どうやら、私は主人公の兄にして、【踏み台悪役貴族】らしい 作:ポピィ
不自然な点があれば教えてください。
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書庫まで押しかけて「稽古!稽古!」と騒ぐクルスをなだめすかしながら、私は屋敷の中庭までクルスに手を引かれてやって来た。
正直さっさとやり過ごして自室に戻ってもよかったが、例の知識のこともあり、あらかじめ「少しだけだぞ」と言い含めて付き合うことにした。
この愛すべき弟が今後世界の命運を背負うことになるかもしれないならば、今の時期から少しでも多くの経験を積んだほうがいいだろう。それが例え未熟者の兄との鍛錬であったとしても、何らかの助けにはなるはずだ。
「兄さん、いきますよ!」
そう言って距離をとったクルスは、右手の木剣を下段に構え、左手の木盾を前に突き出す騎士の基本の型をとる。
クルスは私と同じく6歳になってすぐにリチャードから剣を習い始めた。その構えは隙が多いながらも
「お手柔らかに頼むよ。怪我だけはしたくないからね」
対する私は、クルスとは違い右手だけで持った木剣を正面に構え、無手の左手を後ろに下げて半身になって構える。
この構えは、相手側から見ると剣と体が一直線になり、敵からしたら攻めづらくなるらしい。「らしい」というのは、この構え自体が既存のものではなく、実際に見たことも対峙したこともないからだ。
「兄さん、なんですかその構えは。リチャード
「いやいや、ただの戯れさ。それより、リチャードのことを
確かにリチャードは私達の剣の師匠だ。しかし、リチャードはそれ以前にストライア家の執事長であり、本質的にはストライア家の子である私達の方が立場は上である。
私自身も剣を教わってすぐの頃、リチャードを師匠と呼んだ際、リチャードから「私はあくまでもストライア家の執事です。そこを履き違えませぬよう」と窘められた。当時はよく分からなかったが、今では「貴族として目下の者を無闇に敬うのは、己の格を落とす事と同義」であるということを伝えたかったのだろうと理解している。
私がストライア公爵家の後継として相応しくあれるよう、リチャードは如何なる時も敢えて自らを下に置くことで道を示してくれているのだろう。彼には本当に頭が上がらない。
「戯れ、ですか」
「戯れだろうよ。リチャードがいない場で本格的な試合をしたなど、奴に知られれば小言の嵐だ」
「なるほど。確かに、リチャード
「だろう?そしてリチャードを師匠と呼ぶなと言っている」
キラキラした目で私を見るクルス。尊敬してくれる事は嬉しいが、実の所リチャードの小言はあまり気にしてはいない。
この構えをとる本当の理由は、『知識の中の私』がこの構えをしていたからだ。
構えとは、使う人間がとりやすいように個人個人である程度改変されるのが普通だ。であるならば、『知識の中の私』が取っていたこの構えは、私にとって最善の型なのではと考えたのである。
もちろんこんなわけのわからない型をリチャードとの鍛錬で使えば、小言だけでなく木剣による苛烈な制裁が下される。だから、今回の試合は正式な稽古ではなく、あくまでも兄弟の戯れとしてなんとしてでも通さなければならないのだ。痛いのは嫌だ。
「さて、クルス。いつでも来なさい」
「では、いきます!ハアッ!!」
気合いの入った掛け声とともに、クルスは正面に盾を突き出しながら突進してくる。私が迫ってくる盾を横に動いて避けると、それに反応したクルスが右手の木剣で切り上げてくる。
下から迫る木剣を弾いてバックステップで距離をとると、すかさずクルスは盾を構えて突っ込んでくる。
騎士の型は基本的に突進から始まることが多く、これは戦いにおいて自分を守りつつ敵を制圧するのに最も適した戦法であるからだ。
確かに、盾の突進を受け損ねればそれだけで体勢が崩れ、次の攻撃に対応出来なくなるだろう。そのくせ盾をやり過ごしたところでそれを踏まえた攻撃を準備しているから、やり合う上ではかなり面倒な手合いだ。
クルスの突進をやり過ごし、その次の攻撃を弾いて距離をとる。これを何度か繰り返していると、クルスが突然大声で文句を言ってきた。
