私達の屋上   作:: 渚 :

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先生と私、そして帰ってきた君と

数十分前

 

鶴川さんと私は図書室で向き合っていた。流石になんの策も無しに敵地に飛び込むなんて自殺行為は出来ないから、作戦会議をするのだ。

 

「鶴川さん、きっと幽霊さんはあなたが目当てだから、邪魔な私を真っ先に狙うはずよ」

 

「はい」

 

「だから、最初は時間稼ぎをしましょう」

 

「えっと…時間稼ぎをして何かなるんですか?」

 

鶴川さんは首を傾げる。

 

「彼女は、唯一自分に逆らった零くんをあなたに近付けたくないでしょうから…なんとかして事前に追い払っているはずよ。その上であなたを殺して仲間に加えるつもりだと思う」

 

私がいるのは想定外になるけど、まあ彼女なら殺すか追い出すかするでしょうね。

 

「とりあえず彼を呼べる状況を作ることを最優先にしましょう」

 

「なるほど…でも自分を殺したい相手に時間稼ぎって…何するんですか…?というか、何か出来るんでしょうか…?」

 

「そうね…1回落とそうとしてから手を出してきてないということは、彼女はあなたに何か言いたいことがあるのかも知れないわ」

 

「…言いたいこと、かぁ…それだったら私もあるな」

 

鶴川さんは少し顔を顰めながら鞄にチラリと目をやる。

 

「会話の内容はあなたに任せるわ。あなたが殺されそうになったら私が守るから、気にせずに逃げて」

 

生徒を守るのは教師として当然の義務…のはずだけど、彼を守れなかった私が言うのはなんだか薄っぺらく聞こえてしまう。

 

「先生、私たちは救いに行く側ですよ?殺されそうになったら2人で逃げましょう?…あ、頼んでいたものはありますか?」

 

「一応持ってきたけれど…」

 

私は鶴川さんにポチ袋を手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

「特に何もしてない塩だけど…」

 

「元来から塩は幽霊に効くとされているんです。腐敗を遅らせる効果があるから死を近づけない、という説があるそうですよ」

 

軽く説明しながら鞄にポチ袋をしまう鶴川さん。

 

「まあ効くかは五分五分なんで、投げて効果があったら彼を呼びます、だめだったら逃げます」

 

言い終えると普通に笑った。これから命を取られるかもしれない戦いに挑む少女とは思えない笑顔だった。

 

☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

幽霊さんに追い出された私は屋上の扉の前に立っていた。慌てて屋上のドアノブを引く。彼女の力だろうか、開かない。ふたりの話す声が雨の音に混じって微かに聞こえる。

 

(また救えないの…?私の力が足りないせいでふたりも生徒を失ってしまうの…?)

 

そんなのもう、二度とごめんだ。必死でドアノブを引く。壊れたって構わない。生徒を守れなくて何が先生だ。今度は守るって約束したのだから。

 

その時、雨の音が一瞬消えて

 

「大丈夫だよ、せんせー、南海を連れてきてくれてありがとう。あとは俺に任せて」

 

彼の声が聞こえた気がした。

 

☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

零の本名を叫んだ瞬間、視界が真っ白になった。

 

突然の光と強風に煽られて、硬い床に座り込む。

 

「待たせてごめんな、南海」

 

耳に届いたその声は、涙が滲むほど優しくて、懐かしかった。

 

「零…!」

 

視界が開けると、そこには白いシャツの背中と黒髪が見えた。

 

『なんで…なんであなたがここに居るのよ!』

 

幽霊さんは一瞬ぽかんとした顔をしていたがすぐにこちらを睨みつける。

 

「南海たちが俺の本当の名前を見つけ出してくれたからだよ」

 

『あなたの名前は消したはずよ!さっきの教師、クラスメイト、家族…どうして思い出せるのよ!』

 

「さあね、俺にも分からない」

 

『この…!』

 

「俺に分かるのは、既に死んで、更に色んな人の記憶から消された、俺の名前を見つけ出してくれた女の子に恩返しをすることだけだよ。…終わりにしよう」

 

彼女は零の気迫に少したじろいだ様に見えた。しかし

 

『ちょっと反抗できるからって…調子に乗らないで!このっ!』

 

「…」

 

幽霊さんが先生を飛ばしたように腕を振るが、零は立ったままだった。

 

『なんで攻撃が通らないの!』

 

「あんたの下にいた時はろくに何も出来なかったけど、今は違うみたいだな。久々の塩で呪縛は解けたか」

 

『うるさいっ…!!!うるさいうるさいうるさい!!!』

 

頭を掻き毟りながら悲痛な声で叫ぶ。

 

零は彼女に目の前まで近づくと、彼女は慌てて尻もちをついた。私との間には零が居て、彼女がはっきり見えるわけじゃないけど、口元が恐怖で震えている。

 

「少しだけ、眠っていてくれ」

 

『え』

 

そう零が呟くと、彼女は糸の切れた人形みたいに後ろに倒れ込んだ。

 

「零!」

 

「…うん、大丈夫みたいだな」

 

倒れた彼女を覗き込んで零はそう言った。

 

「南海、塩まだあるか?」

 

「え、あるけど…」

 

「じゃこいつの周りをぐるーって囲うように塩を撒いてくれ、線みたいな感じに」

 

零はそう言いながらなるべく彼女が占める面積を少なくしていた。ちょうど体育座りのまま眠ってしまった、みたいな感じだ。

 

「近づいて、平気なの?」

 

「強制的に眠らせたからな、どこまで続くかは分からないけど…俺は塩に触れないから、早く」

 

言われるままに、塩で出来た円に彼女を閉じ込めた。溶けないのかな。

 

「ん、これで大丈夫だな、出てこれないはずだ」

 

「あのさ、零」

 

言いたいことがいっぱいありすぎて、何から話したらいいのか分からない。頭の中を色々なことがぐるぐるしている、どうしたらいいのかな、なにか、なにか言わないと_

 

「いっぱい、話さなきゃいけないことあるよな」

 

「俺、話すの下手くそだからゆっくりになるかもしれないんだけど、聞いてくれないか?」

 

彼は、穏やかな瞳で私を見つめていた。

 

「うん、全部聞くよ」

 

傘の柄をぎゅっと掴む。

 

話を始めるために、彼が少しだけ大きく息を吸い込む。

 

しっかりと聞かなければ。

 

彼が()ではなく、()()だった頃の話を。

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