マギアレコード 偽書e/s memorys 作:ジャックノルテ
□ 神浜市内 大東区 観覧車草原
観覧車草原で敵味方に分かれて対峙している数十人の魔法少女。
マギウスの翼に属する数人の白羽根、黒羽根。
マギウスである里美灯花、アリナ・グレイ。
幹部である梓みふゆ、白羽根である天音月夜と月咲。
そしてマギウスの翼と対立する環いろは。
神浜市西の実力者である七海やちよ、由比鶴乃、深月フェリシア、二葉さな、十咎ももこ、水波レナ、秋野かえで。
最後に神浜市東の実力者である和泉十七夜(いずみかなぎ)。
観覧車草原にある観覧車の骨組みの上に座り込んで眼下の草原で起きた出来事を確認した魔法少女姿の柊ねむ。
その横にはウワサを神浜市内に流行らせる役割のウワサさんもいる。
ねむ「さて。灯花が爆発する前にウワサさん。少しだけ注意を引いて貰えるかな」
言いながらねむはウワサさんを見た。
その瞬間にウワサさんがキレーションランドのウワサの口上文を周囲に響く声で囁いた。
ねむ(まさかと思ったけどキレーションランドのウワサが倒されるなんてね・・・。宿北でのトラブルが解消されたばかりなのに本当に厄介な事だよ・・・。どうやら僕も彼女達に宣戦布告する必要があるみたいだね)
ウワサさんの口上にその場にいる魔法少女全員が注目する中で灯花に呼ばれた瞬間にねむは草原にウワサさんと降り立った。
一見すると無警戒に姿を見せたと思わせたが手は打っていた。
ねむテレパシー(ナナツメ。もし彼女達が僕に危害を加えようとしたら・・・)
観覧車の土台の影には黄色いローブを身に纏ったナナツメが潜んでいた。
ナナツメテレパシー(護衛として心得ています)
ねむ(だからこそ僕は彼女達に宣戦布告する事が出来る。この為に犠牲となった者の為にも・・・)
ねむの心の一部はここに至るまでの出来事を思い出していた。
□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 会議室 数日前
会議室にはテーブルを挟んで梓みふゆ、白羽根姿の観鳥さん、神楽教官。
そして黒羽根姿の牧野郁美、遊狩ミユリ、保澄雫の6人が集まっていた。
この会議は限られたメンバーだけで集まっている為、全員ローブを脱いで素顔を晒していた。
みふゆ「では宿北での作戦はこれで行きましょう」
観鳥さん「これなら観鳥さんの攻撃も活かせるから問題無いね」
神楽教官「ええ。私もいるから大丈夫よ。それにしても人間を使い魔に作り替える魔女・・・。流石に放置する事は出来ないわね」
ミユリ「です!です!これもマギウスの翼としての立派な行動です!」
郁美「家族が巻き込まれたらと思うと・・・。放ってはおけません」
みふゆ「保澄さん。あなたの固有魔法が鍵です。負担の大きい役割ですがよろしくお願いします」
保澄雫「はい。頑張ってみます」
神楽教官「ところでねむ様とナナツメはともかくとして菖蒲も遠征には参加するんですよね?菖蒲は何処に?」
神楽教官が会議場を見渡しても菖蒲彩月の姿は無かった。
みふゆ「彩月さんなら宿北に偵察に行って貰っています」
神楽教官「えっ!?菖蒲が偵察ですか?」
観鳥さん「何だか観鳥さんは心配だね。余計なちょっかいを出しそうに思えるし」
みふゆ「その事なら同行者がいるから大丈夫です」
郁美「誰が同行しているんですか?」
みふゆ「今、手が空いているのは彼女だけですからね。本当なら彼女に動いて貰うのは本意ではありませんが・・・」
