。私の方が覚悟はある!」

 

 これまで以上の勢いで彩月に鎖鎌を立て続けにぶつけようとしていた。

 だが彩月はその攻撃を鎖鎌で防御して見せる。

 

黒羽根9「こいつ!こいつ!」

 

 彩月に向けられる黒羽根9の攻撃は勢いがあるが単調な物となって行く。

 単調な攻撃であればある程、彩月には当たらない。

 

彩月(そろそろ仕掛けるか・・・)

 

 今度は彩月が黒羽根9の右側に向かって駆け出す。

 攻撃を交わしながらも彩月は黒羽根9の右側だけに居続ける。

 

黒羽根9「ふざけてばかり!」

 

 黒羽根9は自身から見て右側にいる彩月に向かって両手の鎖鎌を同時に放った!

 

彩月(今や!)

 

 彩月は右手から放った鎖を渦状に放つと黒羽根9が放った両手の鎖鎌を絡め捕った。

 

黒羽根9「なっ!?」

 

彩月「これで勝負ありやな」

 

 彩月の右手から放たれた鎖鎌によって両手の武器を塞がれた黒羽根9はその場に膝を付いていた。

 

 

 

 鏡面体の外では他のメンバーが彩月と黒羽根9の戦いの顛末を目撃していた。

 

神楽教官「勝負あったわね」

 

観鳥さん「うん。あの鎖鎌の動きは見事だね」

 

ミユリ「ミユにも真似出来ないです!です!」

 

黒羽根15「・・・・・」

 

黒羽根3「・・・・・」

 

時雨「僕達・・・。役に立てたのかな?」

 

はぐむ「役に立てたみたいだね」

 

一夜「彩月さん・・・・」

 

ナナツメ「言った通りだろう。彩月は弱く無い」

 

ねむ「そうだね。面白い物を見せて貰ったよ。むふ」

 

灯花「そうだねー。彩月の強さも十分に示せたしねー」

 

みふゆ「ワタシもこれで十分だと思います。彩月さんの実力は良く分かりました」

 

 

 

 鏡面体の内部で彩月に武器の動きの押さえられた黒羽根9。

 

彩月「じゃあペンダントを頂くで」

 

 黒羽根9へ近づく彩月。

 

黒羽根9(このままじゃ・・・。このままじゃ終われない・・・)

 

 黒羽根9の脳裏に自分の街で起こった出来事が思い出される。

 戦いの中で死んで行く味方と敵。

 その光景を呆然と見る自信の眼前で対峙する金棒を持つ魔法少女と銃の様な武器を構える魔法少女。

 

黒羽根9(そうだ・・・。私はここで終われないんだ・・・・!)

 

 その時、黒羽根9がローブを脱ぐとその姿を露わにした。

 赤と黒を基調としたフードジャケットにマスクで口元を覆っている。

 その手には固有武器であるチェーンソーが握られていた!

 

黒羽根9「これで!」

 

 走り出した黒羽根9が持つチェーンソーの刃は高速回転して彩月に向けられる!

 

 

 

 鏡面体の外にいたメンバーもこの凶行を見ていた。

 

神楽教官「いけない!」

 

みんな「!?」

 

黒羽根15「そんな!?」

 

黒羽根3(これは・・・)

 

 

 

彩月「!!」

 

 慌てる素振りすら見せずに彩月は黒羽根9のローブを搦めていた右手の鎖鎌を視界確保の為に上に勢いを付けて向けると、左手からもう一方の鎖鎌を出すとチェーンソーに向かって放った。彩月の鎖鎌の刃はチェーンソーの回転する刃に弾かれてしまう。

 それを見て笑みが出るのを黒羽根9は抑えられなかった。

 

黒羽根9(取った!)

 

 後僅かでチェーンソーの刃が彩月の右肩に触れそうになる。

 その時、彩月の右肩にチェーンソーの刃が触れて痛みが走ろうとした時にチェーンソーを固い何かが弾いた。

 

黒羽根9(!? 固い!?)

 

彩月「!?」

 

 予想外の感触に驚く黒羽根9と同時に彩月も驚きを感じたが瞬時に思考を切り替えた。

 

彩月(!? 何や今の!けど!)

