ヴァルザークが放った槍の一撃を、討也は手にした大鎌で叩いて切っ先をそらしてやり過ごす。
驚いたことに、普通ならあっさりと断ち切ることができるはずの槍は傷一つ付かなかった。
それも当然である。ヴァルザークの武具は、「バベル」で作られたもの、言ってみれば神が作ったもの。
当然それに普通の素材が使われているはずは無い。
「へぇ……面白いな」
フェンリスの大剣をも切り裂き、ヴェルトギリアムの攻撃すら防いだダークマタ―に耐える耐久力を持った武器や防具。恐らく本気でやれば「朱竜」ですら瞬殺にできる討也にしてみれば、その攻撃が自分傷つけ、かつ自分の全力の攻撃ですら防ぐ可能性のあるヴァルザークとの戦いは非常に面白い。その顔に楽しげな笑みを浮かべた彼は、受け流した動作から一瞬で反撃に転じる。
討也が高速で放った大鎌の一撃を、ヴァルザークは防具をつけた足で蹴りつけやり過ごすと、さらに盾で鈍器の様に殴りつける。
同じように盾を蹴りつけた討也はさらに力を込め盾ごとヴァルザークを蹴り飛ばした。吹っ飛んだのは両者同時、ヴァルザークは蹴られた、討也は蹴った衝撃で。
しかしながらその後の対応は違った。
討也は吹っ飛ばされながらも再び空中を蹴るとヴァルザークへと接近。ヴァルザークは空中で姿勢を制御すると接近してきた討也を迎え撃つ。
脚力で空中を移動する討也と、使徒としての人知を超えた力で空中に踏みとどまるヴァルザーク。
両者ともに人間からすれば遥かに高次元の事をしている。正確には、この世界には神や使徒、さらに討也のようなチートで無くてもこの世界にはそれを可能とする存在がいないでもないのだが。
黒い刃と青い刃がぶつかり衝撃を辺りにまき散らす。
「くははははッ!良いねぇ……マジで面白れぇ!」
二つの刃がぶつかり衝撃がまき散らされてなお、それは衰えはしない。それどころか両者が共に相手をねじ伏せようと押し続けるせいでさらに圧が高まった。
だがそれも長くは持たない。
いくら頑丈にできていても、どんな性質も打ち消して破壊するダークマタ―には耐え続けることはできない。ガリガリと削られ続けたヴァルザークの槍は、とうとう討也の大鎌に切り裂かれた。
そのまま首を切り落とすかのような勢いで振りぬかれた刃を躱したヴァルザークは、距離を取って地面に着地する。
今のは危なかった。あの得体のしれない素材でできた大鎌は危険すぎる。
今のやり取りで半ばから欠けた槍でこれからどうしようかと考えていると、討也は何かを感じ取ったのか、先程からオーガスタスと「朱竜」が戦いを続ける方を見た。
「ちッ……お呼びとあれば仕方ないか……」
そう呟いたかと思うと、次の瞬間には空中を蹴ってそちらへ向かって行った。
それを見たヴァルザークは、あっさりと戦うのをやめた討也に苛立ちながらも、同時に助かったと安堵した。
「出来れば二度と会いたくないが……次に会ったならば殺す」
聞こえているはずもないが、離れていく少年にそう言い捨てたヴァルザークは、さっさとこの場を離れ「バベル」へと戻ることにした。
それは怒りか、或いは怯えか。ガスタール火山のマグマが煮えたち、灼熱の蒸気が辺りに立ち込める。
目の前にいる「朱竜」は、歴戦の勇者たるオーガスタスが今まで戦ってきたどんな敵よりも遥かに強大な力を持ち、遥かに暴虐。その「朱竜」〈レッド・ヴィーヴィル〉の頬から顎にかけては大きな傷がつけられ、血に濡れ赤く艶めいていた。邪悪の権化が大きく口をあける。
それは怒りか、或いは怯えか。
「朱竜」の雄たけびが空間を揺すぶる。その目を静かにしかし確かに見据えたオーガスタスは、遺す数多の部下の顔を、楽しげな黒い少年の笑みを、そして妻の笑顔を思い出していた。
それでも老勇者は、英雄は、赤い剣を握りしめると足を前へと踏み出す。
「最後の際まで…諦めんッ!!」
最後の、最期の一撃を目の前の暴竜に浴びせるために。
そして……。
「いいねえ、そう言うの……俺は嫌いじゃ無い!」
そんな声と共に、この状況の下で「朱竜」にしてみれば最悪の、「英雄」にしてみれば最高の、一人だけの「援軍」が到着した。