sideフェンリス
年に一度、七つの月が空に浮かぶその日を「神月」という。その日、「彼女」は自身の記憶を失う。
ある年、少女の純血を飲んだフェンリスは、今までの自我を失った。そして、かわりに現れたのが「彼」であるフェンリス。其のフェンリスは、「彼」は、再び訪れた「神月」の夜、少女のいる地へと駆けた。
が、すぐにもう一つの気配を感じ止まった。少女、グリムドアは、人間の中では強力な力を持っている。無論のことながらフェンリスとてそれに劣らぬ力、王の力を宿している。いや、自分の中でその力は生まれたといってもいいのかもしれない。
が、それほどの力を持ってしても、「彼」は止まった。これ以上その気配に近づくのをためらった。
そして、かわりに、その気配が向こうから近付いてきた。普通に歩く速度で。確実に少しずつ。
両者が、互いを目視できる距離まで来る。そしてその気配の主は、嗤った。声を上げる笑いではなく。表情だけでにやりとした笑みを浮かべた。
油断なく大剣を構えた「彼」は、しかし、その気配の主が一歩前に出た時、反射的に自分が一歩身を引いたことには気づかなかった。
sideグリムドア
自分の一族を滅ぼした赤い獣人。少女は其れに復讐を果たすためにハンターという職を選んだ。ようやく見つけた其の獣人と森で殺し合いをつづける日々。どのくらい他人と会っていなかったか、もう少女は覚えていない。
だが、雨が降ったその日、雨をしのぐために向かった村に残った数少ない建物の一つに向かった少女は、そこで黒い少年と会った。
監獄王の牢獄の場所を知るためにここに来たという黒い少年は、目的もその素性も一切分からなかった。おまけに肉体を持たない魂だけの存在を従えていて、そのあやしさに拍車をかけている始末。
だから最初は少女も警戒した。だが、他人と会うことがなくて感覚がおかしくなっているのかもしれない、というのを差し引いても、その少年は悪い人間には見えなかった。
けれども、その日の夜、獣人が近くに来たと言い出した魂の言葉に「面白い」と言った少年はたった数時間とはいえ、自分と過ごしていた黒い少年とは、まるで別人のように少女には思えた。
side討也
ドアを開け表に出るとすでに雨はやんでいた。コートを忘れていたのを思い出し一度家の中に引き返すなどという気の抜けたこともあった。その時ベリタスが『あいつ…まだ寝ぼけてんのかな?』と言い、それにグリムドアが「あんな気配を意識して出してる人が?」と答える。そんなやり取りをしていることに俺は気付かなかった。
先程からフェンリスの気配は動かない。
「そっちから来る気は無いってか?めんどくせぇ。こんな夜中に人をたたき起して挙句の果てに出向いてもらうなんて。何様のつもりだよ」
あ、そう言えばフェンリスは王だな。じゃあ、王様だ。
「ま、良いけどね」
そういいつつ俺はフェンリスの気配がする方へと歩いていく。
ディアブロに教わったのはこの「王威」の圧倒的な気配の隠し方だけではない。
同時に「王威」の威圧的な力を相手にたたきつける方法も習得している。いや、ホントディアブロ先生の教えは役に立ってます。ハイ。
しばらく進むとフェンリスの姿が見えた。俺はにやりとした笑みを浮かべつつ、ゆらりと一歩前に出た。無意識にか、間合いをはかるためにか、フェンリスは俺が前に踏み出したのと同じ分下がる。
「くははッ。さっきみたく逃げる気は無いらしいな。結構だ……そうでなくちゃ……」
肉を刃がえぐり取るような音と共に何もない場所からダークマタ―が生まれた。夜ならばダークマタ―は基本どこからでも作り出せる。
「面白くねぇッ!」
作り出した真っ黒なそれをつかむ。ちなみに今回のは、昼間使った剣のようなものではなくバットの様に殴るタイプにした。細くすれば色々な物を切れるし太くすれば叩くことができる。
完全にチート。ダークマタ―万能過ぎ。
「さてと、安眠を妨害された恨み……晴らさせてもらうぜぇ!」
俺がダークマタ―製のバットを、フェンリスが大剣をそれぞれ構える。
どうでもいいけど俺の武器ナメ過ぎふざけ過ぎ。ま、いいか。
フェンリスの背後に七つの月が浮かんでいた。
「神月」の夜だからだろう。
対する俺の背後には影よりも濃い闇が凝縮されていた。
というかこれは俺の後ろの闇全部を「暗黒物質」にしたからだ。
うん。どうでもいいね。さっさとコイツ追い払って今日は昼まで寝る。
そう本日の予定を立てた俺は、フェンリスに向かって軽く音速を超える速度で接近した。
七つの月が空を支配し、完全な闇が地上を支配する中、赤い獣と、黒い狩人の戦いが幕を上げた。
これをかく数時間前のことです。
見事、グリムドアをドロップしました!(^O^)