 

 彩月は慌てる事無く左手の鎖鎌の鎖に魔力を送って鎖鎌の速度を増して動かした。

 

黒羽根9「なっ!?」

 

 すると彩月の鎖鎌は魔力を帯びて一気に加速してチェーンソーを真横から黒羽根9ごと巻き付いて拘束した。チェーンソーの刃が彩月の身体に僅かに触れて傷付いていた。

 

彩月「・・・。甘いなあ。左があるのを忘れたんか?」

 

黒羽根9「・・・・・」

 

 彩月は悔しさから何も言えない黒羽根9の胸元から銀色のペンダントを取り上げた。

 その瞬間に彩月と黒羽根9は鏡面体の外へと戻された。

 

彩月「やあ皆さんお揃いで。楽しんで貰えましたかい?」

 

 鏡面体の外にはこの戦いを見ていたメンバーが驚愕の表情を見せていた。

 

みふゆ「彩月さん!胸の傷は!?」

 

彩月「うん?ああ。血が出とったんかいな?気付かんかったわ」

 

 みふゆの指摘で彩月が胸を見ると少しだけ切れて血が出ていた。

 

ねむ「興奮していると傷の痛みは鈍くなるモノだからね」

 

彩月「魔力で回復すれば平気やろ」

 

 彩月は自身の右肩に借り物の魔力を込めて傷を治した。

 その時に拘束していた黒羽根9を解放してローブを返した。

 

一夜「彩月さん。大丈夫なの?」

 

彩月「平気や。こういう事も慣れとかんとな。例え半端者でもなあ」

 

一夜「・・・・・・・・」

 

ナナツメ「気に病むな。戦うのなら必要な事だ」

 

 珍しくナナツメは一夜にそっと囁いた。

 その時、神楽教官は茫然と地面に座り込んでいるに近付くとその顔を思い切り平手打ちした。

 

黒羽根9「うっ」

 

神楽教官「何故ルールを破ったのかしら?ローブに搭載されている鎖鎌だけを使う様に言った筈よ」

 

 静かに語る神楽教官だが声色から怒っているのは明白だった。

 

ミユリ「ヒイ・・・。燦様が本気で怒っているです!です!」

 

はぐむ「教官は静かに怒っている時が一番怖いよね・・・」

 

時雨「うん・・・。聞いてるだけでも怖いよ」

 

 ミユリとはぐむ、時雨は身体を震わせていた。

 既に3人は神楽教官が本気怒っているのを目撃していたからだ。

 

黒羽根9「・・・。どうしても勝ちたかったからです」

 

神楽教官「だったら尚更あなたは黒羽根のままね。命令も聞けない羽根は必要だと思う?」

 

黒羽根9「思いません・・・」

 

神楽教官「反省しなさい。もし本気で上を目指したいのなら」

 

黒羽根9「はい・・・・・」

 

彩月「ねむ様。ウチの強さ見とってくれたかあ?」

 

ねむ「うん。中々だったね。彩月はやはり黄羽根として残留だね」

 

彩月「そうやろ。そうやろ。ウチはこんなに強いんやから」

 

灯花「それで一つ聞きたいんだけど、今回の戦いも彩月の計算だったのかにゃー?」

 

彩月「うーん。灯花様はどっちがええんや?灯花様のお好きな方で」

 

灯花「ふざけてるのかにゃー?」

 

 少しむくれる灯花。

 

彩月「まあ今回の事は別に計算していないで。偶然や」

 

 凄まじく胡散臭い笑顔で答える彩月。

 

灯花「彩月が言うと偶然に思えないにゃー。まあ偶然と言う事にしとくにゃー」

 

観鳥さん「彩月さん。良い写真が撮れたから感謝するよ」

 

彩月「お役に立てたんなら喜ばしいなあ」

 

 その時、黒羽根9の元へ黒羽根3と黒羽根15が来ていた。

 

黒羽根3「すまない。力にはなれなかった」

 

黒羽根15「私もごめんなさい・・・」

 

 二人の謝罪に首を振る黒羽根9.

 

黒羽根9「謝らなくて良いわ。言い出した私も勝てなかったから・・・。正直・・・。黄羽根を・・・。菖蒲彩月を甘く見てた・・・」

 

 ローブを着て黒羽根姿に戻った黒羽根9。

 

黒羽根9(勝てなかった・・・。私の努力が足りなかったの・・・。違う・・・。どんなに才能や経験があっても負ける事はある。世の中は理不尽で当たり前なんだから・・・。命は理不尽に消えるのが当たり前なんだから・・・)

 

 

 

 黒羽根9の脳裏に走るイメージ。

 地に付して命を失った多くの少女。

 その傍で戦い続ける魔法少女達。

 飛び交う金棒、火炎放射器、短剣、斧、クレーンアーム、様々な武器。

 血と屍を踏みにじり戦い続けた彼女の街。

 

 

 