観鳥さん「ああ・・・。でも確かに彼女なら彩月さんを押さえられるかもね」
神楽教官「そうね。彼女なら問題ないわ」
観鳥さんと神楽教官はみふゆの言う彼女が誰なのか直ぐに分かった様子を見せていた。
ミユリ「燦様。一体誰の事を言っているのですか?」
神楽教官「彼女はマギウスの聖女。神浜聖女と言えばあなたにも分かるでしょう?」
ミユリ「あっ・・・」
観鳥さん「聖女様は誰にでも優しいからね」
□ 宿北 廃工場付近建物の屋上 数日前の同時刻
その頃、宿北にある廃工場の屋上にいる彩月は廃工場付近の様子を窺っていた。
彩月「つまらんなー。様子見だけなんて・・・。退屈やしちょーとばかしちょっかい出してもええと思うんやけどなー」
言いながら右手を指鉄砲にして廃工場に向ける彩月。
??「駄目よ。言ったでしょう?今日は偵察だけなんだから」
彩月「厳しいなー。巴さんは」
彩月の視線の先には制服姿の巴マミが立っている。
彼女は今、神浜聖女としてマギウスの翼に加わっている。
組織での地位はみふゆに次ぐと言ってもいい。
??=巴マミ「確かに私は厳しいかも知れないけど彩月さんも少しふざけ過ぎよ。ここで騒ぎを起こしたら相手が潜伏するかも知れないでしょ?」
彩月「そうやな。ウチが暴れるチャンスが無くなってしまうもんなあ」
マミ「そうね。あなたが戦いたいと言うのなら私には止める権利が無いわ。私としてはあなたに怪我して欲しくは無いのだけど・・・」
彩月「けどなあ。前回あんな風に逃げた以上、今度こそ相手に一泡ふかせへんとなあ」
マミ「頼むから無茶はしないで。あなたが傷付いて悲しむ人もいるでしょう?」
彩月「いるのかなあ?そんな相手。でも巴さんの言葉は胸に響いたで」
マミ「じゃあ帰りましょう。偵察はここまでで良いわ。」
彩月「そうやな。じゃあ帰りましょうか。なんかお土産でも買うて行きますか?」
マミ「そうね。そう言えばフェントホープの紅茶とお茶菓子が減っていたから補充して行きましょうか」
マミは作られた笑顔を彩月に向けている。
彩月(ワザとらしい笑顔や。いや。笑顔にするように言われとるんかな?)
その笑顔を彩月は余り好まなかったが態度にそれは出さなかった。
彩月「聖女様の仰せのままに。ウチは荷物持ちでも構へんで」
マミ「戻ったらみんなでお茶会をしましょうか」
彩月「そりゃええな」
お茶会その物を嫌っていない彩月は本心からそう答えていた。
彩月とマミは買い物の為に宿北を後にした。
□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 数日前の地下室
その頃、越馬一夜はホテルフェントホープの地下室にいた。
黄色いローブを着て一夜は地下室に設置されたテーブルを使って壁抜け魔法を試そうとしていた。
一夜「えい!」
一夜は自身の魔力を円状に広げてテーブルの上に広げた。
一夜「これで・・・」
一夜はテーブルの上に広げた自身の魔力の上に持っていたビー玉を乗せた。
しかしビー玉はそのままだった。
一夜「やっぱり上手く行かない・・・。何が足りないんだろう?円状に魔法陣を作ったのに・・・」
本来ならビー玉は一夜の作った魔法陣をすり抜ける筈だったのだ。
一夜「どうして出来ないんだろう?アタシに何が足りないんだろう・・・」
一夜はずっと特訓しているがこの壁抜け魔法を自分の物にする事が出来なかった。
彩月「一夜さーん。やっとるかー」
そこへ彩月が地下室に顔を出して来た。
