マギアレコード 偽書e/s memorys   作:ジャックノルテ

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第5話 君に引導を渡そう

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ ???

 

その部屋には一人の少女がベッドの上で横になり眠っている様子を見せていた。

少女の顔は、筒地綾女が求める朱奈と呼ばれる少女の物だった。

 

 

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 地下封印室

 

 

ねむ「これこそ君が人間では無い証拠だよ」

 

 ねむの攻撃を受けて傷を負った綾女コピーの身体から血の代わりに文字が滲み出る。

 

綾女コピー「そんな・・・。私が・・・。私が、本物の筒地綾女じゃ無い・・・。ウソよ!?そんな筈は無いわ!?」

 

ねむ「感情が高ぶり錯乱しているみたいだね。上手く記憶を操作する事が出来れば、マギウスの戦力を増やせると思ったけど、流石に無理がある様だね。君は僕が一から作った作品じゃないけど、作り上げて手を加えた者の責任として僕が引導を渡してあげよう」

 

 ねむの右手に握る本が光ると同時に綾女コピーに向かって攻撃が走る。

 錯乱した様子の綾女コピーだったが、咄嗟に攻撃を避けると、不安定な足取りで必死になってその部屋から逃亡した。

 

ねむ「・・・。錯乱したと思ったけど逃亡を選択する余裕は合ったみたいだね。流石に放置するのは不味いし・・・。追いかけてみようかな」

 

 ねむは、ゆっくりとした足取りで綾女コピーを追う事にした。

 

ねむ「そうだ。ナナツメ。頼むまでも無いだろうけど、不測の事態に備えて君にも引き続き護衛を依頼したい。だから僕と一緒に来て貰えるかな?」

 

ナナツメ「分かりました」

 

 ねむが部屋の隅に声をかけると、隅に隠れる様に待機していた黄色いローブを纏ったナナツメと言われた黄色い羽根は、ねむの背後に付いて行った。

 

□ 神浜市内ホテルフェントホープ 近辺

 

スミレコピー「成程。これが唖然失笑(あぜんしっしょう)と言う事ですか」

 

 自分の身体に刻まれた傷から溢れる文字を見てもスミレコピーが動じる様子は無かった。

 それどころか薄い微笑まで浮かべている。

 スミレコピーの浮かべた微笑をアリナは自身に向けられた嘲笑の様に感じてしまった。

 最もスミレコピーは唖然失笑、あっけにとられて思わず笑っただけなのだが・・・。

 

アリナ「どうして笑っていられるワケ?その身体から滲み出る文字は、アナタが人間じゃ無い証。ハッキリ言うならアナタは、アリナが捕獲した使い魔を加工した魔法少女のフェイクナノ。それなのに・・・。どうして・・・。どうしてフェイクのアナタが、アリナを笑うの!?」

 

 怒りのままに再度、手に出現させたキューブによる光線を次々とスミレコピーに撃ち込んで行くが、既にそれを予想していたスミレコピーは両足に魔力を集中してアリナの周囲を回り込む様に走る事で回避すると、一気にアリナとの距離を詰めて再度、アリナの頬をビンタした。

 意図的に魔力をカットした、ただのビンタ。

 完全な挑発行為でしかなかった。

 

アリナ「この!!」

 

 初めは何が起きたのか分からなかったアリナだったが、何をされたのか理解した時には、スミレコピーはアリナから距離を取っていた。

 怒りが頂点に達したアリナだったが、余りの怒りによって逆に冷静さを取り戻して、どうやってスミレコピーを倒すのか算段を付けていた。

 スミレコピーの使う攻撃を反らす魔法は先程、怒りのままに全力で放った攻撃を反らせなかった事を直感的に理解していた。

 だったら全力の攻撃で絶対に反らせない様にすれば良い。

 

アリナ「アリナはもう・・・。アナタを許さないカラ!」

 

 心に溜まった怒りを穢れとしてソウルジェムを満たした時、アリナは自身のドッペル、熱病のドッペルを足下へ出現させていた。

 

アリナ「この美しいアリナのドッペルでアナタを飲み込んで絵の具にしてあげるカラ!!」

 

 迫り来るアリナのドッペルを見てもスミレコピーは、落ち着いていた。

 

