急に間近から強烈な気配をあてられ、その使徒、ヴァルザークは慌てて振り向いた。
慌てたのは、別にすぐ近くでそれが起こったからではない、それが神にも届くのではないかとヴァルザークに思わせるほど強力なものだったからでも無い。
こんな近くに接近されてるまで、自分が全くそれに気付く事が出来なかったからである。
否、おそらく自分は、空に立ちこちらを見下ろす少年が、その気配を意図的にこちらに向けなければ、隣に立たれるまで気付かなかったかもしれない。
槍を握りしめ、黒い服装の死神のような姿をした少年を見上げながら、ヴァルザークは既に自分がここに来た理由など忘れていた。
ヴァルザークが討也の存在に気がついたころ、オーガスタス達もまた、「朱竜」と戦っていた。
正確には、その場にしっかりと立っているのは一人と一匹と一個のみ。
一人はオーガスタス。一匹は「朱竜」。一個はベリタスである。
いや、ベリタスって戦わないじゃん?と思ったかもしれないが、何もできないわけではない。
正確には物質に干渉する事が出来ないのである。つまり、それ以外には出来る事がいくつかあるのだ。
例えば相手の事を解析して、弱点を突く「エネミースキャン」のスキル。これだってベリタスがもし使う事が出来たら弱点はつけなくても相手を解析することは可能だ。使えればではあるが。
では、ベリタスに一体何ができるか、それは「魂の選定」や、「魂の召喚」など。
オーガスタスが持つスキル「ハイ・アサルト」。錬金学ではないのだが、その亜種ではある。これには当然ソウルを必要とする。つまりベリタスはオーガスタスのサポートをしているのだ。ついでに言うと、「朱竜」には相手の魂をえぐり取る能力が有る。魂だけのベリタスには効果抜群にもほどが有る。まあ、さすがは「朱竜」ただでかいの竜と言うだけではない。というわけで、ベリタスもまた、「朱竜」に殺られないように注意しつつ、オーガスタスと連携しているのだ。
ちなみにベリタスの技はこの200年間でようやく習得したものである。今現在はこの二つだけだが、やりようによっては別のスキルの習得も可能かもしれない。
オーガスタスが自身の力を上昇させると同時、ベリタスもオーガスタスのソウルを補充する。そして、振り下ろされたオーガスタスの赤い剣が、「朱竜」の頬から顎に掛けてをえぐり取った。
「貴様……何故ここが分かった?」
青い槍を構えながら、ヴァルザークは黒い少年に静かに問いを投げかける。
「なんでって……そりゃあ、あれだけ見られてたら誰だって気付くって……」
大鎌を携えた右手をだらりと下げながら、討也は青い使徒に答えを返す。
「気付いてない者もいるが?」
「ああ、…うん。みんなそんな余裕無いんじゃね?」
二人とも「朱竜」と戦っているオーガスタス達を気配で確認しながらにらみ合っていた。
「……成程、伊達にこちらに気付いたわけではないらしいな、貴様」
「…強がるなよ、ビビってんの丸わかりだぜ?」
今にも斬りかかりそうなヴァルザークに、軽い態度で対応する討也。
「何故ここに来たかは知らないが……立ちはだかるなら容赦はしない」
「そう言うお前は、神々の意思でここにいるんだろ?良いの?仕事しなくて」
「!?………貴様……何を知っている?」
「さあ………何だろうね」
討也はヴァルザークを見下ろしながら楽しげに笑った。
「………良いだろう。貴様が何者かは知らないが、まずは貴様を倒す」
「くははははッ!…いいねぇ……最近全力を出せる相手っていなかったからなあ。これは楽しくなりそうだ。………さあ、かかってこいよ?…人形…」
「…化け物が……殺す」
まるでこの状況を楽しんでいるかのような討也に毒づきながら、ヴァルザークは地面を蹴り、気に入らない笑みを浮かべる討也の首筋に、己の槍を突き立てた。
※一応言っておくと、ベリタスが獲得したスキルは、「魂の選定」「魂の召喚」と効果が同じと言うだけで、同じスキルというわけではありません。ベリタス固有のスキルだと考えていただけると幸いです。