赤い巨竜が低いうなりを上げる。赤き英雄は、その手に持つ赤い剣をゆらりと振り上げ、黒い化け物は地面をたんッと踏みつけて、跳び上がる準備をした。
それぞれは同時に動いた。
「朱竜」は、鋭い爪をオーガスタスに向け、オーガスタスはそれを迎え撃つ。神無討也は、上空へと飛び上がる。
爪の先ですら、人間の胴の太さを軽く上回る「朱竜」腕が、すさまじい速度でオーガスタスに振り下ろされる。
が、赤き英雄は、それを軽く剣を振りはじくと、はじかれたままの勢いで倒れこんだ「朱竜」の右腕をバッサリと切り落とした。
怒りか、激痛によるものか雄たけびを上げた「朱竜」が、左を振り上げる。
しかし、それは振り下ろされる前に、神無討也によって蹴り飛ばされ、はじかれる。オーガスタスは、「朱竜の」巨体を駆け上がると、「朱竜」の首を切りつける。
うるさいハエを振り払うように、がむしゃらに巨体をゆすった「朱竜」は、そのまま上空へと飛び上がろうとして、顔面に討也の二発目の蹴りを受けてぐらりと傾く。さらに討也は「朱竜」の背へと滑り落ちると、ダークマタ―で大鎌を形成し「朱竜」の片翼を切れこみを入れると、そのまま引きちぎる。
片翼を失った事で、「朱竜」は飛ぶ力を失い、地面にたたきつけられた。
ゆらりと、その巨体が持ち上がる。その目に宿るのは怒りか、或いは怯えか。
オーガスタスは赤い剣を構えると、自身の攻撃力を一度だけ上昇させることのできる「ノヴァ・縁ハンス」を使用する。赤い闘気が宿り、その気配に押されたか、赤い巨竜は怯んだように一歩下がった。その瞬間に、オーガスタスは飛びだす。その瞬間、「火の時代の勇者」は、王をも凌駕し、神にも匹敵する力を宿した。
飛びあがったオーガスタスは、そのままの勢いで「朱竜」の体に赤い剣を突き刺す。
致命傷にもなりうる一撃、それでも「朱竜」は倒れない。刃を引き抜いたオーガスタスは、再び先ほどとは違う位置に剣を突き刺した。
それでも、それで倒れるほど、「朱竜」という存在は弱くない。それでも邪悪の権化たる赤い巨竜は、残った左腕をオーガスタスにたたきこむ。
それに気付いたオーガスタスがハッとそちらを見たときには、「朱竜」の、人間などたやすく引き裂ける爪が目前まで迫っていた。
すべてがスローモーションように映る。それは何も「朱竜」の爪が今にも自分にたたきつけられようとしているからではない。遺す部下たちを、妻の事を思った時から、オーガスタスの見る景色は何もかもがゆっくりと動いていた。
これで終わり。ならばせめてもう一撃と、無意識に赤い剣を引き抜きかけた腕が止まる。
そこに、黒い何かを纏った討也が割り込んだ。
討也は、オーガスタスが飛びだすと同時に、「朱竜」の背後から跳び上がった。ダークマタ―を翼のように形成した討也は、そのまま「朱竜」の前へと抜けると、オーガスタスと「朱竜」の左腕の間に割り込む。さらにダークマタ―を操った討也は、「朱竜」の攻撃をガードした。
振り向いた討也はそれを見ていた赤い英雄に声をかける。
「殺れ!オーガスタス!」
「恩にきる!」
答えた英雄が、赤い闘気を纏った勇者の紅き剣を引き抜き、勢いを殺さないまま「朱竜」の体に深く突き刺した。
さらにとどめとばかりに、討也の蹴りが叩きこまれ、片腕を切り裂かれ、片翼をもがれた赤い巨竜は、ガスタールの火口へと沈んでいった。
火の時代、もっとも恐れられた「朱竜」は、こうして、二人の騎士団の英雄によって討伐された。
朱竜撃破。