討也と、フェンリスが戦っている場所に来たもう一人とは、言うまでもなくグリムドアだった。
先に気付いたのはちょうどフェンリスの後ろに回り込んでいた討也の方。回り込んだ討也に気を取られていたフェンリスは、グリムドアの接近に気づくのが遅れた。
グリムドアが、「彼」に、自分の機械銃の標準を合わせた所で気付いた。
グリムドアが引き金を引くと同時にフェンリスは地面を蹴ってそれを躱す。
躱されたことで討也に向かっていった弾丸は、討也が軽く首を傾けて躱した。
グリムドアと討也が予想できなかったのは、銃弾を躱したフェンリスがノータイムで、グリムドアに突撃したことである。
慌ててグリムドアが、フェンリスの動きをけん制するかのように進路上に攻撃を放つ。
だが、それを躱しきったフェンリスは大きく地面を蹴ってグリムドアに体当たりをした。
グリムドアの小さな体がその衝撃で吹き飛ばされる。
「うああああああぁつッ」
グリムドアの悲鳴が響いた。
暗くてよく見えなくても、この状況はあまり良いものではないという事くらい討也にもわかる。
「なんで来たんだよ……」
そう独り言をいいながら討也は、周囲の闇からダークマタ―を作り、それを数本のナイフに変えた。この世界に来てからよく使う投げナイフである。
この暗闇では、グリムドアとフェンリスの姿は、見えない。だが、見えなくても問題は無い。目で見えなくても、気配で視える。
フェンリスの居場所をとらえた討也は、二、三本のダークマタ―製のナイフを立て続けに放つ。
カカカッ、と軽い音が聞こえて目標に命中しなかったことを知らせる。
だが、それでもグリムドアに襲いかかろうとしていたフェンリスの動きをけん制するのには十分だった。
ダークマタ―は、夜ならば基本どこからでも作り出せる。地面近くから製造したダークマタ―を、死神が持つかような大鎌の形状にした討也は、地面を蹴ってフェンリスとの距離を殺す。
さらに大鎌を振りフェンリスの胴を薙ぐ。あらかじめ接近を感知していたフェンリスは、地面を蹴って空中に飛び上がってこれを躱す。
「はッ!馬鹿野郎が!」
空中によけたフェンリスの着地の瞬間をねらい、討也はさらに手にした大鎌で切りつける。
最初に戦った時に明らかになったように、ダークマタ―はフェンリスの剣すら切り裂く事が出来る。すなわちこの攻撃は躱しようも防ぎようもないはずだと討也は思った。
だがフェンリスは、剣で、大鎌の刃部分ではなく柄の部分をたたき落とし、さらにその力を使って大きく後ろへと下がる。
「は!?」
思わず討也は間抜けた声を出した。
「……今のを躱すかよ普通」
討也がフェンリスの行動を読み切れなかったのは、単に実戦の経験に乏しいからである。フェンリスもグリムドアも、今から何年も前から武器を手にし、そして今まで生き残ってきた。
例え亜光速で動ける身体能力と、肉体強度、それに動体視力を持ってしても、すべての技を覚える才能があっても、まさしく最強と呼べるような武器を作る能力があっても、主人公補正がかかっていたとしても(笑)、実戦経験が一カ月程度の、それも強敵との遭遇はディアブロだけでは何年も戦っている彼女たちとの経験値の差は埋められないのだ。
無論、討也はそんな事には気づかないのだが。
ふいに、フェンリスに向けてすぐ近くから銃弾が浴びせられた。
目を向けると、腹から血を流したグリムドアが、激痛に顔をゆがめながらも標準をフェンリスに合わせていた。
だが、おそらくあの怪我ではそう長くは持たない。討也は三つ目の特典、「ロードラの世界のすべての技を覚える事が出来る才能」を使って、一瞬でな回復魔法を習得する。【覇王】宝条まゆの持つセイント・キュアである。
覚えたそれをグリムドアにかけてやる。無論服に付いた血はそのままだったが、傷がふさがり痛みも引いたのだろう、一瞬不思議そうな顔をしたものすぐにフェンリスに銃口を向け引き金を引く。
さっきからかなりのペースで打ち続けているんだが弾切れとかしないのだろうか?
討也も投げナイフで弾幕をさらに濃密にした。
瓦礫の影に隠れグリムドアの銃撃をやり過ごしていたフェンリスだったが、その瓦礫をモノともせず貫通してくるダークマタ―製ナイフが加わったことで仕方なく撤退した。
「神月」の夜に起こったこの戦いは、フェンリスは厄介な奴の相手をする羽目になり目的を果たせず、グリムドアは服に穴をあけられ汚された(自分の血だが)あげくに仕留めそこない、討也は夜中にたたき起された腹いせを出来たような出来なかったようなというもやもやした気分のまま、誰も何も得をせずに幕を引いた。
一瞬で回復魔法覚えるチート神無さんでした。