「お前じゃ俺には勝てねぇよ!」
その言葉と同時に、俺は地面を蹴り、超高速でヴェルへと接近する。同時に自分の影から死神が持っているかのような大鎌を作り出すと、俺のスピードについてこれていないヴェルに向けてそれを振りおろす。
『………え?倒しちゃダメなんじゃね?』
なんてベリタスの呟きが聞こえた気がした。
うん。気のせいだね、気のせい。
というより、もともと俺だってヴェルを倒してしまうつもりはない。刃を完全に振り下ろす直前に止める。
そのまま地面を軽く蹴りヴェルの後へ跳ぶ。
長距離戦闘用の、それも決して小回りが利く兵器ではないバズーカのような武器を扱うヴェルが得意とするのは、本来、中、長距離のはずである。だから本当は接近していた方が戦いやすい。
だが、それはあくまで普通なら。身体能力は亜光速を出せるほどのものを持ち、さらにダークマタ―が有ればヴェルの攻撃は躱すまでもない。ついでに言えば、その攻撃だって躱す事は難しくない。
何もかもがチートで普通ではないのが俺なのだ、ならば常識的な戦い方をする必要は一切ない。
「あなた、やっぱり普通じゃあ無いのね」
内心動揺しているのを隠しながらヴェルが言う。
おそらくある程度強い事は予想していたが、このスピードは完全に予想外だったというところか。
「普通の奴は、こんな誰もいないはずの無人島でこんなもの発見したらどうすると思うよ?」
「……それもそうね」
おそらくだが、ロード・トゥ・ドラゴンの世界にも、何の力も持たない一般人というのはいるはずだ。そんな人がこういういかにも怪しそうな場所を発見しら、まず間違いなく迅速に離れるだろう。
もっとも普通の人間はこんな沖の無人島に来ねぇよ、と思うかもしれないが、あくまで来てしまったらと仮定して。
「…それで、普通じゃ無い君たちは、一体何の目的でこんなところまで来たの?」
「………観光?」
『だからさっきそれ無理があるって言ったばっかだよね?しかもお前自身が疑問形で言ってんのはなんでなの?』
そう言えばヴェルが出てきた時点でここが「咎人」を集める牢獄だというのは分かったんだから、もう目的は達成してんだったな。
「あー、ベリタス?」
『何だ?』
「グリムドアが言ってたのが本当だっていうの分かったんだし、もうここに用無くね?」
『………まあな』
「………赤い狩人が?」
ヴェルはグリムドアの事を知っている様子である。
「…ヴェルトギリアムさんよ、俺達もう目的は果たしたから行くから」
「…………………は?」
『まあそれが当然の反応だよな』
いきなりそんな事を言われて困惑しているヴェルトギリアムをほっておいて、俺は地面を蹴って空に跳び上がる、さらに空気を蹴って牢獄のある無人島から離れていった。後からベリタスも付いてくる。
「………何だったのよあれは?……………ところで、なんであの少年は私の名前を知っていたのかしら?」
自分は名前を告げていないはずだと思いつつ、ヴェルトギリアムは茫然と神無討也が去って行った方向を眺め続けた。
意外とあっさり終わってしまった。この後どうしよう。