黒羽根9(私は・・・。ただあの血の惨劇の起きたあの街から逃げたかっただけだった・・・)

 

黒羽根15「!? ちょっと大丈夫ですか?」

 

黒羽根9「えっ?」

 

黒羽根3「穢れが・・・」

 

 黒羽根15に指摘されて黒羽根9は自身のソウルジェムに穢れが溜まっていた事に気が付いた。

 

黒羽根9(どうしよう。グリーフシードは・・・。無かった)

 

ねむ「ふむ。穢れが溜まっていたみたいだね」

 

灯花「ここでドッペルを出しても大丈夫なの?ねむ」

 

ねむ「大丈夫は大丈夫だけど・・・。ドッペルはどんな効果を持っているか分からないからね」

 

みふゆ「でしたらアリナから借りていたキューブに一時的に彼女を収容しますか?」

 

 みふゆは手にアリナから借りたキューブを取り出した。

 

彩月「そんなんせんでもええやろ。ほい」

 

 言いながら彩月は黒羽根9に近付くとグリーフシードを差し出した。

 

黒羽根9「何を?」

 

 困惑した様子を見せる黒羽根9。

 

彩月「使っとき。そのままだとヤバいで」

 

黒羽根9「・・・・・」

 

 躊躇う様子を見せる黒羽根9。

 

ねむ「彩月。そのグリーフシードはどうしたんだい?」

 

彩月「ああ。これなら別に倉庫から盗んだ訳やないで。風見野市で倒した魔女から頂いたんや」

 

神楽教官「菖蒲!あなた魔女を一人で倒したの!?」

 

彩月「まあまあ骨は折れたけど倒したで」

 

一夜(彩月さん。魔女を一人で倒せたんだ・・・。何だか差を感じるな・・・)

 

観鳥さん「また記事になりそうなネタを提供してくれたね・・・」

 

黒羽根15「それよりグリーフシードを使った方が・・・」

 

黒羽根9「でも私は・・・」

 

彩月「これはウチとの戦いの報酬と考えりゃええんやないか?使ってくれるんならさっきの事は水に流すで」

 

黒羽根9「・・・。分かりました。使わせて貰います」

 

 黒羽根9は彩月からグリーフシードを受け取るとソウルジェムから穢れを浄化した。

 

黒羽根9「・・・。礼は言わないでおきます。今は言いたくないので」

 

彩月「構へん。構へん。ウチが好きでした事や」

 

 彩月は手を出して黒羽根9から浄化に使用したグリーフシードを回収した。

 

ねむ「この事は大目に見る事にするよ。彩月」

 

灯花「本当だったら未使用のグリーフシードは計画の為に回収したいんだけどねー」

 

彩月「まあまあ。これは浄化しまくって魔女を出現させればええんやないですか?」

 

ねむ「君は本当に発想が奇抜だね。だから面白いんだよ。むふ」

 

彩月「それはそうとねむ様。一つ提案があるんやけど良いでっか?」

 

ねむ「何だい?」

 

彩月「彼女をウチがお出かけしている間の一夜さんの護衛役にするんはどうでっか?」

 

 彩月はそう言って黒羽根9を手で示した。

 

黒羽根9「え!?」

 

全員「えっ!?」

 

ねむ「それは黄羽根にすると言う訳では無くて君がいない間の護衛役と言う意味かい?」

 

彩月「そうやでー。ウチに負けた以上、黄羽根には出来なくてもウチがお出かけしている間の一夜さんの護衛役にはええんやないですか?」

 

神楽教官「何故彼女を推薦するの?今の戦いでルールを破った以上、私には指示に従う事が出来るとは思えないわ」

 

彩月「そう思われても仕方ないやろ。そこは。けど勝つ為にルールを無視してでも勝ちに行くその姿勢が・・・。ウチは評価するで」

 

 神楽教官の忠告を余所に満面の笑みを見せる彩月。

 そこには恨みや怒りが無く純粋に笑っていた。

 

全員「うっ!?」

 

 ドン引きするその場にいる全員。

 

ねむ「彩月の言う事も一理あるね。君はどうなんだい?君が良いなら彩月のいない間の護衛役を任せたいんだけど」

 

 ねむは黒羽根9に向かって告げた。

 

黒羽根9「・・・。分かりました。その話はお受けします」

 

ねむ「うん。良い心がけだね」

 

彩月「ウチの見る目は凄いでー」

 

ねむ「本当に君は変わっているね」

 

彩月「そうやろー。それがウチの持ち味なんやから」

 

みふゆ「本当に黄羽根は個性的ですね・・・」

 