彩月「なんや。また特訓しとるんか。どうや?成果は」
一夜「全然駄目だよ。壁抜けなんて全然出来ない・・・」
彩月「何が足りないんやろな?魔法陣は作ったのに」
一夜「まだ何か足りない気がする・・・」
彩月「何が足りないんやろうなー。ウチにある筒地綾女の知識は不完全やしなー」
一夜「何が足りないんだろう・・・」
マミ「それは単純に魔法陣の出力が足りないんじゃないかしら?」
彩月に続いてマミが顔を出した。
彩月「マミさん!」
一夜「マミさん!?」
既にマミはマギウスの翼においても実力者として信頼を得ていた。
マミ「一夜さん。あなたの魔法陣には単純な話して外側からの魔力が足りていない様に私には思えるわ」
一夜「じゃあどうすれば・・」
マミ「そうね。私個人の見解だけど・・・。たとえば魔力を通しやすい物があればそれを媒体とする事によってあなたの言う壁抜けは出来るかも知れないわ」
一夜「何を媒体にすれば・・・」
彩月「それならその黄色いローブの両袖に付けられた鎖鎌が丁度ええやろ」
一夜「あっ。そっか。この鎖鎌はアタシが作った物だからアタシの魔力を通しやすい筈・・・」
彩月「やってみるとええで」
マミ「ええ。一夜さん。あなたなら出来るわ」
マミに促されて一夜はテーブルの上に鎖鎌を円状に広げた。
円の内部で鎖が交錯して*の字を作っている。
彩月「まあ魔法陣としては上出来やろ」
マミ「そうね。後は・・・」
そう言いながらマミは一夜の背後から一夜の両肩に手を回した。
マミ「私も補助してあげるからやってみて」
一夜「はい!」
彩月(マミさん。大胆やな。後ろから抱き付いてる風にしか見えへん)
マミに励まされて一夜の魔力が魔法陣によって安定して行くのが彩月にも見えた。
その瞬間にテーブルの上に置かれていたビー玉がそのまま地面に落ちたのが全員の目に写った。
一夜「やった・・・。ようやく出来た!」
彩月「やったな一夜さん!これなら」
一夜「えっ」
言いながら彩月はテーブルの上に右手を躊躇い無く置こうとした。
彩月の手はテーブルをすり抜けていた。
一夜「彩月さん。大丈夫?」
彩月「大丈夫やで。これなら人がすり抜けるのも大丈夫みたいやな」
マミ「でも彩月さん。いきなり手をすり抜けさせる事は無いと思うわよ。一夜さんもびっくりしてしまっているわ」
彩月「そうやな。けどもし出来そうならやってみたかったんや」
マミ「でも・・・。もし手が抜けるのが途中で止まったらどうするつもりだったの?」
彩月「そら考えなかったわ。ゾッとするなあ」
そう言いながらも彩月は余り深刻な表情を見せなかった。
ねむ「そうだね。マミの言う通りだよ」
ナナツメ「・・・・・・・」
そこへねむがナナツメを伴って地下室に来た。
ねむ「実験と言うのはきちんとした手順と検証が重要だよ。まあ今回は彩月が手順を無視して実行してくれたからね。成功した様だし次に行ってみようか」
彩月「次ってなんや?」
ねむ「次は彩月に全身で試して貰おうかな?むふ」
一夜「えっ!?」
ねむ「元々ナナツメに頼もうと思っていたけど手間が省けたね。早速検証してみようか。彩月」
ねむの口元には薄い笑みが浮かんでいる。
彩月(これ・・・。断れないやつやん・・・)
彩月はチラッと視線を泳がす。
マミは少し呆れた表情を見せていた。
ナナツメは無表情に周囲を観察していた。
一夜は少しどうしようと言う顔を見せていた。
彩月「まあ・・・。これも必要な事やしな。やりましょう!」
