どうやら、私は主人公の兄にして、【踏み台悪役貴族】らしい   作:ポピィ

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複数人の登場人物を動かす練習をしながら投稿。

危機契約は12点が限界だったよ、パトラッシュ…


第4話

◻️

 

「ログルス。昨日義兄上から、久々にお前に会いたいと言われた」

 

朝、食堂で家族全員で食事をとっている場で、父上がそのように切り出した。

 

「陛下が、私にですか?」

「うむ。急ではあるが、午後からの予定は開けておけ。参内する」

 

そう言うと父上は、黙々と朝食のブレットを口に運ぶ。話は終わりということらしい。父上のキリリと鋭い赤の眦は言葉の最中もこちらを見ることは無く、手元のブレットに向いていた。

 

「あら、では今日は兄上のところに行くのですね」

「ああ、ユフィも付き添ってくれ」

「では早速着ていく衣装を見繕わなければいけませんね」

 

そう言うと母上がニコニコと楽しそうに言って、壁際に控えていた侍女を呼んで衣装の相談を始めた。

それに眉間に皺を寄せてじろりと父上が目を向け、苦言を呈する。

 

「ユフィ、食事中だぞ。衣装の相談は後でにしたらどうなんだ」

「いいえ、ペテロ様。こういうことは早いうちから決めておいた方がいいわ」

「しかし、子供達もいるんだ。教育にも悪いだろう」

「ここはパーティの場でもマナーの実習の場でもありませんわ。最低限のマナーさえ守っているなら、多少のことはお目こぼししても良いのではなくて?」

「マナーとは普段の所作がそのまま出るものだ。貴族たるもの、いついかなる時も、己の所作を誰に見られても謗られぬようにせねばならん」

「もう、融通がききませんこと」

「性分だ。許せ」

「分かってますわ。この話はまた後ね」

 

ハァ、とため息を吐いて、母上は侍女を戻すと手元のブレットをブチりブチりと若干乱暴にむしり取る。

横で聞いていてハラハラする会話ではあるが、この程度の会話はこの2人の間でのじゃれあいのようなものらしい。実際、父上と母上が喧嘩らしい喧嘩をしているのを見たことはない。

大抵の場合は、割とアバウトな性格の母上を生真面目な父上が諌め、最後に必ず父上が一言謝って終わり。仲がいいのか悪いのかよく分からないな。

 

「父上、僕も叔父上に会いたいです!僕も一緒に行っていいですよね?」

「そうですお父様!私だって久々に王妃様とお話したいです!」

 

話しを聞いていたクルスと妹のレイチェルが僕も私もとうったえる。そういえば2人とも、陛下と王妃様にすこぶる懐いていたな。私はどちらかと言うとあの方々はあまり得意ではないんだが。

言い募る2人に、父上は食事の手を一旦止めた。

 

「お前達はたしか、座学の講義があった筈だが。どうだ、リチャード」

「はい、確かに。クルス様とレイチェル様は午前中に座学とマナーの講義があります。しかし、午後からの予定は特に決まってはおりません」

「ふむ、なるほど」

 

リチャードの話を聞いて、父上は少し黙考した後にひとつ頷く。

 

「わかった、お前達も来い。義兄上には私から話しておこう」

「やったぁ!じゃあ、さっそく準備しないと…」

「食事中だ」

 

大好きな陛下と会えると聞いてテンションが上がったのか、食事中であるにもかかわらず席を立とうとしたクルスが、父上の鋭い一言にピタリと動きを止め、渋々席に座り直した。

 

「まったく、クルスは落ち着きがないわね」

「うう、今のは気が抜けてただけだよ」

 

やれやれと呆れるレイチェルに詰られ、目を逸らしながら食事を口に運ぶクルス。

普段からなにかと忙しないクルスと、落ち着いた雰囲気のレイチェル。クルスの方が兄ではあるのだが、ヒエラルキーではクルスが下のようだ。

 

厳格で貴族として誇り高い父上。

のんびりとしていて暖かな陽だまりのような母上。

元気いっぱいな太陽のような弟、クルス。

穏やかで背伸びしたがりの妹、レイチェル。

 