スミレコピー(少々・・・。怒髪衝天させすぎましたか・・・。確かに今、ソウルジェムから出現させたドッペルとやらは、私めの全ての魔力を使っても反らす事は出来ないでしょう・・・)

 

スミレコピー(ですが・・・。このまま半死半生のまま負けても意味が無いですね・・・。例え私めが人間で無いとしても、魔法少女だった以上、人間でない事は変わりありません・・・。せめて・・・。あの綾女さんが本物であれ偽物であれ、もし朱奈さんがフェントホープにいるのなら・・・。私めは、その為に万死一生の覚悟で、あのアリナと言う魔法少女を打ち破って見せましょう)

 

 決意を固めたスミレコピーは、全ての魔力を右腕に集中していた。

 要所の関節に魔力を僅かながら集中させて、全ての攻撃手段を右腕に集中していた。

 スミレコピーの行動は、アリナの目視にも捉えられていた。

 

アリナ「何のつもりなワケ?まさか、その右腕に集中した魔力だけでアリナのドッペルを倒すなんて寝言を言う訳じゃ無いヨネ?」

 

スミレコピー「そのまさかです。この極点集中したこの右拳で、その足元に広がるドッペルとやらを打ち砕いて見せましょう」

 

アリナ「!?」

 

 余りに静かに力強く語るスミレにアリナは驚きを感じていた。

 ただドッペルを打ち破る程の魔力をスミレコピーが持ち合わせていない事はアリナにも感じ取る事が出来た。

 スミレコピーは、ただ魔力を右腕に集中させているだけ。

 勝てない要素は存在しない。

 思わずアリナの口から笑いがこみ上げてくる。

 

アリナ「アッハッハッハ。そんな魔力でアリナに勝てると本当に思っているワケ!?増長するのもいい加減にしてヨネ!?」

 

スミレコピー「増長などしていませんよ。それよりも挑戦勝負を致しませんか?私めが、そのドッペルとやらをこの一撃で打ち破るか、あなたが敗北するか」

 

アリナ「それが・・・。増長しているって言ってるヨネ!?」

 

 スミレコピーは動じる事無く右腕に魔力を集中したままに静かに駆けて一歩ずつアリナのドッペルへ近づいてくる。

 アリナはそんなスミレコピーを見て怒りを抑え爆発させる準備を整えていた。

 

アリナ(まだ!!どうせなら、ドッペルで全身を包み込んで完全にギルティしてやる!)

 

 アリナは、スミレコピーを完全に自身のドッペルで包囲する為に敢えて近づいて来るのを妨害しなかった。

 スミレコピーが近づいて来るのが遅く感じられ、緊張による時間間隔の延長をアリナは感じていた。

 

アリナ(まだ!右腕に魔力を集中しているなら、使う前に・・・。あと少し・・・。今だ!!)

 

 スミレコピーがドッペルの射程距離に入ったと同時にアリナは自身のドッペルでスミレコピーの全身を飲み込もうとした時、突如として自身の身体が動きを止めていた。

 

アリナ(何!?どうして身体が!?ドッペルも、魔法も動かない!?それに!?この苦しさは何!?アイツが何かした・・・)

 

 ドッペルを繰り出したアリナが硬直したのは僅か数秒に過ぎない。

 スミレコピーは、その僅か数秒で逆転の魔法を仕掛けていた。

 アリナがドッペルを繰り出すタイミングを見抜いて僅か数秒で右腕に集中した魔力を解除して新たな魔法を発動させていた。

 

スミレコピー(今の潜在魔力では数秒・・・。分精魔同(ぶんせいまどう。僅かな範囲だけ分子も精神も魔力も全ての速度を強制的に同じ速度にする魔法・・・)

 

 精神が身体を動かすスピードは、血液の速度と同じでは無い。

 同じ様に魔法少女が魔力を使うスピードにも、一定のロスが存在している。

 分精魔同は分子、精神、魔力の速度を全て僅かな範囲の中でのみ強制的に速度を同じにしてしまう。

 速度はスミレコピーが操作しスミレ自身は影響を受ける事は無い。

 今は、血液が脳に酸素を運ぶスピードが遅くなり判断力が鈍ったアリナの姿から全ての速度がほんの僅かだけ遅くなっている影響は明らかだった。

 血流の流れが遅くなった事で思考力が鈍っている上に身体の動きが鈍くなり酸欠による苦しみに瞬時にアリナは対応する事が出来なかったが、パニックになる事だけは避けられていた。