それを聞いたナナツメは黙って地下倉庫の壁に立てかけられていた巨大な板を一夜の前に持って行った。
ねむ「うん。良い返事だね。むふ。一夜。準備をして」
ねむは彩月の覚悟に笑みを浮かべていた。
一夜「わっ分かりました・・・」
一夜はねむに促されて巨大な板に魔法陣を展開する。
彩月「じゃあ早速!」
それを見て彩月は躊躇なく巨大な板に展開された魔法陣へと走り出した。
全員「「!!」」
全員の見つめる中で彩月は板をすり抜けて魔法陣から無事に出て来るのだった。
□ ホテルフェントホープ 一夜の私室 数日前の夜
ベッドに二人で隣り合って座る一夜と彩月。
彩月「はあー。酷い目におうたで」
一夜「でも彩月さんのお陰で壁抜けが誰でも出来る事が検証出来たし・・・」
彩月「それでも飛び込むのは勇気がいるんやで。ぶっちゃけ失敗したらどうなるか分からなかった訳やしなあ・・・。まあ成功の為には失敗も必要やけどな」
一夜「うん・・・彩月さんのお陰でアタシ・・・。少し自信が付いたかも・・・」
彩月「それは良かったなあ」
一夜「アタシはねむ様の役に立ててるんだってようやく思えたから」
彩月(一夜さんの能力なら十分に役に立っているやろ)
彩月「けどなあ・・・。一夜さん。今のままでええんか?」
一夜「えっ?」
彩月「酷な事を言うんやけど、その身体は朱奈さんの身体やろ」
一夜「あっ」
彩月「いつかは返さなあかんやろ」
一夜「アタシ・・・・・」
一夜と彩月の間に訪れる沈黙。
彩月「一夜さん。その事から目を背けたらあかんで」
冷ややかとも取れる発言をすると立ち上がり一夜の部屋から出て行こうとする彩月。
彩月「いつかは分かる事なんやからな。ウチだって借り物の魔法のままで・・・。いたい訳やない」
出て行く前に後姿のまま彩月はそう言い残して行った。
一夜「アタシ・・・・・。何も考えてなかった・・・」
しばらく茫然としていた一夜だったが、部屋に近付く魔力反応に気が付いた。
一夜(この魔力反応・・・!)
一夜がドアを開くとそこには隣の部屋に入ろうとする黄色いローブ姿のナナツメの姿があった。
一夜「ナナツメさん!」
ナナツメ「どうした。小生に何か用か?」
一夜「聞いて欲しい事があるんです・・・」
一夜は先程行った彩月との会話をナナツメに話した。
ナナツメ「話は分かった。だが小生に話してどうする?」
一夜「えっ?」
ナナツメ「小生には助言は出来ない。出来るのは彩月を痛めつけるだけだ」
ナナツメは手に鎖鎌を出現させて見せる。
一夜「待って!!ごめんなさい・・・。アタシ・・・。ただ誰かに話を聞いて欲しくて・・・」
ナナツメ「そうか。だが話すなら小生よりねむ様の方が良いのではないか?」
一夜「そうですけど・・・」
ナナツメ「ねむ様なら今日はフェントホープの私室にいる。訪ねてみるが良い」
そう言ってナナツメは自室に入って行った。
一夜(ナナツメさんの言う通りかも知れない・・。ねむ様の所へ行ってみよう)
一夜はその足でねむの私室に向かった。
この私室エリアはマギウスと白羽根、黄羽根の部屋のみで構成されている。
更に警護の黒羽根もエリアの入り口に常駐していると言うホテルフェントホープの中でも特に警戒の厳しい区域でもある。
しかし黄羽根である一夜がねむを訪ねる事に特に問題は無かった。
ねむの部屋の前に付いた一夜。
部屋のドアの隣に付けられたインターフォンを押した。
電子音が鳴ると暫くして中から足音が聞こえた。
ねむ「一夜。どうしたんだい?」