顔を見知った使用人達に囲まれ、なんてことない会話が飛び交うそんな日常の光景。

このかけがえのない時間が、私はとても愛おしく思い、口元が緩むのを感じた。

 

 

私達は、馭者が操る馬車に揺られて、王都の馬車道を進んでいた。

 

私達が住まうケンリッジ王国の【王都ラーゼンブルク】は、大陸の最東端に位置する港湾都市だ。

王都の東側に海を臨み、北西を峻厳な山々が列なる【征竜山脈】を挟んで仮想敵国である【トルガリア帝国】と接し、南西を平野と魔獣蔓延る大森林【黒金の森】を挟んで同盟国である【フリュム共和国】と接している。

 

王都は中心にある王宮から、海に面した東側外縁を商業港や市場、北と南の外縁に国民が住む居住区、西側外縁に有事の際に王都を護る兵士の宿舎や訓練所等がある区画というふうに凡そ別れており、王宮に近い区画に貴族などの有力者が住んでいる。

そして、国民や兵士が住む外縁と貴族や有力者が住む内部の間には、互いを隔てる城壁と検問所が設けられ、外縁の一般の国民が容易く内部に入る事は出来ないようになっている。

我がストライア公爵家の屋敷は内部と外縁を隔てる城壁の北側近くに在り、王宮までは馬車を使えば四半刻(約30分)もせずに着くことが出来る。

この王都の造りは初代国王が遺した区画案を元に、後の国王達が時間をかけて少しづつ区分けと整理を行なっていった結果出来たものらしいと、歴史書には書かれていた。

 

「楽しみですわね、お兄様。王宮なんていつぶりかしら」

 

私が馬車の窓を流れる景色をぼんやり眺めていると、私の右側に座っているレイチェルが肩を寄せて楽しげに話しかけてきた。

 

「たしか、私が最後に参内したのは、昨年の適性検査の時だったな」

「では、お兄様は1年ぶりに叔父様に会うのですね」

「いや、当時は検査後に色々慌ただしかったからな。陛下には結局会えずじまいだった」

「そうなのですか?なら、尚更楽しみですね」

 

いや、実を言うと全く楽しみじゃない。

それは別に陛下のことが嫌いだとかそういうことでは無い。ただ、色々あるのだ。

昨年、確かに私は陛下には(・・)会わなかった。しかし、それとは別にあまり思い出したくない出来事があり、王宮に苦手意識のようなものが残ってしまっているのだ。

それを思い、憂鬱な気持ちになりながら景色を見ていたのだが、現実は無情である。

正面に腕を組んで座る父上と、その横にニコニコと楽しそうに座る母上の手前、嫌々という様子を見せるわけにもいかないし。ああ…陛下と王妃様に会えると無邪気に喜んでいるレイチェルと、その向こう側で呑気に船を漕いでいるクルスが羨ましい。私は今から胃がキリキリと痛むようだよ。

 

「いや、あれからもう1年だ。あちらも忘れてくれていることだろう。忘れてくれているに違いない」

 

そんなふうに自分に言い聞かせている脳内に、何故かドナドーナーなどという不穏なメロディーが流れたような気がした。

 

 

「おお、待っていたぞペテロ、ユーフィリア!そして我が甥たちよ!」

 

王宮に着き、使用人達に連れられて向かった貴賓室には、王家の紋章をあしらった外套に身を包んだ黒髪黒目の美丈夫ーーケンリッジ王国第16代目国王、アルバレス=T=ケンリッジが喜色満面の笑顔で両手を広げて待ち構えていた。

 

「お待たせして申し訳ありません、義兄上」

「よい、気にするな。急な話をしてしまった俺にも責はある。ユーフィリアも、壮健か?」

「はい、お兄さま。大きな変調もなく、日々を穏やかに過ごしていますわ」

「そうかそうか、相変わらずペテロは苦労していそうだな!」

「あら、そんなことないわよね、ペテロ様?」

「…………ご想像にお任せします」

「ハッハッハ、わかりやすいな。それで、そこに居る(わっぱ)がログルスだな?」

 

仲睦まじい会話から不意に話を振られて、少しだけ面食らいつつ頭を下げる。

 