神楽教官「そうですね。個性が強すぎて兵隊としては問題ですけど」

 

観鳥さん「被写体としては凄く魅力的ですけどね」

 

灯花「彩月はやっぱり変わっているにゃー」

 

一夜(なんだかアタシと彩月さんって凄く差が出ている様な・・・)

 

 表情を曇らせる一夜。

 それに気が付いたねむはテレパシーを送った。

 

ねむテレパシー(一夜。彩月が魔女を倒した事は気にしなくて良いよ。そもそも君と一夜、ナナツメは役割が違うんだから。一夜は道具作り。ナナツメと彩月は護衛。そうした適材適所で働いて貰っているんだから)

 

一夜テレパシー(はっはい)

 

 

 

□ ホテルフェントホープ エントランス

 

 

 

エントランスにあるソファーに座っている黒羽根9と黒羽根3と黒羽根15。

 

黒羽根9「ごめんなさい。あなた達を巻き込んでしまって」

 

黒羽根3「気にしなくて良いです。いい経験になりました」

 

黒羽根15「はい。私も良い経験になったと思います。それよりも・・・」

 

黒羽根9「それよりも?」

 

黒羽根15「一夜さんの護衛をして貰うって言ってますけど、何かあるんでしょうか?」

 

黒羽根9「そうよね。菖蒲彩月がお出かけをするから代わりに護衛をして貰うと言っていたけど・・・」

 

黒羽根3「きっと何か仕事があるのだろう。普段と特に変わる事はないのでは?」

 

黒羽根9「そうだよね・・・。じゃあ特に気にする事はないか・・・」

 

黒羽根15「普段通りに仕事をこなせば良いんですよ」

 

黒羽根3「そうだ・・・。すまない。私はそろそろ用事があるから失礼する」

 

黒羽根15「私も別件で仕事を頼まれたので」

 

黒羽根9「私も呼び出しがある。このお礼はいつかする」

 

黒羽根3「わかった」

 

黒羽根15「それじゃ・・・。いつかまた」

 

3人の黒羽根はお互いの名前も知る事無く分かれた。

 

 

 

□ ホテルフェントホープ ねむの私室

 

 

 

ねむの私室にはナナツメと一夜、彩月が集まっていた。

 

ねむ「それじゃあ今度の日曜日に僕とナナツメ、それに彩月が宿北へ行く事にするから。一夜はホテルフェントホープに待機で。あの黒羽根が彩月の代わりに一夜の護衛をして貰うから」

 

一夜「はい・・・。あの気を付けて下さい・・・」

 

彩月「大丈夫やで。ウチがちゃーんとねむ様を守るさかい」

 

ナナツメ「小生もいる。ねむ様は小生が守る」

 

彩月「ウチの事は?」

 

ナナツメ「命令があれば・・・」

 

ねむ「まあ基本は僕の護衛を優先して貰うけど、彩月の事も助けさせるよ。なるべくは」

 

彩月「心配いらへんで。ウチはたぶん死なないで」

 

ねむ「君が死なないと言うと不安だよ」

 

彩月「心配あらへんってー」

 

一夜(大丈夫なのかな・・・)

 

 一夜の不安を余所に宿北での戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

□ ホテルフェントホープ 彩月の私室

 

 

 

私室に戻った彩月はローブを脱いで部屋にある姿見の前に立っていた。

 

彩月(さっき・・・。何が起きたんや?ウチはあの時、魔法を使こうてない。けどあの時、右肩がチェーンソーの刃で傷付いた時に何かが弾いていたなあ。誰も気づかなかったようやけど)

 

 彩月は服をはだけて右肩の傷跡を見ようとした。

 借り物の魔力で治したと言ってもちゃんと治せたかは見ていないからだ。

 

彩月「さてさて。傷は・・・!? なんやこれ」

 

 姿見に写る彩月の右肩には小さく星形の魔法陣が刻まれていた。

 だが直ぐに消えてしまった。

 

彩月(なんやこれ?ウチはこんな魔法使えへんで・・・。それにこの魔力・・・。何の違和感もない・・・。まるで・・・)

 

???(同じ魔力だから当然よ)

 

彩月「なっ!?」

 

 彩月の頭の中に声が流れる。

 しかしテレパシー特有の魔力反応を感じる事が出来ない。

 

???(まだ分からないの?あたしはあんたが借りている魔力の持ち主なんだけど?)

 

 言われて彩月は自分の指に付けているソウルジェムの指輪を見た。

 

彩月(成程。そう言う事かいな。んであんさんは何者なんや?)