一夜「ねむ様。少し話したい事があるんですけどよろしいですか?」
ねむ「良いよ。今ドアを開けるよ」
ドアを開いた寝巻き姿のねむは一夜の表情を見て何かを察したらしい。
ねむ「何か重い話をするみたいだね。立ち話は僕が辛いから中で話そう」
ねむに促されて一夜はねむの部屋に入った。
無数の本が収納された巨大な本棚が壁にぎっしりと並ぶ中で真ん中にあるベッドの上に二人で並んで座った。
ねむ「それで何を話したいんだい?」
一夜「実は・・・・・・」
一夜は先程の彩月との会話をそのまま話した。
最初にナナツメと話してここに来る事にした事も含めて。
ねむ「成程。話は分かったよ。彩月の言う事は少し問題だね」
ねむの表情には一夜でも分かる不機嫌な表情を見せていた。
一夜「でもアタシ・・・。彩月さんの言う通り朱奈さんの身体を借りている状態だし・・・。朱奈さんは起きていたくないって言ってますけど・・・。いつかはこの身体を朱奈さんに返さなきゃいけないってアタシは考える事もしなかったから・・・」
ねむ「それで罪悪感を抱いていると言う訳だね」
一夜「はい・・・」
ねむ「確かに君の身体の事はいずれ考えようと思っていたよ。そうだね・・・。死体の入手は困難だし・・・。どうしたものか・・・・」
一夜「やっぱり難しいですよね・・・」
ねむ「でも僕たちの進める計画が最終段階に進んだら僕の魔法で君の新しい身体をウワサで作る事も出来ると思うよ。僕のウワサを作る能力も上がっているからね」
一夜「ねむ様・・・」
一夜の両目から涙が流れていた。
ねむ「だから大丈夫だよ。一夜。僕も君には死んでほしく無いからね」
ねむは隣にいる一夜の頭を撫でていた。
ねむ(そうだよ。君の持っている魔法は僕と近い。だから君にはまだ死んで貰う訳にはいかない・・・。もしかの場合は・・・。君が僕の代わりを務めて貰うかも知れないんだから・・・)
ねむ(でも・・・。どうしてこの行動を懐かしいって感じるんだろう?)
自身の心に生じた感情に戸惑うねむだがそれは表情に見せなかった。
□ 宿北 夜の廃工場周辺 数日前の夜
宿北の廃工場周辺。
廃工場周辺にある建物の屋上や屋根の上を白羽根姿の神楽教官と黒羽根姿の遊狩ミユリと保澄雫が飛んでいた。
神楽教官「まずはここね」
ミユリ「ハイです」
ミユリは持っている地図に印を付ける。
保澄雫「分かりました」
と同時に保澄雫は持っていたスマホで画像を撮っていた。
神楽教官「次に行くわよ」
ミユリ、保澄雫「「はい」」
3人は廃工場の周辺の建物の屋上を何カ所か回って行く。
神楽教官「ここで最後ね」
ミユリ「燦様!燦様!これで大丈夫なんですか?」
神楽教官「ええ。これで良いのよ。保澄さん。準備は大丈夫ね?」
保澄雫「はい。あの・・・。一つ話したい事が」
神楽教官テレパシー(分かっているわ。付けられていると言う事よね?)
神楽教官から二人に送られたテレパシーにミユリは驚きを隠せなかった。
ミユリ「えっ!?全然気づかなかったです!?」
神楽教官「向こうも馬鹿じゃないから監視位して来るでしょ。最もこっちは戦うつもりは無いから好都合よ」
保澄雫「そうですね。下見に来ただけなんですから」
神楽教官「ええ。これで街中の地形は頭に入ったわ。撤収しましょう」
ミユリ「はい!あれ?でも保澄の」
神楽教官「!!」
その瞬間に瞬時に動いた神楽教官がミユリの口を塞いだ。
神楽教官テレパシー(ミユリ!保澄の魔法を相手に知られる訳には行かないわ!)
