どうやら、私は主人公の兄にして、【踏み台悪役貴族】らしい 作:ポピィ
内容は上記の作品と全く違いますが方向性だけは似通ってます。
更新は不定期である程度書き溜めたら連載に変更します。
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こうるさい家庭教師の中身のない耳障りな講釈を惰性でやり過ごし、屋敷の書庫で紅茶の入ったティーカップ片手に最近お気に入りの冒険譚を開いて優雅なひとときを過ごしている最中、ふと頭に刺すような痛みが走ったと感じた次の瞬間。
脳内に私の知らない記憶が次々と湧き上がってきた。
ーー天まで届かんばかりの石と硝子の巨塔郡。
ーー平に均された道を走る鉄の馬車。
ーー空を駆ける鋼の巨龍。
そして、その世界で生きていたであろう人物の経験…いや、より正確に言うのであれば、これは『記憶』か。
1人の人間の産まれてから死ぬまでの全ての記憶。それがほんの数瞬の内に頭の中に流れ込んできたのだ。
私は、突然の事態に逡巡し、黙考し。
そして、気にしないことにした。
何故、この私にこんなことが起こったのかは分からない。そもそも何だこの知識は。知識の中の世界を見る限り、私が生きるこの世界より裕福な世界ではあるようだが、この知識の持ち主は酷く貧しい人物だったようだ。
いや、貧しいというのは経済的にでは無く、人間性的に、という意味だ。
かの世界基準では平凡な家庭に産まれ、優しい両親に育てられ、飢えもせず、学びの機会も十分に与えられていた人間だったようだ。
しかし、学び舎での挫折から立ち直れず、自分の部屋に引きこもり、そんな足でまといを見放さずに関係を持ってくれている親から与えられる愛情を見ようともせずに「自分は不幸だ」などと愚にもつかない妄言を吐き、あまつさえそんな己を省みずに「俺に優しくないこんな世界なんてクソだ」などと画面の中のなにがしかに対して暴言讒言の雨あられとは…。
目も当てられない愚か者を体現したような『心の貧しい人間』であったらしい。
そんな人間の最期は、人目を忍んで夜間に『こんびに』とかいう場所に出かけた際に道の曲がり角から飛び出してきた鉄の馬車に轢かれ、数分程苦しんだ後の失血死だったらしい。
「犬畜生ですら一宿一飯の恩は忘れん。ましてや産みの親であれば生涯をかけて恩を返すのが筋であろう。それを忘れ、己の境遇を省みなかった者の生涯とその末路、か。半銅貨1枚の価値すらない駄作だな」
「坊ちゃん、そちらの本はお気に召しませんでしたか」
ぽつりとこぼれた独り言に、傍に控えていた初老の執事、リチャードが反応する。私はそれに対して、ひらひらと手に持った本を振って誤魔化す。
「いやいや、悪くは無いよ。ただ、この作品に出てくる登場人物が、ね。気に入らなかっただけさ」
「左様でございましたか」
私の答えに納得したのか、首を縦に降るとリチャードは静かに控えた。
リチャードは祖父の代から我が『ストライア公爵家』に仕える執事長だ。頭脳明晰、品行方正、噂によると若き頃は城の騎士団に剣術を教えていたらしい。まさしく『文武両道』の化身といったところか。
私は彼以上に万能を体現した執事を知らないし、今後も現れることは無いだろうと感じている。
かくいう私も、6歳になってから今日までのおよそ5年間、彼から剣術を教わっている。「貴族たるもの文も武も、並以上に成せねばならぬ」とは父の言だ。
「リチャード、私は少し落ち着いてこの本を読みたい。用が出来たら呼ぶから、席を外してくれないか?」
「承知致しました。それでは、失礼致します」
そう言ってリチャードは無駄な雑音も立てず、見事な所作で書庫を後にした。
リチャードが部屋を出ていったのを確認し、私は本を閉じてテーブルに置いて目を閉じた。
突如として得た尋常ならざる知識。
愚かで救いようのない愚者の記憶。
そしてーー愚者の記憶にある『とある
「さて…どうしたものか」
【
貴族でありながら『無能』と蔑まれ家を追われた主人公『クルス・
その物語の中で、主人公を落ちこぼれと嘲り罵り、物語の序盤で成長した主人公の『踏み台』として扱われたあげくに自業自得によって破滅する主人公の実の兄…『ログルス・ストライア』。
そして、私の名前は『ログルス』。由緒正しきストライア公爵家長子、ログルス・ストライアだ。
どうやら私は、実の弟を虐げる冷血漢にして、破滅の未来が待つ『踏み台悪役貴族』らしい。
■
【
内容は、剣と魔法の世界【アムネジア】にある【ケンリッジ王国】の貴族の息子として産まれた主人公、クルスが10歳になった年に貴族の子が受ける『魔術適正検査』で『地水火風』の基礎四属性、並びに『光闇』の特殊二属性のどれにも当たらない『無能』の判定を受けたことから物語が始まる。
『無能』は魔法主義が一般的なケンリッジ貴族における最大級の汚点であり、当然王国の公爵という立場があるストライア家にとってクルスは文字通り邪魔者となった。