 

???(あたしはこまち。星霧こまちよ。かつてマギウスの翼で反逆を起こした魔法少女の成れの果てよ)

 

 そう言われて彩月はかつてマギウスの翼内部で反逆を起こした4人の魔法少女がいたと言う話を思い出した。

 彩月の使う借り物のソウルジェムは、反逆の際にソウルジェムだけになった4人の反逆者の物なのだから。

 

彩月(ああ。例の反逆者さんか・・・。でも随分と落ち着いとるんやな?まるでずっと起きていたみたいに・・・!)

 

 そこまで話して彩月は気が付いた。

 

彩月(ずっと起きとったって事か?)

 

???=こまち(ずっとじゃない。あたしのソウルジェムがあなたと接続してあなたが魔力を使えば使う程、あたしの意識が覚醒していった。ここ数ヵ月はずっと目を覚ましていたよ)

 

彩月(どっから目を覚ましていたんや?)

 

こまち(アンタがミラーズで無茶をした所)

 

彩月(ああ・・・。あの時かあ・・・)

 

 かつて彩月は一夜を連れてミラーズに行き、神浜市の魔法少女3人に助けられた事があった。

(外伝3 一夜と彩月の対人特訓編における出来事)

 

彩月(なるほどなあ。じゃあ今日の右肩のも)

 

こまち(あたしが咄嗟に魔法陣を出したからよ。感謝しなさい)

 

彩月(まあそれなりに感謝しとくでー。んで、何が目的や?)

 

こまち(・・・・。単純な話よ。アタシは自由になりたいのよ。いつまでもアンタの身体に同居したく無いって事よ)

 

彩月(そりゃ無理な話やろ。あんさんの身体はもう灰になってもうたで)

 

こまち(そうね。でも何か方法はあるでしょ?本当なら嫌だけど死体と接続するとか)

 

彩月(そんな事をしてウチに何か得があるんか?)

 

こまち(やった方があなたの為だと思うけど。越馬一夜を見てれば)

 

 その言葉に彩月はハッとした表情を見せた。

 

彩月(!! うっかりしとったなあ。確かにそうやな)

 

こまち(そうよ。このままだとあたしがあなたの身体を乗っ取る事が出来るかも知れないって事、越馬一夜を見ていれば分かるでしょ?)

 

彩月(そうやな。ウチはこまちさんのソウルジェムから出る魔力だけをコントロールしとる。一夜さんのソウルジェムは朱奈さんの身体を動かしとる。真逆の存在やな。と言う事はつまり・・・)

 

こまち(柊ねむは、それを見越してたんじゃないの?)

 

彩月(まあそうやろなあ。真逆の実験体な訳やし、ねむ様の事やからそうなったらそうなったでおもろいと思うたんやろ)

 

こまち(思ったより冷めているのね)

 

彩月(まあ少しは・・・。驚いとるけど、その可能性に気が付かんかった自分にムカついとるで。まあ・・・。それも含めて好きにさせて貰おうかいな)

 

こまち(どう言う意味?)

 

彩月(まあこまちさんの事はおいおい考えさせて貰うで。今のウチには解決出来る手段が無いんやからな。でも将来的には別やろ)

 

こまち(じゃあ、あたしもアンタに死なれたら困るから死なない様に手を打たせて貰うわ)

 

彩月(今日みたいに守ってくれるんか?ありがたいなあ)

 

こまち(勘違いしないで。あたしが自由になれるまでは手を貸すってだけよ。それまでは眠らせて貰うわ)

 

 そう言ってこまちの意識が眠りに付いたのを彩月は感じ取った。

 

彩月「世の中分からんモノやなあ」

 

 心底面白そうに彩月は呟いていた。

 




今回の話はマギウスでの評判の悪い彩月の努力を描く話と言えます。
 黒羽根15は黒江です。
 黒江は神浜市でのメイン一部8章以降の戦いには参加していませんがこの時は確実にマギウスの翼にいたので戦いに参加させました。
 黒江に関してはメイン一部以降の存命は確認されているのでもしかしたらもう少し登場するかも知れません。



 なお彩月の持っているソウルジェムの持ち主、こまち。
 彼女は魔法少女まどか☆マギカモバゲー版に登場したキャラクターです。
 苗字の星霧はオリジナルで付けました。
 そしてこまちがマギウスの翼で反逆を起こした魔法少女4人の一人と言う事は後の3人の正体は・・・。
 なお彩月の持つソウルジェムの正体がこまちなのは最初から決めていました。
 次回はメイン一部6章の直後に起こった出来事、宿北編を書いて行きます。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。