ミユリテレパシー(あっ!?燦様!すみません・・・)
返事を聞くと神楽教官はミユリの口から手を放した。
保澄雫「あの・・・。大丈夫ですか?」
神楽教官「ええ。駅へ向かいましょう」
ミユリ「ハイです!」
保澄雫「はい」
3人は路地裏に降りると変身を解いて制服姿になった。
そのまま3人は駅の方へ向かって行った。
その様子を路地裏から黒羽根●が見ていた。
黒羽根●(どうやら偵察だった。だが・・・。何を考えている?私達のいる工場の周囲を回り続けるなど・・・)
神楽教官達3人の行動理由を考えたが黒羽根●には分からなかったが一つだけ分かった事があった。
黒羽根●(そろそろ攻めて来ると言う事か)
マギウスとの戦いを覚悟すると黒羽根●は路地裏に去って行った。
□ ホテルフェントホープ ねむの私室 数日前の夜 一時間後
魔法少女姿のねむと黄色ローブ姿のナナツメの前に制服姿の彩月が来ている。
ねむの表情は厳しくナナツメの右手には鎖鎌が握られている。
呼び出された彩月の表情は薄ら笑いが浮かんでいる。
ねむ「彩月・・・。一夜に言ったあの言葉はどういう事なんだい?」
彩月「そのままの意味や。なんか問題あるんか?」
ねむ「その態度は僕に対する反逆と見なすけど良いのかい?」
彩月「好きな様に解釈すればええんやないですかい」
ナナツメ「ならば・・・!」
そう言ってナナツメはねむの前に立ち彩月の眼前に鎖鎌を突き付けるが彩月は動じなかった。
彩月「ああ。怖いな。怖いな。ナナツメさんは」
ふざけた発言をしながら彩月は一応、両の手を上げて降参の意を示した。
ナナツメ「反逆者には死を」
ナナツメが鎖鎌で彩月を突き刺そうとした。
彩月「ねむ様ならこういう事をした理由を聞きたいんやろな」
ねむ「待って。ナナツメ」
彩月の呟きを聞いてねむは手を上げてナナツメの動きを止めさせた。
彩月「やっぱり聞きたいんやな」
少し愉快そうに語る彩月。
ねむ「確かに・・・。君の言い訳には興味があるよ」
ねむの表情は厳しいままだったが気にする事無く彩月は口を開いた。
彩月「むしろ意外だったと思うで。その事を誰も指摘しとらん事が。ねむ様なら伝えとると思ったんやけどな」
ねむ「・・・。確かに明確な形で指摘していなかったのは僕のミスとも言えるね」
彩月「そうやろ。だからウチが代わりに指摘してやったんや。ありがたく思うて欲しいで」
ねむ「随分と恩着せがましいね」
ナナツメ「やはり処分を」
ナナツメの言葉を聞いてもねむは手を上げ続けていた。
彩月「これからの事を・・・。考えさせるんは、当然の事やろ。どうせ誰かが言わんでもいずれ気付くんやしな」
睨み付ける様な彩月の視線とねむの視線が交差する。
やがて沈黙の後でねむは頷いた。
ねむ「うん・・・。確かに彩月の言う通りだね。でもやり過ぎだとは思うよ。一夜は僕にとって大切な実験台なんだから」
彩月「そうかもなあ。だったらウチも大切な実験台やろ?」
ねむ「君は一番下の実験台かな。今も言う事を聞かないし」
彩月「じゃあ謝るで。ねむ様。ごめんなさい。二度としませんで~」
その場でわざとらしく大袈裟に跪く彩月。
ねむ「仕方ないから今回は許すよ。けど次は無いと思った方が良いよ。僕はいつでも君から魔法を取り上げられるんだからね」
彩月「わっかりました。それなら一つ提案があるんやけど、どうでっか?」
