零の名前を探し続けながら、先生から少しずつ話を聞いた。
生前から、明るく元気いっぱいだったこと。
体育は得意だったが、勉強…特に数学が苦手だったこと。
物怖じせず、間違っている事はきちんと正す、正義感の塊のような子だったということ。
落ち込んでいる人が居れば話を聞いたり、励ましたり、人のために自分も頑張る子だったこと。
「…全然、変わってないですね」
私も零に助けてもらった内のひとりだ。だから彼が困っているのなら助けたい。
「最初の子が、飛び降り自殺だったってことは…他の子も同じ感じなんですか?」
「…いえ、飛び降り自殺がもっとも多かったけど、他の亡くなりかたもあったわ。屋上の床に頭を強く打ち付けてなくなっていたり…恐らく自殺させようとして上手くいかなかった時に…」
そこまでして、仲間を増やしてどうしたいんだろう。
「…零も、誰かをそうしたんでしょうか」
「あの子は多分油断させるために使われたんでしょうね、優しそうだし。10年程度で力を持てるとも思えない。実際に手を下してるのは最初の幽霊さんだと思うわ」
「…それならいい…いや、良くないですね」
命をばっちり狙われているというのに、なんだかあんまり緊張感がないというか、そんなに怖くない。死にたいわけでもないのだけど、何処かで彼の名前を見つけられる自信があった。第六感、だろうか。
そして、その勘は見事に当たった。
「鶴川さん!」
「あったんですか!?」
放課後直前、職員室に卒業生の名簿を探しに行った先生が、彼の名前を持って帰って来たのである。
「卒業生の名簿に彼の名前はなかったのだけれど…同じ年の担任をしていた先生が入学生の名簿を持っていたの」
あちこちに皺がよっていて、端が破けたりしているが、彼の本名はしっかり読み取れた。
心の中で、その
「先生、行きましょう」
「ええ」
真っ直ぐ前を見て、彼を救いに行かなくちゃ。
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先生に傘を取ってきてもらって、屋上に向かう。一応何かの役に立つかもしれないから鞄も持ってきている。振り回したらそこそこの凶器になるかもしれないし、念の為の
「鶴川さん、あなたが危なくなったら先生が守るから_」
「大丈夫ですよ」
少し食い気味に答えた、別に先生を信用していないとか、そういうことでは無い。
今更だが、失敗したら死ぬということを自覚して少し怖くなっただけだ。
屋上のドアに手をかける、ドアノブを捻ると簡単にドアが開いた。
雨が風と共に吹き付けてきて、触れたところから徐々に体温が奪われていく。気の所為じゃない、ここはもうただの屋上ではなくなってしまっているのだから。傘を開いて、屋上に踏み込んだ。
目に見えるところには誰もいないはずなのに、多くの気配がする。
「…出てきなよ」
辺りを見回しながら、言葉を投げかける。
『…随分な呼び出し方ね』
数メートル先に、私とは違う、黒いセーラー服を着た女の子が立っていた。今の私たちの制服はブレザーだから制服が変わる前に亡くなったのだろうか。
それに触発されたのか、屋上に少しづつ人影が増えていく。
『…あら?あらあら?あなた一人で来てくれたんじゃないの?後ろに大切な教え子を救えなかった、哀れなお邪魔虫がくっついて来ているじゃない?』
わざとらしく口元に手を当てて、馬鹿にしたように先生に目をやった。
「…あの子はどこ?」
『お邪魔虫なんかに興味無いわ、それより私はあなたが気になるの、やっと会いに来てくれたんだもの…!』
先生の言葉を無視して、私を恍惚とした表情で見つめる。
「…あなたが最初の幽霊さん?」
『そうよ、わたしがここで初めて死んだの、周りのみんなはわたしの友達よ!』
彼女ははっきりと見えるが、周りの人影は輪郭もはっきりしない。陽炎みたいだ。
「なんでそんなに皆をひっぱるの?」
『なんでって…寂しいからに決まってるでしょ?』
「は?」