 だが硬直している現状をアリナは変える事は出来なかった。

 

スミレコピー(極点集中した必殺必中の一撃・・・)

 

 瞬間、魔力を右腕に魔力を集中したスミレコピーがアリナを捉えた。

 分精魔同は強力な効果を持つ魔法陣を形成して僅かな範囲でのみ効果を発揮するが、今のスミレコピーに残された魔力では、数秒しか持たない魔法。

 スミレコピーは僅かながら勝負を焦っていた。

 残された魔力は残り少なく、アリナから受けた傷で周囲の感知を上手く出来なくなっていた。

 それ故に必殺必中の一撃を放とうとした刹那に割って入る相手を想定出来なかった。

 

 突如としてスミレコピーの視界が霧に覆われ一瞬、アリナの姿を見失った様な気がしたが直ぐにアリナの影を見つけた瞬間に迷う事無く必殺必中の一撃を右腕から放った。

 極点集中された魔力が鋭い一本の針の濁流となってアリナの頭を貫いていた。

 だが突如としてスミレコピーの視界が揺らいだと同時にスミレコピーは驚いた。

 

スミレコピー「喫驚仰天(きっきょうぎょうてん)ですか・・・」

 

 スミレコピーの右腕から放たれた魔力が貫いていたのは、アリナの頭では無くアリナのドッペルを貫いていた。貫かれた事でアリナのドッペルは崩壊し驚愕の表情を見せたアリナが、崩れた自身のドッペルから呆然と落下していた。

そこへ現れた一人の人物が落下するアリナを抱きかかえて地面に降り立った。

 

みふゆ「良かったです。アサルトパラノイアが間に合って」

 

 スミレコピーの攻撃が外れたのは、みふゆの幻惑魔法アサルトパラノイアによって視界に幻覚を送り込まれたからだった。

 咄嗟だった為にみふゆはスミレコピーの攻撃を僅かにずらす事しか出来なかったが。

 

アリナ「みふゆ・・・?」

 

みふゆ「アリナ。決着は自分で付けるべきでしょう?」

 

アリナ「!! 言われるまでも無いヨネ!!」

 

 みふゆの腕から降りたアリナは両手を天に掲げ回転するキューブを魔力で生成し自身の必殺のマギアを放とうとしていた。

 その時、スミレコピーは魔力をほぼ全て使い果たし膝から崩れ落ちていた。

 全身からは流れ落ちる血液の様に文字が出て来ては放出されて行く。

 文字通り残る全てを費やした一撃に全てを使い果たしたスミレコピーの身体は崩壊し始めていた。

 

アリナ「これでアナタは死んで、アリナを満足させて貰うから!!」

 

 アリナの必殺のマギアがスミレコピーを貫こうとしたその時、

 

スミレコピー「流転認識」

 

 小さな声でポツリと呟いたスミレコピーの声に合わせる様に流転認識=魔法を反らす魔法が発動してアリナのマギアを反らした。

 だが全てを反らす事は出来ずスミレコピーの身体を所々、傷付けている。

 

アリナ「チッ!無駄な足掻きをしないでヨネ!?」

 

スミレコピー「画蛇添足(がだてんそく)ではありませんよ。私めは勝ったではありませんか」

 

アリナ「ナニを言って」

 

スミレコピー「ドッペルとやらは私めは打ち破りました。だからこの戦い、勝利逃亡させてもらいます」

 

アリナ「お前!?」

 

みふゆ「アリナ!落ち着いて!」

 

スミレコピー「あなたは生殺勝利する事は出来ない」

 

 その言葉を言ったと同時にスミレコピーは、体から溢れる文字の奔流に分解されて消滅してしまった。

 

アリナ「ヴァアアアアアアアアア!!」

 

みふゆ「アリナ!?」

 

 激高して周囲に当たり散らし始めたアリナを当初は止めようとしたみふゆだったが、直ぐにそれを諦めた。

 ただし幻惑魔法でアリナの八つ当たりで放った魔法を全て地面に反らしていた。

 