ねむ「何の提案だい?」
彩月「ねむ様しか出来へん事やし・・・。宿北でウチとナナツメさんには必要な事やろな」
意味ありげな表情を見せる彩月。
その表情は、ねむの興味を引いた。
ナナツメ「・・・・・・・」
ねむ「聞かせてくれるかな?」
彩月は何かをねむに伝える。
ねむはそれに頷く。
ねむ「確かに彩月の言う通りだね。その準備は必要になるかも知れないから僕の方で進めておくよ」
彩月「そうやろ。あんな事があったんやから必要やと思うんやけどな」
ねむ「じゃあ準備が出来たら声をかけるよ。君の協力も必要な事だからね」
彩月「分かっとりますよ。提案したのはウチな訳やし」
ねむ「今回はこれで終わりにしてあげるよ。けど彩月。次は無いと思った方が良いと思うよ。僕もそれ程、寛容じゃないんだからね」
彩月「肝に命じとくで」
そう言って彩月は軽い足取りで出て行った。
ねむは手を降ろしてナナツメは武器を閉まった。
ねむ「ナナツメ。さっきの彩月の提案をどう思う?」
ナナツメ「・・・・・・・。小生に聞くのですか?」
ねむ「あの提案には君の事も含まれているからね」
ナナツメ「彩月の言う事は間違っていないかと。だからこそ必要になるかも知れません」
ねむ「うん。分かった。じゃあ明日から準備を進めようか。それと僕はもう休むからナナツメも休んでいいよ」
ナナツメ「分かりました。何かあればお呼び下さい」
一礼するとナナツメも部屋を出て行った。
ねむ(ふむ・・・。これからの事か。確かに必要だったのかも知れないね・・・。病気に未来を閉ざされていた僕には思い至らなかった事だね。でも・・・。これから少しは考えた方が良いのかも知れないね)
彩月の起こした波紋は新たな影響を引き起こして行く。
ねむ(初めて彩月と会った時・・・。正直に言って契約をせずに魔法だけ欲しいなんて・・・。魔法少女の知識を持っていたとしても、正直に言ってどうかしていると思った。けど、今までマギウスの翼を通して出会った魔法少女達が持たない積極性を感じ取る事が出来た。だからこそ僕は彩月を実験台として魔法を与えた。彩月に施した実験はウワサと魔法少女の融合への布石ともなり得ると言う僕の考えは当たっていた。だから彩月がどうなろうと本当は関心が無かったから一夜の護衛と言う形だけの役職を与えて好きにさせていた。ふざけている様に見えているけれど、彩月のいい意味でマギウスの翼に刺激を与えてくれた。けど彩月は抜け目がない。筒地綾女の知識があると言うアドバンテージがあるにも関わらず直ぐに羽根達の戦いを見て自身でも訓練を積んでいつの間にか単独で神浜の魔女を倒すまで強くなっていた)
変身を解いたねむはベッドの上に座り込む。
ねむ(少し反抗的になって来たけれど・・・。彩月。君はどうせ僕の掌の上から離れられない。だから彩月の事は、まだ楽しむ事が出来る・・・。マギウスの理念である魔法少女至上主義を否定しかねない、言わば毒の様な存在・・・。けど毒も少量なら良薬となり得るからね。魔法少女至上主義を意識させる為にも・・・。魔法を与えられた実験台である彩月には、これからもいて貰わないとね)
□ ホテルフェントホープ 廊下 数日前の夜 一時間半後
ねむとの話し合いを終えて部屋へ帰る為に廊下を歩いている彩月。
こまち(ちょっと。やっぱり越馬一夜にあんな事を言ったのは言い過ぎなんじゃなかったの?)
