私達の屋上   作:: 渚 :

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彼と彼女の話

俺がどうして死んだのかっていう話から始めさせて欲しい。

 

俺がひとりぼっちになったのは、ちょうど今から10年前の秋の日だった。

 

文化祭の時期だったかな、クラスの出し物も色んなやりたいもので対立してて…みんながみんな、ピリピリしてた。

 

そんな時だった、クラスの誰かが俺の悪口を言い始めたのは。

 

『中野って、正義の味方ぶっててウザイよな』

 

『黙っときゃ良いのに余計なことに口出してくるし』

 

『偽善者がよ』

 

クラスの人数が多かったわけじゃ無かったし、悪口はすぐ広まって、俺は仲間外れにされた。今までいた友達も離れていった。

 

登校したら

 

上履きに画鋲、机や椅子は教室の外に。

 

体育の時間は

 

「あれ?せんせーい、中野くんペア居ないみたいでーす」

 

と誰かに小馬鹿にされた。

 

休み時間に席を外せば

 

ノートと教科書は落書きだらけで、周りからクスクスと嘲笑される。

 

え?先生に相談しなかったの?って…したよ、もちろん。先生も俺の様子には気付いてたみたいで対応を取ってくれた。その後、周りの男子に殴られたり蹴られたりしたから、もう言わなかった。

 

俺の怪我が酷くなったのにも先生は気付いて、更にクラスのやつらに言ったんだけど俺はこれは遊んでて怪我したって嘘ついて、もういじめのことを取り上げないようにしてもらった。先生は不審がってたけど行事で忙しかったのか俺と話す頻度は減っていった。俺が避けたのもあるけど。

 

そのうち、俺は教室にいるからいじめに遭うのだと思って登校しても教室に行かなくなった。

 

誰にも見つからない場所、人が来ない場所…それがこの屋上だった。

 

生徒が普段使いする新校舎ではなく、旧校舎の屋上。鍵は壊れていたし図書室に行けば10分休みで本を借りることが出来る。

 

俺はしばらくそうして過ごした。

 

それで、幽霊さんに会ったんだよな。

 

☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

そこまで話すと、零は疲れたのかふぅと息をついてこちらを見つめた。

 

「今まで黙っててごめんな」

 

「いや、あの時話されても信じられなかっただろうし…」

 

零はやっぱり、本当に死んじゃってたんだ。

 

先生の言っていることが嘘だなんて思わなかったけど、やっぱりこうして話を聞いているとショックを受けていることが分かる。

 

下を向いたまま事実を噛み締めていると

 

『なにこれ』

 

その場に似つかわしくない不機嫌な声が聞こえた。

 

見ると幽霊さんが立ち上がってこちらを見ている。

 

「意外と早いお目覚めだったな」

 

『ここから出しなさいよ!』

 

「やだよ、お前出たら南海殺そうとするだろ」

 

『決まってるじゃない!』

 

「絶対出さねぇ」

 

『はぁ!?』

 

ぎゃーぎゃーと言い争いを始める幽霊たちのせいで、なんだかさっきのシリアスな空気は消えてしまっていた。

 

「あ、あのさ…」

 

おずおずと声をかけると2人ともこちらを見た。

 

「零…陽斗?が幽霊さんと出会ったところで話が終わってるじゃない?だったらそこの続きは幽霊さんから聞きたいなぁって思うんだけど…もちろんそこから出ずに」

 

「だってさ、話せよ」

 

『なんでわたしがあんたの言うこと聞かなきゃいけないのよ!』

 

「早く話さないと南海に頼んで家庭科室から大量の塩持ってこさせるぞ」

 

『ぐぬぬ…』

 

「ふふっ」

 

なんだかこう言い合いをしている所を見ると兄妹喧嘩を見ている感じになってしまって、思わず笑ってしまった。

 

「笑うとこか…?おいほら、早くしろよ」

 

『あーもー分かったわよ!話すから!』

 

幽霊さんが話し始める。怒らせたら余計危険なんじゃないかって思ったけど、黙っておこう。

 

☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

わたし、陽斗と仲良くなったのは別に殺す目的じゃなかったの。

 

本当にただの偶然だった。

 

その日、陽斗が来たのは随分早い時間だった気がする。朝の5時とかだった。わたしはここから見える早朝の眺めが好きで、いつも通り眺めてたら大きな音を立てて陽斗が駆け込んできたからすごくびっくりした。

 

姿を消すのも忘れて、びっくりしたまま見つめてたら陽斗が

 

「…ここからの眺めってこんなに綺麗なんだな」

 

って呟いて、呆れちゃった。

 

わたしは恐ろしい七不思議なのに、なんで平然としてるんだろうって。

 