足でまといとなったクルスを当主である『ペテロ・ストライア』は疎み、小旅行と見せかけた茶番をもってクルスを凶悪な魔獣が蔓延る【黒鉄の森】の深部に放逐する。
親から捨てられ、頼るものも身を守る術もない主人公は、数多の苦難を乗り越えた果てに【黒鉄の森】の最深部に辿り着き、そこでとある1人の少女と出会う。
度重なる困難と運命の出会いを経て、少年と少女の世界を巻き込んだ英雄譚が今、始まるーー。
■
「ハア。まさか、あのクルスがなぁ」
得た知識を整理し終え、一息つく。
私には、確かに歳が少し離れた弟がいるし、その名前はクルスである。
私が住む国の名もケンリッジ王国で相違ないし、王国貴族にとって魔法というのは無くてはならないステータスのひとつである。
そして、弟のクルスは今年で9歳。来年には王国が主催する『魔術適正検査』を受ける事になる。つまり、私の弟が家を追われるまで残すところあと1年ということである…この知識を信じるのであれば、という前提だが。
まぁ、それはいい。
兄としては実の弟が放逐されるのであればできる限り止めたいとも思うし、弟が『無能』だからと蔑む気は無い。
しかし、貴族という立場がある以上、身内に『無能』が居ることはデメリット以外何も生まれない。下手を打てば公爵家の利権を狙う他の貴族共の手によってストライア家そのものが傾く危険性すらある。
立場とは、時に情よりも優先しなければならない時がある。それは分かるが、それに巻き込まれる側からしたらたまったものではないだろう。
放逐云々に関しては、もうなるようにしかならないとしか言えないこと。いくら私が公爵家長子として教育を受けていると言っても所詮は子供でしかない。父上がすることに否を突きつけることなど出来ようはずもなし。なのでこれは考えても仕方が無いことだ。
「しかし、この知識の私は随分とくだらない人間だな。同じ名を持つ者としては嘆かわしく思うよ」
私が頭を悩ませているのは、知識の中の『ログルス・ストライア』の素行だ。
王国史上初の『全六属性適正持ち』という天性の才能と公爵家という立場にあぐらをかき、己を高めることもせず自尊心だけがぶくぶくと肥太った結果、慢心と怠惰の化身と成り果てた『知識の中の私』。
その私によく似た愚か者に対し、当の私は下手な歌劇の台本でも読んだような気分になり、失笑をこぼす。
確かに、私も『知識の中の私』と同じく昨年の適正検査で『全六属性適正持ち』と判定を受け、来年入学する【王立グラルフィリア学院】からは試験無しでの最高等級クラスへの編入を打診された。まぁ、それに関しては他の入学生と同じようにクラス分け試験を受けさせてもらうようにしてもらったが。
だが、適正はあくまでも適正でしかない。
「適正だけあって魔法はまともに使えません」ではおはなしにならないのだ。
故に私は己を高めることを忘れないし、公爵家の長子である以上それに相応しい人間であれるように務めなければならないのだ。
「たかが『適正がある』だけであそこまで増長できるのは、ある意味才能だな。私はそんな才能願い下げだが、『知識の中の私』は一体何を考えていたのやら」
閉じていた目を開け、すっかり冷めてしまった紅茶をひと口啜る。
なんの前触れもなく訪れた出来事ではあったが、総じて言えることは「いくつかの知識は目を見張るものがあるが、使い道はほとんど無い無用の長物」だということだ。要するに無駄である。
「そもそもこの知識を持っていた愚者がいかんな。出不精の情弱などと言った言葉が知識の中にあるがまんまそれではないか。どうせ知識を得るのであれば高尚な学士か、それこそ世界を救った勇者の知識が欲しかったな」
どうせ誰も聞かないだろうと思い、グチグチと独り言を話していると、扉の向こう側からバタバタと何者かが近づいてくる音が聞こえた。
そういえば、午後はここで過ごすと伝えていたな。と、考えが思い浮かぶと同時に、書庫の扉が勢いよく開かれそこから小さい影が書庫の中に入ってきた。
「兄さん!兄さんはいますか!」
そう言って飛び込んできた小さい影…父譲りの金髪と母譲りの茶色がかった瞳を持つ少年。
「そう大声を出すな、クルス。お前の兄はここにいるぞ」
「兄さん!午前の講義が終わったら僕と剣術の稽古をすると約束していたではないですか!約束を破るんですか!」
ギャイギャイとやかましいこの少年が、私の弟にして、暫定『無能』の推定『主人公』、クルス・ストライア。
もしかしたら世界の命運を背負うことになるかもしれない、私の愛する『家族』である。
主人公は『テンプレトラック転生した日本人の魂を圧倒的な自我によって消滅させて知識だけ奪い取る』という化け物です。
口調が大人びているのは貴族教育と貴族の長子としての振る舞いを徹底した結果。
主人公と弟くんは2歳差で、主人公11歳、弟くん9歳です。
双子より歳の差があった方が兄と弟の関係をより強調出来ると考えました。
感想、ご意見あればどしどしおきかせ下さい。