彩月の持つソウルジェムから持ち主であるこまちが脳内で話しかけて来る。
彩月(そうかあ?最近、どうもその事を忘れとる様に思えたから指摘しただけやで)
こまち(だからってあんな強く行ったらマギウスが何をするか分からないわよ)
彩月(まあなあ。けど一夜さんだって時々、朱奈さんと意識が入れ替わってるみたいなんやで。気付いてないみたいやけど)
こまち(えっ!?それって・・・)
彩月(ウチと同じ状態になりかけているのかも知れへんで。だから一夜さんもそれを自覚しなきゃいけないとウチは思うんや)
こまち(アンタがそう言うならあたしは何も言わないわ。けど気を付けなさいよ。今回はあたしが見てもかなりヤバかったんだから)
彩月(肝に命じとくで)
□ 宿北サービスエリア 観覧車草原の出来事より約3時間前
宿北サービスエリアにある屋上の上に集まっている魔法少女達。
マギウスである柊ねむ。
黄羽根であるナナツメ、越馬一夜、菖蒲彩月。
白羽根は教官である神楽燦と観鳥令。
黒羽根からは遊狩ミユリと牧野郁美、保澄雫。
9人の魔法少女が制服、私服姿で集まっていた。
ねむ「全員揃ったようだね」
神楽教官「はい。これで全員です」
ねむ「うん。じゃあ一応の確認をするよ。作戦は昨日、フェントホープで話した通りだよ。今回、各人はローブを使わずに個人の魔法を使って本気で戦って貰うよ。彩月は望み通りに正面突破を頼むよ」
彩月「任せときい!」
嬉しそうに語る彩月を不安げに見る面々。
神楽教官「その裏で越馬、ナナツメは保澄さんと共に反対方向から越馬の魔法を使って侵入。ナナツメの侵入と同時に越馬は保澄さんの魔法でポイント1へ退避。ポイント1にはねむ様と私とミユリが待機。ポイント2には観鳥と牧野が待機。ポイント1からは保澄の魔法での移動によって相手を攪乱する。以上です」
ねむ「うん。問題無いね。マミの方も準備を進めて貰っている」
ねむの発言に神楽教官と観鳥さんは表情を引き締めた。
ねむ「今日は神浜市でも灯花達が重要な作戦を進めている。だから・・・。マギウスの翼にとってここは正念場と言う所だよ」
彩月「それじゃあ早速、ウチは行かせて貰うで!」
そう言って彩月はその場から走り去った。
一夜「彩月さん・・・・」
一夜は何か言いたげだが言えない状態だった。
ミユリ「燦様!燦様!ミユ達も」
神楽教官「そうね。各自ポイントへ移動するわよ!」
郁美「重大な作戦だから緊張しますね・・・」
観鳥さん「まっそれだけ信頼されているって事だよ」
保澄雫「ご期待に添える様に努力します」
観鳥さん(最も・・・。観鳥さんと牧野チャンはみふゆさんからの指名もあったからこの作戦に参加したんだけどね。ねむ様が保澄ちゃんに無理な行動をさせない為の監視役としてね・・・)
神楽教官(みふゆさんが観鳥を指名したのはねむ様の動向把握の為・・・。マギウスは時々、無茶な行動を羽根にさせる時があるからみふゆさんの行動は正しいわ。特に今回の様な作戦なら・・・)
ねむ(今日の神浜市での作戦が上手く行くなら計画は最終段階に入る。けど・・・。今までのパターンから考えれば、何らかのアクシデントが起きた時に備えて宿北での敵は排除しておいた方が良い。その為にマミの希望にそってアリナを見滝原に行って貰ったんだからね)
それぞれの思惑の為に動く魔法少女達。
ねむテレパシー(ナナツメ。例のキューブは持っているね?)
ナナツメテレパシー(はい。小生の手元に)
ねむテレパシー(それは潜入して一夜と保澄さんを退避させてから使用する様にね。二人に見られる訳には行かないから)
ナナツメテレパシー(はい。心得ております)
ねむ(こちらも奥の手は用意したよ。だからこそ・・・。ここで勝たないとね)
冒頭のシーンはマギレコのメイン一部7章におけるねむの初登場シーンをねむ視点で書いた物です。
そこから数時間前に時間は遡ってメイン一部7章での出来事が起きていたのと並行して宿北での戦いが起きていたと言う事です。
マミが宿北での事に関わっているのは、見滝原でアリナと行動を共にした後で手が空いているからと想定しています。
ねむの思案シーンや彩月の本音めいた発言など色々と仕込んでみています。
ちなみにねむは一夜の事は能力的に一番気に入っています。
自分の魔法と近い具現魔法である為。
ナナツメの事は雇用主として気に入っています。
仕事に忠実である為。
彩月の事は何をするか分からないから面白いと思っているけど時々、面倒を持ち込んでくる実験台と思っている。
だから彩月は実験台の中で一番立場が低い。
ねむからすれば全員年上なんですけどね。