「いい加減にしてください!さっきから避けてばかりでまともに相手してくれないではないですか!兄さんもちゃんとやってくれないと鍛錬になりません!」
「だから鍛錬じゃないと言っているだろ、全く」
「それにその構え、僕は嫌いです。なんというか、騎士らしくありません」
ほう、騎士らしくない、か。
「まぁ確かにそうだな」
この構え、使う前からなんとなく分かってはいたが、はっきり言って『実戦には全く向かない構え』だ。
相手からの攻撃を受けようにも、片手で剣を扱っている都合上まともに受ければ力負けするだろうし、流したり弾いたりといった技能を実戦で扱うのは総じて達人と呼ばれる者か、あるいは力量に大きな差があるものだけだ。少なくても私のような『才能に恵まれなかった者』が扱うには過ぎた物だろう。
だが、『知識の中の私』はこの構えを好んで使っていたらしい。
それはつまり『こんな出鱈目な構えでも勝てる程度の相手としか戦わなかった』か、あるいは『まさか自分に対して反抗してくる奴はいないだろう』と周囲を舐め腐っていたかのどちらかだ。
どちらの理由にしろ、私がこの構えを使う意味はもうないものとして考えよう。
「よし、じゃあいつも通りの構えでやろうか。次は私から行くぞ」
そう言って、私は剣を両手で持ち、頭の横に持ってくるようにして構える。知識の中で言うところの『雄牛の構え』というものに近いだろうか。
私が構えると同時にクルスも盾を構えて受け止める体勢をとる。
「今日こそ受けきってみせます」
「いい覚悟だ。やってみせろよ」
私は言葉を言い切る前に足を踏み出して近づき、クルスの構えた盾に軽く剣を振り下ろす。クルスは私の繰り出す剣に対して盾を斜めに構えることで剣を流そうとするが、そもそもまともに剣を打ち下ろすのでは無く、軽く当てる程度の威力の剣を流されたところで体勢はあまり崩れない。
再度構えなおして打ち付ける。流そうとしても流させない。流れる前に引いて打つ。
私の容赦ない連撃を必死で受け続けるクルスには申し訳ないが、クルスに勝つにはそもそもクルスに攻めさせない以外に手が無いのだ。
ただの遊びで弟相手に大人気ないと思うか?遊びであっても負ければ悔しいだろう。だから遊びであろうが手を抜く気は一切ない。そして私はまだ11歳、大人気なくとも子供だから問題ない!
そもそも、クルスは私の剣をただ『受ける』のでは無く『流そう』としているのだ。いくら剣を習い始めて3年が経つとはいえ普通そんな技術は身につかない。しかし、この弟はそれをやってのける。
一番初めの鍛錬で、弟がリチャードの剣を不格好ながら盾で受け流したのを見た時は思わず手を叩いて褒めちぎってしまった程だ。その時は流しきれずに尻もちをついていたが、リチャードも「クルス様は非常に良い目を持っていますな」と珍しく褒めていた。
ちなみに私は最初の鍛錬でリチャードから「坊ちゃんに剣の才能は無さそうですな」とハッキリ言われている。どうやら、私の剣の才能は弟に吸われたらしい。くそぅ。
「フハハハハ!受けてばかりでは勝てんぞぅ弟よ!」
「くっ、やり返したくてもやり返せない。兄さんはやっぱり凄いや!」
私が問答無用で攻撃しているのに、何故か尊敬したような目で見てくる弟に軽く戦慄する。被虐趣味にでも目覚めないか心配だな。
そして、だからこそ信じられない。リチャードからも才能があると太鼓判を押されている弟が、ただ『無能』だからと放逐されることが。
(それだけ貴族の魔法主義が根深いという事なんだろうが。やり切れんな)
「まだまだいくぞ弟よ!悔しかったらやり返してこい!」
「わかったよ兄さん!絶対やり返してみせるから!」
そんなこんなで弟とのチャンバラは、様子を見に来たリチャードが鬼の形相で止めに入るまで続くこととなる。
私とクルスはその場で2人してリチャードに叱られたが、私だけそれとは別にリチャードから報告を受けた父上と母上から「遊びとはいえ弟をいじめるとは何事か」と追加で叱られることになった。解せぬ。
RPGにおける戦闘チュートリアル回です。
ゲーム画面があったらボタンごとのアクションの説明がされてる事でしょう。
主人公最強タグ。この作品に出てくる『主人公』は一人じゃありませんので。
感想、ご意見ありましたら是非下さい。
感想1つで執筆意欲がギュウンと湧きます。