「はい。お久しぶりです、陛下」

「相変わらず堅苦しい甥だ。叔父上でよい。なんなら、アル叔父様とでも呼んでくれて良いぞ?」

「ハハッ、ご冗談を、叔父上」

 

無駄にフランクな叔父上に、ぎこちない愛想笑いで応える。いくら縁戚だとしても、国王に対してそんな呼び方出来るわけないだろう。

 

「叔父上、お久しぶりです!」

「お前はクルスだな?いやはや大きくなったな。壮健か?」

「そうけん?」

「『元気だったか』って聞かれてるのよ、バカクルス。叔父様、お久しぶりですわ」

「おお、これはこれは可愛らしいお姫様だ。レイチェル嬢、久しぶりだな」

「フフッ、やだわ叔父様、可愛いだなんて。もっと言ってください」

「流石はユーフィリアの娘なだけはあるな!」

「ありがとうございます」

 

叔父上の気安い対応にただただ圧倒される私とは違い、我が弟妹は気にせず接している。弟妹達のこういう場でのコミュニケーション能力の高さは、時に羨ましく思う。

 

「義兄上、今日はログルスに用があると伺ったのですが」

 

弟妹と戯れる叔父上に、父上が本題を切り出した。

 

「そうだったな。いや、実はログルスに用があるのは俺じゃないんだ」

「それは一体、どういう…」

「なあ、ログルス。お前、使用人に案内させるから、ちょっとミーシャのところに行ってこい」

「ゲッ」

 

叔父の口上から出た名前に、思わず貴族らしからぬ声が漏れる。それを聞き咎めた父上の視線が痛い。やってしまった。

 

「おいおい、俺の娘からお呼びがかかって、喜ぶどころか嫌そうにする貴族の男子なんぞお前くらいなもんだぞ?」

「いえ……非常に、光栄です」

「そう思うなら少しは本心を隠せ。その顔をミーシャが見たら、多分だがアイツ泣くぞ?」

 

どうやら内心が顔に出てしまったらしい。しかし、見ただけで泣かれるような表情とは、いったいどんな顔なのだろうか。まぁ、予想はつくが相当に渋い顔になっているのだろう。

 

「善処はします」

「そうしてやってくれ。ユーフィリア、クララが部屋で茶の支度をして待っているそうだ。子供たちを連れて行ってやってくれるか?」

「わかりました。行くわよ、クルス。レイチェル」

「王妃様のところに行くんですね!私、楽しみにしてましたの!」

「えー、僕は兄さんと一緒にお姉さんのところに行きたいなぁ」

 

王宮の使用人に連れられ部屋を後にする母上の後ろを、憧れの王妃様に会えると目を輝かせながらついて行くレイチェルと、あまり乗り気ではなさそうなクルス。

いいんだぞクルス、私と一緒に来てくれても。というか、一緒に来てはくれないだろうか?

 

「ダメよクルス。ミーシャちゃんはログルスとお話したいのだから。『貴族たるもの、男女の会話に立ち入るべからず』よ」

「はぁい、母上」

「おいユフィ、クルスに妙な常識を教えるな」

「ペテロ、お前は少し付き合え。込み入った話もあるしな」

「む…はい、義兄上」

「おい、誰か。ミーシャの部屋に私の甥を案内しろ」

 

叔父上が手を叩いて使用人を呼び、ドアの外からメイドがやってきて、柔らかく微笑みながらそっと手をドアの方へと向けた。

 

「では、こちらへ。ご案内致します」

「よろしく頼む」

「おい、ログルス」

 

部屋を辞そうとした私の背中に、叔父上の声が呼びかけられる。

振り向いて叔父上の顔を見ると、その端正な顔にニヤニヤとたちの悪い笑みを浮かべていた。

 

「ミーシャを泣かせたら、責任とってもらうからな?」

「……………………はい」

 

はぁ……これだから、来たくなかったんだ。




次回はヒロイン登場です。

どうしても書きたい設定や場面があるので、それを書き上げるまでは投稿を続けていきたいと思います。

それと、お気に入り登録60件オーバー、ありがとうございます。
拙い文書ではありますが、是非お付き合いいただければ幸いです。
感想、ご指摘あればどんどん下さい。それに比例して執筆意欲も上がります。
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