みふゆ「確か・・・。雨津木スミレと言いましたね。全て、彼女の思惑通りと言う事ですね・・・」

 

 みふゆの視線の先にはアリナの攻撃を受け続けているスミレコピーの肉体がある。

 消滅しつつある肉体の中から一つの魔法の種が姿を見せていた。

 

□ 神浜市内ホテルフェントホープ エントランス 鎖鎌の結界内

 

月夜「成程。それが、あなた方の正体ですか」

 

月咲「うん。聞いてはいたけど、これなら手加減する必要は無いよね」

 

優里コピー「これはぁ・・・。一体、何ですかぁ!?」

 

璃阿コピー「・・・。何が起きているのですか?魔法で解析しても異変を感じられない・・・」 

 

 璃阿コピーは自身と優里の身体に起きた異変に驚き魔法で解析を試みたが、何も感じ異変を感じ取れなかった。

 しかし事実として璃阿コピーと優里コピーの身体の傷からは文字が血流の様に流れ溢れている。

 それ故に璃阿コピーも優里コピーも驚愕していたが、月夜と月咲に隙を見せる事は無かった。

 異変を感知出来ないのは、璃阿コピーと優里コピーがコピーであるが故に今の状態を正常だと認識している為だった。

 

月咲「月夜ちゃん!!」

 

月夜「分かっているでございます」

 

 月夜はそう叫ぶと同時に自身の穢れを押さえていた魔力を解放した。

 その瞬間に月夜の左足から穢れが噴出したかと思うと月夜の全身を包み込んで半円を形成した隔絶のドッペルがその場に現出していた。

 そのドッペル内部にあるブランコに座る月夜は宣言する。

 

月夜「この神浜の奇跡、ドッペルであなた達を倒させて貰うにございます!!」

 

優里コピー、璃阿コピー「!!」

 

 驚く優里コピーと璃阿コピーへ向かい月夜のドッペルから生えた赤い球が放たれて優里コピーと璃阿コピーの周囲で爆発を起こして二人は身動きを取れなくしていた。

 そこへ月夜のドッペルが直接、二人に体当たりをして来た。

 咄嗟に優里コピーは、璃阿コピーの前に立ち月夜のドッペルに向かって怪物の剣、カスターネに全ての魔力を集中して受け止めようとした。

 

優里コピー「ちっくしょうぉー!?」

 

璃阿コピー「伊良草さん!?」

 

優里コピー「勘違いするなぁ。アンタが死んだら頭数が減って切り抜けられないでしょうぅ・・・」

 

璃阿「そどすね。この後を考えるなら・・・」

 

 だが優里コピーが幾ら魔力を高めて月夜のドッペルを抑え込もうとしてもオレンジ色のオーラを纏った月夜のドッペルに押され始めていた。

 同時に優里コピーの身体の傷から流れる文字の量も流血の様に増していく。文字が流血の代わりだとするなら文字が流失する事で優里コピーの魔力は衰えて行った。

 そして遂に・・・。

 怪物の剣、カスターネの刀身に亀裂が入った、その瞬間に月夜のドッペルがカスターネを粉々にした事を優里コピーが見た最後の景色だった。

 月夜のドッペルが優里コピーを吹き飛ばし、その身体を鎖鎌の壁に叩き付け優里コピーの身体は文字の流出によって人の形を失い、一つの魔法の種を残して消滅した。

 

月夜「もう一人は何処に?」

 

 璃阿コピーの姿を探す月夜だったが、同時にドッペルは時間切れで消滅した。

 

璃阿コピー「手は無い・・・」

 

 月夜の隙を見つけたと判断して伏せていた璃阿が一気に立ち上がり月夜を襲おうとした時、月夜の影から月咲が飛び出して来た。

 

月咲「月夜ちゃんはやらせないよ!」

 

 月咲のソウルジェムも穢れが溜まっているにも関わらず月夜と同じ行動をして見せた事で璃阿コピーにもある可能性が頭を過った。

 

璃阿コピー「まさか!?」

 

月咲「月夜ちゃんは、ウチが守る!」

 

 その時、月咲の身体が地面から浮かび上がると逆さになると同時に逆さまの自身を半球に収めて無縁のドッペルを発動させていた。

 月咲のドッペルが浮かび上がると同時に璃阿コピーの周囲に支柱が出現して璃阿コピーの身体を完全にその場に閉じ込めていた。

 そこへ浮かび上がった月咲のドッペルが勢いを増して璃阿へ直接、落下して来た。

 

