sideグリムドア
「ねえ、お兄さんって何者なの?」
討也が出て行ってから少しして、グリムドアはフワフワと何をするでもなく漂っているベリタスに聞いた。
『……さあ、詳しいことは俺にだって分からねえよ。……ただ一つ言えるのはあいつが間違いなくチートだってことくらいだな』
そう言って魂だけの存在は嗤った。
だからチートって何なんだよ?と、グリムドアは思ったのだが、どうせ聞いてもわけのわからない答えが返ってきそうだったのでやめた。
『お、戦闘開始か?』
先程から気配を探り続けているのか、ベリタスが実況している。
グリムドアもそれを聞いて感覚を研ぎ澄ましてみるのだが、討也の圧倒的な気配のせいで、あの獣人の気配は全然つかめなかった。というか、目の前にいるベリタスの気配すらかなり危うい。
「僕、行ってくる」
そう言い残してグリムドアは、少し前討也が出て行ったドアを開けた。
背後でベリタスが『行ってどうすんだか…』とつぶやいたのにも、空に七つの月が浮かんでいるのにも、グリムドアは気付かなかった。
side討也
この村に来た時の戦いと違って、今回の戦いは一方的な事にはならなかった。無論それは討也が手を抜いているというのもあるし、何より討也にはフェンリスを殺す気がなかったというのもある。
が、反対にフェンリスは討也を殺す気で攻撃している。
「どけぇッ!」
ハスキーな声と同時に、フェンリスの持つ大剣が討也に振り下ろされる。
それを躱した討也は軽く地面を蹴ってフェンリスとの距離を置く。
獣人とは言え、女性の姿をしたフェンリスからハスキーな声が出るというのは若干違和感を覚えた討也だったが、今目の前にいるフェンリスが「彼」なのだということを考えるとこれが自然なのだろう。
そんな事を考えているとフェンリスが襲いかかってきた
「ちょこまか動くんじゃねぇ!」
討也が開けた分の距離をフェンリスが詰める。今度は討也も地面を蹴って距離を殺した。
振り上げられた赤い獣の大剣と、テキトーに叩きつけられた黒い狩人のバットがぶつかって甲高い金属音と火花を散らした。
「くはははッ!お前じゃ俺には勝てねえよッ!」
そのままつばぜり合いの状態にあったのを無理やり押し返し、さらに地面を軽く蹴りフェンリスの横に回り込む。そこでバットフェンリスのわき腹めがけて叩きつけ、当たったかどうかを確認せずに、さらに地面を蹴りフェンリスの背後へ。
ちなみにわき腹めがけて繰り出した一撃はフェンリスの大剣に阻まれていた。さらにフェンリスは討也が後ろに回り込んだのも気付いていた。
だが同時に、近くにもう一人が来たことに、二人とも気付かなかった。