体育座りをして、いつもみたいに独り言を言うように、私は話し始めた。
「私ね…1年生の時、仲良い友達がいたの。名前は咲良。中学校から一緒だったから」
そう、
「咲良は高校でも部活に入ったんだ、吹奏楽部。中学生から続けてたし、先輩がここに来てるって言ってたから、入りやすかったんじゃないかな」
パートはフルートだった、吹奏楽部が演奏会を開く度に見に行ってたし、ソロが決まった時はふたりで飛び上がって喜んだ。
「でもね、高校1年の冬での演奏会。3年生を送る会…分かる?」
「あぁ、三送会だろ?」
「うん、それで私咲良にお疲れ様って言って、一旦荷物をまとめに行ったの。一緒に帰るために。咲良は吹部の子達と話しながら待ってるねって言ってたから、なるべく急いで」
帰る時にはあそこの部分が良かったとか、少し寂しくなるね、とかそんなたわいも無い会話をして帰るつもりだった。
「うん」
「そこで…聞いちゃったんだ」
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荷物をとって戻ってきたら、ひそひそ話をしていたので、大事な話かと思った。待ってただけで、盗み聞きをするつもりなんかなかった。でも聞こえてしまったのだ。
「てか咲良ちゃんさー、なんで南海?ちゃんと帰ってるの?」
「そうそう、南海ちゃん部活入ってないんだっけ?一緒に帰る子居ないとか?」
「あー…まあそうなんだよね、毎日一緒に帰ろうって言ってくるから、仕方なく」
『言ってくるから』、『仕方なく』
そのふたつの言葉は、私の胸に深く刺さった。私は忍び足で来た道を戻って、バタバタと大きな足音を立てて何事も無かったように声をかけた。
「ごめんごめん」
「あーもう遅いよー」
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「女の子同士の愚痴なんてよくある話、私にも嫌な部分はあるし、仕方ない。そう思って諦めたんだ。生きてる上で誰かには嫌われるものだし…みんながみんな、仲良くなんてできないから」
「………」
零はいつの間にか梯子をおりて近くに来ていた。余計な口出しはしないでただ話を聞いてくれていた。俯きながら話しているから聞こえにくいはずだ。でも何も言わなかった。それが本当に有難かった。
「でも、それも長くは続かなかった」
私はある日、吹奏楽部で咲良と特に仲がいいフルートパートの子に呼び出された。確か同学年で、よく私と咲良のクラスにきて練習の相談とかをしていた気がする。多分咲良との関係のことで何か言われるんだろうなって覚悟しながら呼び出し場所の空き教室に向かった。
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「えっと…鶴川、です。何か用でも…?」
「ほら、来たよ」
「うわあマジで来たんだ、弱虫そうだから超意外なんだけど」
空き教室には5人、同じ学年の子がいた。フルートパートかどうかは知らないけど、多分吹奏楽部の子。顔だけ見たことはあったから。
周りで女の子特有の小声でひそひそ話をしつつ笑われる…典型的ないじめみたいだ、とっとと咲良と関わるなと言えばいいのに、呼び出し人であるその子は見下したような顔で私を見ているだけで、何も言わなかった。
ガラッと扉を開ける音がした、反射的にみんなそっちを見る。
「ほら、咲良、言っちゃいなよ」
なんで貴女がこんなところにいるの?
「でも…」
「最っ高のプレゼント、だよね?」
「元からウザイって言ってたでしょ」
「そーそー、今がチャンス!」
戸惑ったような声の咲良が、周りに聞いてる。
周りの子に言われるのは平気、離れろって言われれば離れるよ、そんなのとっくに覚悟してたから。
でも、中学からずっと一緒だった貴女本人に言われるなんて、絶対に耐えられない。貴方だけは信頼していたの、周りに言ってるのはただ言い返して状況がぐちゃぐちゃになるのを避けたかっただけだって、思い込んでいたから…
「そうね」
覚悟したような咲良の声が聞こえた。
「ねえ_南海」
名前を呼ばれた途端、走って逃げた。後ろで誰かが何かを叫んでいたけど耳に入れなかった。咲良の声だったのかも知れない。まあ今となってはどうでもいいんだけど。本当にダメな時って体って動かないものだと思ってたけど、案外そうでも無いんだなって、そんなこと考えてたな。
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「それからは全然話してないよ、クラスも別になったし…咲良はずっとあの子達と居るからね」
話し終わって顔をあげると何故か零がおろおろした顔をしている。
「南海…俺ハンカチもティッシュもないから…ちょっとごめんな」
指の腹で頬を拭われた。頬は濡れていて、私はその時初めて泣いていたことに気づいた。
「俺のことじゃ慰めになんないと思うけど、俺も大分前に友達に裏切られたことがあるんだ。南海は三送会の後で言ってるのを聞いて、それでも信じて何も言わずに我慢したんだろ?俺がその場所だったらどういうことだって問い詰めて、大喧嘩になってたと思う…南海は頑張ったよ、泣くのまで我慢しなくていいんだよ」
頬を雫が伝っていくのが感覚でわかる。ああ、言葉が勝手に出てきちゃう。いやだ、こんなこと言いたくない。
「お母さんにもお父さんにも言えなくて、やっと新しく仲良くなった子にこんなこと話したくなかった、零にも話すつもりはなかったのに…ほんとにごめん、こんな…こんなの聞きたくなかったよね、もっと軽いのだと思ってたでしょ…嫌いになったなら、もう屋上には来ないから!」
しゃくりあげながら、自分でも何を言っているのかよくわからない。優しくしてくれた零に酷いことを言ってしまっているってことはわかった。なんでこうもうまくいかないんだろう。今日も零はこのまま引いて、そして私は屋上に来なくなる。それがハッピーエンドだ。
でも、今日は引いてくれなかった。
「…大丈夫だよ、もう、自分の気持ちに嘘をつかなくて、いいんだよ」
そんなこと優しい笑顔で言われたら、君を遠ざけることが、二度と出来なくなっちゃうじゃない。