璃阿コピー「これは無理ですね」

 

 解析魔法で月咲のドッペルを回避する事も防御する事も意味が無いと悟った瞬間に璃阿コピーは抵抗を止めた。

 

月夜「なっ」

 

 万一の抵抗に備え横笛を構えた月夜はその様子に驚いたが、そこへ月咲のドッペルが落下して璃阿コピーを完全に圧し潰した。圧し潰した場所からは、血の代わりに無数の文字が流れ出て蒸発して行った。

 

月咲「月夜ちゃん!大丈夫?」

 

月夜「大丈夫でございます。ですが任務は果たせたでございます」

 

???「くふっ。その通りだよー。みんなー。もう鎖鎌の結界を解いても良いよー」

 

 一つの幼い少女の声がその場に響くと鎖鎌で作られた結界は解かれた。

 声の方向はエントランスにある階段の一番上にある踊り場から響いている。

 そこには装飾の施された日傘を差した一人の幼い少女が踊り場から真下にある黒羽根と白羽根、天音姉妹を見つめていた。

 天音姉妹も黒羽根、白羽根は、幼い少女を羨望と尊敬の眼差しを向けていた。

 

???「これこそがわたくしの作り出した神浜の奇跡、ドッペルだよ。今、二人が行った戦いを見てドッペルの奇跡を信じるよね?あそこまでソウルジェムが濁っているなら本当なら魔女化している筈の二人が魔女化する事無く新たな奇跡の力を発揮して見せたんだから、みんなよりわたくし達を信じる事が出来るんじゃないかにゃー」

 

 その時、一人の白羽根が拍手をした。拍手は次々と伝染し万感の拍手が幼い少女へと注がれていた。

 

月夜(流石にございます。魔女化を知っていてもドッペルを目にした事の無いマギウスのメンバーにドッペルシステムを実際に使って見せて目撃させる・・・)

 

月咲(そうする事によってマギウスへの忠誠と魔女化からの恐怖から逃れさせる・・・。上手い作戦だよね)

 

 天音姉妹=月夜と月咲はテレパシーで会話しながらマギウスの行った作戦が上手く行った事に安堵を感じていた。

 幼い少女は、マギウスの羽根達の様子を見て満足そうな様子を見せていた。

 

□ 神浜市内 ホテルフェントホープ 地下通路

 

 

綾女コピー「嘘よ。嘘よ。私が魔法少女じゃ無いなんて!?何なのよ!?この文字は。こんなの魔法に決まっているわ。私が本物で無い筈が無いわ!?」

 

 錯乱寸前の綾女コピーだったが、自身の身体から流れ出る文字を見てもそれが魔法の効果だと思う事で正気を保っていたと言える状態だった。

 

綾女コピー「私は・・・。私は・・・」

 

 ギリギリの所で正気を保っている綾女コピーだったが、既にその精神は狂気に染まりかけていた。

 新たに切っ掛けがあれば容易に正気を失いかねない所だ。

 その時、地下通路を歩く綾女コピーの目の前で廊下にある扉の一つが開いた。

 

綾女コピー「えっ!?」

 

 そこから出て来た一人の少女を見て綾女は驚いた。

 それは綾女コピーの探す朱奈と言う少女その物だった。

 赤茶色の髪を生やし困惑して弱った様子を見せた朱奈その物だった。

 

綾女コピー「朱奈!?」

 

少女「えっ!?」

 

 少女は綾女コピーに詰め寄られ戸惑った様子を見せた。

 まるで知らない人を見る様な視線に綾女コピーも戸惑いを覚えていた。

 

綾女コピー「朱奈!?どうしたの?私が分からないの?私よ。筒地綾女よ!?」

 

少女「つつじ・・・。あやめ・・・?あの、アタシはあなたと初対面なんですが・・・」

 

綾女コピー「何を言ってるの?だってあなたは朱奈よ。その顔。髪の色。なにより、あなたの右目には呪いがあるわ」

 

 そう言って綾女コピーは朱奈の右の頬に手を当てようとしたが、少女は咄嗟に手で拒んだ。

 

