結局ここからどうしようか。零がいなくなった理由も分かったし、なんか和やかな空気だけど。ずっと話している訳にもいかないのだ。
「んー…」
「なんかあるか?」
『どうしたのよ、南海』
「いやあなた達のことだけど」
「どこか問題が?」
『?』
何がみたいな顔をしている、叩きたい、叩けないけど。
「えー…じゃあ幽霊さん。あなたその塩の檻から出してもらったらどうする?」
『うーん…とりあえず南海を殺してお友達にするわ!』
「はい論外」
殺されてなるものか。なんていい笑顔で言うんだ。
「何言ってるんだ、そろそろ終わりにしなきゃだろ」
『………』
「もう何十年もここに居てつまらないんだろ。成仏…したことないけどそろそろ出来るだろ?」
『…嫌』
そう呟いて俯いてしまった。
「…生きてる私が言えたことじゃないけど…どうして嫌なの?」
『わたしは何人も人を殺してるんだもの…この世を離れたとして行くとしたら地獄じゃない…たとえ無くてもろくな事にならない!だからわたしはここに居る!成仏なんかしない!』
「………」
『人は殺さないから…もう二度とやらない…痛いのは嫌…』
声には嗚咽が混じっていた。さっきの明るさで忘れてたけど、この子もいじめの被害者だ。
「…じゃあさ、俺が行くよ」
黙っていた零がそう呟いた。
「俺だって一応殺すための手助けしたわけだろ、だったら俺が幽霊さんの代わりに痛い思いすれば済む」
『でも殺したのはわたしだよ!陽斗は悪くない!』
「…」
幽霊さんは泣きながら、零は少し苛立ちながら喧嘩を始めてしまった。こ、これ私どうしたらいいの…?本人たちの問題だから関与しないで置くべき…?
『陽斗は悪くないから天国かそういうところに行けばいいの!』
「俺も死んだ直後ヤケになって死んでくやつ見捨てたことあったろ!」
『でも1番悪いのはわたしなの!』
「うるさいなぁ、お前みたいなのがひとりで痛い思いすんのに俺が気持ちよく天国とか行けると思うのかよ」
『それは…』
「お前が地獄とかそういう所に行くんだったら俺も一緒に行ってやるよ、ひとりでダメならふたりだ。これでどうだ?」
『…』
「お前は確かに悪いことをした。でも俺も同じだ。さっきのお前の態度で反省してるのは分かったから」
『…ダメって言われるかもしれないよ』
「無理にでも行く」
『………陽斗ってほんとバカだよね』
「何おう!?」
彼女は下を向いたまま呟いた。
『あなたを酷く扱った私になんでそんな対応するかな…意味わかんない…でも、陽斗がそこまで言ってくれるのにわたしが何もしないなんて出来ない』
『逝くよ、わたし。逝くところが地獄か、もっと酷いところかわかんないけど。みんなの名前も返す。』
まっすぐ前を見る幽霊さんは、なんだかかっこよかった。
「幽霊さん…」
『南海、殺そうとしてごめんね』
「ううん…」
『あのね、わたしの名前
百合香、すごく綺麗な名前だ。
「…うん、分かった。百合香、今度会う時は普通に会いたい」
『わたしも。今度会えたら普通の友達になってね』
「もちろん」
『陽斗、先に逝くね。南海にもっと話すことあるでしょ』
殺されかけた身なのに、優しく微笑む彼女に逝って欲しくないと思ってしまう自分がいた。
傘を差して居るのに雨で視界が滲む。
『…泣かないでよ。
「…またね」
百合香は目を閉じると、空気にすうっと溶けるように居なくなってしまった。
「南海」
「零…じゃない、なに?陽斗」
「零でいいよ」
「そっか」
あれほど話したかったことがいっぱいあったのに、最期だからそんなことよりもっと大事なことを話さなきゃいけない気がする。
「…色々黙っててごめん。あの時南海を助けてよかった。俺も、幽霊さん…百合香も、こうやって成仏…?できるなんて思ってもなかったからさ」
なんで、零も百合香と同じでそんなに優しく笑うの。
「私も、私も零に救われたから、返せて良かった。今まで本当にありがとう」
涙、止まんなくなっちゃうじゃん。
「零、今度会う時は百合香と同じで普通に会いたいな」
「うん」
「こんな風に途中でお別れとか、嫌だからね」
「うん」
最期だから、全部言っちゃえ。
「私ね、零のことが大好き!」
話を聞いてくれたところとか、気持ちに嘘をつかなくて良いって言ってくれたこととか、危険を顧みずに私を救ってくれたところとか。全部。
「うん、俺も」
その優しい瞳が大好き。
「こんな最期に言うなんて嫌だから、今度は絶対普通に会って、何気ない日常でこれを言わせて欲しいの!」
「注文多いなぁ」
「う…」
言いたいこと全部言っちゃったからな…我儘だと思われたかな。
「でも、前みたいに気持ちに嘘つかずに正直に言ってくれて嬉しい」
「うん!」
「先生にも、よろしく」
「分かった…あ」
ふと思い出して鞄からミサンガを取り出して、袋から出す。
「それって…前頼んだやつか?」
「うん」
零の手首に結ぶ。幸いにもすり抜けることは無く、ちゃんと結べた。赤と黒、そして白で作ったミサンガはよく似合っていた。
「…切れるとお願い事が叶うの」
「前、言ってたな」
「私も後で手首につける、今度は普通に会えますようにって」
「じゃあ俺は_」
その時、風が強く吹いてた気がするけど、その言葉ははっきり聞こえた。
びっくりした私は傘を取り落として
零は悪戯っぽく笑うと、私をぎゅっと抱き締めて
「
「…またね、零、私も大好き」
しっかり抱き締め返した直後、彼の体も溶けるように消えた。
涙が溢れそうになるけど、ぐっと堪えて、鞄からミサンガを出して手首に結ぶ。
お願い事もしっかりした。
取り落とした傘を拾って閉じる。
雨はいつの間にか止んで、先程まで空を覆っていた雲は消えている。
綺麗な青空が見えていた。
屋上には、澄んだ風が吹いている。禍々しい空気はどこにもない。
扉の開く音がして、振り返ると、先生が泣きながら走ってきた。
「鶴川さん!無事なの!?」
「はい、先生も大丈夫ですか?」
「大丈夫…その、幽霊さんと陽斗くんは…?」
「…還りました。きっと、本来居るべき所に」
「………」
「零…陽斗が、先生によろしくって。これで、屋上の七不思議は終わりました」
「鶴川さん…本当に、本当にありがとう…」
「…はい」
澄んだ風を浴びながら、青空を見る。
零の言葉を信じよう。
_必ず、大好きなあなたを迎えに行けますようにって願うよ_
彼は、絶対に約束を守ってくれるだろう。
そんな予感がする。
もうすぐ、夏がやってくる。
きっと誰も信じてくれないけど、私はずっと覚えていよう。
悲しい七不思議の少女がいた事を。
勇気を出して、私を救ってくれた少年を。
私達の屋上を。
初めて最後まで書き切る事が出来ました。
感想やお気に入り、評価が大変励みになりました、ありがとうございます!
これを持って、完結とさせていただきます。
お読みいただき、ありがとうございました!