まるで当たり前のことのように、答えた。
『ひとりで死ぬのは別になんともないわ、でもずっと屋上でひとりで過ごすなんてつまらない、とっても退屈なの』
「………」
『知ってる?自殺した人って簡単には成仏できないの、地縛霊になっちゃうのよ』
この子のエゴの為に彼は死んだ?まるで、まるで命をなんとも思っていないような_
「あんた…人の心が無いの!?」
『無いわよ、人であった頃なんて何十年も前だもの。幽霊に人の心があるかなんて、あなた随分おかしなことを聞くのね』
くすくすと笑いながら話を続ける。
『わたしね、ずっとひとりぼっちだったの。お父さんはすぐにわたしを殴るし、お母さんはわたしなんか産まなきゃ良かったって何回も言ってた。学校に来てからもそれはおんなじ。お友達なんか出来ないし、いじめられても先生は知らんぷり。だあれも助けてはくれなかったわ。だからね、こんな世界捨てちゃおうって、ここで死んだらわたしをいじめていた子は後悔するし、先生も困るだろうからって…本当は殺してやろうかって思ったけど、死は救済になっちゃう。生きたままわたしを殺したって後悔を抱え続けたまま生きてもらおうって!』
光の無い瞳でつらつらと言葉を並べていく。正直いって不気味だ。
『ずーっと、ずうーっとひとりだったんだから…死んだ後くらい、お友達を作ったっていいでしょう?』
彼女はいつの間にか私の目の前まで来て下から私の顔を覗き込んでいた。
「っ…」
『あはっ、びっくりした?わたし達、歩かなくても平気だからね』
「…あんたの過去が悲惨で大変なのは分かったけど、だからと言って今生きてる人を殺していいわけないでしょ…」
『えー?随分気を使ってあげてるのにー?その人の名前を消して悲しまないでいいようにしてあげてるよ?』
可愛らしく首を傾げる動作が憎らしい。
「記憶は残ってるのよ!先生だって悲しんでた!」
『あなたは今私とお話してるんでしょ!』
突然こちらを睨んで_正確には先生を睨んだらしい。右手を八つ当たりのように振ると、何かに吸い込まれるように先生は屋上から消えた。
「先生!」
『屋上から追い出しただけよ、あんなのに殺す労力使うなんてもったいないわ…それに、これでゆっくりお話が出来るね♪』
私ひとりで、戦わなくてはいけない。大丈夫、予想はしていた。今までの質問は
「…なんで私が今回のターゲットなの」
『え?あなたが寂しそうだったから』
「は?」
『ここに来たばっかのあなたはひとりぼっちでとっても寂しそうだったから、わたしの仲間に入れてあげようと思って!…まああれに邪魔されたけど』
零に邪魔された?
「…零はそういうことが出来るの?」
『今までやったことは無かったよ、油断してたって言うか…零は色々と違うし…まあ1番の要因は死に方が1人だけ違ったからかなぁ…』
今ので確信を持てた、零は
『今のあなたは生き生きとしてて、なんだかがっかり。まあだからといって殺さないわけじゃないけど』
「…私があんたに大人しく殺されると思ったの?」
『え?こんなにお友達がいるから大丈夫。寂しくないよ。あなたは…そうね、私とおんなじ死に方がきっと似合うわ!』
まじりっけのない瞳を見て、分かってしまった。
「…あぁ」
この子がさっきから妙に子供っぽいのは、子供の時に欲しいものが貰えてないからなんだ。
家族に殴られ、学校からは疎ましがられて、期待もせず、絶望して、命を投げ出した結果、こうなってしまったんだ。
無邪気な子供に強大な力を与えた、この子はその力を振り回して、周りを巻き込んだんだ。
…でも、決して同情してはいけない、引っ張られてしまう。
『急に黙っちゃってどうしたの?殺されてくれる気になった?』
「いいえ?」
鞄から小さい袋を引っ張り出す、中身の
『きゃっ!?』
やっぱり効果はある。先生に取ってきてもらって良かった。
職員室にいくついでに調理室から塩を持ってきてもらったのだ。
後は名前を呼ぶだけ。
「
バチッと弾けるような音がして視界が真っ白になった。