少女「アタシは・・・。朱奈って名前じゃありません。アタシは一夜・・・。越馬一夜(えつばいちよ)・・・」

 

綾女コピー「そんな・・・」

 

 暫く黙った綾女コピーを見て少女=越馬一夜は分かってくれたと思ったがそれは間違いだった。

 

綾女コピー「そんな筈が無いわ。あなたは朱奈よ!朱奈でなきゃおかしいわ。だってあなたのその顔も身体も全て私の願いで出来たのよ!?私が本物と偽物の区別が付かない筈が無いわ!?そうよ!?私と同じ様にあなたも記憶を弄られたのね!?だったら、私が記憶を治してあげるから!?」

 

 そう言って綾女コピーは一夜の手を乱暴に掴むとそのまま連れ出そうとした。

 

一夜「やめて!?アタシは、ここにいなきゃ行けないの。それにアタシは朱奈ではありません!?」

 

綾女コピー「あなたは記憶を操作されているだけなの。ここを脱出したら思い出せるわ」

 

一夜「そんな筈はありません。アタシはマギウスに命を救われたんです。記憶を操作何てされていません」

 

綾女コピー「あり得ないわ。私と朱奈の願いの繋がりがあなたを朱奈だと認識している。この繋がりは魔法でも切る事が出来ないわ。だからあなたは朱奈なのよ!!」

 

一夜「違います!?」

 

綾女コピー「だったら・・・。あなたは何なの!?」

 

 叫びながら綾女コピーは左手を朱奈に振り下ろそうとした。

 その手には武器である箒が握られおり完全に暴力を振るおうとしているのは明らかだった。

 

ねむ「ナナツメ!」

 

ナナツメ「!!」

 

 その時、ねむの声と共に突如として一夜の前に現れた黄色いローブを纏ったナナツメと言われた存在が綾女コピーの左手を武器である鎖鎌で抑えた。

 驚いた綾女コピーが距離を取ると、一夜を庇うナナツメの背後からねむが姿を現した。

 

ねむ「まさか一夜が起きているなんてね。一夜。ケガは無いかい?」

 

一夜「はい。大丈夫です・・・。ねむ様」

 

綾女コピー「お前!?朱奈に触るな!?朱奈を返せ!?」

 

ねむ「まだ分からないのかい?君は本物の筒地綾女じゃ無いんだ。もう君自身、筒地綾女としての体裁が保てなくなっているよ」

 

綾女コピー「それは・・・。どう言う意味!?」

 

ねむ「僕は記憶ミュージアムで筒地綾女、本人の記憶を閲覧したけど、もし君が本物の筒地綾女なら、この一夜に対して朱奈じゃないと答えた位で暴力を振るう訳が無いよ」

 

綾女コピー「なっ!?」

 

 驚愕の表情を浮かべる綾女コピーだが、ねむの言葉は綾女コピーの中に存在していた心の矛盾を完全に浮かび上がらせていた。

 もう自分で自分を誤魔化す事は出来ない。

 だからもう、心に浮かんだ矛盾から逃れる為に身体が動いていた。

 何でも良いから何かをしようとする為に。

 何かをしている間だけは、突き立てられた心の矛盾から目を背けられるから。

 だから暴力を目の前の相手に振るおうとした。

 

綾女コピー「うぅうう。アァアアアア!?」

 

ねむ「だからこそ、君を作り出した者の一人として、僕が直接、君に引導を渡そう」

 

 ナナツメと一夜を手で制したねむは、そのまま二人の前に出た。

 ねむのソウルジェムには、穢れが溜まっている。

 

ナナツメ「ねむ様!!」

 

ねむ「良いんだよ。どうせ穢れが溜まっていたからね。彼女を倒すには、ドッペルを使うのが一番だからね」

 

 ねむが告げながら綾女コピーに向き合った時、ねむの髪の毛が逆立ち、そこから遺言のドッペルが出現していた。

 

ねむ「僕は自身の物語を具現化する魔法を持っている。だから君の様に僕の魔法で調整された存在の生殺与奪を握っていると言っても良い。このドッペルの力で君の身体を具現化させている僕の力を解除させて貰うよ」

 