まあそれから一々姿を消すのも面倒になって、陽斗が来たらすぐ姿を表して一緒に話したりしてた。

 

その途中で、七不思議が今はご法度になってるとか、陽斗がなんで朝から夕方までここに居るのかとか、色々聞いたわ。あと、陽斗がわたしを幽霊だって気付いたのも随分遅かった気がする。なんで制服違うのに気付かなかったんだろって思うくらい。

 

殺すつもりで近付いた訳じゃないし、生身の人間と過ごしたことなんてほとんど無かったから、すごく楽しかった。長くは続かなかったけど。

 

昼休みの時間に、男の子が5、6人でやってきて…陽斗を確認するなり小突いたりしてからかってた。

 

陽斗はわたしに出てくるなって言ってたから大人しくしてたけど…あれはどう見てもおかしかったから。わたしと同じでいじめられていたんだ。陽斗もわたしと同じだったのね。

 

☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 

幽霊さんはそこまで話すと黙り込んでしまった。

 

「そこから…?」

 

「俺が話した方が良いか?」

 

『自分が死んだ時のことなんか話せるの…?』

 

「おう!」

 

即答した零にそれはそれでどうなの…?と思いつつ視線を向けると話し出した。

 

「俺は男子たちが来た次の日の昼休み、屋上のフェンスの外に出た」

 

「あんなに高いのに…?」

 

屋上を囲っているフェンスは大分高い。

 

「まあ俺運動はできたし、そっからあいつらが来るのを待った。ここに居れば小突かれないから」

 

「だからといって無謀過ぎない…?」

 

「あの頃は俺も若かったんだよ」キリッ

 

『10年前に陽斗は死んだんだから、年取らないでしょ』

 

「あ」

 

なんで私は幽霊2人とコントみたいなことをしてるんだ。

 

「まああいつらは結局来たよ。こっちに来たら飛び降りるって脅して…もう二度と来るなって言ったんだけど…」

 

『あいつらは平然と飛び降りれるものなら飛び降りろって言ったのよ』

 

吐き捨てるように幽霊さんが呟く。思わず息を飲んだ。

 

「それで、零はどうしたの…?」

 

「んー…その後も教室にお前の居場所なんかないとか色々言われてまじかー…って思ってたし、特に未練もないからって飛び降りたぞ」

 

「…その、痛かった?」

 

『最初に出てくるのがそれなのね…』

 

呆れた視線を向けられてしまった。

 

「よく覚えてないなぁ、多分痛かったんじゃないか?俺も結構限界だったのかもしれない。ここから飛び降りてあいつらに心の傷を負わせられるならいいかなって思ってたし、意外としんどかったのかもな。少し幽霊さんと似てるし」

 

遠くを見つめる零はなんだか知らない人みたいだった。

 

『…まあ、飛び降りた瞬間のあいつらの顔は酷いなんてもので済ませられるほどじゃなかったし、すぐ人も集まってきて犯人はバレたわけだけど』

 

「あの頃俺家にも居場所なかったからなー、朝早く行ったのも学校に来てないって言われた親に理由話す暇もなく叩き出されたからだし」

 

零、安心出来るはずの家にも居場所がなかったってこと?

 

先生が言葉を濁したのは、こういうことだったんだ…

 

私に絞り出せた言葉は

 

「2人とも、大変だったんだね」

 

そんな陳腐な言葉だけだった。

 

「なんか死んだら死んだでもういいかなっていう、過去のことだし」

 

『気軽に捉えすぎなのよね…ちなみに、未練はタラタラだったわよ。でなきゃ今ここにいないもの』

 

「もうちょい生きたかったなって欲はあった」

 

「まあそうだよね…」

 

少ししんみりした空気になるけど

 

『死に方が違う…いや、経緯?とかまあ色々複雑だから他の子みたいに言う事聞かなくて大変だった、姿出させてればひとりくらいはすぐ来るから楽だったけど』

 

「人を客寄せパンダみたいに言わないでくれないか?」

 

すぐ2人してぶち壊してしまう。

 

「忘れてたけどあなた大量殺人鬼の七不思議だった」

 

幽霊さんを見ると少しだけふふん、とした顔をしている。

 

『そうよ、わたしすっごい怖いんだからね』

 

ツン、と顎を上にあげて威張る姿はどう見てもただの女の子にしか見えない。

 

「今は塩の檻に囚われて出れないわけだけど」

 

『うぐ…』

 

「人を殺したことに関しては許されていいと思うなよ」

 

『うぐぐ…』

 

にやにや笑いと零と、真顔で言いたいことを言った私には、流石の七不思議も何も言えないようだ。

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