村の方で何かあったらしい。
そんな話が、修道院の中で話されていた。
もちろん、その話をしているのは実際に村を見てきた修道女ではない。
「あの、神無さん」
「様子を見に行くのか?」
十字架をした槍を持ったメリルが、どこか焦った顔で、焦った声で討也に話しかけた。
討也は、この出来事がどういう事か知っている。
「ニコラの居る場所には自分で向かう。場所だけを大まかに教えてくれ」
メリルが教えてくれたのは、俺たちが青い服の魔道士と戦った町だった。
場所を教えたメリルは、すぐに修道院を飛び出していった。
『やっぱりか』
メリルが出て行ったあと、ベリタスがポツリと呟く。
何がだ?
『あの青い服の魔道士……見覚えがある気がしてたんだ』
「ああ、俺も」
『……………それなのに気にせずぶちのめしやがりましたかそうですか』
「………で?何がやっぱりなんだ?」
『あいつ、杖をかざして水を叩きつけてきたろ?そして青い服。ついゲーム内の進化後……フード無しの姿を思い浮かべるが……あれは間違いなく[邪悪王]ファウストだ』
水を叩きつける技はアクティブ・スキル「アクア・バースト」か。
「つまり……すでに昨日の時点で……ニコラは……」
『ファウストを乗っ取ったクトゥールに食われてる』
「……………」
この時、討也の顔から笑みが消えた。
ゲーム内のメリルやファウストのストーリーを知っている討也は、当然のことながら知っていること。
―――村に向かったメリルは、兄であるファウストを乗っ取った《クトゥール》と相打ちになり…死ぬ。
『お前が協力すればメリルを救うくらい簡単だろうな』
「だがそうすればクトゥールは復活しないかもしれない。それは水の時代で起こる出来事が大きく変わることになる」
これから先の展開を予想できなくなる。
だがそれは同時に死ぬと分かっているメリルを見殺しにするという事。
『とりあえず一度村に出なければいけない』
「……………そうだな」
ベリタスも討也も、この場では結論を出さず、村へと向かった。
メリルが村にたどり着いたとき、そこにはいたるところに「人間だった物」が転がっていた。
「………………ッ!?」
修道女が血相を変えて戻ってくるのもわかる。
同時に、メリルはここで何が起きたのかイメージすることが全くできなかった。
竜に襲われたのだろうか?それにしてはあまりにも静かすぎる。
村にある家が破壊されているのではない。その場にいた住人だけが、引きちぎられ、抉られ、そして血だまりとなり、そしておぞましいことに、おびただしい数の「人間だった物」は、それがもとは人間であったことすら疑われるほどのありさまだった。
あるものは頭がない。それだけならまだましな方である。
あるものは、血だまりの中にただ片腕だけが転がっているだけ。「人間だった物」は、いずれも人間の原型を留めてはいなかった。
得体のしれない恐怖を感じ、冷ややかな汗が首筋を伝う。
と、突然、後ろに現れた気配と共に、笑い声が響いた。
恐る恐る振り向いたメリルの目に映ったのは―――彼女の実の兄―――ファウストだった。