 ねむの言葉が語り終わらない内に綾女コピーの左右真横に本のページの様な物が表れたと思った時には、綾女コピーは本のページが閉じられ圧迫されていた。

 だが綾女コピーは痛みを感じなかった。

 しかし自身の身体から何かが抜けて行く事を感じると同時に力が抜けて行くのを感じていた。

 

ねむ「君は僕の魔法で筒地綾女のコピーとしての存在を保っているに過ぎない。その存在を維持する根幹とも言える部分を解除させて貰うよ」

 

綾女コピー「ッアアアアアアアア!?」

 

 声にならない悲鳴を上げ、やがて綾女コピーは沈黙した。

 同時にねむのドッペルは役目を終えて消失した。

 綾女コピーだったモノは、沈黙して立ち尽くしている。

 

ねむ「これで君は、もう筒地綾女じゃない。ただの使い魔、ミラーズコピーの成れの果てだよ」

 

 ねむの言葉と同時に綾女コピーだったモノが、ねむに向かって動き出そうとした。

 

ナナツメ「!!」

 

 しかし動き出す前にねむの前に走り出たナナツメが綾女コピーだったモノを両手で握った短刀で切り裂いた。切り裂かれ綾女コピーだったモノは完全に消滅していた。

 その様子を見て何故か一夜は胸が締め付けられる思いを抱いていた。

 

ねむ「良くやったよ。ナナツメ。それにしても、フェントホープの機能をみふゆが言うように相手の潜入を想定して一時停止して本当に良かったよ」

 

 そこまで言ってねむは身体をよろけさせた。

 

一夜「ねむ様!?」

 

 思わず一夜がねむを支えるが、その時一夜は身体の異変に気が付いた。

 

一夜(あれ?アタシの手ってこんなに綺麗だったけ?それにアタシは、こんなに肌は色白かったけ?)

 

ねむ「一夜。君に話しておかなきゃいけない事がある。君の・・・。その身体は君の物じゃない」

 

一夜「えっ?それはどう言う」

 

ねむ「うっ・・・。すまない。その身体に付いては今度、説明するよ。暫く君は魔法を使わないでフェントホープの部屋で待機していて。君の仕事は暫く休んで良いから」

 

 そこまで語りねむは苦しそうに目を閉じた。

 直ぐに駆け寄ったナナツメが一夜に代わってねむを抱き抱えた。

 

ナナツメ「ねむ様は、小生(しょうせい)が部屋まで送る。一夜も自室へ」

 

一夜「はい・・・」

 

 ねむを抱き抱えるナナツメに付いて行きながら不意に廊下に設置されていた鏡が一夜の目に入った。一夜の目に映る鏡に映った少女は一夜が初めて見る驚いた顔だった。

 自分の表情の変化と体の動きがシンクロした事で一夜は本当の意味で自分の今の身体が別の人物の身体だと言う事を思い知らされていた。

 

一夜(さっきあの筒地綾女って言われた人はアタシの事をシュナって言ってた。この身体はシュナって人の身体なの?でも・・・。ねむ様はいずれ話すって言っていた。だからねむ様が話すのをアタシは待たないと・・・)

 

 大きな疑問を感じながらも、一夜はいずれねむが話すと言った事を信じる事にした。

 ホテルフェントホープへ乗り込もうとした4人の魔法少女のコピーは全滅した。

 静けさを取り戻したホテルフェントホープの戦いが終わった場所には、グリーフシードでは無い、魔法の種と言われるモノが落ちていた。

 筒地綾女の作った他者の記憶を転写してコピーした魔法の種は未だ健在。

 スミレコピーの精神を作っていた魔法の種を拾い上げながらみふゆは誰に言う事無く呟いた。

 

みふゆ「もう・・・。こんなものを利用する事が無いと良いのですが・・・」

 




月夜と月咲の前に現れた少女は里見灯花です。

新キャラのナナツメが黄色いローブを纏っているの事の元ネタは、マギアレポートの真っ黄ウスです。

書いてて改めて思うのは、みふゆさんは苦労人ですね。


追記2020年10月25日

アリナは余裕から油断せずにスミレから距離を取ってドッペルやマギアを使い続ければ勝利する事が出来ました。
距離を取られると勝てないと分かっていたからこそスミレは、アリナを挑発して距離を取らせない様に仕向けたと言う事です。
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